72、トラップツール
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俺達は情報収集も兼ねてメルディアさんに話を聞くため冒険者ギルドへと向かった。
そこで俺は目を瞑りたくなるような辛い現実を目の当たりにした。
そこにいる多くの冒険者達の俺を見る目は何か常軌を逸しているようで様子がおかしい。
目を合わせようとすれば咄嗟に目を逸らされ、話しかけようとすれば当然のように無視をされ席を変えられる。
挙げ句の果てには…
「いたっ!……」
背後から小石を投げつけられる始末。
「ユウジロウ大丈夫ですか!?」
「ああ、大丈夫だ……」
「さっきからアンタ達どういうつもりですか!!」
しかし、ローゼスの怒りすらも届かず冒険者達は全く耳を貸そうともしない。
「なんなんですか本当に……」
まるでたった一日で世界が変わったみたいだ。俺の知らない所で一体何が起きたっていうんだ。
「ユウジロウ」
「メルディアさん」
騒ぎを聞きつけてかメルディアが奥から姿を現した。
ただ、メルディアの様子もいつも通りとは行かないようだった。
「ギルドマスター!この短い間にユウジロウが何をしたと言うのですか!さっきからみんなおかしいですわ!!」
「……やはり何も知らないのですね」
「え?」
メルディアは意味ありげに呟く。
「ギルドマスターは何か知っているのですわね?…」
「…ひとまず奥に。ここでは雑談すら落ち着いてできませんから」
どうやらここに来たのは正解だったみたいだ。これで俺の身に何が起きたのか、はっきりする。
そして俺達はメルディアさんに言われたまま奥の個室に通された。
「……まずは会えてよかった。私も一刻も早くユウジロウの元に駆けつけたかったたのですが、間に合わず申し訳ない」
「メルディアさん。朝来たら何者かに店を潰されてました」
「なんと!…私が思っていた以上に事態は深刻の様ですね」
何かを知っていそうなメルディアからしても店の事までは予想外だったようだ。
「しかもギルドに来たらあのありさまでしょ?店を潰されるだけならまだしもこんな風に手のひらをひっくり返されるなんて……」
「ギルドマスター!いい加減教えてください!ユウジロウの身に一体何が起きてるんですの!?」
「……実は昨日、ユウジロウの店でアゲモノを食べたという大勢の冒険者が体の異変を訴えて私の元に訪れたんです」
「どういうことですか!?」
「腹痛や嘔吐それに痺れやめまい、酷い時には痙攣を起こす者も」
「なっ!…」
「彼らは皆口を揃えてアゲモノに使われている油が原因だと言い張っています。やはり油など食べれる物ではなかったと」
そんなバカな。ただのサラダ油が原因な訳がない。それとも俺の作った揚げ物が原因で食中毒でも起こったっていうのか!?
「それで異変を起こした冒険者達はどうなったんですの?」
「心配いりません。私の力で完全に完治させましたのでこれ以上事態が悪化する事はありません」
「そうですか。良かった……」
メルディアさん様々だな。これが最悪の結果になっていればそれこそ俺は二度とこの街で揚げ物を売ることはできなくなっていただろう。
でも未だに信じられないのが正直な気持ちだ。
味見だってしているし能力を使って食材の保存も揚げる際の油の温度管理も完璧だからそんなこと普通はあり得ない筈。
勿論それでも食中毒の危険性や可能性がゼロと言い切れるじゃない。
それでも可能性はかなりゼロに近いと思う。
だけど本当に俺の作った揚げ物が食中毒の原因なのだとしたらどうして俺は無事なんだ?俺も同じ物を食べているわけだから俺にも影響が出てもおかしくない筈なのに……あっ!
「ローゼス!お前は無事か!?」
「え?」
「え?じゃない。昨日もお前いつものように買いに来てただろ」
「ええ。いつも通り美味しく頂きましたわ」
「体に異変は!?」
「特には何も。寧ろ調子がいいくらいですわ」
「そっか……」
良かった。ローゼスも無事なのか。それだけでもなんか救われた気分だ。
「ローゼスもですか。それにユウジロウも……」
「どうしたんですか?」
「いえ、ちょっと気になる事がありまして」
「なんなんですの!?その気になることというのは!」
食い気味にローゼスがメルディアの顔に近づき問い詰める。
「落ち着けってローゼス。それじゃメルディアさんも話せないだろ」
「…失礼」
「いえ。お気になさらず。気持ちは分かりますから」
「それで気になる事ってのは一体?」
「実は私も昨日エミリアと共に揚げ物を食べているんです」
そういえば昨日、例の取引の件でエミリアに揚げ物を渡したんだった。
「それならギルドマスターにも何か異変があったんですの?」
今の所メルディアにおかしな様子は見受けられない。でもこの人の場合は自身の能力で既に回復している可能性もある。
「それがびっくりするほど何も無いんですよ。勿論エミリアにも確認しましたが私と同じで特に異変はなくすこぶる調子がいいと言っていました」
「なんか変ですわね…」
本当に揚げ物が原因で食中毒が起きていたのならローゼス達だけが無事なのは何か引っかかる。
「なんで俺の周りの人だけはなんでみんな無事なんだ?」
「まさか!……いや、それは流石に。でもそれならあれも納得できるわけだし……」
メルディアは何かに気づいたのが独り言をぶつぶつ言いながら頭を抱える。
「メルディアさん?…」
するとメルディアは吹っ切れたように立ち上がると指を鳴らしエミリアを呼びつける。
瞬く間にドアがノックされ音が聞こえるとエミリアが部屋に入ってくる。
エミリアは俺と少しも目を合わせようとはしなかった。
「お呼びですか?」
「早急に調べて貰いたい事があります」
「……え!?それ、本気で言ってます?」
メルディアは耳打ちでエミリアに用件を伝えると、驚きの余り聞き返してしまう。
「勿論」
「いや、いくらなんでもそれは考え過ぎなんじゃ?…」
「エミリア」
「……分かりました。少々お待ちを」
今まで一度も見たことのないメルディアの真剣な面持ちに心打たれたのか、エミリアも覚悟を決めると直ぐに姿を消す。
「ギルドマスター何かわかっているのなら説明を。私達だけ置いてけぼりですわ」
「メルディアさん。お願いします。俺も知りたいんです。自分の身に何が起きたのかを」
俺が原因で起きた不幸な事故なのか、それとも故意的なわけがあるのか。それがハッキリしない以上俺も前には進めない。
「実は異変を訴えていた冒険者達の体を見た時何か違和感を感じていたんです」
「違和感?」
「それがなんなのか、関係があるのかも分かりません。でも全員の体にしかも同じ箇所に小さな痣があったことがどうしても気になっていて」
痣だと?しかも異変を訴えていた冒険者が全員同じって。どう考えたってそれが偶然とは思えないし、食中毒が原因で痣が出来たとも思えない。
とういうことは……
「食べた揚げ物が原因とは限らない。そういうことですね」
「まだ可能性の話でしかありませんがね」
「ギルドマスターはどうしてそんな大事な事を隠していたんですの!どう考えてもそれが原因じゃありませんか!
それとも、それも全部ユウジロウがやったとでも思っているのですか!?」
ローゼスは感情に任せて声を荒げメルディアの胸ぐらを掴む。
「だから落ち着けってローゼス!」
ダメだ。今のローゼスには俺の声も届かない。感情的になったところを見たことはあるけどこんなに頭に血が上った彼女を見るのは初めてだ。
メルディアはそれに抵抗することなく静かに答えた。
「思っていません」
「じゃあどうして!」
「……信じたかったから。だから疑ったんです。心の底からユウジロウを信じたかったから」
「メルディアさん…」
「信じたいなら、疑う必要なんかないでしょ……」
微かに声を上擦らせながらローゼスは手を離すと、ソファー倒れ込むように深く座った。
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