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17話


「ダメだ、ダメだ! 冒険者以外立ち入り禁止だ!」


「だいたい、お前その格好はなんだ? 変な仮面なんてかぶりやがって」


 ダンジョンに入ろうとすると、入り口を警備していた冒険者が俺の前に立ちはだかった。

 誰でも自由に立ち入れるわけではないらしい。


『少シナラ、シュゥゥ……。金アル、コォォ』


「ありがとよ。飲み代の足しにするぜ。だが、ここは通さねえ」


 見張りは受け取った金を懐に納めると、また怖い顔に戻って仁王立ちした。

 なんて優秀な見張りなんだ。


 仕方がないので、いったん退く。

 そして、隙をうかがいつつ助走をつけて全速力で突破する。


「うお! なんだ……!?」


「今すごい風が……」


 そんな声を背中で聞きつつ俺は素早くダンジョン内の岩陰に身を隠した。

 潜入成功。

 今度ちゃんと冒険者登録しよう。


『サテ、ト……』


 暗視機能で周囲を見渡してみる。

 洞窟のような場所だ。

 無数に枝分かれしていて、巨大なアリの巣を彷彿とさせる。


 ベルトンヒルにあるダンジョンは基本、遺跡系らしい。

 ほかにも、アリの魔物が掘った巣穴系のダンジョンや雪解け水の侵食でできた自然洞系のダンジョンも少しはあるとのこと。

 俺が今いるのは巣穴系らしい。

 侵入者に気づいた巨大なアリの魔物がワシャワシャと集まってきた。


『デカイシ多イシ面倒ダナ、コォォ……』


 数には数で対抗だ。

 俺はローブの内側から4つの球体を射出した。

 球体は光るリングをまとってふわふわと浮遊し、アリを見つけるや閃光を放った。

 大型犬ほどもあるアリが瞬時に火に包まれる。


 キュン、キュンと発砲音を立てながら球体はアリを駆逐していく。

 自立ドローン型魔道具『連なる四凶星(カドラプル・スター)』――。

 敵性生物エネミーの捕捉から撃滅までを全自動で行ってくれる俺の可愛いペットたちだ。


『ヨォシ、存分ニ暴レテクレ……』


 四凶星に魔物の掃除を任せて俺は材料探しに専念する。

 魔石やら魔物の爪やらいろいろ転がっているが、いまひとつコレというものがない。


 予想外の不興を嘆いていると、ガラガラと音を立てて壁が崩れた。

 四凶星のひとつが誤爆したらしい。


『マダマダ調整ガ必要ダナ。……ン?』


 崩れた壁の向こうにも空間があるようだ。

 石壁が見える。

 隣接する遺跡系ダンジョンと繋がったらしい。

 壁の向こうから吹き付けてくる風を浴びた瞬間、ヘルムの中で警告音がわんわんと鳴った。


『毒ガス……イヤ、コレハ高濃度魔力警報カ』


 ねっとりとした異常な濃さの魔力を感じる。

 耐性のない人間ならひと呼吸で魔力酔いをきたすレベルだ。


『ガスマスク機能ガナケレバ危ナカッタナ。デモ、期待デキソウダ』


 魔力が濃い場所ほど良質な材料が手に入る。

 そのくらいの知識は俺でも知っている。

 四凶星を露払いにして石造りの通路を進む。


『魔物、多イナ……コォォ…………』


 角を曲がるたびに魔物に出くわす。

 おまけに、ガスマスクがたびたび警告音を発している。

 毒ガスがそこらじゅうに充満しているらしい。

 シャックスやフィオはこんな危険な環境を職場にしていたのか。

 安全な分、工房で奴隷労働していた俺のほうがマシだったかもしれない。


『シュゥゥ……デモ、楽ダナ、コォォォ…………』


 四凶星がフル稼働で迎撃してくれるから、俺は散歩感覚でダンジョンを歩くだけでいい。

 空間魔力が濃いのも俺に味方している。

 四凶星は周囲から吸収した魔力で稼働しているから、地上よりよっぽど元気にキュンキュンしている。

 その調子で頼む。


 勝手に死んでいく魔物を尻目に栗拾い感覚で素材を集める。

 2、3時間ほどで亜空間収納ポーチはパンパンになった。

 これだけあれば、しばらく困らないだろう。


『意外ト大シタコトナカッタナ……コシュゥゥ』


 魔道具でフル武装しているとはいえ、冒険者ですらない俺が楽々攻略できているとなると、初心者向けのダンジョンだったのかもしれない。


「・・――……」


「……・!」


 帰路につこうと踵を返したところで、『幽明洞察キュクロープ・ヘルム』が話し声を拾った。

 近くに人がいるらしい。

 聴覚感度を上げてみると、隣で話しているような明瞭な声が聞こえてきた。


「おい、オルゴ。そろそろいいだろ。奴らだいぶ疲弊してるぜ」


「これ以上はこっちの身ももたねえよ。少しだが、視界がぐらついている。今に帰り道がわからなくなっちまうぞ」


「お前ェら、だらしねえなァ。そりゃオレでも厳しいダンジョンではあるがよ、中層域つっても浅いほうだぜ? こんぐらいで音を上げてんじゃねェよ」


 聞き覚えのある名前と聞き覚えのある声だった。


「魔道具は高く売れるからなァ。戦いになって壊したくはねえ。連中にはもう少し疲弊してもらわねえとなァ」


「たしかに、あの剛弓はやばいな。石壁に穴をあける威力だぜ? イカれてるとしか思えねえ。連中が王都でSラン張ってたってのもあながち嘘じゃねえのかもな」


「馬鹿か、お前ェは。そっちじゃねえだろ。本命は男の脚のほうだ」


「男のケツなんて興味ねえよ。女のほうもオレの好みより細いのがアレだがな」


「ケツじゃねえ、脚だ。義足だァ。戦争で手脚を失う輩は多いからなァ。武家貴族に売り込めば豪邸が10軒は建つ額になるぜェ?」


「マジかよ。オルゴ、お前、喧嘩ふっかけたときから狙ってたな?」


「オレがなんの意図もなく安っすい喧嘩を売るわけねえだろォ。野郎がどの程度デキる奴か力量を見定めただけよ。結果はどうだ? ハハ、雑魚だ雑魚。疲れきったところで仕掛けりゃ苦もなく殺れんだろ。もうちっとの辛抱で巨万の富が手に入る。気合入れろや、お前らァ」


「おうよ!」


 男の数は3人。

 不穏な会話をしている。

 そして、狙われているのはどうやら俺がよく知っている二人組らしい。

 帰るのはやめだ。

 働くのは嫌いだが、もうひと仕事くらいならしてやらんでもない。


 ……ズズズッ。


 何か大きなものが動くような音が聞こえた気がする。

 まあ、なんでもいいか。


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