4、青年
「ねぇ、シオン………」
アベルはこちらを鬼の形相で睨みつけてきている青年に瞳を揺らすとシオンの袖を強く握る。
「……何の殺気かと外に出てみれば……お前は」
青年の服の隙間から見える痛々しい傷に、腫れた顔、突き刺す様な鋭い眼光は昨日拘束されていた男で間違いない。
青年の手には一本の短剣。しかし、服の内側に隠し武器が複数あると見える。その時シオンの体に魔力が満ちた。
シオンは【C:身体強化(フィジカル•ブースト)】を発動。
それと同時に青年も何らかの身体強化の魔法を発動。
闘いの火蓋は何の前触れもなく突然開かれた。
一瞬の間に青年との距離を詰めたシオンの拳が青年の顔を殴り潰そうと寸前まで迫る。
しかし、拳は鼻を掠める程度に空をきり、カウンターを狙う青年の短剣がシオンの喉元を突き刺す。かと思いきや、青年は短剣を突きの軌道上で手放し身軽に体を捻って地に手をつけると足を振りかぶり勢いのままシオンの首に蹴りを叩き込む。
飛んでくる短剣を払うため手を振って顔周りのガードが薄らいだシオンの首に青年の蹴りがめり込んだ。シオンの体は僅かに横に揺れる。
しかし、ダメージはほとんどない。
「雑魚が!」
駄言を吐いて、青年は【A:影沼】×【B:視覚奪取】を発動。
途端、青年が触れていたシオンの影が揺らぎ、シオンと青年の体は影に吸い込まれる様にその暗闇に沈んでいった。
2人の男の身体強化魔法を発動から現在までで約0.7秒。
戦闘を眼で追っていたアベル以外にとって、その場は強風や短剣が落ちていることを除いて、気にせずとも過ぎていく日常でしかなかった。
「影沼に視覚奪取…………【盗賊】か」
影沼は盗賊のAランクスキル、対象者の影の中に仮想の空間を作り出し、その中に引き摺り込んで無条件で自身には身体能力、魔術にバフを、対象者にデバフをかけることができる。
また、仮想空間は影の対象者のマナの大きさで決定づけられ、その大きさは様々である。仮想空間維持に必要なマナ消費は発動者ではなく、影の対象者に課せられる。
加えて、視覚も奪われたときた。青年の気配も風の動きでさえ全く感じ取ることはできない。盗賊なら容易い芸当だ。
閉ざされた暗闇の中、シオンを取り囲む様に全方位から短剣が飛んでくる。
シオンは見えない視界の中、仮想空間の中を飛ぶ様に走る。迫り来る短剣を長年培った触覚の感覚だけを頼りに、短剣が僅かに自身に触れた瞬間、短剣を弾いて軌道をずらし、ギリギリでいなしていく。
青年本人が直接叩きには来ない。
警戒強く、危ない橋は渡らない、盗賊という職業の本能が戦闘に現れていた。
「お前らは、そうだよな」
仮想の空間に体をぶつけながらシオンは空間の大きさがおよそ一戸建ての家ほどと予想把握。
シオンはすぐに【C:下•時緩結界】を発動。
途端にシオンを中心に空間の大部分に淡い光が広がり一時的にその場の時間が緩やかになる。その効果時間およそ弱0.1秒。
青年はシオンの結界が空間の大部分を覆う前に、瞬時に空間上部に飛んで得体の知れない結界から思わず反射的に避難した。
「結界!?【拳闘士】じゃねぇ__」
ただ、雑に上部へ飛び上がった際に巻き上げた空気の流れを結界は見逃さない。青年を追う様に後から巻き上げられる空気はシオンの張った結界の中、緩やかに青年の居場所へとシオンを導く。
シオン【C:身体強化】×【C:断震打】を発動。
次の瞬間、デバフをものともしない空間ごと打ち破る震えるシオンの拳が青年の腹部にめり込んだ。
「がぁっっ!!」




