苦手な人
「それじゃ私買ってくるから、ちゃんと待っててよね!」
俺をベンチに座らせて、さっそくコーリアはアイスクリームを買いに駆けていった。
ここから少し遠いのだ。
もう、距離は感じないけれど。
慣れてしまったのだ。
昔、ここでかけっこで勝負したその日から。
さて……彼女に対し音信不通を貫いてきたはずのこの俺だが、別に嫌いなわけではない。
どこぞのユウリとまではいかずとも、この魔王の儀に参加できなかった俺を彼女は平気で笑いにくる。
幼馴染みとして過ごしたこの十数年が、俺にそう確信させていたからなのだ。
が、蓋を開けてみればなんだかしんみりした雰囲気で、辛い気持ちは分け合おうと優しく接してくる。
これはいったいどういうことなのだろう。
……本当にどういうことだ!
あんなに悪態ついたじゃないか!
模擬戦で負けて嫌み言われる度に、どうせお前の家系は魔王の儀に参加できないんだから関係なくていいよねって言ってやった仕返ししたいんじゃないのか!
というかなんだアイツ!
なぜあんなに心配している!?
始めましてから今の今までここまで優しくされたことはなかった!
というか奢るってなんだ奢るって!
人を誘っておきながら平気に別会計にしてくるコーリアにそんなことできたのか!?
待て……まさか待たせているこの状況こそ罠!?
こうやって逃げられない状況を作り出し、ろくでもないことをするつもりなんじゃ……!
と、言うところまで考えて止めた。
もし本当にそうなら顔にでないはずはない。
コーリア・フォルストンは分かりやすいのだ。
そう安心した次の瞬間だった。
「あっ、やっぱりカグヤくんだ。今日は学校だっていうのに、こんなところで何してるんだい?」
カグヤ・ゼロムーンは恐怖した。
自身を日陰の下に落としてしまうほどの黒い影。
そびえ立つ壁のような圧迫感。
そしてあの何考えてるのかわからない目。
出会いたくない人だった。
コーリアとは別の意味で、常に、会うだけでおかんがするとまでカグヤに言わせた女性。
その人こそがコーリアの上司にしてイニシエ王国国王直属警察兵団団長、クラーシェ・ブラックローズである。
「せっかくばったり会ったというのに、何もいってくれないなんて。お姉さんとっても悲しいな。そういう態度とられちゃうと、補導するしかなくなっちゃうぞ」
「したけりゃ勝手にしてくださいよ。コーリアの怒りを買いたいのならですけど」
「脅しだよ。君が話してくれないのがいけないんだよ?」
「別に、話すことなんてないでしょうが」
「世間話ぐらいはできるよ。だって君、暇だろう?」
「暇……ですけど」
「なら良いじゃないか。隣、座らせてもらうよ」
そう言って隣に座るクラーシェ。
最悪だ……よりにもよって何でこの人に……!
カグヤは苦手なのだ。
何を考えているのかわからない彼女のことがたまらなく怖いのだ。
「それでいったいどうしてこんなところにいるのかな?」
「別に不思議なことなんてありませんよ。何てことないただのサボりです」
「サボりねえ。そういうの良くないと思うなあ」
「授業の日もコーリアに出勤させてる人が言いますか。というか、そういうあなたこそ、局長室でふんぞり返ってるのが仕事な人がどうしてこんなところにいるんですか?」
「いったい君は私をなんだと思ってるのかな。休みだよ休み、いわゆる半休。これから忙しくなりそうだから、急いで取らせてもらってね。でも、やることなくてぶらぶらりってところだよ」
「なりそうって……もうなってるでしょう」
「三日目なんて大したことない。こんなに早く暴れてくれるのは、優越感で気が大きくなった阿呆だけだ。本当に恐ろしいのはこれからだよ」
「これ、経験者は語るってやつですか?」
「先・人・の・知・恵・だ。僕ってそんなに年くって見えるのかなあ?」
「……すみません」
「謝れるなんて偉いよカグヤくん。お姉さんがナデナデしてあげる」
頭を撫でるこの感触に安らぎを覚えることはない。
一回、二回と手のひらが頭をなぞる度に恐怖心を刺激する。
もう二度と間違えるなと、真実を刷り込まれていく。
この口が、過ちをこぼさぬように。
「しょ……所長!?」
「おや、コーリアくん。彼と一緒にサボりかい?」
戻ってきたコーリアに手を振って迎えるブラックローズ。
「非番の私を突然呼びつけたのは所長でしょう。で、その原因を作ったヤバいことも片が付いたので、非番の私に戻っただけです。それで、これはどういう状況なんですか。カグヤ説明しなさいよ」
「勘違いするな。これは調教されてるんだ。30代だと嘘を口走ったこの頭が、また同じ間違いを繰り返さないようにこうやって恐怖を刷り込まれてるんだ」
「どういう言い訳よそれ。素直に年上お姉さんに撫でられて嬉しいですって白状したら?」
「俺の目を見ろ。これが嬉しいですって人の目か」
「真剣なのね。どこまでドスケベなのかしら」
「……お前、分かっていってるだろ」
「所長、そろそろ退いてくれませんか?アイス溶けそうなんです」
話をそらしたので、コイツはわざとすっとぼけたわけだ。
やはり部下というのは大変らしい。
誰かの下についたことのない俺でもわかる。
「……しょうがない。かわいい部下に邪魔者扱いされた僕は、別のところで休暇を満喫するとするよ。それじゃあね二人とも」
立ち去るブラックローズ。
なにかを思い出したように立ち止まって振り返り、カグヤに向かって最後に一言。
「そうそう、君が望むなら王兵はいつでも歓迎するからね」
「隣の人が良いって言ったら行きますよ。どうせ言いませんけど」
コーリアを言い訳に誘いを断る。
彼女はなぜか……ああいや恐らくな理由の心当たりはあるのだ。
そしてそれがとっても彼女都合だったりするのだが、それがなんであれ自分にとって彼女が自分の王兵入りを拒んでいるというこの現状は、とっても都合がいい。
ので、こうやって勝手に利用させてもらうのだ。
隣で指差されても特に文句も言ってこないので、問題ない。
こうしてブラックローズさんが見えなくなった後、隣の人が一言。
「どうせってなに?」
目が笑っていなかった。
高評価、応援、作者のモチベに繋がりますのでよろしくお願いします。




