15 最凶のふたり
「さあ、いよいよ最後の挑戦者が名乗り出たぞ!5人抜き達成か?阻止か?こいつは目が離せないぜ!」
ジョンが人垣から進み出た若者を目ざとく見つけて、コルク銃を手渡す。
「あ、貴方は………」
嫌味な恩人の思いがけない再登場に、グレースは絶句した。
若者は動揺するグレースにチラリと笑みを見せ、悠々とコルク銃を構える。
二人の腕は、ほぼ互角だった。
しかし、再会の動揺から立ち直りきれなかったのか、グレースの弾は最後の標的を僅かに逸れ、それが決定打となって勝負は旅姿の若者に凱歌が上がった。
落ち込むグレースにシャーリーが駆け寄る。
「すごかったよ、レイシー!最後は惜しかったけど、すごくかっこよかった!」
「………ごめんなさい、シャーリー。クマさん、お迎えするって約束したのに………」
「ううん、全然!4人抜きかっこよくてびっくりしちゃったし、レイシーが私のために頑張ってくれてすごくうれしかったよ?
あのお兄さんが強すぎるんだよ。ほら!もう次の挑戦者に勝っちゃった」
シャーリーが指さす先には、見事な射撃技術で次々挑戦者を下していく若者の姿があった。
若者は、恨めしげに見ているグレースの視線をものともせず、あっさりと5人目の挑戦者も倒してしまうと、大歓声の中、ジョンから大きなクマのぬいぐるみを受け取る。
そして、シャーリーの口から漏れた「わあ〜」という声に気づいたのか、そのままこちらにやってきて、グレースに声をかけた。
「やあ、悪かったな。
邪魔をするつもりはなかったんだが、お嬢さんの射撃の腕前をみていたら、どうしてもひと勝負したいって気持ちが抑えられなくてさ。
まあ、そう気を落とすなよ。『勝負は時の運』って言うだろ?」
「……『運も実力のうち』とも言いますわ……」
地を這うような声のグレースの反論に、若者は破顔する。
「ハハッ、違いないな!
さあ小さなお姫様、これは『俺からの』プレゼントだ。
じゃあな、お嬢さん。楽しかったよ」
若者は驚いているシャーリーにクマを抱かせると、グレースにヒラヒラと手を振って颯爽と去っていった。
その後ろ姿を呆然と見送ったグレースは、やがて地団駄を踏んで悔しがる。
「もおおおおお~っ、何なの何なのアイツ!アッタマ来たわ!!
覚えていらっしゃい、今度会ったらギッタギタのメッタメタにしてやるんだから!!」
「うわあああ、レイシー、ストーーップ!それ完全に悪役が負けたときのやつだから!!」
かくして『お姫様、初めてのマーケットデイ』は大波乱のうちに幕を閉じたのであった。
※※※※※※※
帰り道の馬車の中で、一日の疲れから子どものように眠ってしまったグレースの向かいに並んで座り、リズとブラッドはボソボソ言葉を交わす。
「お前、あの射的野郎のこと妙に気にしてたよな。
そのくせ、近衛隊でアイツのあとつけて身元調べようかって訊いたら、『今は多分いらない』って言うしよ。
アイツが何だって言うんだ?お前お得意の『ありがちなパターン』から判断して、正体を隠してグレース様に近づく暗殺犯の手先か何かなのか?」
ブラッドは今日一日気になって仕方のなかったことを尋ねたが、リズはすぐには答えず、判断に悩んでいるようだった。
「……出逢い方がもっとロマンチックだったら、そういう怖い裏がある可能性が高くなるんだけど……今回の場合は、むしろ反対だと思う。
………もしかしたら、あの男の人がグレース王女様の『運命の出逢い』ってやつかも………」
「『運命の出逢い』だぁ?……アレがか?」
「私、恋愛映画そこまで観てないから全然確実じゃないけどね。まあ、あんまり気にしなくて大丈夫。もし本当に運命だったら、どうせすぐ次の再会があるから」
「次があんのかよ……姫様、次にアイツに会ったら『ギッタギタのメッタメタにする』とか言ってたぞ」
「……『運命の出逢い』のパターンとして、最悪、『実は生まれてすぐ離れ離れになった生き別れの兄妹でした〜』とか『実は決して惹かれ合ってはいけない敵国のスパイ同士でした〜』なんてこともあるかもしれないんだけど、そういう場合の出逢いのシーンは、基本異様にロマンチックなのがパターンだから、今回は当てはまらないはず。
もしここが韓流映画の世界だったら、運命の出逢いが行き着く先なんてものは、笑っちゃうくらいの悲恋ってのがむしろスタンダードなんだけど、ホーリーウッドサインの庇護を受けている我が国では、そこまでの心配はいらない、と、思う………」
「お、おう………?」
眠る王女とブツブツ呟くリズとそれを見守るブラッドを乗せて、馬車は王宮の門を潜った。
※※※※※※※
翌日、グレースは父王から「頼み事がある」と呼び出された。
そして、
「フィルミア王国と友好関係にある海辺の小国『シネラマ公国』の第二公子、レオナルドが単身で外遊に来ているのだが、王宮に滞在中、歳の近いグレースにもてなし役を頼めないだろうか」
という、多分に
「お前ももうすぐ17歳の誕生日なんだから、そろそろ婚約者とか見繕ってみたんだけど、どお?」
的な下心を含んでいるであろう提案をされた。
もてなし役自体は特に断る理由もないので、グレースが気軽に引き受けると、早速公子がその場に案内されてくる。
挨拶をかわし、顔をあげてお互いを見た途端、玉座の間に「あーー!!」という叫びがドルビーサラウンドで響き渡った。
「――貴方は昨日の!」
「――君は昨日の!」
グレースの目の前にいたのは、紛れもなく昨日の旅姿の若者であった。
「なんと、二人はもう知り合いであったか。これは幸先が良い。はっはっは」
暢気に笑うフィルミア王の前で、グレースがここで会ったが百年目とばかりにレオナルドに飛び掛かりそうになる。
それを素早く察知し、『ギッタギタのメッタメタ』をどうにか阻止したのは、ひとえに事前に「再会があるとしたらこういうパターンかも」とリズに聞かされていたハリソンの (物理的な)努力によるものであった。




