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8、兎鑑定団

閲覧感謝です!


 ギルドマスターに呼び出された俺は震えていた。


 この状況ちょっと昔の事を思い出す。学生時代、柄に似合わずヤンチャをしていた頃、担任の先生に呼ばれたあの状況によく似ている。「怒ってないから全部正直に言いなさい」って言われて、それを間に受けた俺は全部洗いざらい話した。だって怒らないって言ったから。だけど結局めちゃくちゃ怒られるんだ。怒らないって言ったじゃん!何て事実は通用しない。


 そうやって子供は学んでいく。大人ってズルいんだって。


「どうぞ」


「どうも……」


 出されたティーカップを持とうとしても手が震える。子供の頃の経験は意外と大人になっても覚えてる。

 30過ぎても怒られるのはやっぱり嫌だ。


「どうしたんです?」


「いえ、何も……」


「あの、私別に怒ってませんよ」


「えっ、」


 騙されるな俺!怒ってる時の怒ってないはめちゃくちゃ怒ってるなんだ。気を抜くな俺!


「貴方がした事に悪意は無い。ですから私が怒る必要はありません」


 ヤバい。甘い言葉が身に染みる。完全にあっちのペースに持ってかれそうだ。


「でも、さっき騒動の責任は取れって。俺は一体何をすればいいんでしょうか?…」


「アレは敢えて大袈裟に言ったんです」


「え?」


「そうじゃないと周りに示しがつかないでしょ。騒ぎをいち早く落ち着ける為にわざとああ言っただけです」 


「じゃあ俺は」


「アナタがするべき事はただ一つ。これから冒険者として結果を残しこの街を発展させること。その位ですかね」


 そう言ってギルドマスターは俺の名前が入ったギルドカードを渡した。


「これって」


「ようこそ冒険者ギルドへ。これでアナタも冒険者の仲間入りです」


 おおっ!!初めてだ。怒ってないって言われても本当に怒られなかったこと。

 だけど気をつけよう。

 今のでなんとなーく分かった。この人は怒らせたらヤバい。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私、ギルドマスターを担当しているメルディアと申します。これからどうぞ宜しくお願いします」


「こちらこそお願いします!あ、俺の名前は」


「知ってますよ。ユウジロウでしょ。珍しい名前ですからもう覚えました」


「そうですか、なら良かった」


「名前も珍しく、着ている格好も珍しい。それに聞いたこともない特殊能力を持ってる上に意外と頭も働く。そして強い。…ユウジロウ。アナタは一体何者なんですか?」


「俺は……」


 ここは正直に言うべきか?こことは違う異世界から来たって。だけどそんな話いきなりして信じて貰えるとも思えない。


 どうするべきなんだ……。でもここはやっぱり正直に。


「俺は、」


「いえ、やっぱり結構。寧ろ言わないでください」


「えっ?」


「人間、一つや二つ隠し事は誰にだってあるもの。寧ろなきゃつまらない。その方がきっと面白い事になりそうです」


「いいんですかそれで」


「いいんですよそれで。ギルドマスターが言ってるんですから。それでも何ですか?正直に言いたいなら止めはしませんけど」


「いや、言いません。今は」


「…そうしてください。私は気にしませんから」


 この世界の偉い人、いや、強い人か。みんな上に立ってそうな人は器がデカい。

 日本いた頃の俺の上司とは大違いだ。


「さて、自己紹介も済みましたし本題に入りましょうか」


「もしかしてそれって」


「ええ。アナタが持ってきて騒がせて大量のパックラビットと特殊なギカントラビットの事です」


 やっぱりそうか。俺としては出来れば買取してくれれば嬉しいんだけど、なんてたって状態がな…


「冒険者ギルドとしましてはその全ての素材を買い取りたいと考えているのですが如何でしょう?」 


「あんなんですけどいいんですか!?」


「ええ。ただし普通とは少々異なった方法を取らせていただきますが」


「どういう意味ですか?…」


「まずはパックラビットですが、一体どんな炎で燃やしたらこうなるんです?炎魔法を使ってもこんな真っ黒焦げにはなりませんよ」


「油に火をつけて燃やしたんです」


「油に火をつける、ね。そんな奇想天外な事する人アナタ以外いないと思いますよ」


 そうなのか?結構簡単に思いつきそうなもんだけど。


「しかし残念な事にこうも黒焦げになってしまうと素材の価値は殆どありません」


「ですよね……」 


 分かってはいたけど、それでもやっぱ勿体無いよな。これが全部ゴミになっちゃうなんて……。


「しかし使い道がないわけじゃありません」


「え、そうなんですか?」


「ええ。モンスターの亡骸は質の良い堆肥になる。モンスターに宿る魔素が野菜や植物の栄養となり立派になるんですよ」


 死んでもなお無駄にはならず土に返り次の命に繋がっていく。これは凄い。


「一体や二体ではそこまで意味はなしませんがこれだけの量があれば成果は確実でしょう。ということで、パックラビットの亡骸約千体全てで1000万ゴールドでいかがでしょう?」


「1000万!?」


「少なかったですか?これでも多少は色をつけたつもりですが」


「いえ、思っていたより大金で…」


 異世界に来て数日も経たずに1000万って金銭感覚どうにかなっちゃいそうだ。


「それではご納得いただけますか?」


「はい。それはもちろん!宜しくお願いします」


「商談成立ですね」


 メルディアが指を鳴らすと、金貨を持ってエミリアとは違う受付嬢が入ってくる。


「どうぞご確認ください」


 これが1000万の山。キラキラに光った金貨が束になって積み重なっている。

 日本いたらこんな大金を一度に見る事はなかっただろうな。


「確かに」


 しかしこんな大金どうしたものか。日本なら銀行に預けるべきだろうけどここは異世界だ。バッグに詰めようと思えば詰められなくは無さそうだがパンパンになるだろうし重くなって持ち運びも不便だ。

 それになんてたって不用心すぎる。


 仕方ない。こうなったらひとまずは【フリーズボックス】に入れて保管しておこう。

 スキルの中なら誰から持ってかれる心配もない。

 その代わり常に金貨はヒエヒエだけどな。


「ほぉ〜まさか希少なボックススキルまで持っているとは」


「あっ、」


 しまった。ついバッグに入れるフリをしないままスキルを発動してしまった。早速大金を見て動揺してしまっているようだ。


「あの、この事は出来れば内密にしていただけますか?出来るだけ騒ぎは避けたいので」


「畏まりました」


「すみません…」


 これからもっと気をつけないとな。ただでさえ変なスキルだって大事になったのにそんな奴が希少なボックススキルまで持ってるなんて騒ぎになったら、命まで狙われかねないからな。


「それでは1番の問題について話しましょうか」


「ギカントラビットですよね」


「そういえば聞きたかったんです。このギガントラビットはどうやって倒したんですか?」


「同じですよ。油を使って燃やしたんです」


「それは変ですね。ギガントラビットの体毛は炎を弾き熱を通さない。それなのにどうやって燃やしたって言うんです?」


「簡単ですよ。中から燃やしたんです」


「…………」


 あれ?なんか俺変なこと言った?口を開けたまんま動かないんだけど。おーいメルディアさーん。


「あの、」


「はっ!!…失礼。まさかギガントラビットにそんな倒し方があるなんて。思いつきませんでしたよ」


「外はダメでも中からなら効果があるんじゃないかって思って咄嗟に火の球を奴の口の中に投げ込んだんです」


「咄嗟にしてはめちゃくちゃな事を思いつく。まるでこの世界の人間じゃないみたいだ」


「えっ!?」


 油断してた。なんだよ聞かないって言ってたじゃんかよ!こんな風に探りを入れてくるなんてこの人油断ならない。


「あんまり驚かないでください。口には出さなくても表情に出てたら一緒ですよ」


 なんか勘付かれた気がする。だけど問い詰めてくる様子もない。

 取り敢えず話を元に戻そう。


「あの、このギガントラビットもパックラビットと同じく堆肥としての買い取りになるんですよね?」


「は?」


「だって、外側こそ綺麗ですけど中はきっと真っ黒で素材として使い物にになるとはとても思いませんし。ですから少しでも値段がつけば俺は満足です」


「バカなこと言わないでください。こんな貴重な素材そんな勿体無い使い方するわけないでしょ」


 顔が、ち、近い……。


「だけど中は黒焦げですよ」 


「ギガントラビットで大事なのは中じゃない。肉じゃなくてその毛皮に価値があるんです」


「毛皮ですか」


「さっきも言った通りこの毛皮は炎を弾き熱を通さない。つまり防具にもってこいの材質だってことですよ」


 そうか。その手があった。ここが異世界なのを忘れていた。ゲームでもそうだったじゃないか。倒したモンスターの素材は武器や防具になるんだ。


「それに今回は特殊個体。素材にすればそれ以外の特殊効果も期待できそうだ。つまりコイツはお宝なんですよ。お宝を堆肥になんてしたらそれこそバチが当たってしまう」


「ちなみに幾らくらいの値段が付くんでしょうか?」


 お宝だっていうくらいだ。少なくてもさっきのパックラビットの二倍はあるんだろうな。いや、もっといって五倍はあるか。


「そうですね〜。あくまでも私の見立てになりますが、最低でも一億はあるでしょうね」


「いっ、一億っ!?」


 さっきのでも大金だっていうのに一億だなんて、超大金じゃないか。いや町を通り越してスーパー大金だな!

 あ、超もスーパーも一緒か……。ダメだ。余りにも大金に縁がなさ過ぎて頭が回らない。


「最低でもです。きっともっと値段がつきますよ」


「もっとですか…」


「ええ。この程度で驚いてちゃ実際に値段がついたら気絶でもしそうですね」


「ハハハ。それは流石に言い過ぎですよ」


 マジでそうなりそうだな。愛想笑いがつまらない。


「それ故私だけでは値段が付けられません。端的にに言えば貴重過ぎて冒険者ギルドでは買取ができないってことです」


「えぇ!?そうなんですか…残念です」


 なんだよ。期待して損した。だけどこれで気絶せずに済みそうだ。


「ですからここからはギルドマスターとしてではなく私個人としての取引をさせていただきたい」


「個人ですか?…」


「といっても私が価値をつけて買おうとしてるわけでもありません。実は今日、この街の領主様が主催する大きなオークションイベントがあるんです。そこでコレを出品できないかと」


「オークションですか」


 やっぱり日本も異世界も似てるな。買取がダメならオークションでか。どこも考える事は一緒だな。


「そこには名だたる冒険者や貴族、そして素材を扱う商人などが集まります。そこでこれが出品されたら目玉になる事は確実。全員血相を変えて競り落とそうとするでしょうね」


 色々と不安な点はあるけど断る理由もない。


「是非お願いします」


「畏まりました。それでは、少しご相談があるんですが、」


「仲介料を合わせた取り分。ですよね?」


「話が早くて助かります」


「個人としての取り引きと言われたら時点で多少は想像していました。逆にタダとは言われなくて安心したくらいですよ」 


「ほぉー。それはどうして。タダに越した事はないでしょ」


「何事もトラブルは避けたい性格なんです。タダより怖いものはありませんから」


「フフッ。いい言葉ですね。私も同感です」


「メルディアさんとはいいビジネスパートナーになれそうです」


「ユウジロウ様こそ冒険者より商人になった方がいいのでは」


「どっちもやるんですよ」


「随分欲張りなお方だ。その欲深さ実に冒険者らしい」


 こうして俺達は握手を交わし取り引きを成立させた。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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などと思っていただけましたら、下↓にある【☆☆☆☆☆】から、

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次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


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