2025/08/26[柚子、家出]②
家から出た後、ネットカフェで一泊した。
コインロッカーに荷物を預けて、両親に見つからないようにバイト先までこそこそと歩く。
柚子のバイト先は家からそこまで遠くはないが、何本か細かい路地を挟んだところにある小料理屋だった。借りていたエプロンを返せなさそうなことと、バイトを続けられなさそうなことを直接伝えたくて危険を犯して歩いている。
のれんをくぐると和食独特のいいにおいが身体に染み入った。
「こんにちは……、女将」
「柚子ちゃん! 元気なさそうね。なにかあった?」
お茶を入れてもらい、まだ人が少ない昼下がりにのんびりとさせてもらった。急に家から追い出されたこと。母親の剣幕。父親の暴力。それとなく話していたがここまでしっかりと他人に話したことはない。
「ここに住まない?」
「ありがたいですけど……、家が近いので……」
本当にありがたい申し出なのに受けられない。いつ見つかるかわからないから。
わたしは座りながら重ねた手元だけを見つめた。これからどうするか?
なにも考えられない。頭が真っ白って感じだった。
醤油としいたけの出汁の匂いが香る。
四角いおにぎりと煮物がわたしの前に差し出された。いつもまかないで食べていたお気に入り。
わたしは流れる涙をそのままにおにぎりにかぶりついだ。