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油っぽいオッサンは世界最強!?〜揚げ物は異世界を支配できるって知ってました?  作者: 春風邪 日陰
第三章 ギルドマスターの実家までついて行ってイイですか?
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44、天ぷらマジック

閲覧感謝です!


「ユウジロウ持ってきましたわー!!」


「早いな!」


「でも見たことない野菜だらけで果たして美味しいのでしょうか?」


野菜をカゴいっぱいに詰めながら首を傾げるローゼス。そこにようやく追いついたシルファが息を切らしながら合流する。


「見たことない野菜?」


もしかしてエルフの里でしか育たない野菜とか?それとも異世界独自の気候で育った日本には無い新しい野菜かも!?


「え、これって……」


ちょっと胸を躍らせながらカゴを覗く。すると息を整えたシルファが順番に野菜を紹介してくれた。


「……左からオニオーン、ナース、ウォルトイモです。どれもここでしか育たない野菜なので見たことが無いのも当然です。流通もしてませんから」


いや、どう見たってこの野菜って左から、玉ねぎにナス、こっちはさつまいもだよな。でもちょうど良かった。今から作るアレにピッタリな野菜だらけだからな。


早速俺は準備を始めた。玉ねぎは皮を剥き薄くスライス。さつまいもは皮を剥き程よい大きさに切り分ける。ナスは皮も食べれるので縦半分に切りわけて端から切り込みを入れて下ごしらえは終わりだ。


「男なのに随分慣れた手つきで料理をするのね…」


「エルフはしないんですの?」


ボソッと呟いたシルファの声ににローゼスは直球で返す。


「いいえ、私達女性はしますけど、男性は基本的に家事をしないのがウォルトリアの流儀ですから……」


「それなら人間も似たような物ですわ。得意な人間がいれば下手な人間もいる。事実私なんか全く出来ませんしね」


「……実は私もそうなんです。エルフなのに料理ひとつ出来ないのかって昔母によく怒られました」


「驚いた。私も同じですわ!家にいた頃母親から女なんだから料理くらい出来るようになれって口酸っぱく言われたものですわ」


「私達似てますね」


「ええ。案外エルフと人間はそう変わらないのかもしれませんわね」


少しずつだが親交を深めていくローゼス達をよそにユウジロウは黙々と揚げ物の準備を続ける。


後は、溶いた卵に冷水を混ぜ合わせたら振るった小麦粉を入れて空気を入れるようにさっくりと混ぜあわせる。


そう、これから俺が作ろうとしている揚げ物は和食の代表天ぷらだ!

やっぱり野菜の揚げ物といったら天ぷらだよな。


玉ねぎになす、それにさつまいも。正に天ぷらのオールスターといったところだろう。まぁ、本音を言えば海老とかイカみたいな魚介類も欲しい所だけど贅沢は言わない。


「そうだユウジロウ。畑に面白い物が生えていたからついでに取ってきたのですけど、これも使いません?」


「あっ!それ持ってきちゃったんですか!?食べれないからダメだって言ったのに!」


「何持ってきたんだよ……」


ローゼスが取ってきたのは丸々と育った大きなカボチャにしか俺には見えなかった。


「パンプキングは別名王様の鎧って呼ばれてるくらい包丁の刃を通さないくらい皮が硬いんです。食べれる物じゃないんですよ!」


「いや、これ食べれると思いますよ」


「え?」


「俺の故郷でもこの野菜とよく似た野菜があるんです。確かにそのままだと硬いですけど火を通せば柔らかくなって美味しいですよ」


まさかカボチャも手に入るとはな。これは偶然?いいや運命か。何はともあれカボチャは天ぷらに欠かせない野菜の一つだ。これも面白がって持ってきたローゼスに感謝だな。


「でもこんな硬いのをどうやって切るんですか?」


「楽なのは丸ごと茹でたりして火を通した後に切り分けるのが簡単なんですけど……」


色々と方法はあれど今日はそんな時間も無い。でも時間は無いが頼れる奴ならすぐ側にいる。


「ローゼス出番だぞ。ほれ!」


俺はローゼス目掛けてカボチャを空高く放り投げる。


「今度は野菜ですの!?こういうのはこれっきりと言ったじゃありませんか!」


「いいからいいから。このボウルの中に入れてくれ!」


「仕方ありませんわね!……」


最初は渋りながらもやってくれるから優しい人だ。ローゼスは剣を抜き一振り。王様の鎧と呼ばれるほど硬いと言われていたカボチャがあっという間に真っ二つとなってボウルの中に落ちる。


「こんな簡単にパンプキングが真っ二つに!?……」


驚きすぎるあまりそれを近くで見てきたシルファ達は目を白黒させる。


「ユウジロウはどこか私の剣をよく切れる包丁か何かと勘違いしてません?」


「そんなこと言うなって。俺達仲間だろ。今度は薄めにスライスしてくれ!」


手際よく中のワタを取り出すと再び放り投げる。


「ったく都合いいんですから……これで上手く行かなかったら承知しませんからね!」


今度は目には見えない速度で剣を剣を何重にも振り分ける。

するとバラバラにスライスされたカボチャが綺麗に並んだままボウルに着地した。


「お見事!」


――相変わらず凄い切れ味と腕の良さだ。俺が頼んでおいてなんだけど、またつまらない物を斬らせちまったって感じだな。


野菜を切り終えたら、予め粉を打ち粉として軽く塗しておく。こうする事で水分が抑えられてよりサクッと仕上がり易くなるってわけだ。


「ユウジロウいよいよですわね!」


贅沢にたっぷりとオリーブオイルを注いだフライパンにさっそく天ぷら粉を纏わせたカボチャから油の中に入れていく。


「野菜が油の中に!」


「まさかと思ってたけど人間って油を食べるの!?」


エルフ達が驚くのも無理はない。今じゃ街の人間も少しは慣れてきて俺が油を使っても驚かなくなったけど、最初の頃は凄かったからな。だけど揚げ物を一口食べたら、あれだけ文句を言っていた人達も人が変わったように黙るようになって、今じゃウチの常連だもんな。本当揚げ物の魔力って恐ろしいものだ。


そんなこんなをしている内にそろそろいい頃合いだ。パチパチと弾ける泡も小さなくなり衣も固まりカボチャにも火が通った筈だ。


「あれが本当にパンプキング?…見た目も綺麗で美味しそう」


「カボチャはこれでOK。この調子で急いでどんどん行くぜ!」


俺は調子を上げて、次々と他の野菜を揚げていく。


さつまいもはホクホクとした味わいになるように低音で揚げる。

ナスは火が通り切り込みが広がる事で扇のような綺麗な形になる。

玉ねぎはスライスした物を纏めてかき揚げにした。


「これで天ぷらの盛り合わせは完成だ!さあ、早く!」


「これを本当にミレーユが助かるんですよね?……」


「分かりません。だけど可能性はあると思います」


「……」


セレイアは人間が作った得体の知れない料理を弱っている娘に食べさせていいのかまだ決められずにいた。


「いいにおいがする……」


「ミレーユ!」


先程までぐったりとしていたミレーユがゆっくりと体を起こした。


「これ、おじさんが作ったの?」


「ああ。天ぷらって言うんだ」


「てんぷら?…」


「野菜を体が元気になる油で揚げたんだ。きっとコレを食べればミレーユちゃんの体は良くなる」


「ほんとう!?…また、ママとあそべるようになるの?」


「うん。約束する」


俺は嘘を吐いた。天ぷらを食べて体が良くなる保障なんかこれっぽっちも無いのに。ズルい大人だ……。


「わかった。わたしたべる」


そういうとミレーユは早速カボチャの天ぷらに手を伸ばした。


「天ぷらは塩をちょっとかけて食べるのが通なんだ。食べてごらん」


言われたまま塩をちょっとかけてカボチャの天ぷらを一口。


「あまい!これおいしい!」


苦しそうだった少女の顔に笑顔が戻った瞬間だった。


「良かった。君が喜んでくれておじさんも作った甲斐があったよ」


「ねぇこれってウォルトイモ?」


「うん。カボチャより大きめに切ってあるからよく噛んで食べるんだよ」


「ふしぎ……パサパサしてない、ホクホクしてておいしい!ウォルトイモじゃないみたい!」


「こっちは玉ねぎのかき揚げ。それはナスの天ぷらだ。天ぷらは逃げない。ゆっくり食べな」


「うん!」


笑顔が戻り夢中で天ぷらを美味しそうに食べていくミレーユの体が治癒魔法のような優しい光に包まれた。


「これって……」


「どうやら呪いが浄化されているみたいですね」


「凄いですわユウジロウ!大成功ですわ!」


「ああ。やったな!」


俺の思惑通りオリーブオイルが呪いの浄化に成功したんだ!


「ミレーユ!」


「ママ!」


「体、大丈夫?」


「うん。てんぷらたべたらとってもらくになったよ!」


「ミレーユ……!!」


涙を浮かべながらミレーユを抱きしめるセレイア。笑顔が戻った娘を泣いて喜ぶ母親の姿。それを見て俺まで貰い泣きしてしまいそうだ。


「ママ。なんで泣いてるの?かなしいの?……」


「ううん。嬉しいの。ミレーユが元気になってママも嬉しいんだ!」


「わたしもうれしい!ママもいっしょにたべようよ!」


「じゃあいっしょに食べようか」


ミレーユと共に玉ねぎのかき揚げを食べるセレイア。


「何これ、本当に美味しい!……食べ方が違うだけでこんなに野菜の味が変わるなんて。シルファも食べてみなよ」


「じゃあちょっとだけ…」


恐る恐るシルファもナスの天ぷらに口をつける。


「柔らかっ!こんなに柔らかくてジューシーなナース、初めて食べたわ!」


騒ぎを聞きつけて様子を見ていたエルフ達も次々と天ぷらに手を伸ばすと、同じように呪いに苦しんでいたエルフ達に笑顔が戻っていく。


「おじさんおかわり!」


「はいよ。ちょっと待ってな」


どんどんと捌けていく天ぷらをどんどんと揚げていく。揚げるばっかりで俺は味見する暇すら無い。だけど今回ばかりは仕方ない。


「ユウジロウ……」


「ん?」


物欲しそうな目でこちらを見つめるローゼス。


「あの〜私の分はありませんの?」


「うん。無いよ」


甘えた声でねだられても無いものは無いのだ。


「そんな!どうして!?野菜を取ってくるの手伝ったじゃありませんか!」


「作ってる俺だって食べれてないの!考えてもみろよ。俺達が食べたら苦しんでるエルフの分が無くなっちゃうだろ?だからダメだ」


「そんなーーー……」


おもちゃを買って貰えなかった子供の様にその場で倒れ込むローゼス。余程天ぷらが食べられ無かったのが悔しいのだろう。


気持ちは分かる。だけど俺だって食べたいのを必死に我慢しながら揚げてるんだ。こっちだって辛いんだ。目の前にあるのに食べれないんだから。


でも、


「味見は料理人の特権だよな。ウマッ!……」


「あーーーっ!!卑怯ですわユウジロウ!私も!!」


揚げていたカボチャの天ぷらをつまむユウジロウを見て激昂するローゼス。

そんな様子をやれやれといった様子で笑いながら眺めるメルディアだった。


こうして天ぷらのおかげでウォルトリアのエルフ達のの笑顔は元にもどり平和が訪れた。


そうなるはずだとその時の俺は信じて疑わなかった。

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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次回もお付き合い頂ければ嬉しい限りです。


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