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16 愛と青春の苛立ち


「ハァァァァ〜〜……」


 スタ場・サテライトにハリソンの嘆息が響いた。

 いつも冷静で頼れる隊長の姿勢を崩さない男にしては、珍しく弱った様子を見せている。


「大丈夫?ハリさん。

 コーヒーに少しだけブランデー入れようか」


「いや、まだ勤務中だから………やっぱ頼む。ついでにリズの愛情も追加しといてくれ………」


「アハハ、それ高いよ〜」


 リズは少し濃い目に淹れたコーヒーにブランデーを垂らして、テーブルに突っ伏しているハリソンの前に置いた。


「で、今日は何対決だったの?」


「木登りだ」


「それはまた……」


 ハリソンの最近の悩みのタネは、グレースが因縁の恩人レオナルド公子と再会したあの日から始まっていた。



※※※※※※※



 レオナルド・ディカ・シネラマ。


 歳はグレースのふたつ上の18歳。

 シネラマ公国の第二公子。

 独立心が旺盛で、民の暮らしに関心が深く、よく供もつけずにフラリと街に出かけてしまうことがある。


 昨日は、フィルミア王国に到着早々その癖を発揮してマーケットデイを散策していたところ、たまたまお忍び外出中だったグレースと邂逅してしまったという顛末であった。


 ちなみに、射撃の腕はプロクラス。運動神経も抜群らしい………


 あの再会の日、二人が既知の仲であったことに気を良くした父王がつらつら述べる上記の釣書を8割方聞き流して、グレースはレオナルドに人差し指を突きつけた。


「貴方ッ………私と勝負しなさい!!」


「ほお……身の程知らずのお嬢さんだ。面白い、受けて立とう」


 というわけで、以来、連日『交流会』という名のもとに、二人の勝負が続いているのである。

 射撃、チェス、百m走、バックギャモン、アーチェリー、ポーカー、ダーツ、果てはしりとり、にらめっこ、木登り………


 これが、どちらかが圧倒的に秀でていれば勝負の意欲も失われるというものだが、なまじ実力が伯仲している上に、グレースとレオナルドはお互い負けず嫌いなところまでそっくりだった。

 そのため、いつ果てるともしれぬ勝負が毎日延々続き、ハリソンたちを疲弊させているというわけだ。


「……今日の木登り対決では、完登の速さだけではなく、如何に美しく木を傷めずに登れるかも競っておられてな。

 審判役を任された庭師の爺さんが緊張のあまり入れ歯を落として本当に気の毒だったよ……」


「あらら……後で庭師のお爺さんにもブランデーコーヒーと揚げ菓子届けた方がよさそうだね。

 国王様とか他の王子様王女様に諌めていただくわけにはいかないの?」


「ありゃ完全にお花畑だ。『あの二人、あれからずっと一緒に過ごしているらしいぞ』、『まあ、なんて仲が良いのでしょう』って調子でな。

 傍から見れば微笑ましいのかも知れんが、今にもどっちかが大怪我でもして何らかの国際問題に発展しそうで、正直俺は気が気じゃない」


 僅かなブランデーが彼を泣き上戸にしたのか、いつの間にか一人称が『私』から『俺』になってしまっているハリソンの愚痴をリズがうんうんと受け止めていると、詰所の扉が開いて、モーガンとブラッドの案内で小さな客人が飛び込んできた。



※※※※※※※



「リズ!今日のアイス持ってきたよ!」


 飛び込んできたのはアイスクリーム屋の娘シャーリーだった。


 シャーリーにまた会いたい、シャーリーの店のアイスを王宮でも食べたい、というグレースの計らいで、あれから親子で王宮にアイスを納めるようになっていたのだ。


 娘の新しい友達のレイシーが、実はグレース王女殿下だったと知らされたシャーリーの両親は、突然王宮に呼び出されて、商売物のアイスよりもカチンコチンに固まった。

 それでも、王宮へのアイス納入を有り難く引き受けて、店に戻った直後には『グレース王女様御用達』のバカでかい看板を掲げる商魂は忘れなかった。


 両親に比べると、シャーリーの方が余程肝が据わっていて、


「レイシーって本物のお姫様だったの!?すごーい、おとぎ話みたーい!」


 の一言だけで、グレースへの態度が変わることはなく、身分の垣根を越えた友情をいとも容易く継続させてくれた。


 そしてちょくちょく王宮に来ては、両親が厨房にアイスクリームを納めに行っている間、グレースとお喋りをしたり、スタ場・サテライトの分のアイスを届けにきたりするようになったのだった。


「シャーリー、いらっしゃい!いつもお疲れ様。

 今日も食べてく?モーガンさんとブラピも」


「食べてく!」「ああ、貰おう」「俺も!」


「リズ……俺にもくれ」


 席に着く3人を見て、ハリソンが弱々しく手を挙げる。


「ハリさん、今コーヒーと一緒に揚げ菓子食べたばかりでしょ。大丈夫?」


「アレは別腹だ」


「ハイハイ。じゃ私もご相伴しよっと」


 リズはシャーリーから受け取ったばかりのアイスクリームを手早く器によそい、エスプレッソをかけていく。


 シャーリーとの出会いと前世知識により誕生した、スタ場・サテライトの新メニュー「アフォガード」である。

 これが現在、グレース王女から使用人、近衛隊員に至るまで、王宮の人々に大人気のスイーツとなっていたのだった。


「おいしーい」


「美味いな」


 仲良くアフォガードを食べるシャーリーとモーガンの横でブラッドが物申す。


「だけどよ、リズ。これ、名前何とかならないか?『アホ警備ガード』って、なんかすげえ引っかかるんだよな……」


「うーん。このスイーツ発祥の遠い異国の言葉で、『溺れる』って意味なんだけど……確かに近衛隊や治安警備隊がお得意様の店では、この名前はあんまり印象良くないか。

 どうしよ。シャーリー、何か別のいい名前考えつく?」


 リズは困ってシャーリーに話を振った。


「じゃあね、じゃあね、ええとね……『シャーリーのアイスクリーム』と、『リズのコーヒー』で、『シャーリーズ』ってどう?」


「おっ、いいじゃないか」


 シャーリーの提案に、ハリソンが頷く。


「覚えやすいし、響きもいい。すごいな、シャーリーは」


 ハリソンに頭を撫でられて、シャーリーはえへへと照れ笑いをした。


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