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九話 『気持ちを一つに』

「さあラク扉を開ける準備は良い?」

「えっ、準備って何のこと?」

「いや~中々独特な人達が集まっているからね。ま、頑張って」


 洛錬はトワのその言葉を聞いて内心身の毛がよだち一度大きく深呼吸をする。


「よし行くか」


 重い木の扉を開ける。『ギーッ』といった歪な音。そこに広がる景色は


「おい来たぞ、ラクだ!」

「あの乗り物ってどういう仕組みなんだよ!」

「あの化け物どうやって倒したのですか!?


 目を輝かせて洛錬に詰め寄ってくる者。椅子に座りこちらを静観している者、壁に体を預け下を向いている者など総勢30人いる。


「あ、あのえっと、、、」


 やばいこんなに詰め寄られたらどう対応すればよいか。


「ラク、ちょっと。こっちこっち」

 そう手招きするトワ。


「そういえば言い忘れていたけど別の世界があることはシス以外には言っていないわ」

「何で?」


 二人で皆に聞こえぬようコソコソと小声で話す


「簡単に言うとこの国の上の人たちは攻め入れる土地があることを知ったら何をするか分からないの。だから私が信頼できる人たち以外に伝えるのは止めておいた方がいいわ。私も話を合わせるからこの場は切り抜けてね」


 『攻め入れる土地があれば、、、』とトワは言った。果たして何が起こるのか。「もしかして、、、」それ以上の言葉を考えることができなかった。それどころか洛錬は今自分が持っているこの指輪の恐ろしさを感じ体中に鳥肌が走る。感じることはただ恐怖だけ。


「わ、分かった」


 頷く洛錬。


「はいみんな聞いて、さっきも説明したと思うけどこの人は私がお抱えしている兵士のラク。それであの乗り物は私たちの家で開発した、、」

 そこで言葉が詰まる。


「自転車」

 ボソッと呟く洛錬。


「そう自転車という乗り物なの。仕組みはその、、秘密だからあんまり聞かないでね。はいラク自己紹介して」


 皆の視線が一身に洛錬に集まり、下を向いていたものも鋭い目で洛錬を睨みつける。学校でこのように皆の前で発表するのが苦手な洛錬にとって声を出すのが憚れるが決意を固め口を開く。


「皆さん初めまして私は『ラク=クライ』と申します。えっとトワさんの下で普段働いています。みなさんよろしくお願いします」

 こっちの世界ではファーストネームが先に来るからこれであっているはずだよなと考え自己紹介をする。


 部屋一帯に広がる無音




『何だ、何か間違ったことでも言ってしまったか?』


「はいラクありがとう!じゃあ皆も自己紹介よろしくね」


 誰も口を開こうとしない。皆の視線がラクから壁に寄りかかっている長髪の青髪の男に向かう。その男は細長い眼鏡を付けており知的な様相を見せている。


「すみませんトワさん、僕は彼のことを許容できない」

「それは何でかしらインテ」


「簡単な話ですよ...。今まで彼がどこに属していたかはこの際聞かないことにしますが何故今日の戦いに参加しなかったんですか!?我々は今日一度死にました。そして我々が死んだあと彼が出てきた。何故です?何故初めから参加させなかったのですか!?僕はその理由が知りたい。納得ができないと背中は預けられませんよ!!教えてくださいよトワさん!!」


 激昂するインテという男。彼の言っていることは何も間違いはない。


「それは言えない」

 そう話すトワ。


「じゃあ彼の『ガジェット』の能力は?」

「それも言えない」


「彼の出自は」

「それも言えない」


「ふふっ、、じゃあ逆に何が言えるというのですか?」


「それはその、、」


 トワの顔が曇りがかる。


「あの~すいません、、」

「アンタには聞いていない!!さあ教えてください」

 インテは洛錬の言葉には聞く耳を持とうとしない。まるで洛錬のことを信用していないようだ。


「それは、、」

「納得がそんなに重要なことなんですか?」

「何?」


「この世には納得できないことが沢山あるんです。納得できず逃げたくなるときもある。いや俺は納得できないから逃げた。そんな俺が言うのもおかしいと思うんですけど俺のことを信じてください。なんで途中からしか参加できなかったか詳しくは話せないけど今度は皆を守る為に戦うからただ信じてください」


「一つ良いことを教えてやろうラクとやら。私の使うこの眼鏡型の『ガジェット』、『グラスゲス』の能力の内の一つは人が放った言葉の本当の真意を見極めることができる。だからお前が今ついたしょうもない嘘もお見通しだ」

 インテは眼鏡をクイッとあげ洛錬を睨む。


「はっ...!」

 洛錬は息を飲む以外することができない。


「すみませんトワさん僕は彼とは一緒にやっていけません。ではまた戦場で、失礼します」


 インテは一礼をし、部屋を出ようとする。その際トワの傍にまで近づき

「あの男は我々の為に戦おうとはしていない」

 と耳打ちを残して部屋を後にした。


 トワからは困惑する表情が見て取れる。一体彼は何をトワに言ったのだろうか。


「はいは~い、うちのインテが空気を壊しちゃってすいませ~ん」


 右手を挙げる橙色の髪の男。椅子から立ち上がりその口を開き始める。洛錬はその男の短髪の髪とその口調から先ほどの男とはまるで違うチャラついたタイプのように感じた。


「初めましてヒオン国国防軍特別部隊『流星の爆発』の『ダイ=ムラホ』で~す。俺の使う『ガジェット』はこの『スプラプッシュ』です。よろしくー」


 ダイという男はポケットからボトル型の道具を取り出す。長さは8cmほどであり手のひらサイズで、上の部分が押し込めるようになっておりかつ口がありそこから何か吹き出せるような形をしている。まるで香水のボトルのよう。


「まあうちのリーダーのインテ、、『インテ=グラサイ』は昔から堅っ苦しいやつでね。悪い奴ではないんだけどああいう()()()()()()()()()()()を言ってしまう損な役回りばかりする性格なんですよ。でもねラクさん、俺はアイツのことを信頼しているから言わせてもらうけど嘘はダメだよ」


 自己紹介をしていた時はへらへらとした口調だったダイが神妙な趣になってラクに言葉を投げかける。


 何も言い返す言葉が見当たらない。


「ま、俺の場合戦ってくれるならなんでも良いけどね。じゃあ次の人よろしく~」

 右手の親指から中指にかけて3本の指を一度に挙げた後自分が元いた席に戻る。


「じゃあ私行きます!」

 勢いよく挙手をするツインテールのピンク髪の女。


「私はヒオン国国防軍特別部隊『春風の香り』の『サク=ケラスス』です!トワ先輩の後輩としてお世話になりました。使うガジェットは普通に『マギアスタッツ』です。一生懸命頑張るのでよろしくお願いします!!」


 自己紹介後も勢いよくお辞儀をする。また彼女の『マギアスタッツ』というものは長さが80cmほどでありよくゲームのキャラクターが身に着けている魔法の杖イメージ通りで、片手で握れるほどの太さの支柱に半月型のパーツがくっついている。彼女はその杖を大事そうに抱えて椅子に座りにこやかに笑っている。


「じゃあ次は俺の自己紹介をさせてもらうぜ!俺はヒオン国国防軍特別部隊『不屈の筋肉』の『ボデ=プロイテン』だ。力だけならこの国で三人を除いて負ける気が無い男だ。俺の使う『ガジェット』は皆も知ってるこの『プロティアンバングル』だ。よろしく頼むぜ!!」


 髪を後ろでまとめている緑髪の身長が190cmほどありそうな巨漢の男はよく通る声で自己紹介をし、腕に『プロティアンバングル』という金属光沢のある腕輪を身に着けたままの右手拳を正面に上げている。





 それから残りの26人の人達の自己紹介が行われた。


 トワから話を聞く限り『ガジェット』というものはどうやら特別の能力を持つ物の総称のことを指すらしい。さらに大抵の人が使うガジェットは『マギアスタッツ』と『プロティアンバングル』のどちらかばかりでそれ以外のガジェットを用いる人はトワを含めてたったの四人。ガジェットを『複数個』用いるのは中でもトワだけ。 


 例外的なガジェットを用いるもう一人はソファに座り飲み物を飲んでいる紫色の髪の男『チト=フール』。眼鏡の男インテや橙髪のダイと同じ『流星の爆発』に属しているらしく彼が使うガジェットは腰に携えた『ナイフジャック』というもので切りつけた者のその切りつけた部位をコントロールできるらしい。

 

 彼は自身の名前と彼自身が使うガジェットの能力を説明するとそれ以上何も話そうとせずただ飲み物を飲むだけに戻ったのだった。洛錬が感じるにどのような性格なのかつかみどころのない男。ただそのキラリと光る紫紺の眼光は覗くだけで足元がすくんでしまいそうだった。





「どうですラクさん。君も紅茶でもいかがですか?」


 敵が表れるまでのしばしの休憩。このように紅茶を取る者、準備体操をする者、腕立て伏せをする者、椅子に座り眠たそうな顔を見せる者、トランプゲームに興じる者、何故か逆立ちをしている人までおり、人によってやることが千差万別である。


「ああいや俺は紅茶は苦手なんで大丈夫です」

 手を横に振って紅茶を拒否するラク。


「あ、私欲しいかも!!」

 手を元気に上げるトワ。

「ええいいですよ」

 そう言ってチトはトワに紅茶を振る舞う。


「う~んこれ美味しいわね初めて飲んだ味。これどこの葉っぱ使ってるの?」

「私の故郷の葉ですよ、美味しいでしょ。実は私は大好きなこの味を守る為に今日は戦うんです」

 チトが持つティーカップは小刻みに震えている。


 各々違うことをやっていた皆もその手を止め、沈んだ表情になる。


「あ~チト、確かお前の家はここからそう遠くない所にあったよな。そうか、、、」

 ダイは下を向いているチトの肩に手を置く。


「ええそうですね。まあ今何を言ったところでどうしようもないですから敵が来るのを待ちますよ。今は虎視眈々とね。どうです良かったらこの間に皆さんもこの紅茶飲んでみませ、、、」



『バンッ』と扉が勢いよく壁に当たる音が鳴る。その瞬間扉の外から現れた者は早口で次の言葉を述べる。


「北方より敵多数出現!!皆さんその、、気を大事に持って戦いに挑んでください!!」

「「「了解!!!!」」」

 

『気を大事に持って』一体何が現れてしまったのか。その言葉の奥にあるその真意が恐ろしく思う。

 皆は急いで部屋を出て小屋を後にする。





 部屋を出た後丘の上に現れたのは目を疑うものだった。


 皆はその光景に狼狽し声が出なくなる。声が出なくなるだけではない。右を見れば武器を落とす者が、左を見れば地面に突っ伏しその胃の中にある物を逆流させる者がいる。


「やっと出てきましたねトワさん。見て下さいよあれを。あれをやった奴人間なんかじゃ無いでないですよ、、、」

 トワに最初に声をかけたのは、先に部屋をでた『インテ=グラサイ』。彼は冷静を装っているものの声自体は震えその光景に絶句している。


「ええ私もそう思う、あんなことやった奴絶対に許せないわ!!ね、ラクもそう思うでしょ!!」

 トワの顔は怒りに満ちており眼光は鋭く光りただ歯ぎしりをするばかりである。


「、、、あ、ああ、ふっ、ああ、、俺も、、そう、、、」

『グボッ』

 洛錬は吐いた。自分の選択を悔い、その目の前にある景色に恐怖し、これから先にある最低最悪の戦いを憂い吐いたのだ。


 彼らの視界にまず一番最初に入るその景色は100人単位の素っ裸の人間の集まり。













 文字通りの『人間の集まり』だった。


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