表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/1

序章/東レンツァ鉄道



「ケイ、また、あえるんだよね?」

「うん、今度はウィクシアンの花が咲いているといいなぁ」

「それなら、5月ごろにおいでよ。案内してあげる。とっておきの場所があるんだ」

「わかった。5月ね。また、いつかの5月」

「うん、また。いつかの5月に」


//


「大岡さん、ほら、もうそろそろ着きますよ。起きてくださいよ」

あれは、山城の声だ。山城亜季。みんな彼女のことをあっきーと呼んでいる。さあ呼んでみよう。

「あ、あっきー」

「あ、あっ?や、やっと起きましたか。っていうか大岡さんが私のことあっきーって呼ぶの珍しいですね」

「ああ、すまん山城……。ねむい。いや、ねぼけてた」

「知ってます。大岡さんもご存じだと思いますが、私たちの目的地は終点じゃないんですからね。そろそろ準備しないと」

「ああ。すまん」

山城の視線をやや感じつつ、支度をすすめる。もっとも、支度といっても鉄道旅行の程度だ、たいしたものではない。余裕を持って終えることができた。ふと車窓に目を移すと、そこには一面の草原と、薄青の空とがひとつの調和した風景をつくっている。山城も車窓からみえる風景を楽しんでいるようで、その横顔は穏やかだった。それらをゆったりと眺めていると、やがて風景にちいさな街が割り込んできた。

「そろそろだな」

「ええ、いきましょうか」

「ああ、いこうか」

二人はいままで定位置だった座席から腰をあげる。鉄道がちょうど駅舎についたころだった。そのまま、鉄道のそとへ一歩踏み出すと、さわやかな初夏の風がふわりと全身を包んでいくのが感じられる。おもわず、両手を天のほうへ突き上げて、ぐうんと伸びをする。

「なんだか大岡さんってすごく大人っぽかったり、子供っぽかったりしますよね」山城が笑う。

「おお、そうか?」

「なんとなく、ですけどね。いきましょう?」

山城はにこりと笑って歩き始めた。

「なあ、山岡」

「なんですか」

くるりと回って山城がたずねる。長い髪が、すこし風になびいた。

「改札、そっちじゃないぞ。こっちだ」

そういって私は親指で自分の後方を指差す。そして、ゆっくり歩き始めた。

「あ、そ、そうですね」

山城は少し照れたようにしてこちらについてきた。こういうしぐさをみると、何となくかわいいような気がして、何となく、こまる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ