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15話


 翌日。

 シャックスとフィオは最難関ダンジョンとやらを目指して出発した。

 彼らはおのれの誇りにかけて頑張るらしい。


「プライドなんて油で揚げても食えやしないのにご苦労なことだ」


「もう、お兄ちゃんったら頑張っている人を馬鹿にするのはよくないよ?」


 マイヌが大皿にフライドポテトを盛って塩を振ってくれた。


「お兄ちゃんが作ってくれた油のいらないフライヤー、とっても使いやすいよ。でも、見た目が少し気になるような……」


 魔動フライヤーは屋根瓦を箱状に組み立てて作った。

 意匠にはたしかにセンスの欠片も感じられない。


「仕方ないだろう。手頃な材料がないわけだし」


 孤児院にあった廃材や川原で拾える木片なんかはあらかた使い切ってしまった。

 俺もかっこいい魔道具を作りたいのは山々だが、材料がないことにはどんな名工もお手上げというものだ。


「うーん。俺も久しぶりに頑張ってみるかな。可愛い妹にもっと楽させてもらいたいし、それには便利な魔道具が不可欠だ。材料確保は喫緊の課題だな」


「可愛い妹に楽してもらいたいの間違いじゃない?」


「よし! 思い立ったが吉日だ。俺もダンジョンに潜るとしよう」


「え? ダンジョンに……!?」


 ポテトを取り落とすマイヌを尻目に俺は自分の部屋に駆け込んだ。

 高性能な魔道具を作るには良質な素材が欠かせない。

 王都にいた頃はギルメンがダンジョン産の稀少素材をいくらでも持ち寄ってくれた。

 その彼らは今、新天地に根付くために必死で、俺の趣味に付き合う余裕はないだろう。

 市場に行けば手に入るが、買おうにも金がないとくれば自分で探しに行くしかない。


「お兄ちゃん、ダンジョンなんて危険だよ! 魔道具作れる以外は全部平均以下なんだから死んじゃうよ!」


 マイヌがドアをダンダン叩きながら失礼かつ的確な指摘をする。

 まさにおっしゃるとおりだ。

 俺はダンジョンに入ったことはないし、入口を見たことさえない。

 シャックスやフィオからは地上のどんなところよりも過酷な場所だと聞いている。

 そんなところに俺が潜ったら、曲がり角をひとつ曲がる前に八つ裂きにされてしまうだろう。


 でも、傘をさせば雨の日でも濡れることがないのと同じで、どんな危険な環境でも道具さえあればなんとかなるものだ。


「心配するな。あれは心のダンジョンに行くって意味だから。思春期を鬱屈した環境で過ごした男子はみんな行くんだよ、漆黒の闇とかが渦巻く心の大迷宮にな」


「なんだ。そういうことか。でも、ほどほどにしてね。夜な夜な屋根に登って月を背景に独り言とか言っちゃダメだよ、お兄ちゃん」


 遠のいていく妹の足音を確認してから、俺はベッドの下からスーツケースを取り出した。

 王都から唯一持ち出すことができた私物だ。

 これ自体が魔道具になっていて、見た目の何倍も物を仕舞うことができる。


 蓋を持ち上げると、床下収納ほどの空間が現れた。

 中には使い込んだ工具類のほかに、魔動武具が一式収められている。


「いつか自分でもダンジョンに潜りたいと思っていたんだよな」


 非力な俺を守ってくれる魔道具の武装。

 ついに、こいつらの出番が来たらしい。


 さっそく全裸になって魔道具を装着していく。

 よく考えたら、パンツまで脱ぐ必要はなかった。

 穿き直して、上下一体型の肌着(インナースーツ)に手足を通す。

 漆黒の生地に血管のような光の筋が浮かび上がり、全身に力がみなぎるのを感じた。

怪力乱神の衣ハーキュリーズ・ウェア』――。

 これだけでも、熊に相撲で勝てるほどの力がある。


 その上から、魔動胸当て(ブレストプレート)完全防殻イエロガーダ』を装着する。

 装甲表面の空間そのものを捻じ曲げることで不可侵領域を作り出す、という理論上最高硬度の防具だ。


 右手には篭手ガントレットをはめる。

 篭手と言うより大砲と呼んだほうが正確かもしれない。

 携行高出力火砲『掌中焼灼ハンド・ソリス』を搭載しているからだ。

 この武装が俺の主砲だ。


 両足には高速機動を可能とするブーツ『月蹴り(ラビットレーテン)』を履く。

 そして、魔法を雨粒のように弾くローブ『そよ風に揺れる(パストラル・ガル)』を羽織る。

 最後に、頭部装甲フルフェイス・マスク幽明洞察キュクロープ・ヘルム』をかぶる。


 ヘルムが起動し、視覚・嗅覚・聴覚が鋭く研ぎ澄まされた。

 川の対岸のラブホであえぐカップルの声まで聞こえてくるほどだ。

 感覚を増幅するだけでなく、防毒機能ガスマスク暗視機能ナイトビジョンなども兼ねている。


 これをもって、魔道具完全武装化(フルアームド)サグマの爆誕だ。


『フフフ……』


 完全武装のおかげか、強くなったように感じる。

 だが、それは錯覚だ。

 中身おれがズブの素人であることに変わりはない。

 ダンジョンは死の世界だ。

 気を抜けば死ぬ。

 抜かなくても死ぬ。

 死ぬことは前提として、全力で事に当たるとしよう。

 動くものは全て灰にしてやる。

 そのくらいの気構えで挑むのだ。


『シュゥゥゥ、コォォ……。ヨシ、行クカ……』


 俺はローブをひるがえして孤児院を飛び出した。


「うお!? なんだ、あいつ速ェ……!!」


「ママ、あの人なぁーに?」


「見ちゃダメ! こっちに来なさい! ああいう人に近づいちゃダメよ!」


 多少、悪目立ちするみたいだ。

 次からは夜の闇に暗躍する感じでいくか。


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