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01 バック・トゥ・ザ・前世

「……ハリウッド映画かよ」


 呟きが漏れたのは無意識だった。

 だが、それが引き金だったらしい。

 リズ・アスターの頭に、突如として前世の記憶がドバーッと蘇ってきた。



※※※※※※※



 リズは16歳。


 王都で両親が営む、コーヒーと揚げ菓子の店「アスターの場所(通称:スタ場)」で働く平凡な庶民の娘である。


 そんなリズにいきなり前世の記憶が蘇ったのは、いつものように親に頼まれた買い出しを終えて、店に戻ろうと王都の目抜き通りを歩いているときのことだった。



※※※※※※※



 話はほんの少し前に遡る。


 買い出しの帰り道、紙袋を抱えて歩くリズの周りは、丁度下校時間を迎えた王立学院の生徒で一杯だった。


 生徒の一人であろう、制服姿のヒョロリとした眼鏡の少年が、急ぎ足でリズを追い越していく。


 すると、そこへ派手な音を立てて、やたらと車高が低く改造されたオープン型の馬車が横付けになった。

 馬車を見て立ち竦んだ眼鏡の少年に歩道を塞がれる形になり、後ろのリズも仕方なく足を止める。


 改造馬車には、王立学院の制服をだらしなく着崩した、ガラの悪い少年たちが乗っていた。

 中でもひときわ大柄の少年が馬車の中で立ち上がり、眼鏡少年に丸めた紙くずを投げつけて吠える。


「おい、眼鏡野郎。今日お前が俺んとこに宿題を持ってくるのが遅れたせいで、俺たちが先公に怒鳴られたじゃねえか」


「ご、ごめんよビフ。今度からはちゃんと間に合うように持って行くから……」


「ふざけんじゃねえぞ。次遅れたらただじゃ済まさねえからな」


 オドオドと首を竦める眼鏡少年に、今にも殴りかかりそうな大柄少年。

 そこへ、気の強そうな女生徒が駆け寄ってきて、両者の間に割って入った。


「ちょっと!やめなさいよアンタたち」


「ちっ、めんどくせぇのが来やがった。じゃあな眼鏡野郎。明日はすぐ持ってこいよ」


 改造馬車が騒々しく去ると、女生徒は眼鏡少年に怒ったように声をかける。


「またやられっぱなしだったのね?あいつらの言う事なんて聞くことないのに」


「……でも、ビフは騎士科で乱暴者だろ?……逆らって怪我でもしたらつまらないから……」


「もうっ、貴方を見てると無性にイライラするわ!」


 眼鏡少年と女生徒は言い合いながら去っていった。


 そして全てが終わった後、一連の出来事を黙って見ていたリズの口から思わず漏れたツッコミが、冒頭の言葉であったのだ。


 曰く、「ハリウッド映画かよ」………と。



※※※※※※※



 …………てか、「ハリウッド映画」って、何?


 自分の放った言葉の意味がわからず首を傾げた瞬間、リズの頭に彼女のものではない記憶が押し寄せてきた。


 それは、リズがリズになる前の記憶。


 彼女はこの世界に生まれる前、「日本」という小さな国で、小さなデザイン会社に勤める小さなデザイナーだった。


 自他ともに認める無類の映画好きであり、暇を見てはあちこちの映画館に行ったり、自宅で一人サブスクオールナイト上映会としゃれこんだり、なかなかお目にかかれないカルト系作品のBlu-rayを買い漁って積み上げたりと、平凡ながらもそれなりに楽しく過ごしていたと思う。


 そんなある時、会社が受けた久々の大きな案件にデザイナー班総出で取り組むことになり、何日も深夜残業や休日出勤が続いて、なかなか映画を観られない日が続いた。


 彼女は連日霞む目でPCに向かいながら、


「この案件が終わったら、家にあるジョン・カーペンター監督作品全部観るんだ……」


 と、うわ言のように自分に言い聞かせていたが、ある日の会社帰り、フラフラと道を渡っていたところをアッサリ前方不注意のトラックに撥ねられたのだった。


 薄れゆく意識の中、彼女の頭に去来したのは、「………アレ死亡フラグだったんかーい!」という今生最期のツッコミであった…………


章のタイトルは古今の映画作品のもじりやダジャレ、登場人物の名前は往年のハリウッド俳優からお借りしています(古め)。

元ネタが全部分かってしまったお人はかなり重度の映画好きとお見受けしますので、映画は用法・用量を守って正しく服用しましょう。

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ビフ…バックトゥザ・フューチャーだ…(’ワ’
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