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48話


 孤児院の前の通りに立派な馬車が停まっている。

 車体には、ねじれた双角を持つ獅子と三つ股の斧が鮮やかにあしらわれている。

 たしか、同じ意匠の旗が城門の上にも掲げられていたはずだ。

 領主家の紋章なのだろう。


「サグマ・カウッド様ですね」


 執事服を着た初老の男が折り目正しく頭を下げる。


「執事のバトランでございます。旦那様がお待ちです。どうぞお乗りください」


 ということなので、俺はバトランの後ろに回って背中によじ登った。


「あ、あの……。わたくしではなく、馬車にお乗りくだされ」


「おっと、申し訳ない。鉄板ネタだから、やっておかないとと思って」


「どの大陸のどの国の鉄板だよ、それ……」


 シャックスがあきれている。

 世界は広い。

 どこかにそんな文化を持つ国もあるんじゃないか。

 そんなことはどうでもいい。

 俺は尋ねた。


「ちなみに、どんな用件なんです?」


「ここでは少々差し障りがありますので、ぜひ旦那様に直接お尋ねくだされ」


 表沙汰にはできない話か。

 あまり聞きたくないのが本音だ。

 聞いたが最期、二度とシャバには戻れない的な展開が容易に想像できる。

 しかし、領主は領内においてのみ国王にすら匹敵する権限を持つ。

 神みたいなもんだ。

 逆らったら、それはそれで怖そうだ。


 俺は仕方なく連行されることにした。


「どうぞ、シャックスエルク様もお乗りくだされ」


「え、オレも行かなきゃならねえのか?」


「あなた様が実質的にはリーダーでいらっしゃるのでしょう?」


「リーダー……。フッ、まあそうだな」


 気持ちよさげに髪をなでつけたシャックスが俺の向かいに腰を下ろす。

 当然のようにシャノンが俺の隣に座る。


 バトランが扉を閉めようとしたところで駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。


「すまないが、私も同乗させてくれないだろうか。ご領主様にはいずれ挨拶にうかがおうと思っていたのだ」


 シュビーだった。

 連れの騎士たちは先に帰したらしく、見当たらない。

 バトランは狼狽したように見えた。


「あなた様は『王国の護盾(レグナ・ガーダ)』の……。い、いえ。わたくしでは判断いたしかねますので。旦那様におうかがいを立ててみないことには」


「なればこそ、同乗させてもらうとしよう。なに、帰れと言われればその通りにする。それとも、騎士同伴では何か都合が悪いのか?」


「それは、いえ。ですが、しかし……」


 明らかに嫌そうな反応を見せるバトランを無視して、シュビーは無理やりシャックスの隣に座った。

 ガタゴトと馬車が動き出す。


「サグマ殿、貴殿はご領主様と面識があったのだな」


 シュビーの問いかけに俺は首を横に振った。

 実家でぐーたらしている俺にそんな偉い人物と繋がりがあるわけないだろう。


「そもそも、今の領主ってどんな人なんだ?」


 誰というでもなく問いかけると、シャックスが興奮した様子で身を乗り出してきた。


「聞いて驚けよ、サグマ。ここの領主ってのは冒険者でな。それもバリッバリのSランカー様なんだぜ!」


「う、うわあああああ……!」


「そこまで驚かなくてもいいだろ」


 領主兼冒険者か。

 それもSランカーときた。

 さすが冒険者の聖地である。


「領主様は俺のことをどこで知ったんです?」


 俺は小窓を開けて御者台のバトランに声をかけた。


「旦那様はずっと以前からサグマ様のことをご存知ですよ。わたくしもそうです。もっとも、サグマ様が帰郷なされたことを知ったのは、ごく最近ですが」


 一方的に知られているというのはあまり気持ちのいいものではない。

 俺の心境を察してか、バトランは声色をやや明るくした。


「最近は水の中で活動できる魔道具を作られたのだとか。メンバーの皆様の活躍ぶりはわたくしどものところにも轟いておりますよ」


 ゲシッ。

 俺は向かい側に座るシークレットブーツ野郎を蹴った。

 シャックスがバツの悪そうな顔で頭を掻く。


「ベラベラしゃべりやがったな、このこの! 秘密にしとけよな! 面倒事になったらどうする!」


「悪りぃ、サグマ。でも、仕方ないだろ。この時期にダンジョンに潜れるのはオレらだけだしよ、依頼人に特別料金吹っかけてがっぽがっぽでさ、だいぶ儲かってんだ。テンション上がってつい口が滑っちまって、へへ……」


 聞く限り、何も仕方なくないじゃないか。

 お前だけを蹴っ飛ばす自立型魔道具を作ってやろうか。

 この調子乗りスケベ野郎が。


 そうこうしているうちに、馬車は歩みを止めた。


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