恭子×花鈴:銭湯
練習作品です
・三人称
・描写
【設定】
・脇坂恭子……見た目は低身長の小学生だが、実際は大学生で成人済み
・鷹野花鈴……能天気な天然系の女子高生
雪降る寒い中、脇坂恭子は暖まるために銭湯へ行くことに決めた。自宅はお風呂がついていないアパートなので、寒空の下、外出をするという矛盾を感じながら。
銭湯までの道中が長く感じる。近所なのに、身体の芯まで冷え込んでいく。手を温めるために息をハーっと吹きかける。早く暖まりたいと早足になるが、僅かに積もった雪で滑りそうになったので、足に力を込めて踏ん張りながら歩いた。
銭湯に着いて、暖簾をくぐる。番台にはいつものおばちゃんが座っている。中に入ると銭湯独特の匂いがする。
「いらっしゃい。恭子ちゃん、いつも来てくれてありがとうね」
「いやいや、ここ、良い銭湯だし。広いから足伸ばせていいんだよね~」
「そう言って貰えると嬉しいよ」
常連の恭子は、高い位置にある番台を背伸びをしながら見上げつつ、会話をした。その後、脱衣所に行き、ボディタオルを取り出して、後の荷物をロッカーに突っ込んでいく。そして、着ている物をポイポイとその上に脱ぎ捨てる。
いよいよ待ちに待った銭湯への突撃。透明のガラス扉を開く。浴場の中から如何にも温かいですと言わんばかりに、湯気がふわりと立ち昇る。
その湯気を鼻から吸い込み、たまらず、無意識に早歩きになる。隅に置いてあるプラスチックの洗面器と椅子を一つずつ手に取り、洗い場に向かう。シャワーを頭から全身に浴びて、冷えた身体を温めてから洗い始めた。
身体を洗っていると、壁向こうの男湯から声が聞こえてくる。声と話題の感じからして、おじいさん達が話をしているようだ。「これぞ銭湯って感じだな」と感傷に浸りながら、身体を洗い終えて湯船に行く。温度を確認するために、足先をそっと入れてみる。適温なことを確認できて、そのまま足先から沈めていく。そして、最後には肩まで浸かった。
「はぁ~」
お湯の温かさで思わず声が漏れてしまう。すると他にいた客が、恭子の入っている浴槽に飛び込んで来た。
「ひゃっほー!」
ばしゃりと恭子の顔にお湯がかかる。常識知らずの女の子に対して怒りをあらわにする。
「おい! おまえ! 銭湯で飛び込むんじゃない! プールじゃないんだぞ?」
すると、その女の子はぴたりと止まり、こちらをじっと見ている。恭子はちょっと怯んだ。
突然、その女の子が抱き着いてきた。洗い立てのせいか、石鹸の香りが、ふわりと漂う。顔に相手の胸がむにむにと押し付けられて息苦しい。
「可愛い。小学生? 一人で入っているの?」
抱きつき魔を両手で力いっぱい引き剝がして、息継ぎをしつつ否定する。
「あたいはこれでも大学生だよ!」
相手は首を傾げて、きょとんとした顔をしている。納得していないようだ。いや、原因は分かっている。恭子の幼児体系のせいである。背も小さいし、胸も控えめ。いや、控えめですらないが、大人の威厳としてあえて控えめとしておく。
「……おまえも大学生か?」
「ううん、高校生だよ?」
「おまえのほうが年下じゃねーか!」
「そうなんだ、まあまあいいじゃない? お名前なにちゃん?」
全然人の話を聞いている感じがしない。まるでそのまま小学生と思われているようだ。頭の緩そうな女の子なので、適当にあしらうことにした。
「あたいは恭子だよ」
「あたしは花鈴。よろしくね、恭子ちゃん」
ちゃん呼び……やっぱり恭子が年上ということが頭に入っていないようで呆れた。
「あたいの方が年上なんだから、恭子さんって言えよ!」
「えー、恭子ちゃんの方が可愛いじゃん。仲良くしようよ」
恭子は内心、「小学生と思っているのに言い寄ってくるとかヤバいやつじゃね?」と思い、警戒した。
だが、その後は普通に会話をするだけで、警戒するのが馬鹿らしくなってきた。
恭子は思う。「こいつただの頭が緩いやつだ」とわかり、ほっとする。悪いやつではなさそうなので、年上の女として話し相手になってやった。
身体も温まったことなので、湯船から出てシャワーでサッと身体を流す。そして、ボディタオルで身体の水気を拭いてから、脱衣所に行った。すると、先ほどの非常識人の花鈴がついてきた。
「……おまえ、なに一緒について来てるんだ?」
「え? 恭子ちゃんとは友達だからだよ?」
友達になるのが早いな? 友達の定義が広いのか? 湯船で花鈴と話をしていて、人柄が分かったので言うだけ無駄と、ため息だけついて諦めた。
バスタオルで身体を再度拭いて、服を着ながら花鈴と話をしていた。
「恭子ちゃんは、銭湯の後はコーヒー牛乳派? それともフルーツ牛乳派?」
「あたいはコーヒー牛乳派だよ。花鈴は?」
「あたしはフルーツ牛乳派!」
花鈴が元気よく答える。人のことを小学生扱いするが、頭の中は花鈴の方が小学生そのものに感じる。
二人とも服を着終えると、番台のおばちゃんにお金を払って、コーヒー牛乳を買った。花鈴はもちろんフルーツ牛乳。
二人で長椅子に座り、飲み始める。コーヒー牛乳に口をつけると、仄かにコーヒーの香りが漂う。それをごくごくと飲む。変な話ではあるが、寒かった身体を温め、温まった身体を冷ますように冷たい飲み物を飲む。一種の背徳感を感じる。
コーヒー牛乳は仄かな苦みに対して、甘さが強い。普段恭子が飲むコーヒーは、ブラックで苦いのだが、なぜか銭湯後のこーいー牛乳の甘さは許せる。
情緒もへったくれもなく、腰に手を当てて一気飲みした花鈴は、帰り支度をした。
「今日はたまたま家のお風呂が壊れちゃったから銭湯来たけど、恭子ちゃんに会いにそのうちまた来るね~」
そう言うと、花鈴は帰って行った。恭子はあとわずかに残ったコーヒー牛乳をグイって口に流し込み、帰り支度をした。
「銭湯って、不思議な一期一会があるから面白いよな」そう思いつつ帰路についた。
最後まで読んで下さりありがとうございます
この作品の練習シリーズ第四作目
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