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油っぽいオッサンは世界最強!?〜揚げ物は異世界を支配できるって知ってました?  作者: 春風邪 日陰
第二章 縦巻きロールなヒロインは薔薇と揚げ物がよく似合う
30/81

30、なんだかんだでカツました

閲覧感謝です!



「お目当ての物は見つかりました?」


固くなったパンを片手に駆け足でローゼス達の元まで戻ってきたユウジロウ。


「バッチリだ!それでローゼスに手伝って貰いたい事があるんだけどいいかな?」


「私に出来ることなら。でも私料理の類いは全くダメですわよ」


「大丈夫。ローゼスにピッタリな役目があるから」


「私にピッタリ?」


「この固くなったパン、いやブレッドを剣士であるお前の剣術で細かく切り刻んで欲しいんだ」


「前言撤回。私の剣を包丁代わりに使うなんて言語道断ですわ」


「そこをなんとか頼むよ。異常な程カチカチになったブレッドは俺が持ってる包丁じゃビクともしないんだ」


「だからって、剣士として命の次に大切な剣を料理に使うのはちょっと……」


俺の持ってるおろし金でもこのパンをすりおろすことは出来なかった。異世界じゃパンはカチカチ。それはあるあるだけどまさかここまでの硬度を誇るとは予想外だ。


「頼む。コレが細かくならないとアレが作れないんだよ。ね、お願いだから」


「アレとは?」


「今から作るのは唐揚げや竜田揚げと並ぶ揚げ物の王様だ」


「王様ってそんなに凄いんですの!?」


「ああ。期待して損はさせない」


ゴクンと生唾を飲み込む音が聞こえる。


「今回だけですわよ…」


「頼む」


「では」


「この器の中に頼む」


ローゼスがパンを放り投げると剣を一振り。次の瞬間、何千という斬撃がパンを細かくふると器の中に吸い込まれていく。


「こんな感じでいかがでしょう」


「すっげぇ……」


あまりの凄技につまらない物を斬らせてしまったことを少し後悔してる。これはローゼスの言う通り料理に使っていい技じゃないな……。

それに完全に細かくは無く適度に大きさもある。絵に描いたようなパン粉みたいな仕上がりだ。


「流石はSランク冒険者だな」


「こんな事で褒められても嬉しくありませんわ。私は約束を守りました。ユウジロウ今度は貴方の番ですわよ」

さて、これで準備は整った。


「あいよ。任せとけ」


まずはローゼスが処理を済ませてくれたオークの肉を人数分に切り分ける。

あのオークだとは思えないほどキレイなピンク色が美しい肉質。そしてぶ厚い脂の層。日本だったらきっとグラム何千円は下らないだろう。

それをタダで食べれるっていうんだから頑張った甲斐があるもんだ。

それを少し厚めに切り分けたら、肉と脂の間の筋に数カ所切り込みを入れる。


「どうして中途半端に切り込みを入れるんですの?」


いい質問ですねローゼスさん。


「こうする事で火を通した時小さくなりにくくなるんだ。どうせなら大きい物は大きいまま食べたいだろ」


「なるほど。そんな意味が」


「当たり前だ。美味い揚げ物を作る為にはちょっとの手間が大事なんだよ」


切り分けた肉に両面塩を少々まぶしたら肉の準備は完了。


「さて、こっからが本番だ」


いつかフライを作ることもあろうかと買っておいたロックバードの卵の出番。

大まかに卵を溶いたら、コムニコ、卵、パン粉の順番で満遍なくまぶしていく。

パン粉は最初押し付けるようにまぶして最後はふんわりと纏わせる。こうすることでパン粉が立って上顎を火傷するほどサクサクに仕上がるってわけだ。アレこそ嬉しい悲鳴ってヤツだろう。


後は180℃程度の油で揚げるだけ。

たったこれだけで出来るんだから揚げ物って案外簡単なんだよな。片付けは面倒だが……ただ異世界に来て油を固めるガスが使えるようになってからその手間が一気に楽になったのは嬉しかったな。


「おじさんなにつくってるの〜?」


「危ないからちょっと離れてな。火傷でもしたら大変だ」


「はーい」


気分は子供の為に揚げ物を作るお父さん。殆ど恋愛経験が無い俺にとっては縁の無い話だと思っていたがたまにはいいものだな。


「まだですかユウジロウ!このままではお腹と背中がくっついてしまいますわ!」


「てかローゼスはさっき食べたばっかだろ。ちょっと待ってろもうすぐだから」


「「はーやくっ!!」」


ったく、こっちはこっちで子供みたいだな。カラアゲを食べようか迷っていた頃が懐かしい。


油の中では白かった衣が金色なキツネ色に様変わりした様子が伺える。パン粉が立ちトング越しからでもサクサク感が伝わってくる。


油をきってサクサクのうちに切り分けたら、これで完成だ。


「これぞ揚げ物の代表格トンカツ。完成だ!!」


豚肉を揚げるっていったらやっぱりトンカツしかないよな!


「うわぁ〜〜!!」


「これがトンカツ…なんて美しい輝きでしょう……」


「俺の故郷じゃトンカツは勝負事に勝つって験担ぎで食べることもあるんだが、まぁ今回は勝負に勝ったってことで。お祝いだ!」


「おじさんこれ食べていいの!?」


揚げ物は見ただけで人を笑顔にする。やっぱり揚げ物は笑顔で食べなきゃ勿体無い。


「もちろん。だけど、揚げたてであっついから気をつけて食べてね。くれぐれも一口で食べちゃダメだよ」


「うん!」


インカはユウジロウに言われたとおり、トンカツをふーふーして一口。


「サックサックだー!!」


「だろ?」


「こんなおいしいおにくはじめてたべた!」


こんな可愛くかつ美味しそうにトンカツを食べるとは末恐ろしい子だ…。こんなの飯テロ以外の何ものでもない。早く俺も、


「ユウジロウ私の分はまだですの!?」


「あ、分かったよ。直ぐに揚げる」


「早く!もう待ちきれませんわ!」


もう少しの我慢だ。ローゼスの分を作ったら今度こそ自分の分を作ればいいだけだ。少しのがまん……。


「あいよ、お待たせ」


「待ちくたびれましたわ!」


目の前にトンカツがやってくると、ローゼスはすぐさまフォークを刺し口の中へ運ぶ。


「揚げたてだから気を付け、」


「アッツ!!」


「あーあ……」


だから言ったじゃないか。揚げたてのトンカツを一口で頬張るなって。トンカツを目の前にして我慢出来ない気持ちは俺も同情するけど揚げたてのトンカツほど火傷する揚げ物は無いんだから。


「な、なんてものを!口の中がひ、ヒリヒリしますわ!……」


「だから食べる前に気を付けろって言ったろ。インカちゃんだってできたのによ」


「わたしちゃんときをつけたよ」


「「ねーー」」


ユウジロウとインカは2人して声を合わせる。


「こ、小癪な……」


「でも火傷が気にならないくらい美味かったろ?」


「それは、ハイ。とても美味しかったですわ!」


その笑顔とその一言だけで味の大体は想像がつく。最高だって事だ。そうと決まれば今度は俺が味わう番……。


「あの」


「え、」


私達にもトンカツを作って欲しいと助けた人質達がユウジロウを見つめている。


・つくる

・つくらない


「いや、まずは俺が先に、」


「…………」


私達にもトンカツを作って欲しいと助けた人質達がユウジロウを取り囲みまじまじと見つめている。


・つくる

・つくる


そして俺の選択は一つに絞られてしまった。


「分かりました…直ぐに揚げるんでちょっと待っててください……」


「ありがとうございます!!」


そんな事だろうと思ってたよ!そりゃあ隣で見たこともない美味そうな物を食べてたら誰だって気になるよなー。そんなの分かってた、分かってたけどさ!……


この後俺は人数分のトンカツをひたすら揚げ続けた。そうひたすらに。それが終わったと思えばローゼス達にせがまれたおかわりまで作るはめに。


結局、外はサクサク中はしっとりジューシー、口の中に広がる脂ならではのの甘み、その全てを味わえることなく俺はローゼスに連れられ街へ戻ることとなった……。


いつか絶対仕返ししてやる。覚えてろよーーー!!!

ここまで閲覧頂き誠にありがとうございます。


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