21 きっと、うまくいく (審議)
昼下がり、王宮の庭園には金木犀の香りが漂っていた。
庭師の老爺が丹精込めて育てたダリアや遅咲きのバラが咲き乱れる庭園は、秋を迎えても変わらぬ華やかさを見せている。
暗殺未遂事件からの叔父の逮捕という衝撃的な結末を迎えながらも、グレース王女は先日無事17歳の誕生日を迎えた。
たった一人の母方の身内が自分の命を狙っていたことを知ったグレースは大きなショックを受けたが、リズたちやレオナルド公子の献身的な支えもあり、現在は少しずつ元気を取り戻している。
グレースとレオナルドは今や切っても切れない仲の良さであり、彼女の誕生祝いはシネラマ公国の第二公子との婚約祝いを兼ねる形で行われた。
祝いの席で「仲良く喧嘩しな」と聖歌隊が歌う中、繰り広げられた二人の射撃対決は、王都の新聞にも取り上げられ大きな話題となった。
そして今、二人は花の咲き乱れる庭園を手を繋いで散策している。
それを遠目に眺めていたシャーリーが、隣のモーガンに話しかけた。
「ねえねえ、レオとレイシー、ここから丸見えだけど、いいのかな?」
「いいんじゃないか?どうせお二人の目にはお互いしか見えていないだろうし」
コーヒーを飲みながら、モーガンが笑って答える。
二人がいるのは、新生「スタ場・サテライト」のテラス席である。
暗殺未遂事件の解決を受けて、役目が終わった庶民三人は、王宮を辞して市井の暮らしに戻ろうとしたところ、王女や近衛隊やコーヒー党の使用人たちから全力で引き留められた。
そして各方面からの熱心な説得やいくつかの交渉を経て、ブラッドは正式に近衛隊の一員として迎えられ、モーガンは治安警備隊に籍を置きながらも、下町警備と犯人の自害対策のエキスパートととして、若い近衛隊員に警備の心得や犯人の口に手を突っ込む方法を指南することになった。
リズには、グレースから感謝の証として、王宮の庭園の一角に建てられた、レンガ造りの小さなカフェが贈られた。
これにより、これまで近衛隊詰所に間借りしていたスタ場・サテライトの正式な王宮進出が決まり、リズの両親は両手を挙げて大喜びした。
カフェは、一階のカフェスペースと、二階のリズの居住スペース、庭園を見渡せるいくつかのテラス席から成り立っている。
この日も、そのテラス席にいつものメンバーが集まって、ラブラブの王女と公子をこっそり観察しながら、コーヒーやシャーリーズを楽しんでいるところだった。
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「ブラピは近衛隊に入ったんだよね?それってやっぱりリズが王宮に残ることになったから?」
シャーリーの、どストレートな質問にブラッドがコーヒーを噴く。
「ん゙っ…ゲホッ、まっ、まあな……近衛隊の訓練に参加させてもらってるうちに、自分の力を試してみたいと思うようになったんだよ。
近衛隊でしっかり働いて、キッチリ実力つけりゃ、10年後には俺が近衛隊長で、ハリさんはオッサンだ」
「おいブラッド、お前に『ハリさん』呼びを許した覚えはないぞ」
眉根を寄せるハリソンを余所に、シャーリーは今度はリズに尋ねる。
「リズは?10年後どうなりたい?」
リズは、首を傾げてちょっと考える。
「そうだなぁ…多分、相変わらずここでコーヒー淹れながら、片手間にみんなのハッピーエンドのお手伝いをしてるんじゃないかな?
一番素敵な『ありがちなパターン』は、やっぱり『ハッピーエンド』だもんね。
……そういうシャーリーはどう?大きくなったら何になりたいの?」
「私は大きくなったらモーガンと結婚するの!」
今度はモーガンがコーヒーを噴出した。
「おいおい、俺の年金で生活する気か?」
「愛さえあれば歳の差なんて関係ないって、執事のアンソニーさんが言ってたよ」
「あの庶民に冷たいホプキンス執事がか!?……シャーリー、お前の交友関係はどうなってるんだ……」
呆然とするモーガンに、ブラッドが笑う。
「モーガンさんって昔から小さな女の子にモテるんだよな。
覚えてるか、リズ?お前も小さい頃、よく『モーガンさんのお嫁さんになる!』って言ってただろ」
「あはは、言ってた言ってた」
それを聞いたハリソンが思わず身を乗り出す。
「おっ、リズは年上がタイプなのか?それなら……」
「ハリさ〜ん、俺の殺人コーヒー、味見してみませんか?目が覚めますよ」
「だからお前にハリさん呼びは許可してないと言ってるだろう!」
わいわいする中、シャーリーがリズの袖を引いた。
「ねえリズ。さっき、『あの二人がチューをして、めでたしめでたしだよ』って言ってたよね。
でも、さっきから見てるんだけど、レイシーとレオ、なかなかチューしないよ?」
「えっ……そんなはずないんだけどな。『ハリウッド映画のハッピーエンドと言えばキス』が動かしようのない『ありがちなパターン』だから。
でも、確かにあの二人、まだキスしてないね……
え。と、いうことは、まさか………」
青褪めるリズの耳に、どどどどどどど…と何かがこちらに近づいてくる地響きが聞こえてきた。
「ん?なんだ、地震か?」
「リズ!あっちから何か来るよ!」
みんなが狼狽える中、リズはこちらに向かってくる一団に目を凝らす。
そして、その正体を見て取った途端、彼女はグレースとレオナルドに向かって絶叫した。
「二人とも逃げてーーーーー!!!
インド映画だーーーーーー!!!!」
だが、時すでに遅く、グレースとレオナルドは、どこからともなく庭園になだれ込んできた途轍もなく顔の濃い大量のダンサーと、きらびやかに着飾ったゾウの大群に、あっという間に取り囲まれてしまった。
そして二人が、サリーとテカテカの開襟シャツに着替えさせられ、ダンサーやゾウたちと一緒に、運動量がやたらエグい「愛のダンス」を延々踊らされるのを、リズたちは為す術もなく見守ったのであった。
―――終―――




