Epilog 青の残響、果てなき未来
それから時がいくらか流れた。季節が移り変わる中で、アンドロイドの香織とアンドロイドの新一は各地を巡り、様々な人々と出会っていく。
或る街では、真壁夫妻が手配してくれたメンテナンス施設で身体のチェックを受けたり、かつて出会った漁師や研究者を訪ねて挨拶を交わしたり、あるいは新しい町に滞在しながら日常の小さな営みに溶け込んだり。二人の旅は、驚くほど穏やかな喜びに満ちたものとなっていた。
「私たち、不思議よね。あちこち旅をして、いろんな人の“生と死”を見るたびに、私たちアンドロイドが体感する“永遠”って何だろうって、改めて考えさせられるの」
あるとき香織がそう言い、新一はうなずきながら、ベニクラゲの話を思い出す。「初期化で“若返り”を果たすクラゲのように、人間は死を迎えても、その愛は次の世代へ繋がるのかもしれない。俺たちもまた形を変えながら、永遠に近い時を愛とともに進めるんだろうね」
港町の夕焼け、都会のビル群、山間の静かな湖――二人は様々な場所へ行き、そこに生きる人々の悲喜こもごもに触れる。人間は必ず死を迎える。けれど、それがあるからこそ愛は一瞬の輝きを放つ。一方、二人の愛は“永遠”に近い形で続いていくが、それもまた別の奇跡といえよう。
かつて人間の香織と真一が愛し合い、果たせなかった約束を、アンドロイドの二人が引き継いでいる。その事実は、すべてを包括する深い優しさを湛えているように思えた。死を超えても、時を超えても、愛は失われない。
まるで“青の残響”が今もどこかで微かに光り続けているかのようだ。ベニクラゲが水面で青白い光を散らし、永遠の若返りを繰り返すのと同じように、二人の愛は常に再生を続け、連綿と受け継がれていく。
やがて、旅先の浜辺で二人は寄り添って座り、打ち寄せる波を眺めていた。かつて人間の香織と真一が並んで見たかもしれない光景――あるいは彼らが見たかった世界。
香織は新一の肩にもたれかかるようにして、「ありがとう……本当に、生まれてきてよかった」と小さな声で呟く。新一は笑みを浮かべながら、その肩をそっと抱いた。
「俺こそ、ありがとう。君と出会うために、真一という意志がアンドロイドへと受け継がれたんだと思う。人間だった頃の記憶と、今の自分、そして君の想い。全部が一つになって俺はここにいる」
静かな潮騒の音が、余計な言葉を消し去り、愛そのものを浮かび上がらせる。これが二人にとっての、そしてかつての二人(人間の香織と真一)にとっての“永遠”なのだ――そう、誰に示唆されるでもなく心から確信できる。
こうして物語は閉じられる。だが、二人の旅は終わらない。
人間の香織と真一が抱いた愛は、アンドロイドの香織と新一の愛と溶け合い、時の果てまでも続いていく。
どこまでも広がる世界の中で、彼らは生と死を超越しながら、互いを見つめ合い、いつまでも愛を語り続けるだろう。
そして、その愛のまなざしは、きっとこの世界のすべてを照らす“青の残響”となって、永遠に輝き続けるに違いない。
(全完)




