第一章:始まり
著者: イツカ・ハラマ
ハルカは最後の会議を終えた。 表情は変えずに、スタジオの提案をすべて聞いたが―その顔には不満がにじんでいた。
階段を降り、玄関のドアを開け、建物を出る。
コートを羽織り、見上げた。
「まただ。簡単な頼みごともできないのか。
やつらは夢を叶える力を持っているのに。
――それがたとえ、努力のすべてを収益の糧に変えることになったとしても」
「何時間、何日、何年かけたとしても、
結局は都合のいいように変えられてしまう……」
「チッ。クソッ。なんでオレが合わせなきゃならないんだ」
「……クソがっ!」
---
**1ヶ月前。**
「ふぅ……ようやく終わった。
時間はかかったけど、これでやっとゆっくりできる。
話の展開は少し変えたけど……まあ、その方がいいか」
「……もう遅いな。寝るか」
ハルカは時計を見た。
ちょうど、ウェブ小説の第一巻を書き終えたところだった。
「午前2時32分……。
ちょっとマンガでも読むか。まだ眠くないし。
この巻、サッと読んで終わらせよう」
「……午前4時02分……もう4時か……
マジでヤバいな、普通の人間みたいに寝ろって話だよな。
このままじゃ、夢遊病患者よりひどいことになるぞ」
「ま、いっか……ネムネムするか」
ハルカは午前4時に読書を終えた。
睡眠時間が短いと、いつも気分が不安定になる。
眠りについた瞬間――夢の中で誰かの声が聞こえた。
「……あ?……な、んだ……?
……ダレカ……ヨンデ……ル……?
こんな時間に……?
まだ午前4時17分だぞ……?」
「……無視しよ。起きたくない」
もう一度眠ろうとしたが、
とりあえず誰が呼んでいるのかだけでも確認することにした。
「ヘイ?!……マジかよ。
このバカ、こっちが呼んでも絶対出ないくせに、
こっちが電話しても無視かよ。
ったく、ママに言われてなきゃ来なかったのに……
はぁ、もう一回かけよ」
「オーイ!!! ハルカ!!」
「ハルカー!!!」
「ハルカーー!!!」
「ハーーールカーー!!!」
ハルカは、外から響く声に目を閉じたままベッドから起き上がり、
フラフラと窓へ向かう。
半開きの目で外を見た。
「……なんだよ、うるせぇな……
誰だ……この声……」
「……アァ?!!」
「あれは……」
外には妹の姿があった。
片手で買い物袋を持ち、もう片方の手で大きく手を振っている。
「開けて!」と叫んでいるのが聞こえた。
ハルカは彼女を見た後、顔をそむけ、
ベッドに戻り、そのまま眠りについた。
「……は?」
………。
「……えっ? こ、の……ッ!!
バッッカヤロー!!!!」
―バンッ!!―
兄の態度にブチギレた妹は、
勢いよく玄関のドアを蹴り開けた。
そのまま家のドアの前に駆け寄り、
全力で叫びながら、ガンガンと叩いた。
「オーイ!! ハルカーーー!!
バカヤローー!! 早く開けろーーー!!!」
「ママが言わなきゃ来なかったのに!!」
「お前、聞こえてんだろ!!!?」
「……ハルカー!!!」
しかし、ハルカは相変わらず眠り続けていた。
妹は玄関の前でドアとケンカしていた。
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**30分後。**
「……はいはい、今行くよ……
ったく、なんでそんなにうるさいんだよ……」
「……ん? どこだ……?」
「おい、なんでそんな隅っこにいるんだ?」
妹は玄関の隅でしゃがみ込み、泣いていた。
30分間も寒空の下で待たされたのだ。
「……うぐっ、うぐっ……
だま、れ……バ、カ……
こんな寒いのに、ずっと待ってたんだからな……
もう……どうでもいいの?」
「……え? いや、まぁ……
とにかく、中に入れよ」
「……バカ」
〈ハルカはいつもこんな感じだ。
他人のことを考えずに、思ったまま言ってしまう〉
「……風呂入ってくる。
部屋から出るとき教えて」
「……勝手にしろ、どうでもいい」
「……とりあえず、買ったものをキッチンに置いて……
それから掃除でもするか。
って……なんでこんなに散らかってるのよーーー!!!」
「……ほんと、こいつはダメだな」
妹はハルカと話すのを諦め、
荒れ果てたキッチンを見てため息をついた。
〈はぁぁぁ……
本当は、ハルカが変わってくれたらいいのに。
兄さんに会いたくて来たけど、前より冷たくなってる……〉
〈もし、パパが生きていたら……
きっと、何か違っていたのかな……〉