18、レモンかけてもいいですか?
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「…それにしても凄かったな。さっきの魔法、剣に炎を纏わせるなんてなんかかっこよかったぞ」
「そう?あの程度なら知識と才能があれば誰だってできますわ。それに私の実力はあんなものだと思われたら心外ですわよ」
「だろうな。そんな気がしてた」
「逆に驚いたのはこっちの方です。あんな魔法私でも初めて見ましたわ」
「あれこそ大したもんじゃない。それに魔法でもないしな」
「じゃあ固有スキル?そっちも充分珍しいと思いますけど」
「確かに珍しいかも。手から油を出す奴なんて世界中探しても俺以外いないだろうからな」
あんな凄いもん見せられた後だからな、改めて自分の能力が恥ずかしく感じてるよ。
「何それ?そんなの聞いたことないわ」
「だから言ったろ。俺以外いないって」
「ねぇ、もう一回やってみてもらえる?気になりますわ」
「別にいいけど、しょうもな過ぎてリアクションに困っても知らないぞ」
受け皿代わりに深めのフライパンを取り出すと右手から油を噴射してみせる。
「で、左手で固めることもできる」
左手からガスを噴射すると油はたちまちゼリー状の固形に固まる。
「どう?」
「…驚きましたわ。まさか本当に手から油を出すなんて。変わってますわね」
「変わってるはやめてくれ。自覚しているからこそ傷堪えるものがある…」
「だけど分かりませんわ。私にはこれであのモンスター達を倒せるとはとても思えませんもの」
「あ、それはだな」
俺は心の中で念じると油の温度を340℃まで一気に上げる。
〈噴射する油の温度が340℃に設定されました〉
「こうしたんだ」
高温に熱され発火した油が噴射する所を見せるとすぐさま左手でそれを消化する。
「これで納得したか?」
「不思議な能力ですわね。火種も無いまま油が炎を纏うなんて」
「油ってのは一定の温度まで熱されると自然に発火する性質があるんだ。俺はそれをコントロールして操ってる」
ローゼスは興味深そうに固まった油をジロジロと観察する。
「なるほど。どうやらアナタの能力は見た目以上に凄い力を持っているようですわね」
「まぁ確かに、油には使い道が色々とあるけど武器としてはどうだろうな。無いよりはマシだけど…」
「案外どんな相手にも通用するかもしれませんわよ」
「だといいけど、所詮はただの油だ。魔法にはとても敵わないよ」
「ちなみにさっき倒したクライムベアーはBランク。あの大きさならモールベアーはAランクといった所でしょうね」
「アイツらそこそこ強かったんだな」
「そこそこなんかじゃありませんわ。並の冒険者なら数人係でクライムベアーを倒すのがやっと。モールベアーなんてパーティーで挑んで勝てるかどうか」
もしかして俺、またなんかやらかしたっぽい。あのクマ見た目通りめちゃくちゃ強かったんだな。
「それを一撃で倒したアナタの能力は十分大したものだと思いますわ」
「あ、ありがとう。まさか俺の能力が褒められるなんて思ってなかった」
「私もこんな能力を褒める事になるとは思ってもいませんでした。Dランクにしておくのが勿体無いくらいですわ」
そんなに評価されると歳にもなく照れてしまうじゃないか。
「…話はちょっと変わるんだけど、さっきからずっと何を食べてるんだ?」
「何って携帯食ですわ。もしかして持っていませんの?」
ローゼスががむしゃらに齧って食べていたのは女性が食べるにはインパクトが強すぎる見た目が真っ黒な肉。よくいえば保存用に乾燥させたビーフジャーキー。悪く言えばバーベキューで端っこに置かれて忘れ去れた真っ黒に焦げた肉。
「それ美味しいのか?」
「これが美味しそうに見えるならアナタの目はどうかしてますわ」
「だよな……」
「そもそも携帯食に味なんか求めていません。如何に効率良く腹を満たせるか、大事なのはそれだけですわ」
最近のサバイバル食は色々と凝ったものもあるって聞いたことがあるけど、異世界じゃそれは例外。日本と違ってキャンプだって流行りや癒しを求めてやってるわけじゃない。外での生活は最低限で十分ってことだ。
だけど俺は日本人。日本人なら外であっても食には拘りたい。宇宙でもラーメンを食べる時代に育った人間だからな。
「そういうアナタは何してるんですの?食事もせずに」
「その為の準備だよ。そう時間は取らせないから安心してくれ」
俺は慣れた手つきでフライピャンに油を注ぎマジックコンロを使って加熱する。
ここに来る前に味付けをしておいた肉が丁度頃合いだ。それを小麦粉でまぶして揚げていく。
「ちょっと!油の中に肉なんか入れたら食べれなくなってしまいますわよ!」
「大丈夫。俺の油は食べてもいいやつだから」
やっぱりこの世界の人達は油を料理に使うことに抵抗感があるみたいだな。食用油がないこの世界じゃ当然の反応だけど。
「…不思議ね。色が変わって、それになんだかいい香りがしてきたわ」
木々が生い茂る森の中でパチパチと油が跳ねる音が響く。その音と香りに刺激されるように腹が空く。なんて心地良い時間なんだ。
この一時だけはゴブリンに襲われた村なんかどうでも良くなってしまう。
「そろそろいいか」
本当なら二度揚げしたい所だが、時間もないことだし省くことにしよう。衣は十分にカリカリに揚がっているし中にも火は通っている筈だ。
「ねぇ、これってなんて料理?」
「鶏の唐揚げさ」
「カラアゲ……なんだか無性にお腹が空いてきそうな名前ですわね」
「だろ?良かったら揚げたて食べてみるか?」
「いや私はちょっと……」
やっぱりまだ抵抗感があるか。まぁ、食べ慣れないものを食べる気にならないのは俺も分かるけど。
じゃあ、外での唐揚げ独り占めと行きますか!
「いただきます」
カリッと心地良い音と共に肉汁が口の中で溢れ出す。そして外というコンディションがいつもの唐揚げをよりを一段階美味く感じさせるようだ。
…………困ったな。
ずっと見られながらってのはやっぱり食べにくい。これじゃせっかくの唐揚げに集中できないじゃないか。
「食べる?」
「いや、別に……」
「でも気になるんだろ?」
「気にはなります……だけどやっぱり不安ですわ」
「気になるなら食べてみるべきだ。大丈夫。後悔はさせないから」
「そこまで言うなら一口だけ……」
恐る恐る唐揚げにかぶりつくローゼス。
「どうだ?」
「…………」
「ローゼス?」
強張っていた表情が段々と優しく緩んでいくのが分かる。
「……私びっくりしましたわ!この世界にこれ程美味しい食べ物があるなんて!」
「気に入ってくれたようで良かったよ」
どうやら食わず嫌いは克服できたみたいだ。でもそれにしては浮かない表情を浮かべているのはなぜだろう。
「でも、」
「でもどうした?」
「確かに美味しいのですが、量を食べるならもう少しさっぱりとした味わいの方が私好みですわ」
「脂っこいのが揚げ物だからな。こういうもんなんだ」
「分かっていますわ。だからこそこれだけ美味しいのでしょ」
「まぁな」
でも気持ちは分からなくもない。俺もおじさんだ。揚げ物をさっぱりと食べたい時もある。酸味のあるソースをかけてみたり大根おろしと一緒に食べてみたり方法は色々とある。唐揚げならレモンをかけて食べるのが王道だろうけど流石に異世界だからな……ん?
「ローゼス。あの木になってる黄色い果実、何か分かるか?」
「どれです?」
「アレだよアレ!」
俺は少し興奮しながら黄色い果実を指差す。
「ああ、あれはレモヌですわね。こんな所になってるなんて珍しいわね」
このタイミングでレモヌってなんて偶然でしょう。まさかこの世界にも似たようなものがあるなんて、今日の俺は意外とついてるかも。
「あれって食べれるか?」
「確か毒は無かった筈…でも、とっても酸味が強くて美味しい物ではありませんわ」
「それがいいんだよ。それが」
俺はウキウキ気分で木に生えてるレモヌを収穫する。
「そんなの獲って何するつもりです?まさか、このカラアゲとやらにかけるつもりじゃないですわよね」
「偉く察しがいいな。その通りだよ」
「いくら私がカラアゲをさっぱり食べたいからってそんなことしたら全て台無しになってしまいますわ!」
「確かに好みはあるけど、俺は好きだしきっとローゼスも気に入ってくれる筈だよ」
心配するローゼスを他所に俺はレモヌを適度な大きさに切り分けると、躊躇なく唐揚げに果汁を絞ってかける。
「あーーーー……」
「大丈夫。さっき舐めてみたけど俺の知ってる果物と同じ味をしてた。だから相性は間違いない」
「本当に大丈夫ですの?せっかくの美味しい料理が酸っぱくなって台無しになってるんじゃ」
「大丈夫だって。さっき食べた時みたいにもう一度俺を信じてくれ」
「……仕方ありません。一口だけですわよ」
レモヌの搾り汁がかかった唐揚げを残念そうに見つめながら口に入れる。
「!!」
「どうだ?」
「…凄いですわこれ!さっきより口の中がさっぱりしてますわ!これなら量が多くても気になりませんわね!」
「どれどれ俺も一口……お!」
これだよこれ!レモヌの香りと酸味が口の中に残った余計なしつこさをオブラートの様に優しく包み込んでくれる。しかも食べやすくなるだけじゃない。酸味は食欲を増進させる効果もあるという。正に一石二鳥、最強の組み合わせ。こんなの無限に食べてくれって言ってるようなもんじゃないか〜〜!!
「…ユウジロウ」
「ん?」
「アナタ、本当に美味しそうに食べますわね。見てるこっちまでお腹が空いてきますわ」
「そりゃあ好物だからな。好きなもん食べたら自然と笑顔になる。不思議なことじゃないだろう」
「食事で笑顔か……いいこと言いますわね」
「そうか?…あ、残りの一個貰うぞ」
「あっ、それ私が食べようとしてたやつですわ!」
「早い者勝ちだよ」
「そんなのズルいですわ!早く追加の分を揚げなさい!」
「はいはい分かったよ。ちょっと待ってろ」
レモヌのお陰で早くも揚げ物の魅力に取り憑かれたローゼスは俺が用意していた残りのストック分を一人で完璧に食べ尽くしたのであった。
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