39話
新章始まります!
よろしくお願いします!
とある日のことである。
俺は雨間を縫って冒険者組合を訪れていた。
なんの用って、そりゃ冒険者登録するためだ。
ちなみに、ギルドのみんなには内緒である。
「こちらにお名前をお願いします」
受付嬢が申請用紙の隅にほっそりとした人差し指を這わせた。
俺はその指にペンを走らせる。
「あ、あの……。わたくしの指ではなく、署名欄にお名前をお願いします」
「これは失敬。――最近、ボケすぎて、仲間に、ウザがられる……と」
「いえ、お悩みではなく、お名前をお願いします」
受付嬢は口元に手をやって、ぷふふと愛想のいい笑みを浮かべた。
シャックスが想いを寄せている例の美人受付嬢氏である。
名前はジュリというらしい。
「はい。『サグマ・カウッド』様、『16歳』、『ポーター志望』でお間違いありませんか?」
本当はスローライフ志望なのだが、俺はこくりと頷いた。
ジュリは「受理」の印を捺すと、受付台を離れていく。
「冒険者手帳を発行しますので少々お待ちください」
ということなので、しばし待つ。
こうして、冒険者登録をしている俺だが、別に冒険者になりたいわけではない。
ダンジョンに入りたいだけだ。
ダンジョンに出入りすることが認められているのは、冒険者か、冒険者の護衛を受けた者だけらしい。
勝手に忍び込むと鞭打ちなどの刑に処される。
最悪、両腕をスパーンだ。
密漁や野菜泥棒と同じ重罪なのである。
魔道具の素材探しで今後もダンジョンにはお世話になるつもりでいる。
そこで、思い切って登録しにきたというわけだ。
「しかし、仕事しているみたいで肩が重いな……」
現に俺は今、溶けたスライムみたいな格好で受付台にもたれかかっている。
本分はスローライフ――。
これだけは、忘れないようにしなければ。
「お待たせしました。こちらが、サグマ様の冒険者手帳になります」
ジュリが黒革の手帳を手渡してくれた。
表紙の裏に貼り付けられた銅製のプレートには、Dランクを表す一ツ星と俺の名前が刻まれている。
「これで、俺は冒険者だボウ!」
「はい。しかし、サグマ様、冒険者になっても語尾にボウはつける必要はありませんウケ」
「……?」
「あ、いえ……。なんでもありません」
俺が真顔で首をかしげると、ジュリは頬を朱に染めて下を向いてしまった。
生真面目そうな顔をしているが、客に合わせてボケるくらいのユーモアは持ち合わせているらしい。
ただ、俺はボケ専門だ。
ツッコミは取り扱っていない。
すまんね。
組合を後にしようとしたところで、騒動勃発。
見れば、出入り口でふた組のパーティーが睨み合いをしているではないか。
「どけよ、クソ女。出られねえじゃねえか」
「そのように罵倒されたとあっては私とて引くに引けぬ。貴殿こそどかれてはいかがか?」
どうやら、どっちが道を譲るかで揉めているらしい。
実にくだらない。
だが、冒険者はプライドの塊だ。
傍目にはカブトムシ同士の相撲に見えるこのやり取りも、当人らにとってはおのれの誇りをかけた聖戦なのだ。
さて、困ったことに出入り口はひとつしかない。
出ように出られない。
はた迷惑な話だ。
「まあまあ、落ち着けよ。こういうのはどうだ?」
俺は何か提案するような空気を醸し出しながら両者の間に割って入った。
しかし、なんの提案もしない。
口を真一文字に結んで棒立ちするだけだ。
「……」
「……」
だんまりを決め込んだ俺を両パーティーが呆気にとられて見つめている。
その一瞬の隙を突き、俺は素早く出口から飛び出した。
……が、しかし、襟首を掴まれて引きずり戻される。
「待てや、ガキこら! 冒険者同士のマジの戦いに水差しやがってオイ! 非常識だろ! 死ね!」
殴られた。
なんと理不尽な。
例のごとくインナースーツを着ていたおかげで怪我せずにすんだが。
「ぐあああああ……ッ!?」
俺を殴った男が折れた指を押さえてうずくまった。
自業自得だ。
でも、顔を覚えられて後日復讐されても面白くない。
ここら辺で失礼させてもらおう。
「貴殿、待たれよ」
と思ったが、今度は女のほうに肩を掴まれて引き止められる。
冒険者というより、騎士みたいな女だ。
女騎士だ。
お仲間もみんなお揃いの騎士鎧に身を包んでいる。
「貴殿はたしか……サグマ殿ではないか?」
至近距離でまじまじと顔を覗きこまれて、
「うむ。やはりサグマ殿だな!」
などと言われ、無骨な篭手で両肩をがっつり鷲掴みにされる。
なんだろう、このほのかに香る厄介事のスメル……。
俺は白目を剥いて変顔になり、人違イデースとばかりに首を横に振った。
「サグマ殿は『魔道具作家』なのだろう? 私は以前から貴殿と話をしてみたいと思っていたのだ!」
しかし、ガッチリと肩に食い込んだ指が緩むことはなかった。
最強で金ピカな鎧を作れとか言われませんように。
とりあえず、苦笑しておいた。




