04 狙撃手は高所がお好き
翌日、フィルミア王家の末娘、グレース・フィルミア王女の帰郷を祝うパレードの見物客で、王都の目抜き通りはごった返していた。
王女はリズと同い年の16歳。
ここ数年、東にある大国の学院に留学していたが、この度優秀な成績を修めて留学期間を終え、故郷に帰る運びとなった。
美しく、名の通りの優雅な姫君でありながら、明るく親しみやすい性格で、数年不在にしたにも関わらず、王国では絶大な人気を誇っている。
数年ぶりの王女の姿を一目見ようと、沿道は多くの人々で溢れている。
店を抜けてきたリズも人波に揉まれながら、これじゃモーガンさんとブラッドは警備が大変だろうなとぼんやり考えていた。
やがて遠くから歓声が聞こえ、それが少しずつ大きくなってきた。いよいよ王女様のお通りらしい。
紙吹雪が舞う中、たくさんの近衛兵に守られて、王女の乗るオープン型の馬車が遠目に姿を現すと、リズも思わず馬車の方に伸び上がった。
「!?まぶしい……?」
その刹那、目に光がチラチラ当たって、リズは思わず手で目庇を作った。
いったい何が反射してるんだろう、とそのまま光のきた方角を探る。
すると、通りを挟んだ向かいに建つ、古い教会の遥か上方、鐘楼の天辺で何かがキラリと太陽の光を跳ね返したのが見えた。
(教会の鐘?ううん、動いて光を反射したんだから鐘のわけない。
誰かがパレードをよく見ようとして鐘楼に登ってるとか?でもパレードが見たいなら、なぜ身を乗り出さないの?
……誰かあそこにいるんだとしたら、まるで隠れているみたい……)
リズが鐘楼に気を取られているうちに、王女の馬車はどんどんこちらに近づいてくる。
(………要人のパレード、オープン型の車、沿道に大勢の人々…………映画の中で、こういうシチュエーションのときに高いところに潜むものといえば………ああッ)
弾かれるように顔を上げて目を凝らせば、鐘楼の鐘の陰から青黒く光る長いものがこちらに突き出されるのが見えた。
「……魔導銃!!王女様、伏せてーーーッ!!!」
光るものの正体を悟った瞬間、リズの口から自分でも驚くほどの大声が出ていた。
パレードの列が一瞬動揺し、馬車の上で手を振っていたグレース王女が思わず体勢を崩す。
そのすぐ横を唸りを上げて銃弾が掠め、馬車の分厚いクッションに命中した。
※※※※※※※
たちまち辺りはパニックになった。
近衛兵たちは王女を守ろうと馬車に駆け寄り、沿道の人々はその場から逃れようと押し合いへし合いする。
リズも逃げ出したかったが、彼女にはまだやらなくてはならないことがあった。
震える足を踏ん張ってその場に留まり、王女を避難させようとしている近衛兵たちに向かって叫ぶ。
「あそこの教会!鐘楼の天辺から撃ってきました!!」
「!!」
リズの叫びに、近衛隊長らしき男が振り返る。
リズを見て、一瞬彼女の言葉を信じたものか迷う素振りをみせたが、すぐそれを振り払って部下たちに命じた。
「鐘楼からの狙撃に注意して王女様を避難させろ!
一隊は私に付いて教会へ!狙撃手を確保する!」
教会に向かって駆け出していく近衛兵の一団を見てホッとした途端、リズの足から力が抜けた。
だが、その場にへたり込んでしまった後も、彼女の映画脳は目まぐるしく働き続ける。
「おい、そんなところで蹲ってちゃ危ない!」
「リズ!?お前、なんで………」
聞き覚えのある声に振り返ると、モーガンとブラッドがこちらに走り寄ってくるところだった。
リズは二人の腕をガシッと掴む。
「教会に行って!犯人は近衛兵さんたちが見逃してる出口から逃げるかも!二人なら教会の中に詳しいから犯人が使いそうな抜け道、見当がつくでしょ!?」
「はあ?お前、何言って………」
「あと!犯人捕まえたら、問いただしたりする前に、まず口の中確認して!
『誰に頼まれた』とか訊いたときに、相手が不敵にニヤッと笑ったら、高確率で奥歯に仕込んだ毒噛むか舌噛むかするから!!」
「……いや、お前ホント何言ってんの?」
呆れるブラッドの後ろで黙って聞いていたモーガンが、真剣な顔でリズの肩に手を置いた。
「わかった。俺たちに任せておけ。リズ、お前は早く安全な場所に避難するんだ」
「えっ、ちょっとモーガンさん!?」
戸惑うブラッドを連れて教会に急ぐモーガンの後ろ姿に感謝しながら、リズは遅れてきた恐怖感に大爆笑する膝を宥めてどうにか立ち上がった。




