37、ユグドラシル
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「ギルドマスター。私が言うのもなんですけどあの男にギルドの事を任せて本当に良かったのですか?」
「いいわけないでしょう。だから出来るだけ早く帰るんです。バンドルフがギルドをめちゃくちゃにしない内にね」
バンドルフさんとは会ってまだ間もないけど二人が心配する理由は分かる気がする。あの人、何というか豪快な性格だからな、何をするか予想なんか出来ないもんなぁ……
「ん?」
俺達を里へと案内していたメルディアの足が止まる。
「行き止まりみたいですけど…もしかして道間違えました?」
目の前には大きな滝が見える。滝壺に落下した水が純白な水けむりを巻き上げている。
「いえ合ってます」
「でも先に道なんか」
「ここを抜けます」
「「え!?」」
まさかの提案に二人は驚く。
「あの、滝の音で良く聞こえなかったんですけど、もう一度いいですか?」
「ここを抜けますよ!」
残念。聞き間違いでも滝の音で聞こえなかったわけじゃなかったみたいだ。
「いや、ここを抜けるのはちょっと……」
「そうですわ。焦る気持ちは分かりますが回り道をした方が得策なのではありません?」
流れる水の勢いよく打ちつける音に俺達の足が竦む。
――バラエティーとかで芸人さんが滝行をするシーンなんてのはよく見たことがあるけど、この滝はそんなのと比べ物にならない程の迫力だ。こんな所に入ったら間違いなく首が折れる。折れたことはないけどそんな気がする。
「ふふっ」
提案にあたふたしている二人の様子を見てメルディアが笑う。
「いや、ここ笑う所じゃ」
「失礼。どうやら言葉足りなかったようですね」
「え?」
「何もこのまま突っ込むわけじゃありませんよ。こうするんです」
メルディアが指を鳴らし魔法を唱えると、周囲の木々がザワザワと物音を立て始める。
「お!?」
「これは凄いですわね……」
すると目の前の滝がいきなり真っ二つに割れて道が現れたのだ。
「この先です。足元滑りやすいのでお気をつけて」
「あ、ハイ。それにしてもスゲェな……一瞬で滝が割れるだなんてまるでCGだな」
「CG?まあ恐らく属性魔法の応用なんでしょうが、仕組みはサッパリですわね」
「ローゼスでも無理なのか」
「あんな一瞬でしたから簡単に見えますけどやっている事はとても複雑。ギルドマスターだけが成せる技といった所でしょう」
「やっぱりメルディアさんって凄いんだな。ギルドマスターなんだから当たり前は当たり前なんだけどさ」
「元とはいえ現役時代はSランク冒険者でしたからね」
そりゃ逞しくて当然だ。
なんかSランク冒険者に出会えば出会うほど俺がSランクなのが不思議に思えてきたな……。メルディアさんは器用で実力もある。ローゼスは剣術と魔法があってバンドルフさんにはきっとパワーがある。
皆Sランク冒険者に相応しい能力を持っている。
そして俺は、手から油を吹き出すことができる。
うん、どう考えても不釣り合いだ。
本当に俺がSランク冒険者だなんて資格を持っていていいのだろうか?
「二人ともここからは気を引き締めて。滝はいわば人間との境界線。ここを越えれば別世界だと思ってください」
滝の中を抜けると広がっていたのは木々豊かな広大な自然。息を吸うだけでこの森が澄んでいるのがよく分かる。
「絶景ですわーー!」
「ああ。いるだけで癒されるな」
森林の香り、風に揺れる木々の音、この森で感じる全てが心地良い。
異世界に来といてなんだけどここがアニメのようなフィクションだと言われても信じてしまう気がする。それほど綺麗な場所だ。
「見えました」
森を進み、メルディアが指差す方向にはこの自然に不釣り合いな程、異物物感が凄い頑丈そうな門が見えた。
「なんなんですアレ?」
「通称ユグドラシル。エルフが崇拝する大精霊の力が籠った鉄壁の壁です」
「こんな大層な物が建っているってことは、私達の目的地はこの先ですわね」
「その通り。ここを抜ければウォルトリアです」
「でもどうやって?」
見るからに力づくで開くとは思えない。かといって鍵穴のような物があるわけでもない。ってかこの門、外側からどうやって開けるんだ?
「開ける方法なんかあるわけないだろ!」
「は!?」
まるで心を読まれたかのように男の声が聞こえる。
「人間達にこの扉は開かない。何故なら俺達も開けられないんだからなぁ!!」
「は?」
誰だか知らんがコイツ、バカなのか?外から開けられなかったから門の意味がないだろ。
「やはり仕組みは私が知っている時と変わっていないようですね」
「どういうことです?」
「あの門は外からは開かず中からしか開く事ができない仕組みになっているんです。中から扉が開くのは月に一回。彼らは定期的に中と入れ替わり門を警護してるのでしょう」
なるほど。どうやらバカだからってわけじゃなかったみたいだな。
「…ユウジロウ。警戒して。もう囲まれてますわ」
「うそっ!でもどこに?…」
パッと見た感じ誰かがいるようには思えないんだけどな…でも確かに声は聞こえるわけで。
ん?
「いや、いるな。やっぱりいるぞ!」
よくよく目を凝らして見てみると木々にカモフラージュして身を隠しているエルフの姿が見える。
「人間がよくここまで辿り着いたものだな!いや待てよ。人間なのは二人だけ…もう一人は、
」
メルディアは咄嗟に顔を背けるが既に手遅れ。
「そうか!さてはお前、忌み子だな?」
「……」
「人間とエルフとの間に出来た禁断の子供。噂だととっくの昔に死んだと聞いていたが、まさか生きていたとはな。今更ここに何しに来た!」
自身の存在に気づかれたメルディアは腹を決め堂々と顔を向ける。
「なら話が早い。アナタ方が私の事をどう思おうが結構。しかし、私はアナタ達を助けに来たのです!」
「人間達が助けにだと?ふざけるな!」
「ふざけてなどいません!」
「っ、」
「今、ウォルトリアは謎の疫病に侵されている。現にここにいるアナタ達も例外では無い筈です!」
確かに薄らと見えるエルフ達の顔は皆青白く顔色が良い風には思えない。
「…それがどうした!お前達には何も関係の無い話だろ!」
「私達はアナタ達の力になりたい。ただそれだけです!門を開けるよう中に伝えてください。アナタ達ならそれが出来る筈でしょ!」
「断る」
「何故です!?私がアナタ達の言う忌み子だから?…」
「それだけじゃない。俺達エルフにもプライドがある。過去に人間達がした事を俺達は決して忘れない。お前もエルフの血を継いでいるのならこれ以上俺達に関わるな!」
俺達を囲っていたエルフ達が全員姿を表し一斉に武器を構える。
「分かったならさっさと出て行け。忌み子とはいえエルフの血が流れているお前を傷つけたくはない」
「メルディアさん…」
「さて、どうしますギルドマスター?ここまで言われて黙って帰るのは癪に触りますがが、私達はアナタの指示に従いますわ」
「……」
メルディアは大きく深呼吸を吸う。
「…仕方ありませんね。出来れば穏便に済ませたかったんですがそういうわけには行かないようだ」
「そう来なくっちゃ!」
「ローゼス。多少の強引は多めに見ます。突破して」
「了解ですわぁぁぁ!!」
「おい!」
「なっ!」
指示を受けた途端ローゼスはロケットのようにエルフ達を掻き分けながら勢いよく門へと向かっていった。
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