12、食ってみな強くなるぞ!
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「ならまずは私が食べましょう」
人混みの中からすらっと伸びる一本の手。
「この人は!!」
「ギ、ギルドマスター!!」
「どうしてこんな所にあんな偉い人がいるんだ!ここはあの人が来るような場所じゃないぞ!」
「失礼な。私だって買い食いくらいはしますよ」
「メルディアさん!」
「昨日ぶりですね。ユウジロウ」
「どうしてここに?」
「随分賑わってる声が聞こえてきたものですから。私人より耳はいいんです」
なんか膨らみのある言い方だな。
「それにこれだけいい匂いを嗅げば誰だって気になりますよ」
「でしょ?でも匂いだけじゃない。食べたらきっと二度と忘れられなくなりますよ」
「言いますね。では一ついただきましょうか。未知なる味に挑むのもまた冒険。そうなればギルドマスターとして黙ってるいるわけにもいきませんから」
流石はギルドマスター。そこら辺の男どもと違って肝が座ってるよ。
「ありがとうございます。熱くなってますのでお気をつけてください」
俺は金を受け取ると揚げたての唐揚げ棒を手渡す。
「これがカラアゲ…間近で見ると更に美味しそうですね。ですが見た目は良くても味がいいとは限らな、!!」
がぶりと一口噛み付いた瞬間メルディアの金髪がキラキラと輝きを放った。
――な、なんてサクサクでジューシーなんでしょう!!噛んだ瞬間、口の中が肉汁ていっぱいになる。こんな体験生まれて初めて!
硬くて当たり前なジャイアントバードの肉がこんなに柔らかくなるなんて誰が想像できたでしょう!?それに口の中で香るスパイスの香りがまた一口、もう一口と思わせてくれる。これはとんでもない食べ物、です……。
「えっ!?」
それに驚いてる間もなくメルディアは倒れてしまう。
「ギルドマスター!!」
「毒か!?毒でも盛ってあったのか!?」
「やっぱり油なんて食べるものじゃないんだよ!」
「ちょっ、」
驚いてるのはこっちの方だ。食べた途端、髪が金色に光ったと思ったら急に膝から崩れ落ちるんだから。
「おいお前よくもギルドマスターを!!」
「許さねぇ!!」
怒った男達が俺の胸元を掴み絶叫する。
「待ってください!俺は何もしてませんって!」
「だったらなんで倒れてんだよ!」
「それは……」
そんなのこっちが知りたいよ!
「ギルドマスターの仇だ。地獄で永遠に反省してな!」
「嘘でしょ!?」
「嘘じゃねぇよ!」
冗談じゃない。二度目の人生もこんな死に方だなんて。唐揚げすら満足に食えないまま誤解されながら俺は死んでいくのか。
そんなの、そんなのあんまりじゃないかー!
「うわぁぁぁ!!」
「待ちなさい」
男の剣が首元に触れる瞬間、レイピアの刃がそれを弾いた。
「えっ……」
「ギ、ギルドマスター!!死んだんじゃなかったのか!?」
「人を勝手に殺さないでください」
俺、助かったのか?…
でも何故かメルディアさんの体、心なしかさっきよりツヤツヤしてる気がするんだけど。気のせいじゃないよなぁ、コレ。
「じゃあなんで倒れたんですか?」
「それは……」
なんか恥ずかしがってる?
「ハッキリ言ってくださいよ!ギルドマスター!」
もじもじしながらメルディアは小声で話した。
「余りにも美味しくて、つい気絶してしまっただけです……」
「「「はぁ!?」」」
「し、仕方ないでしょ!こんな美味しい物を食べてしまえば誰だってこうなりますよ」
人騒がせな…でも他人事じゃないんだよな。
子供の頃俺も初めて唐揚げを食べた時、余りの衝撃に泡吹いて失神したらしいからな。
だから分かるんだよなその気持ち。
「そんなに美味いんですか?その、カラアゲとやらは?」
「食べたら分かります」
「……俺も一つくれ!」
「まいど」
「……美味ァァァ!!」
男は一口食べた瞬間まるで何かに覚醒したかのような雄叫びを上げる。
「こんな美味いもん初めて食べたぞ!今まで食べてた串焼きがゴミのように思えるぞ」
「俺もくれ!」
「俺もだ!!」
また一人、また一人と揚げ物に魅せられていく。
「外はカリカリ中はジューシー。意味は分からんがとにかく美味い!!」
「不思議だ。食べた瞬間体の中からパワーが湧き上がっていくようだぞ!」
唐揚げを食べた途端、全員の体がキラキラと輝きを帯びているように見える。てか、実際に光ってる。
「素晴らしい。ユウジロウこの料理は美味しいだけじゃない。食べた者に力を与える、これはそんな料理なんですね」
ギルドマスターの言うとおり、確かに揚げ物を食べるとパワーや活力が出た気にはなるけどそれに根拠はない。あくまでも勝手にそう思っているだけ。
いくら揚げ物といえど実際に強くなるとかそこまでの目に見えた力は……。
「あの者達を見てください」
「え?…えぇ!?」
なんということでしょう。あんなザ・普通体型な男達が唐揚げを食べた事で全身キレキレなムキムキ状態になっているではありませんか。
今すぐにでもコンテストに出れるほど鍛えられたその体は、腹筋は板チョコのように割れて胸は今にでもはち切れそうなほど盛り上がっているのです。
「ハハハハハハ!」
「いやーー二人ともいいバルクしてますねー!!」
「そういうアナタも仕上がっているじゃありませんせんか。まるで肉柱だ!」
「「「アハハハハハ!!!」」」
なんじゃこれ……喋り方までボディビルダーのようになっているし。いつの間に日サロに行ったんだってくらい体もこんがりと焼けている。
まさか、これが異世界での揚げ物の力なのか。
「あ、もしかしてギルドマスターも」
「いえ、私は彼等の様に変わっていませんわ」
「確かに、そうですね」
「しかし不思議と体が軽い。いつもより素早く動けそうです。こんな風にね」
「え」
何も無かった筈の机の上にはジャイアントバードの肉が大量に置かれている。勿論お金も一緒に。
「周辺の肉屋から全て買い占めてきました」
「瞬きした間に!?」
「それ程体が軽かったんですよ」
どうやら食べた人の体質によって強化される効果が違うみたいだ。極端に筋肉を強化したり、脚力や素早さみたいな身軽さまで強化する事が出来るらしい。
つまり、俺の作る揚げ物を食べると所謂〈バフ〉が付与されるってことだ。
やっぱり揚げ物って凄いんだな。
じゃあ、俺の体も何か強化されてるんじゃ?
正直、何かが変わった気はしないけど。俺は心でステータスと念じ、自身の状態を調べてみるが、それらしい項目は見当たらない。
どうやら自分で作った物を食べても効果は付与されないらしい。
…まぁ、いっか。俺は別に強くなりたいわけでも筋肉隆々になりたいわけじゃない。揚げ物の素晴らしさが皆に伝わればそれでいい。
「ユウジロウ。聞いてます?」
「え、あ、はい」
「…何を考えてたんです?随分嬉しそうな顔をしていましたが」
「いや、皆さんが余りにも唐揚げを美味しいと喜んでくれるのでそれが嬉しくて」
「ならもっと私達を喜ばせてからにしてもらいましょうか」
「え?」
「皆おかわりを待ってるんです。勿論揚げたてをね」
「そうだ早くしてくれ!」
「ああ。俺も周りを見てたら食べたくなった!」
「私もよ!」
騒ぎを聞きつけてか、いつの間に店の周りは人だかりでごった返していた。男女関係ない行列となった老若男女の客が揚げ物を、唐揚げを待ち侘びている。
「あいよ!少々お待ちを!」
気分はまるで唐揚げ屋さん。
だけど驚きだよな。ただのサラリーマンだった俺が異世界に行って揚げ物を武器に店を開く事になるなんて、あの頃じゃ考えももしなかった。
だけどこれはまさに天職なのかもしれない。
そんな思いを片隅に俺はとにかく死に物狂いでひたすら唐揚げを揚げ続けた。
その甲斐あってか、唐揚げは1日にしてこの街の隠れた名物となった。そしてこの店は隠れ家的名店として名だたる冒険者達に注目され話題になって行くのだが、その続きはまた次回。
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