表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/11

五話 『目には目を歯には歯を怪物には鉄槌を』★★★

紀元前18世紀に作成されたハンムラビ法典に記述された『復習法』は『やられたらやり返すのはやられた分のみにしなさい』という決まりで、過度な復讐を抑える役割に用いられたそうだ。

 ギリギリともいえる攻防を制した洛錬達。なんとか怪物にたどり着き爆発を起こしたが今までの努力を白紙に返すように目の前の怪物にはどこの欠損も無く、平然と次の攻撃を始めようとしている。

 

 距離にして5m。

 数字に直してみれば離れているように感じるが化け物の全長が5mほどあるせいで実際の距離以上に近くに感じる。


 洛錬は急いで自転車にまたがりこの場から逃げ出そうとペダルをこぎだす。

 

 右手にハンドルのゴムより硬いものを握っている違和感を思うと、不思議なことに右手には先ほど投げた『サイコロ』のような道具が手の平に戻ってきている。特に跳ね返ったわけでもないのにも関わらずどのようにして手のひらに戻ってきたのか。なぜ爆発が起こったのにも関わらず特にこの道具が無くなることなく今も手に存在しているのだろうか。更に先ほどはすべての面が6の目を表していたものが今ではすべてが5の目に代わっている。『カウントダウン』にでもなっているのか。そう多くない時間に洛錬の頭の中をさまざまな疑問がよぎる。

 

 頭を回すだけでなく足も回さなければならないが洛錬のすぐ真後ろには無数の枝がべったり付いてきており、追いつかれそうになり右にハンドルをきろうとも左にきろうとも追跡をやめようとしてくれない。

 

 洛錬は何度も敵の攻撃をかわし続けていたが、怪物が先ほどに比べて油断することなく自身の周囲を無数の枝を漂わせ防御を固めているせいで『サイコロ』のようなものを投げる余裕が無い。

 

 後方から先ほど見た『火球』に加え『雷球』が飛び化け物に飛散するがこれといった外傷が無い。さらに辺りに砂埃を起こしがら怪物に向かう『つむじ風の塊』のようなものが怪物に着弾しようとするが二本の枝を自身の前に持ってきてその攻撃を防ぐ。攻撃を喰らった二本の枝は綺麗に断面を見せつつその場に落ちる。がそれでも化け物にはまだ多くの枝が残っており決定打としては欠ける。


 次に洛錬の右側から3本の枝が飛んでくる。「またさっきと同じ攻撃か」と思い今まで通り急いで左にハンドルをきるが視界に入るのは迫ってくる5本の枝。


「こいつ俺の動きが分かっている!!」

もうこれ以上躱しようがない。


 「やばい殺される」と思い何とか自転車から飛び降りるが地面に叩きつけられ二回、三回と回転してしまう。

 

 洛錬は地面と激突し体中を殴打し足を擦りむくが枝の攻撃は喰らっていない。片や自転車の方は『パンッ!!!』と銃撃音のようにも思える爆音のタイヤの破裂音が鳴ったと思えばフレームも曲げられてしまいもうこれ以上使えそうにない。

 

 その場で地面に倒れこんでいる洛錬が「そんな!俺に出来る唯一の戦いだったのに」と心の中で毒づいた瞬間、


「避けて!!」



 と、あの女の人の声が聞こえる。

 

 頭上を取り囲む大量の枝の数々。逃げ場がどこにもない。が、洛錬は内心ビビりつつもニヤリと笑い左手で『指パッチン』をする。



 洛錬の周りには上にも下にも左右を囲む数百を超える木々の数々。木や自分自身が斜めであること、遠くに小さく先ほど上った山道が見えること、水が『ガァーー』と流れる音から先ほど上った山の山腹であることが分かる。

 また洛錬の右手には『サイコロ』のような爆発物が握り込められており、彼はある疑念が浮かぶ。

一つは『指パッチン』をした際に持っているものは自分と一緒に移動するのではないかということ。もう一つはこっちの世界と向こうの彼女のいる世界の『座標』がこの『指輪』の移動に関してリンクしているということだ。向こうの世界の丘の頂上がこっちの世界の山の山腹であることがひっかかるが目下の戦いが終わってから詳しく考えようと疑念を後回しにする。

 

 洛錬の左手には指輪が右手には『サイコロ』がある。この二つで何とか倒す方法はないか。


「頭を回せ俺。彼女が負傷したのは俺のせいだ。俺が、俺がなんとかしないと、、、」


『彼女が死んでしまう』と喉まで出かかるところを抑え、周辺を見渡す。だがどれだけ見ても周りにはただ木が生えているだけ。町まで出れば何か怪物を倒せる危険物の類もあるかもしれないが移動の足であった自転車は既に使い物に無く、第一町に戻っている時間は無い。


「どうすればいいんだ。この山の中にあるものなんて大量の木ぐらいしか、、、」とぼやきたくなるものの洛錬はあることに気がつき気持ちが高揚する。


「そうだ!もし今の考えが正しいのなら奴を倒せる!!いや俺が殺してやる」


 と小さく太い声で呟き左手を強く握りしめ行動を開始した。






 先ほどまで男が乗っていた『乗り物』は壊され、男は地面に倒れ大量の枝が男を取り囲んでいる。


「避けてーーー!!!」


 と叫ぶものの、彼女の声も虚しく目を覆いたくなるような大量の数の枝が彼を襲う。


 男がいた場所から大量の土煙が立ち上がる。煙が霧散し様子が見えるようになるとそこには誰もいない。顔を上に上げるも空中にはおらず、地面も枝によって削られた跡があるだけで地面を掘ったような跡はない。どこにも逃げられる場所もなかったのにも関わらず男の姿形が全く無く、まるでこの場から『消えてしまった』のだ。彼女は自身の目を疑い何度か瞬きをするがその事実は変わらない。


 植物の怪物も顔を傾げ不思議がっており行動も止まっている。


 トワは今が好機と言わんばかりに怪物に向かって地面を蹴り駆けだす。距離はおよそ50m。痛みこそないが右足は骨折してしまっているせいで普段に比べ速度が出せない。そのことを悔やむものの我慢して足を動かす。


 残り30m。


 化け物が自身を倒そうと近づいて来る女に気づくが虚を突かれたのか枝を巻き取ることが出来ておらず無防備である。植物の化け物は学習能力があるのか同じことを繰り返していると次第にその問題に関して学習し、こちらを苦しませてきたがその分想定していない問題が降りかかった場合対応するのに遅れてしまうという明確な弱点があるのだろうとトワは予測する。


 また彼女は奴の生体について『火球』や『雷球』の攻撃を特に喰らっていなかったことから何か耐性を持っているのかとも推測する。


『風の魔法』が効いたことから枝を切断してしまえば良いのではないかとも思うが、無数にある枝を切り落とす頃にはこちらもただではすまなくなっているだけでなく今の体の消耗的にそう何度も『魔法』を使えないのだろうと考える。

 彼女は使っている武器が『傘』の形状であるせいで切断するような行為に向いていないことを思い今回ばかりは愛用の武器に悪態を付きたくなっている。


「ああ、何て相性が悪いのだろか」と文句の一つでも言いたくなるが怒りを抑えその噛み殺した怒りの力を走る力に変え急ぐ。


 残り20m。


 また彼が投げ込んだ『サイコロ爆弾』も討伐こそできなかったが彼を必要に追いかけていたことから少なくとも効果はあったのだろうと推し量る。


 残り15mの所で怪物がこちらを目掛けて攻撃を始める。ざっと数えて5本の枝。


 一本目の枝を武器を使ってスライドさせ受け流し、骨折した右足を狙ってきた二本目を右足で踏みつけ無力化させる。『傘』の武器を空中で半回転させ菊座と呼ばれる部分の少し上を握り手元という本来持つ部分を上に向ける。そのまま口早に


「ワンウィンドスフィア!!」


 と叫ぶと『傘の手元』の部分から『風で出来た薄い膜の中を高速で大量の風が動き回っている』そんな風だけで出来た一つの塊が彼女を今まさに襲おうとしている3本の枝に目掛けて高速で飛び出し、接触した瞬間その場で何度も風が枝を切りつけ3つ全てを切断する。


 残り10m


 彼女は魔法を使った反動で立ちくらみのような症状が出てしまい気を失いそうになるが左手で頭を叩き何とか持ちこたえる。「魔法は使えて後一発。出来るのならばこの一発は奴の口の中にぶち込みたい」と思い、残りの攻撃を何とか捌くことを決めもう一度『傘』の武器を半回転させ次の攻撃に備える。


 残り5m


 怪物は残りの枝の多くを防御に回しており大きく開いた口を覆っている。攻撃に回している枝もあるがトワに攻撃をするのにはもう間に合わない。


 トワは口を守っている枝を無力化する為に『あれ』を使うしかないと考える。

それは髪を結んでいるヘアゴム型のガジェット『アラインゴム』を使うことだ。

 

 彼女がその『アラインゴム』を枝に向けて投げると口を守っている枝のところで自動に結び目が解かれ、手のひらサイズほどしかなかったゴムが突然伸び自動で巻き付け縛る。縛られた枝は地面に落ち、怪物はなんとか引きちぎろうと力を加えているがゴムは伸びようとすらしない。

 

 怪物の口ががら空きになり彼女は「今なら魔法が奴に通る!!」と嬉しく思う。

 

 なぜ今までこの便利な道具を使わなかったのか、それは今の彼女の状態がそれを証明している。

 

 彼女の首の周りには黒い輪が発生しておりその輪が首に食い込んでいる。息はまともにすることができなくなり、体から力が抜けていく。さらに怪物自身が結びつけられた輪を引きちぎろうと暴れる度にトワの首についた輪の食い込む力が強くなっているのだ。

 

 そのため『アラインゴム』を長時間使用してしまえば命がいくつあっても足りなくなるからだ。だがもうこれほど近くまで来てしまえば問題は無い。


 彼女は魔法を詠唱するため左手を親指を隠すように握りこみその手の甲を右手で覆う。その瞬間トワ自身についている黒い輪は消え怪物の枝を縛っていた輪は元の『ヘアゴム』に戻る。

 

 輪は消えさったものの突然のことに対応できず化け物は枝を使って直ぐに攻撃をすることがでない。


 また彼女が口に向けて魔法を撃とうとしているのを察してか化け物は噛み殺そうとこちらに顔を近づけようとしない。


 トワは「今だ!!」と思い、首が絞められむせ返りそうになっているままではあるが詠唱を始める。


「っ、、フレイム!!」


 と言いかけた途端、植物の化け物は『ガボゲゴボゲァアーーー!!!』と気持ち悪い咆哮と共に口の中から透明な唾液を広範囲に向けて放つ。

 

 化け物が追い詰められて初めて放ったものだからこそ奴にとっての秘密兵器のようなものかとトワは感じ危険を察する。

 その為本来放つ予定だった魔法を唱えず防御を行う。その場で『傘』のような武器を半回転し逆側を持ち、手元を反時計周りに回転させると傘が開きその本来の役割を果たそうとする。

 

 傘に付着した液体は一瞬にしてどこかに消えも防ぐものの彼女の判断が遅く左半身にかかってしまった。服は一瞬にして溶け、左肩の肉は溶け肉体の中にある白いものが今にも現れそうになる。

 地面についた唾液は一瞬にして地面を腐らせドロドロにし色は真っ黒に変わる。

 

 化け物はもう既に防御の姿勢に戻っており口は枝によって塞がれている。更に彼女を襲う5本の枝が正面から向かって来る。武器である『傘』を唾液の防御に使ってしまったため瞬時に武器として使う使い方に戻すことができず、枝を弾き飛ばすことができない。更に彼女の両側は汚染されてしまった土で後ろ以外逃げ場が無い。



 が、後ろを振り返ると迫ってくる3本の枝。完全に八方塞がりだ。


「本当にやばい!!」と思った矢先、彼女は上に向かって大きく飛ぶ。『一回、二回』と右足で空中を蹴り上げ2段ジャンプをする。怪物の頭上ほどではないが口に並ぶほどの距離まで上がった。しかし待ってましたと言わんばかりに下にあった枝は軌道を変え上に向かって飛んでくる。


「あっ、もう駄目!!誰か助けて!!」









 そう彼女が心の中で思った瞬間、願いが叶ったのだ。そう彼だ、彼が表れたのだ。一度彼女が英雄視した男がタイミングよく現れたのだ。


 彼が表れた場所は化け物のちょうど真上であり、高さにして地上から10m。だがただ現れただけではない。先ほどは『自転車』を持ってこの世界を訪れ時間稼ぎだけしかできなかった男は次は怪物を倒すためのものを持ってやってきたのだ。いや正確に言えば持ってきたのではなく抱えてやってきたのだ。






 それは『木』。


 ただの単なる『木』だ。洛錬は森林に普通に生えている『木』を向こうの世界から持ってきたのだ。しかしただの『木』が、どのような道具を使っても倒せなかったハエトリソウのような『草』の化け物を今まさに潰そうとしている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ