14 グレースよ銃を取れ
「みんな大丈夫!?」
「え、ええ、私たちは無事だけどこちらの方が……」
慌ててリズとブラッドが駆け寄ると、グレースは女の子と手を繋いで立ち上がった。
旅姿の若者が、倒れながらもグレースと女の子を一緒に抱きとめて庇ってくれたらしい。
ブラッドは三人の様子を確認し (大丈夫)と周囲の近衛隊員に合図を送る。
「あの、助けてくださってありがとうございます……私の不注意のせいで本当にごめんなさい。
お怪我はなかったですか?」
「痛てて…まったく不注意もいいとこだ。
俺が下敷きにならなかったら、こっちの小さいお姫様まで怪我してたかもしれないんだぞ?」
グレースの謝罪に、若者がチクリと嫌味をいいながら立ち上がり、リズが服の汚れを払ってやっていた女の子の頭を撫でた。
「ご、ごめんなさい」
「はしゃいで怪我するのはアンタの勝手だが、周りの人間まで巻き込まれちゃ敵わないぜ」
「うう……謝っているのにそこまで言わなくても……」
落ち込むグレースの袖を、女の子がツンツン引っ張る。
「お姉さんお姉さん、私なら大丈夫だよ」
「!……なんて優しい子なの。
ぶつかってしまって本当にごめんなさい。
私はレイシーっていうの。あなたは?」
「私シャーリー」
「シャーリー。可愛らしいお名前ね。
どこか痛いところはない?本当に大丈夫?」
「我慢することないぞシャーリー。あー俺も腕が痛い」
グレースとシャーリーが話しているところに、若者が茶々を入れる。
「今貴方には訊いてないわ!
本当に心から申し訳ございませんでしたって言ってるでしょ!!
お医者に診せるなら一緒に行くから、今はちょっと黙っててくれない?」
「おお怖」
「どこもなんともないよ。レイシーは痛くなかった?」
「ううっ、シャーリーは本当に優しいのね……ずっとその優しい心を忘れないでね……間違ってもこのお兄さんみたいな大人になっちゃダメよ……」
「おいおい、恩人に随分な言い草だな」
言い争う二人を止めようとしたブラッドは、横でリズがひどく難しい顔をしていることに気づいて躊躇った。
ブラッドがグレースとリズの顔を見比べているうちに、若者は医者に行こうというグレースの提案を断って、サッサと立ち去ってしまう。
「何なのあの恩人……!」
憤慨してるのか感謝してるのかよくわからないグレースの横で、ようやく我に返ったらしいリズが、しゃがんでシャーリーに声を掛ける。
「シャーリー、ここには誰と一緒に来たの?お父さんかお母さんは?」
「パパとママは、あっちでアイスクリームのお店を出しているんだよ」
「へえ、シャーリーはアイスクリーム屋さんとこの子なのか。
じゃあみんなでシャーリーんちのアイス買おうか。
お店まで案内してくれるかい?シャーリーも食べるなら、お詫びにご馳走させてくれよ」
「いいよ!」「いいわね!」
ブラッドの提案に、シャーリーとグレースが笑顔になった。
※※※※※※※
アイスクリームの屋台はそこから歩いてすぐだった。
シャーリーの両親は商売人らしい気さくな夫婦で、平謝りするグレースを笑って許し、皆のアイスにトッピングを景気よくオマケしてくれた。
屋台の前でシャーリーと一緒にアイスを食べていると、向かいの出店で大きな歓声が上がった。
そこは射的の店で、様々な景品が並んだ棚の前に、ビヤ樽のような太鼓腹を抱えた店主が陣取り、陽気な声で盛んに呼び込みをしている。
グレースらが気を取られている様子を見て、シャーリーが説明役を買って出た。
「あれはねえ、ジョンおじさんの射的の店。
5発撃って、的を倒した点数で景品が貰えるんだけど、人気なのはお客さん同士で点数を競い合う『勝ち抜き』なんだ。
すごいんだよ。5人勝ち抜くと、あのおっきなクマさんが貰えるの!」
シャーリーの指さす先には、彼女と同じくらいの大きさのクマのぬいぐるみが鎮座していた。
目をキラキラさせるシャーリーに、グレースが尋ねる。
「あのクマさん、好きなの?」
「うん!お店の向かいで見てるうちに、なんだか友達みたいな気持ちになっちゃったの。
射的に挑戦する人って、子どもかお酒の入ったおじさんが多いから、なかなか5人抜きなんてできなくて、クマさんずっとあそこにいるんだもん」
「……わかったわ。ちょっと待っててね」
グレースはアイスの最後の一口を押し込み、向かいの店に駆け出して行った。
リズとブラッドは慌てて後を追い、シャーリーが不思議そうについてくる。
「ご店主!勝ち抜きに挑戦させてください」
グレースの姿に店主のジョンは目を丸くする。
「おやおや、これは素敵な挑戦者の登場だ。
こんな別嬪さんが参加してくれたら、俺の呼び込みなんかなくてもお客がつめかけるぞ。
さあさあお立ち会い。ジョンの店始まって以来の美人さんから5人抜きの挑戦があったぞ。どれ程の腕前か、とっくり見せてもらおうじゃないか」
わあっと歓声が上がる中、グレースはスッとコルク銃を構える。
………射撃クラブ元部長の肩書きは伊達ではなかった。
グレースのコルク弾は正確に的を撃ち抜き、我こそはと現れる挑戦者を次々退けていく。
店の前にはすっかり黒山の人だかりができ、近衛隊も警備に四苦八苦している。
「すごいすごい!レイシー、5人抜きまであと1人だよ!」
「あと少しだけ待ってね。シャーリーのお友達、今お迎えしてあげるから」
グレースがシャーリーに笑いかけるのと、5人目の挑戦者が人垣から現れるのが同時だった。
その姿を目にしたリズの眉が一瞬ピクリと動く。
それは、最前グレースとシャーリーを助けた旅姿の若者だった。




