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10、ようこそ マルクの奇妙な雑貨屋へ

閲覧感謝です!


「近くで見ると更にひっどいなぁ……」


外壁はボロボロ。手付かずで放っておいた雑草が外壁まで伸び侵食し始めている。

これを見てとても営業してるとは思えないけど本当にやってるのか?

日本にもたまにこういう店はあったけど入る勇気までは無かったし…


俺は少し緊張しながら扉をゆっくりと開け中に入る。


「あのーー」


声をかけても返事はない。一応明かりは付いてるけど人の気配はない。中は外と比べて酷いとは思わなかった。寧ろ床はピカピカでチリ一つない。日々の掃除が行き届いてる事が一目で分かるくらいだ。

それにしても中と外のギャップが凄いな。これだけ綺麗にしてるなら外観も気にすればお客さんも入るだろうに。


「え……」


この時、俺は自身の目を疑った。あれだけ無いとキッパリ言われたフライパンが当たり前のように陳列されているからだ。


「どうしてこの世界にフライパンが…?」


驚くことにフライパンの種類も多岐に渡っている。大から小までのサイズ違いはもちろん。煮物などに適した深めもあれば卵焼き用の四角いフライパンまであるじゃないか。

しかもフライパンだけじゃない。隣を見ればおたまやトングなどといった小物まで充実している。あそこには温度計。こっちにはキッチンタイマーもあるぞ。

なんなんだこのキッチングッズの充実っぷりは!日本でもここまで揃ってない店なんかごまんとあるぞ。


「ここはホームセンターか!?」


「いいやここは雑貨屋だ」


「うわっ!いつの間に……」


「いらっしゃい。いきなりだけどアンタ変わってるね」


「えっ!?」


まさか初対面で俺が異世界人だってバレた!?


「常連以外でウチに来るやつなんて滅多にいないからさ(ま、その常連も一人だけだけどな)」


「あっ、そういう意味ですか…」


「他の意味でもあんの?」


「いえなにも。お気になさらず」


「俺は店主のマルスだ。どうぞご贔屓に」


正直今は挨拶なんてどうでもいい。今気になるのはやっぱり。


「あの、これってフライパンですよね!?」


「違う。フライピャンだ」


「ふ、フライピャン?…」


それってどう考えてもフライパンだよな〜。


「じゃあコレは?」


俺はトングを指差す。


「チョングだ。食材を掴むのに便利だぞ」


微妙に名前は違うみたいけど用途が変わらないなら、まぁ気にすることもないか。異世界だしな。偶々似てるものがこの世界にもあったんだろ。


「…なぁアンタ、熱心に見てるけどウチの商品が気になるのかい?」


「それはもちろん!コレこそ俺が求めてた料理道具ですから!」


「へぇーやっぱアンタ変わってるね。まるでアイツみたいだ」


「アイツ?」


「この商品を考えた奴の事さ。俺はソイツから奇想天外なアイデアを貰って、いや、押し付けられてせがまれて仕方なく作ってるんだ」


「それは随分強引な方なんですね……」


「まぁな。それに断りたくたって断れねぇ。なにしろソイツはこの街の領主様だからな」


この街の領主がフライパンやトングを考えたってことか。流石は権力者だな。頭がキレる。


「この街の領主様は発想力も素晴らしい方なんですねー」


「褒めなくていい。変わり者で人よりちょっと食についてこだわりが強い。自分の為に権力を趣味に使ってるんだ。いい加減な奴だよ」


「そんなことありませんよ。それだけこだわりが強いって事はそれだけ愛があるって事でしょ。それって凄いじゃないですか!」


「……ふーん。初めて会ったよ。俺以外にアイツの趣味を認めてる奴」


「やっぱり。それじゃあマルスさんも認めてるじゃないですか。口ではああ言ってたのに」


「まぁ、幼馴染だからな。俺までアイツを否定しちまったら一人ぼっちになっちまう。それは可哀想だろ?」


「優しいんですね」


「別に…俺だって迷惑掛けられてないわけじゃないんだぜ。あれ見てみろよ」


マルスさんの指差す方を見てみると店の隅っこにはひっそりと剣や防具が置かれていた。


「あれも売り物ですか?雑貨屋なのに?」


「あっちが元々ウチのメイン商品だったんだよ。俺は鍛治師で元々この店は冒険者御用達のそこその有名な武器屋だったんだ」


「そうだったんですね。じゃあなんで料理道具まで?」


「言ったろ。どうしてもって頼まれたからだって。最初は一個や二個の約束だったんだ。それがどんどんと数が増えていっていつの間にか店の半数以上を占めるようになっちまった」


「それで今は雑貨屋になってしまったと」


そう聞くとマルスさんが気の毒に思えてきたな……。


「そりゃあ冒険者達も来なくなるよな。それに雑貨屋になった途端周りの連中にまで距離をおかれる始末。店の名前までアイツに変えられちまったからな、今じゃウチが武器屋だって覚えてる奴も殆どいないよ」


「お店の名前まで変わったんですか!?」


「そうだよ。アイツが「こっちの方が絶対いい」って言うもんだから仕方なくな」


聞けば聞くほどマルスさんがお人好しすぎるのが原因な気もするけど、それは黙っておこう。


「それでこのフライパ、、フライピャンっていくらですか?あとそれ以外にも色々と欲しいものがあって」


正によりどりみどり。この店の料理道具があれば八割型夢が叶ったと言っても過言じゃない。是が非でも購入しなくては!


「待て待て。気に入ってくれたのは嬉しいけど、俺の道具を使いこなすのは少々コツがいるぞ。それに金だってかかる。ああ見えても結構良い素材と技術を使って作ってるんだ。興味本位ならやめときな」


「興味本位なんかじゃありません!!」


俺の夢を叶える為にはどうしたってこれが必要なんだ。簡単に諦めてたまるかよ!


「格好も性格も変わってる。だけど気持ちは真っ直ぐか……正真正銘の変わり者。益々アイツと一緒だな」


「お願いします。この店の商品俺に売ってください。俺の夢の為に必要なんです」


「…アンタ冒険者ランクは?この街で何かしようとしてるならライセンスくらい持ってるだろ」


「あ、はい。Dランクです」


前回、ギルドマスターに冒険者の資格を貰った時ある程度の説明を受けた。

やはり冒険者にはランク制度があるらしく、最初はDから始まってトップはSまであるらしい。

当然のように俺もDランクからのスタートなんだが、どうやらそれにギルドマスターは不満らしい。

パックラビットの群れを一人で倒し、特殊個体のギカントラビットまでをも討伐した。そんな人物を最低ランクで留めておくわけにはいかないとヤキモキしていた。 


俺からすれば正直ランクはどうでも良い。強くなりたいわけでも偉くなりたいわけでもないからな。

俺はただ自由気ままに揚げ物を揚げて食べていたい。そしてそれを広めたい。それだけなんだ。


「Dてことは駆け出しだな。まぁ昨日この街に来たばっかりならそれも当然か」


もしかして異世界あるあるなランク差別的なのがこの街にもあるのか?

だとしたらランクが低ければ売ってもらえないって可能性も……俺は客だぞ!!金ならあるんだ!!金なら!!


「あの、Dランクじゃダメですか?…」


過剰な気持ちがつい顔に出ないように慎重に交渉していく。


こんな自己中の心の声。察されたらそれこそお終いだ。


「ん?あ、いや別にそういうわけじゃない。武器や防具ならまだしも料理道具にランク云々の実力は関係ないさ」


「じゃあ!」


「ああ。お望み通り俺の商品お前に売ってやるよ」


「ありがとうございます!!」


よっしゃあ!!そう来なくっちゃ!!


「ただし売るのはまた今度だ」


はぁぁぁ!?今売るって言ったじゃんか!!どういうことだよ!!


「あの、どういう意味ですか?…」


煮えたぎる程の怒りが思わず顔に表れないよう細心の注意を払いながら俺は問いかける。


「簡単だよ。今のお前の稼ぎじゃウチの商品を買えないからだ」


「買えます!!」


「焦るなって。そりゃ無理をしたら買うことも出来るだろうけど、それじゃ後の生活が困るだろ?」


この人俺の生活まで気にしてくれてるのか。やっぱりこの人は優しい。

だけど俺だって夢がかかってるんだ。覚悟は出来てる。 


「大丈夫です。買えます!売ってください!」


「だから無理すんなって」


「買います」


「ったく強情なヤツだな……せっかく人が心配してやってんのによ」


一向に折れようとしない俺に呆れたのか渋々なまま頷いた。


「ただし雑貨屋になったといはいえ俺も鍛治師としてのプライドがある。値引きはしないしサービスもしない。それでもいいんだな?」


「はい」


「即答かよ……分かった。なら売ってやるよ。だけど本当に金はあるんだろうな?」


「それでフライピャンはいくらなんですか?」


「10万ゴールドだ。な、無理だろ。分かったらまた来な。焦らなくても売り切れる事はねぇから」


「じゃあこれで」


「だから駆け出しの冒険者が出せる金額じゃないって……えぇぇ!!?」


ポンと渡した10万ゴールドをマルスは驚きのあまり落としてしまう。


「ちょっと大丈夫ですか?」


「それはこっちのセリフだよ!こんな大金簡単に出しちまって大丈夫なのかよ!?」


確かに日本円で換算しても10万円。決して安い金額じゃない。それに10万円もするフライパンなんてまずあり得ない。ここが日本だったらいくら俺でもフライパンにこの額は出さなかっただろう。

だけどここは異世界だ。この手の道具が貴重で割高設定なのも納得が行く。

それに今は金がある。夢への初期投資だと思えばこのくらい安いものだ。


「問題ありません。それだけマルスさんが作る道具に価値があるって事です。だから俺は喜んで払いますよ」


「……お前で二人目だよ。俺の事をそんなに褒めてくれる奴は。分かった。ちょっと待ってろ包んでやるから」


「あっ、その前に」


「なんだよ?」


「これも一緒にお願いします!」


俺は手当たり次第気になった道具を山ほどカゴに入れて、それも買うことにした。


「こんなに!?お前一体なにもんだよ……」


「アナタの道具に一目惚れした変わり者ですよ」


「ったく。これだから変わり者の相手をするのは苦手なんだ……」


何はともあれこれで道具は揃った。他に必要な物はそこら辺の出店でも揃うだろう。

さぁ、いよいよだ。待ってろよアヴェントゥーラ。これから俺が冒険者の街から揚げ物の街に変えてやる!!

アハハハハハ!!!

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