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66話


 俺は飛行魔道具『夢遊光輪翼グラビアル・ハロ』を畳んで、『牛鬼陵』に降り立った。

 騎士たちには負傷者もいるようだが、とりあえず、遠征隊は全員無事らしい。

 ちょっと安心した。


『ノンノンヨ、モウ離レテモイイゾ。シュコォォ……』


「お断りします。猊下と離れ離れになるなんて考えられません。寂しすぎて死にます」


『デモ、動キニクイシナ』


「じゃあ、手を繋ぎましょう」


 シャノンは俺の左手に指を絡めて両手でギュッと握った。

 言いたいことはある。

 だが、なんか面倒くさい。

 さっきより動きやすいから溜飲を下げるとしよう。


『デ、今ドウイウ状況ダ?』


 牛男は全滅させたから戦況は静かだ。

 敵は残り1体。

 ドンガリーユが兜をかぶったデカイ骸骨と向かい合っている。

 なんだか知らないが、決闘するらしい。

 俺はその場のノリで立会人を買って出てしまった。

 面白そうだからいいけどね。


「父上、まだ立てるでしょう。膝をつくなどと将軍にあるまじき行為ですぞ」


 ドンガリーユの発言で俺は『エ……』と当惑の声を漏らした。

 あの骸骨はお父君なのか。


 ふーむ。

 なるほど、だいたいわかった。

 40年前に行方不明になった父と感動……とは言い難い再会を果たしたわけだ。

 そして、涙を飲んで刃を向ける、と。


 骸骨はさびた鎧をきしませながら立ち上がると、残された右腕で三つ股の斧を持ち上げた。


「我こそは獅子将軍が子、ドンガリーユ・レベリラ・ベルトンヒュルトである! いざ尋常に果たし合われよ!」


 骸骨は何も言わない。

 でも、殺る気十分なのは迫力で伝わってくる。

 両者見合って見合って……。


「ふんぬあああああッ!!」


 ドンガリーユが気炎を爆発させて大斧をフルスイングした。

 骸骨は思いのほか俊敏な動きでそれを掻い潜ると、お返しの横薙ぎを叩き込んだ。

 立てた斧で受け止めたドンガリーユの巨体がボールのように吹っ飛んでいく。

 浅瀬で水切りの石みたいに何度か弾んだが、無事らしい。


 ドンガリーユは犬みたいに顔を振って水気を払うと、果敢に突っ込んでいく。

 間合いに入る前に、骸骨は三つ股の大斧で空気を薙ぎ払った。

 黒い風のようなものが走る。

 遠距離攻撃アリの敵らしい。


『アッ……!?』


 風の刃の斜線上にシュビーが棒立ちしている。

 心ここにあらずという顔だ。

 かなり疲労しているらしいな。


 俺はシャノンの手を振りほどいて、魔動ブーツ『月蹴り(ラビットレーテン)』に魔力を通した。

 瞬間移動みたいな速さでシュビーをかばう位置に移動し、背中で風を受ける。

 魔力を霧散させるローブ『そよ風に揺れる(パストラル・ガル)』を羽織っていたから、文字通りそよ風くらいの力しか感じなかった。

 でも、ドンガリーユがまたぶっ飛ばされたのを見るに、かなりの威力らしい。


『ココニイテハ巻キ込マレルゾ。カシュゥゥ……』


 シュビーをお姫様だっこして、結界を張ったキャスの後ろに跳ぶ。


「ひゃ、ひゃうぁ……!? なんなのだ貴殿は!?」


 疲労のせいか、シュビーは3秒遅れでリアクションしている。

 ウブな乙女みたいな赤い頬と無骨な鎧のギャップには感じるものがあるが、シャノンがすごい目で睨んでいるからサッサと下ろしてやることにした。


 骸骨は圧倒的火力で斧を振るっている。

 どうも、あの三つ股の大斧は魔道具になっているらしい。

 魔道具は濃い魔力にさらされ続けることで自然発生的に生まれる。

 この地を満たす濃密な魔力が長い時間をかけて斧に力を付与したのだろう。

 片腕がもげていなければ、ドンガリーユは5秒でミンチだったはずだ。


「人間離れした膂力は認めましょう。しかぁーしッ!」


 ドンガリーユは振り下ろされた一撃を真っ向から受け止めた。


「父上、あんなにご立派であられた筋肉はどこへ落とされてしまったのです? ヌッふんがあああああ――ッ!!」


 タックル気味に骨の体に組み付くと、ドンガリーユは太い腕でもって骸骨を空高く投げ上げた。


「フハハ、軽い軽い! 強くとも重くなければ空虚なものですな!」


 空中に投げ上げられた骸骨はひっくり返った亀のようにジタバタしていたが、翼がなければ空は飛べない。

 無防備な背中をさらして落下してきた。

 そして、下から斬り上げるようなドンガリーユの一撃が骨の体を鎧ごと断ち斬った。


 勝負アリ。


 静かなむくろに戻ったお父君を見下ろして、ドンガリーユは勝利の雄叫びを上げた。

 その声が泣いているように聞こえて少し胸が苦しくなった。


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