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第1話

 VTuber。それは、不特定多数の心を動かし、夢や生きる希望を与える、キラキラと輝いたもの。

 虜になってしまえば、それは沼にハマるように『好き』で溢れ、抜け出すことは出来ないだろう。


 そんなVTuberの虜になってしまった、俺、青羽隼人あおばはやとは充実した日々を過ごしていた。

 それも全て彼女のおかげだ。


「アオイーっ!!」


 画面の奥で、愛らしい笑みを浮かべる彼女の名は、『菊月きくづきアオイ』。学園生活で疲れた俺の心を癒す、唯一の拠り所だ。


 声だけでもご飯3杯はいける。お淑やかでありながらも、パワーを貰えるような声──世界遺産に認定されてもおかしくないだろう。


『──それじゃあ配信を終わるね。ばいば〜い!』


 もうそんな時間か。俺はそう思い、机の上でカチカチ動く時計に視線を落とした。

 短い針は『11』を過ぎていた。


 配信が終わると、部屋は静寂に包まれる。その途端、胸の内からとてつもない孤独感が溢れ出す。

 自分自身でその感情に気づく時が一番苦しい。


「っくそぉ〜!!」


 俺は誤魔化す為に近所迷惑にならないくらいの声で叫んだ。

 大丈夫。両親は仕事でまだ家には居ない。そう思っていると、扉がノックされた。そして俺が返事する前に開かれた。


「──こんな夜中に何を叫んでいるの。うるさいからやめて」


 隣の部屋の姉さん……瑠璃さんがわざわざ怒りに来たようだ。彼女は両親の再婚で姉になった人なのだが、棘を帯びていて少し近寄り難い。


「ごめん……。でも姉さん部屋で叫んでるじゃん。確か配信でホラーゲームしてて、発狂──」


「うるさい!とにかくもう遅いから寝て」


 そう言って扉を強く閉められてしまった。

 姉さんは俺より2つ年上で、高校3年生だ。昨年から配信者をしているらしいが、「細かいことは話したくない」の一点張りで、両親もそれ以上は踏み込まないでいた。

 昨年と言えば『アオイ』も配信を始めた年だ。個人勢でチャンネル登録者10万人を叩き出した彼女は、姉さんなんかよりもずっと凄い。


「姉さんも配信見たら絶対に虜になると思うんだけどなぁ」


 俺の呟いた言葉は、水に溶けた絵の具のように静かに消えていった。


 ◆


 次の日の夕飯時。


「やっぱりお義母さんの作る料理は絶品だよ〜」


「うふふ。隼人くんったら、毎日言ってくれて嬉しいわ」


 お義母さんこと、小百合さゆりさんは、ニコッと笑いながら嬉しそうに言う。

 あの人の作る料理は毎日美味しい。だから言葉にして伝えているが、お世辞と思われていないだろうか……。


「大好きな料理で、大切な人に美味しいって言って貰えることが、生きてて一番嬉しい事だわ」


 心配無用のようだ。嬉しさ故か、お義母さんは鼻歌を交えて仕事に向かう準備をしている。

 看護師のお義母さんは週に2回ほど夜勤で夜遅くなるのだが、今日もその日のようだ。


「それじゃあ、言ってくるわね。洗い物頼んでいいかしら」


「もちろん。いつも美味しいご飯を食べさせてもらっているから、これくらいはするよ」


「うふふ、ありがと。行ってきます」


「行ってらっしゃい。仕事、頑張って」


 お義母さんは「ありがと」と言って、玄関の方へ消えていった。

 少し間を開けて、玄関の方から足音が聞こえた。


「ただいま……」


 姉さんだ。……いつもより元気が無い?


「おかえり。お義母さんがハンバーグ作って行ったけれど、食べる?」


「お腹空いてないからいらない」


 弱々しい声でそう言うと、顔を俯かせて自室に入っていった。


 その日『アオイ』の配信は延期となってしまった。

 今日は個人的に好きな、ホラーゲーム配信の予定だったので、無くなって寂しく思う。


 今日の姉さん、様子がおかしい。

 キッチンの流し台に置いてあった食器を洗いながらふと思う。

 だってあの人はお義母さんのハンバーグを、こよなく愛していると言うのに、今日は一口も食べずに部屋に入ってしまったのだ。

 今日、何か嫌なことがあったのかな──自分で考えても答えは出ないので、『アオイ』の過去の配信を見てから寝ることにした。


 ◆


 次の日の昼休み。


「なんか寂しそうだね」


 屋上のベンチに腰かけて、一人寂しく弁当を食べていると、親友の夏目夏鈴なつめかりんが隣に座ってきた。

 幼稚園に入園した時からずっと同じクラスなので、彼女とは10年以上の仲になる。


「よく分かったな」


「当たり前じゃん!私が隼人の事を誰よりも知ってるんだから」


「嘘つけ」


「隼人の初恋は──!」


「おいおい、黙れ!」


 俺は屋上に居る生徒全員に恥を晒すところだったが、夏鈴の口を抑える事で何とか最悪の事態は免れた。


「んー!んー!」


 夏鈴は変な声を出して、必死にもがいている。

 俺はコイツがどういう人間かを痛いほど知っている。

 いつでも俺の隙を虎視眈々と狙っているという事を──


「また言おうとしたら、もう一回口を塞ぐからな?」


んい(はい)あかひまひあ(分かりました)


 なら仕方がない。コイツの口から手を離すと、俺の手が唾液で濡れていることに気づいた。


「うわっ、なんでこんなに濡れてんだよ」


「喋った時に、ねっ?」


「ねっ?じゃねーよ。可愛く言っても、無駄だからな。……手を洗ってくる」


「私の見えないところだったら、私の唾液を堪能してもいいんだよ?」


「死ね」


「そういうところだよ。隼人のダメなところ」


「はいはーい」


 俺は適当に流して屋上から立ち去った。

 夏鈴は男子から絶大な人気を集めているが、俺にはよく分からない。たとえ可愛い子からだとしも、手を唾液で濡らされるのは面白くないだろう。(そういう事に喜びを感じる人も居るらしいのだが……)

 そんな事よりも早くてを洗おう。俺は早足で階段を駆け下りた。

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