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13 マーケットデイに進路を取れ


 捕まった偽御者は、やはり金で雇われた暗殺犯の手先だった。


 ここでも依頼者はマントとマスク、変声魔道具で正体を隠していた。

 恐らく、メイドを脅した「マントの紳士」と同一人物なのだろう。


 偽御者は前金と一緒に爆発物を渡されており、それを馬車の座席下に仕込んで、人けのない場所まで馬車を走らせ、頃合いを見て御者席から飛び降りて、王女と本物の御者を馬車ごと吹き飛ばす手筈だったという。


「どうやら黒幕の姿は見えてきましたけど、正体まではなかなか辿り着きませんね」


 『スタ場・サテライト』こと近衛隊詰所で、ハリソンにコーヒーのおかわりを注ぎながらリズが言う。


「それでも、黒幕と目される男の直接の目撃証言が二人分に、転送魔道具や爆発前の爆弾といった物的証拠まで手に入ったんだ。

 地道に徹底的に調べていけば、必ず黒幕に行き着くだろう。

 ここからは我々近衛隊の腕の見せ所だ」


 ハリソンは張り切っているようだった。

 そこへ、ブラッドがバタバタと入ってくる。


「リズ、オリジナルブレンド一杯頼む!……あ、隊長。お疲れ様ッス」


「ああ、お疲れ」


「オリジナルブレンド、ハイヨロコンデー。

 あれ、ブラピひとり?モーガンさんは?」


「近衛隊のみんなと警備計画の最終調整中だよ」


「うわ、大変だね。魔法瓶にモーガンさんたちの分のコーヒー詰めておくから、飲み終わったら持ってってあげて」


「助かる」


 近々、王都の広場に市がたつ。

 様々な出店に加えて、食べ物の屋台や芝居小屋なども集まるマーケットデイは、王都の民が楽しみにしているイベントのひとつである。

 リズとブラッドは、次のお忍び外出でグレースをそこに連れて行く約束をしていた。


 今回は、日程も行き先も、知っているのは近衛隊だけ。

 王宮の馬車は使わずグレースにも町娘の格好をしてもらう完全お忍びスタイルである。


 今の状況で暗殺犯に情報が漏れることは考えにくいものの、大事を取って広場には私服の近衛隊が多数配備され、厳重な警備を敷くことになっている。

 そして、そのためには下町の警備に精通したモーガンの経験と知識が不可欠であることから、近衛隊全員一致で、彼がハリソンと一緒に今回の警備の陣頭指揮をとることになったのだった。


 ブラッドはリズとともにグレースの案内役を務めながら、最前線のボディガードの役割も果たす。


 近衛隊のメンバーに囲まれているとは言え責任重大だよ、とブラッドは緊張を解すようにぐるっと肩を回して見せた。


「リズを守るっつって王宮に来たのに、お前を最優先出来ないのは歯痒いけどな」


 申し訳なさそうなブラッドに、リズが気にしなくていいよと声をかけようとしたら、コーヒーを飲み終わって席を立ったハリソンが、ひょいとリズの肩を抱き寄せた。


「心配するな。リズのこともちゃんと私たちが守るさ。

 リズに何かあってこのコーヒーが飲めなくなったら近衛隊の一大事だからな」


 カラカラと笑ってハリソンは詰所を出ていき、二人は呆気にとられてその後ろ姿を見送った。

 やがてブラッドが声をひそめて言う。


「………最近隊長、リズと距離近くね?」


「そう?ハリソン隊長は大体いつもあんな感じだと思うけど……

 私が隊長の手先になって色々手伝ってるから、『うちの芸達者な猟犬かわいい』みたいな感覚なんじゃないの?」


「ハァ…暗殺犯以外からもお前を守らなきゃいけない気がしてきた…」


 ため息をつくブラッドに、リズは首を傾げた。



※※※※※※※



 お忍び外出当日、天気に恵まれたこともあり、広場は多くの王都の民で賑わっていた。


 たくさんの屋台や出店が立ち並び、人々のざわめきに交じって、陽気な呼び込みの声や大道芸の音楽があちこちから聞こえてくる。


「すごいわ!マーケットデイの広場って、王宮のパーティーよりずっと賑やかなのね!」


 庶民らしい粗末な見た目の馬車から元気に飛び降りた町娘姿のグレースは、広場の光景に目を輝かせた。


「ダメダメ、ここで『王宮』なんて口走ったら。

 今日の貴女は庶民のレイシー。

 私も頑張って敬語使わないようにしてるんだから、レイシーもしっかり庶民になりきってくれなくちゃ」


 リズが慌ててグレースの袖を引っ張る。


「まあごめんなさいリズさん。そうだったわ」


「今日は友達同士の設定だから、『さん』付けもナシ!

 『リズ』と『ブラピ』でいいよ」


「いやよくないだろ」


「わかったわ!……でも私、お二人とは今日だけの設定じゃなく、本当のお友達になりたいの……

 だから、これからはずっと『リズ』と『ブラピ』って呼んでもいい?」


「もちろん!」


「あああ…王家に『ブラピ』呼びで固定されちまった…」


 傍から見ると、三人は本当に仲良しの友人同士のようだった。


 リズとブラッドのオススメを聞きながら、グレースは興味の赴くままに露店を冷やかし、大道芸に歓声をあげ、屋台グルメを試してみる。


 王女と護衛役とは言え、皆何だかんだ十代の若者たちである。グレースだけではなく、リズとブラッドも久しぶりの王都の活気に少しばかりはしゃぎ気味になっていた。


 それでも、広場の群衆にはモーガンとハリソンをはじめ私服の近衛隊があちこちに混ざっており、グレースたちがガラの良くない一角や混雑しすぎていて警備が難しい場所に入り込まないよう、さり気なく誘導してくれている。


 ブラッドはモーガンとすれ違いざま、無言で尻を引っ叩かれて喝を入れられていた。

 痛そうに尻をさするブラッドに、リズとグレースは笑い転げる。


「あら?なにかしら?」


 すぐ近くで楽団の演奏が始まり、それに釣られてグレースが勢いよく向きを変えた。

 その途端、グレースの身体が近くにいた小さな女の子にぶつかる。


「きゃあっ」


「危ない!」


 リズたちが支える暇もなく、グレースと女の子はもつれ合ってバランスを崩し、通りかかった旅姿の若者を巻き込んで、地面に倒れ込んでしまった。


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