2025/08/06[結衣と物々交換とゆた]⑤
池袋、いけふくろうの前でわたしは紙袋を持って立っていた。
結んでいない髪にキャスケットを被り、白いワンピースを着てきた。お兄ちゃんがなんかうわー、とか、夏じゃん……、とかつぶやいていたけど、夏なのはいつもそうでは? と思って無視して出てきてしまった。
「暑い……」
青い日傘をさして待っていると、わたしと同じくらいの身長の少年が近づいてきた、もしかしてそうかなと思っていると声をかけてきた。
「ゆいゆさんですか? ぼくゆたです!」
ゆいゆはわたしのTwitterのアカウント名だ。取引の約束をした人のアカウント名は確かゆただった。
わたしたちは暑さに耐えかねて、ドトールに入った。大人たちがたくさんいる中、何人かこどももいて居づらくない。
わたしは、アイスカフェラテ。ゆたさんはアイス抹茶ラテを注文した。
「iPhoneSE持ってきたんですけど、なにと交換してもらえますか?」
ゆたくんは私と同じ小学五年生。あんまり背が高くないみたいで、しかも親が厳しいらしい。
「ええっと、図書カードなんですけど……」
出してくれたのはまだ封筒に入っていた図書カードだった。ピーターラビットの柄の5000円分が二枚。
「えっ、これほぼお金では……?」
「だめ……、ですか?」
わたしはアイスカフェラテを飲み、少し黙った。
「いいけど……、どうしてそんなにスマホが欲しいの?」
わたしがそう聞くと、ゆたくん。本名優太くんはぽつりぽつりと話しだした。
「ぼくの家なかなか厳しくて。ゲームとか一切買ってくれなくて、本はいくらでも買ってもらえるんですけど、それだけで……」
アイス抹茶ラテを飲みながら駅前を眺めながら優太くんは続ける。
「スマホ欲しいって言っても、必要ないって言われて。ぼくだって友達と通話とかしてみたいし……、イライラしたときはTwitterとかに書き込みたい……」
Twitterのアカウントは共用のパソコンで作ってこっそりと運用していたようだ。
「ストレスの吐き出すところがないって、やだね」
わたしも思わず外を眺めながらつぶやく。こどもだから必要ないって、こどもだからいらないって言われて押さえつけられるのもわかるけど、少しくらいはわかってほしいって思ってしまう。
「だから、交換してもらえませんか?」
「もちろん!」
わたしたちは物々交換したあと、ドリンク一杯で粘れるところまで粘って、裕太くんのiPhoneの初期設定をして、Free Wi-Fiで色々とダウンロードしてから、別れた。
去り際の彼はすっきりした顔で笑っていた。




