07 あ、パートのリズ貸します
グレース王女の留学中も密かに周囲の警戒は続けられたが、3年間の留学期間中に彼女の暗殺未遂が疑われるような事案は一切発生せず、暗殺犯の力も国外までは及ばないようだと判断された。
穏やかな3年が続いたことで、留学期間の終わり頃には、王女の命を奪おうとする企みは既に潰えたか、或いは暗殺の企みがあったと考えること自体が杞憂であったか、という楽観論も関係者の間では出始めていた。のだが。
帰国するなり彼女は再び命を狙われた。しかも今度は大勢の人々の目の前で。
「我々も、決して気を緩めたわけではなかったんだ。
だが、過去の暗殺未遂と思われる事件はどれも『人けのない場所で事故に見せかける』という、殺人の意図があったこと自体をも隠そうとするような、陰湿で慎重なものだった。
まさか、あんな大っぴらに白昼堂々襲ってくるとは……」
近衛隊長は悔しそうな顔になる。
「……でも、やり口の本質は同じですよね?『事故に見せかける』が『他の人の仕業に見せかける』になったけど。
たまたま都合良く王家に強い恨みを持つ人間がいたから、本人にもそうとは悟らせず、近づいてちょっと背中を押してやっただけなのかもしれません。
黒幕がいるとしたら、ホントに自分は絶対前に出たくないというか、隠れていたいタイプなんですね、きっと」
眉を寄せて考え込みながら、リズが口を挟んだ。
近衛隊長は、そんなリズをじっと見つめる。
「黒幕………もし本当にこの事件に黒幕がいるなら、それがどんなやつなのか、他にヒントはあるだろうか。
君の思いつく、『ありがちな黒幕像』を聞かせてもらえるとありがたいのだが………」
「………私、王家の内情とかわからないから、本当に無責任なことしか言えませんけど………
『ありがち』ってことだけで言えば、こういう事件の黒幕って、あんまり貧乏だったり普通の庶民だったりしたらカッコ悪いですから、それなりに資金や手下が揃ってて、何かでっかい物騒な野望を抱いてて、その実現のためには王女様の存在がものすごーく邪魔………みたいなのが思い浮かぶ定番なんですけど」
「つまり君の見立てでは、今回の暗殺が未遂に終わっても、今後も王女様は謎の黒幕に狙われ続ける可能性が高いということになるのか……」
近衛隊長は頭を抱えてしまった。
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「……ええっと、宴もたけなわではございますが、お互い事情もわかったことですし、両親も心配していると思いますので、ワタクシそろそろお暇させていただこうかと思うのですが……」
リズがその隙にそろそろと立ち上がり、忍び足で出口に向かおうとすると、慌てた近衛隊長に手首をガッチリ掴まれる。
「待て待て待て。どうしてそうなる。
ここまで話したからには、君に協力を頼みたいに決まっているだろうが」
「……ハイ。私も10分くらい前から、『あ、これヤベェ流れだ』と思ってました。
期待されても困っちゃうんですよ。
言ったじゃないですか。天気予報にも劣るような精度の話しか出来ないって」
「ああ。だから悪いとは思ったが王女様暗殺未遂の話を出して、君の力を試させてもらったんだ。
話していてわかったよ。君の能力は、予知としての精度は低いとしても、その洞察力と推理力には驚くべきものがあるということが。
現状、王女様を狙う黒幕の正体も狙われる動機も皆目見当がつかない中で、君が示してくれる『可能性の話』は、きっと大きな助けになるだろう。
だから頼む、王女様をお守りするために、どうか我々近衛隊に力を貸してくれないか?」
リズは困り果てて目を瞑った。
これからも、目の前で何か起きたら邪魔してやる気満々ではあったものの、自分から厄介事に巻き込まれに行くつもりまではなかった。
王女様暗殺未遂事件に庶民の自分が首を突っ込むとなれば、完全に『スタントなし』、『ワイヤーアクションなし』、『CGなし』で原作のメインストリームに参加することになってしまう。
とは言え、これで近衛隊長を振り払って帰って、その後王女様が殺されてしまったら、その次の日からリズは普通に笑って暮らせるだろうか。
「〜〜〜ッッッ」
悩みに悩んだ挙句、リズは不承不承平和な日々に心の中で別れを告げた。
グッバイ私のほのぼの脇役ライフ。それにしても私ってばなんでこのタイミングで転生者として覚醒しちゃったんだろホント面倒くせえ。
「……わかりました。無理なく安全第一で過度な期待はしないとお約束いただけるならお手伝いします。
……それと、私がお手伝いすることについて、両親を心配させずに納得させられる説明も考えておいてくださいよ?」
「ああ、勿論だ。大事なお嬢さんをお借りするんだからな。
ありがとう、感謝するよ。改めて宜しく頼む、リズ」
ホッとしたように差し出された近衛隊長の右手を、リズはこわごわ握った。




