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1.鉄輪

 ダンジョンには宝箱がある。

 一目で使用方法がわかるものから、全く意味不明なものまでさまざまなものが入っている。神々が悩み苦しむ人々を哀れみ、ほんの少しの慈悲と救済を込めて宝箱を開けた者にとって必要なアイテムを入れてくれるのだ。

 その証拠に、どんなに意味不明なアイテムであっても、地上に戻り神殿に行けばその名称と効果は啓示される。

 だがそれは名称と効果のみであり、正しい使用方法には言及されていない。

 そのため、手に入れたアイテムを使用するために様々な試行錯誤が成され、それに伴う悲喜こもごもが繰り広げられるのもまたお約束である。

 アイテムの使用には柔軟な思考が必要であり、大きな街にはアイテム考察店というものも存在する。ただし、料金を支払ったからといって正しい取り扱い方法が判明するとは限らないため、考察料金を前払いで支払い、その後正しい取り扱い方法がわかった際には成功報酬として追加料金を支払うというシステムになっている。

 とある街に実に成功率8割を超えるアイテム取り扱い考察店がある。これまで成功率3割でも驚異的といわれてきた考察店で8割超というのはまさに奇跡である。

 今日もまたその店のうわさを聞きつけた使途不明アイテムを抱えた悩める子羊が店を訪れる。





 私は神殿で巫女をしているセシリアと申します。

 巫女のお勤めのひとつに、ダンジョンに赴く人たちに同行して補助をするというのがございます。ダンジョンに赴くのはダンジョン探索を主とする冒険者だけではありません。悩み、苦しみ、己に必要なアイテムを神から授かるために足を踏み入れる方々もたくさんいます。護衛を雇えるような方ばかりではありません。貧しく幼い子供が病気の母親を治す薬を手に入れたい、と小さな手にお小遣いを握りしめ神殿にやってくることもあります。神殿の経営は寄付で成り立っていますから、どうしても少ない寄付しか納められない方には、私のような巫女としてあまり優秀でない者しか同行できないことも多々あります。

 あ、一応弁解しておきますが、神殿は上から下まで清貧です。孤児院の運営とかも寄付で賄っていますから、神官長もいつも頭を悩ませているのです。私も孤児院の出身ですのでよくわかります。私はたまたま神聖魔法に適正がありましたので、成人後も神殿に勤めることができていますが、それ以外の孤児たちは成人後は孤児院を出て仕事を探さなければなりません。


 話が逸れてしまいましたね、申し訳ありません。


 私は神聖魔法に適正があったのですが、どういうわけか使えるのは回復魔法のヒールのみなのです。状態異常も治せませんし、支援魔法も使えません。その代わりなのか、ヒールでの回復量はとても多いのですけど。

 私は不器用で、他の神官や巫女の中には弓や杖を使って戦闘にも参加できる者もいるのですが、どんな武器にも適性がありませんでした。せめて支援魔法でも使えたら良いのですが、本当にヒールしか使えないのです。

 このような私でも扱える、ダンジョンで幼い子供や体の弱い方を守ることができるような装備が欲しいと神に祈りました。宝箱に入っているのは、開けた者が必要とするアイテムか汎用性の高いアイテムです。神は常に私たちを見守ってくださっているのでしょう、真摯に祈れば必要なアイテムが手に入るのです。

 同じ孤児院で育った冒険者パーティに同行させてもらって、宝箱を開けたのです。彼らも私の願いを聞いて快く同行させてくれました。

 中に入っていたのは、奇妙な鉄の輪と大きな釘と藁を束ねたものでした。

 全く何かわかりません。

 ですが、名称も使用方法もわからないアイテムほど、切実に必要としている者への救済だと言われています。

 私は街へ戻り、神殿に帰り、神の祭壇に手に入れたアイテムを置き、神へ祈りを捧げました。一緒に行ってくれた孤児仲間たちも祈りを捧げます。


 祭壇に天から光が注ぎます。

 何度見ても美しい光景です。

 そして祭壇に備え付けられたミスリルの板に神のお言葉が浮かび上がりました。


 “カナワ”

 “ゴスンクギ”

 “ワラニンギョウ”

 “セット装備。遠隔で敵に呪いを付与できる。一定確率で即死効果あり”


 遠隔で敵に呪いを付与できる!一定確率で即死効果あり!

 素晴らしい効能です!

 一緒に行ってくれた孤児仲間たちも驚きとともに喜んでくれます。


「でも、これ、どうやって使うの?」


 一頻り喜び合ったところで、弓使いのバーバラがポツリと呟きました。

 私たちは顔を見合わせます。

 そうでした。本当に必要なアイテムほど使用方法は謎に包まれているのです。これは神の試練と言われています。


「せいぜい武器っぽいのはこのゴスンクギ?とかいう釘だけど、セシリアはこの釘を刺せるほどモンスターに近づいたらすぐ殺られるぞ?」


 剣士のカインが困ったように頭を掻きます。


「最近ちょっと有名なアイテム考察店があるらしいから、行ってみるか?使い方がわからなくても考察料は払わないとならんけど、俺たちだけで悩むより、専門家の意見を聞いた方がいいだろ」


 魔法使いのロビンが肩を竦めます。

 考察料はどこの街であっても一律3万ギル。これはかつてまるで使用方法がわからないのに、考察料をぼったくる店が乱立した時代に制定された法によって定められています。その後の成功報酬はアイテムの効能によっても変わりますが、3万ギルなら、痛いですが考察料として払えます。もし使用方法が判明すれば、成功報酬は何回かに分けて払わせてもらえば良いですし。




 冒険者ギルドで教えてもらった店の扉を開けると、チリンチリンと扉の上部に取り付けられたベルが鳴ります。


「いらっしゃいませ。異世界アイテム取り扱い考察店へようこそ。店主のルナ・イザヨイと申します」


 癖のない長い黒髪に黒い瞳の女性が座っています。銀縁の眼鏡越しの切れ長の眼は理知的ですが、少し冷たそうな印象です。


「あの、冒険者ギルドで聞いて、アイテムの取り扱い方法を考えていただきたいのですが・・・」

「ご存じかと思いますが、必ずしも使用方法が判明するとは限りません。判明しなかった場合でも、考察料3万ギルは返金いたしません。よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」


 私はお財布から3万ギルを出して女性の前のテーブルに置きます。私は最下位の巫女なので、月のお給料は10万ギルです。かなりの痛手です。でも、このアイテムがちゃんと使用できるようになれば、巫女の階級も上がるでしょうし、ダンジョンへの同行手当も上がるはずです。


「では、アイテムを見せていただけますか。神殿での啓示内容も」


 私は袋からアイテムを出してテーブルに載せていきます。


「“カナワ”“ゴスンクギ”“ワラニンギョウ”です。効能は“セット装備。遠隔で敵に呪いを付与できる。一定確率で即死効果あり”です」

「鉄輪に五寸釘に藁人形って・・・」


 店主の口元がほんの少し引き攣ったように見えましたが気のせいでしょうか?


「あの、どうでしょう?何かわかりそうですか・・・?」


 考察屋さんは店によって違いますが、考察のための時間を設けることも多いと聞きます。このような使途不明のアイテムばかり持ち込まれたら、すぐに答えなんて出ませんよね、当然です。


「その前にお聞きしたいのですが、呪いを付与したい相手がいるのですか?見たところ神殿の巫女さんのようですが、どちらかといえば呪いはかけるよりも解く方の立場では?」


 あ、何か誤解を与えてしまっているようです!そうですよね、呪いを付与するアイテムなんて、その辺で使われたら大変!と思いますよね!

 私は急いで事情を説明します。


「なるほど、ダンジョンで同行者の支援をするためのアイテムが欲しかった、と。嘘は言っていないようですね」


 店主が壁に掛かっている大きな鏡を見て頷きます。確かに嘘はついていませんが、どうしてわかったのでしょう?


「この鏡は“継母の鏡”というアイテムで、嘘をつけばすぐにわかるアイテムなのです。後ろ暗いところのあるお客様の依頼は受けないこともありますので」


 嘘がわかるアイテムなんてあるんですね、すごいです!でも不思議な名前ですね、“継母の鏡”なんて。


「さて、こちらのアイテムの取り扱い方法はわかりました。報酬の相談に入りたいと思いますが、よろしいですか?」

「え?も、もうわかったんですか?!えっと、お金はあんまりないので、分割にしていただけると嬉しいです。相場はどれくらいなんでしょうか?」

「呪いを付与できる、というのは強力な効果なので、報酬は高くなるのですが、これは提案なのですが、神殿で使用制限をかけませんか?」

「使用制限、ですか?」


 神殿では強力な効果を持つアイテムに制限をかけることができます。私は神殿の巫女なので当然そのことを知っていますが、神から与えられたアイテムに神の御力を持って制限をかけるというのは、時に神の怒りを買うことがあります。せっかく良かれと思って与えてやったアイテムだというのに、制限をかけるとは何事か!ということですね。そして1度制限をかけると2度と外すことはできません。


「貴女のお話を聞いて、私の提案する使用制限ならば神もお許しになると思うのですよ」


 店主の提案してくれた使用制限とは、モンスターもしくは襲ってくる人だけを付与対象とする、というものでした。それは当然ですよね?と思ったのですが、他人を呪いたいと考える人というのはそれなりにいるということで、私をそのような依頼をしてくる人からも守ることができると仰ってくださって、最初に冷たそうなんて思ってしまった自分が恥ずかしくなりました。


「おそらく、貴女の祈りに応えてこのアイテムを授けてくださった神ならば、使用制限も簡単にかけてくれると思います」


 そうですね、使用制限をかけるための儀式にもお金がかかりますが、それは難易度にもよるのです。神の意向に反するなら難易度は上がり、料金も上がりますが、簡単にかけられるならそれは神の意向に沿った制限ということですから、料金も安くなります。




 そして私は神殿に戻り、神官長に考察店での話をして使用制限をかけてもらうことにしました。取り扱い方法については、使用制限をかけてから教えてくれることになりました。


「その店主は、とても善良な方のようですね」


 神官長が優しく微笑んでくださいます。孤児院育ちの私にとっては、父か祖父のようなものです。ヒールしか使えない私を、成人後も神殿から追い出さずに巫女の末席に置いてくださったのも神官長ですし。


「はい。呪いを付与するアイテムの成功報酬はとても高いのですね、相場表を見せてもらってビックリしました」


 呪いを付与するアイテムというのは大概取り扱い方法がわかりにくいものばかりで、成功報酬もとても高く設定されていました。大体1000万ギルからだそうです。そんな金額、分割にしても払い終わるまでどれだけかかるかわかりません。でも店主は、貴族から敵対する相手を呪うような依頼を受ければ、1度の報酬で1000万ギルくらいはもらえると教えてくれました。その上で制限をかけるかどうか選びなさいと言ってくれたのです。制限をかければ成功報酬は100万ギルで良いとも言ってくれました。


「制限をかけて良いのですね?」

「はい、神官長。私は人を呪うためではなく、人を救うためにこのアイテムを使用したいと思います。神はそのために私にこのアイテムを授けてくれ、そしてあの店主と出会わせてくれたと思うのです」


 私に迷いなどありません。




「制限をかけてきました。取り扱い方法を教えてください」


 3つのアイテムには制限がかけられた証である神の印が赤く光っています。店主の言った通り、制限をかける儀式は物凄く簡単に終わりました。これほど簡単に制限をかけられたのは神殿でも例がないのではないか、と神官長が言っていました。おかげで料金も10万ギルですみました。


「いいでしょう。まず、使用する時間は夜中の1時から3時が最も効果が高くなります。日中に使用した場合に効果があるかどうかは残念ながらわかりません。場所は木の生えた場所で行います」


 夜中の1時から3時で木の生えた場所、と私は言われるままにメモを取ります。ダンジョンの中は様々な環境ですから、木の生えた場所もたくさんあります。時間も夜でなければ手に入らない素材もたくさんありますから、夜中にしか効果がなかったとしても問題ありません。


「次に具体的な使用方法ですが、まずはこの鉄輪の3本の突起がありますね?この突起にろうそくを刺して火を点け、頭に被ります」


 “カナワ”の3本の突起にろうそくを刺して火を点けて頭に被る・・・


「これは頭に被るものだったのですか・・・!」


 驚きです!

 眼からウロコが3枚くらい落ちました!


「そして鉄輪を被った状態で木に藁人形を五寸釘で打ち付けます」

「この“ワラニンギョウ”に“ゴスンクギ”を刺すのですか?」

「そうです。この藁人形の中心辺りに五寸釘を刺して、やりにくければ金づちでも持って行って木に打ち付ければ良いです」


 私では全く思いもつかない方法です。すごいです。


「ありがとうございます、さっそく試してみますね!」

「報酬はアイテムが間違いなく起動したと確認できてから、支払いに来てくれればいいですよ。分割でしたね」

「はい!ありがとうございます!」


 さっそく試してみましょう。バーバラたちに一緒にダンジョンに行ってもらいましょう。このアイテムが出た宝箱のエリアにも森がありましたし。




「夜中の1時から3時の間にこの鉄の輪っかにろうそくを刺して被って木に釘を打ち付ける、ねえ、本当か?それ」


 ロビンがものすごく疑わしそうな顔で“カナワ”を持って掲げてみたりひっくり返してみたりしています。


「この辺のモンスターはそんなに強くないし、試すだけなら簡単だろ?それに報酬もちゃんと起動が確認できてから、てんだから良心的な店だよな」


 カインが笑い、バーバラは心配そうな顔です。


「でも神殿で使用制限かけるのにもお金かかったんだし、成功してほしいよね」


 そうです、儀式料として10万ギル払っているのです、いくら儀式料としては格安だったとはいえ、私のお財布には大打撃です。


「では、始めますね」


 言われた時間になったので、“カナワ”にろうそくを刺し火を点けます。これを被るのですか、蝋が垂れてきたら熱いですよね、素早く終わらせたいですね。

 左手で“ワラニンギョウ”を木に押さえつけ、右手に持った“ゴスンクギ”を刺します!


「えい!」


 “コーンンン”


 思ったよりも大きな音が周囲に響き渡りました。

 次の瞬間。

 ボトボトボトッ!


「「「うわっ?!」」」


 木の上にいたであろう、鳥や虫等のモンスターがボトボトと落ちてきました。

 どのモンスターも眠っていたり、けいれんしていたり、泡を吹いているのもいます。


「え?なに?これ全部セシリアのアイテムで呪いにかかったの?!」


 バキバキバキ!

 木の折れる大きな音がして、ズドン!と大きな音と共に大きなモンスターが落ちてきました。


「嘘だろ、ワイバーンだよ・・・」

「しかももう死んでるぜ・・・」


 カインとロビンも呆然としています。


「一定確率で即死効果もあると書いてありましたが、効いたんですね!」


 驚きと喜びで大きく首を振ると、

 あ、熱っ!

 ろうそくから蝋が垂れてきてしまいました!慌てて“カナワ”を頭から外します。


「ふう。びっくりしましたけど、成功ですねっ!」

「そ、そうね、見た目はちょっとアレだけど、すごいアイテムよ!」

「そ、そうだな、このワイバーンの素材を売れば、分割にしなくても100万ギル払えるぞ。見た目はちょっとアレだけど、すっげえ使えるアイテムだな!」

「ほかの時間でも効果はあるのかとか、色々試してみないとな。夜中に見るとかなりアレな起動方法だし・・・」


 3人ともなんだか歯切れが悪いですが、これでヒールしか使えない私でも役に立てます!護衛を雇えない人や幼い子供がダンジョンに入る時にもモンスターを退ける手段ができたのです!




 誰に対しても分け隔てなく心優しい巫女セシリア。

 神より与えられたアイテムによって、ダンジョンのフロア全てのモンスターに呪いを付与するというとんでもない力を手に入れたが、常に神への感謝を忘れない敬虔で謙虚な姿は大勢の人々から慕われた。




 ただ、広範囲に遠隔で呪いを付与するアイテムとして後に有名となる“カナワ”“ゴスンクギ”“ワラニンギョウ”の3点を使用する姿は、誰の目にも“ちょっとアレ・・・”として別の意味で有名となった。


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― 新着の感想 ―
こwれwはwwwwwぜひ続いて欲しいwww 儀式を他人に見られたら…という制限が無いっぽいのは、呪い屋稼業を封印したことで相殺されたのかな? あ、五寸釘セットには木槌です!打込み音的に。
なんか、ツッコミ要素が色々と…www 続くのを楽しみにしてます。
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