十話 『トワの当惑』
「大丈夫ラク!?しっかりして!!」
トワは横にいる男の背中をさすり介抱している。介抱をするものの苦しそうにするラクの顔を見て彼女の頭の中にあることは自分の行った選択は本当に正しいかと考えるばかり。
本来民間人である横にいるこの男を連れてきて良かったのか。確かに先ほどは同じ戦場で戦った仲である。しかし彼の上半身の余分な肉の付き方、剣を握ったり農具をもったりしたことすらまるで無い細い腕、自分よりも遅いその走力、全くと言っていい程この世界についての知識が無い。それらのことから考えるに彼はこの国の『一般人』よりも弱い。少年少女にすら簡単に負けるだろう。確かにシスがいれば死ぬことは無いだろう。しかし死ぬことが無いからといって本当にラクをこの戦いに参加させて良いものか。ラクはまだ知らないかもしれないが戦いによって削られるものは肉体的なものだけではない。怪物となら戦うのが大変であったとしても討伐するだけで済む話である。しかしそうでない相手の場合、戦うことによって精神すらも削られてしまうのが戦争だ。そのことを知らない、本来守らなければならない対象であるラクをここに連れてくるなんて私は軍人失格だろう。でもあの指輪の能力と向こうの世界の知識が欲しい。彼では無く指輪さえ貰えればそれだけで、、、。いけない人を道具として見てしまった。ラクには感謝してもしたりない恩がある。それは紛れもない事実だ。だからそんな恩人を本当は戦いに参加させるべきではないのだろう。それでもあの世界の力を借りたい。先ほどの戦いを経て向こうの世界の技術とそれに関する知識があればこの戦いを、さらにこれから先に待つ戦いをより有利に進められると実感した。でも彼を巻き込んで良いのか、でもあの世界はあの世界は、、、!!
――20分前
トワは目の前に飛び散っている木と植物の化け物のの破片が辺りに飛び散った血によって真っ赤に染まっている。その血は今一緒に戦った男ラクの体内から飛び出したもの。急いで戻らなければと思い、色々な物が散らばった先にある指輪を手にする。
トワはラクがこの指輪を装着し指パッチンをすることによって移動していたことを思い出し、左手の人差し指に装着するものの彼女はすぐに実行しようとしない。
シスが来るまでの間にはもう少し時間があったはずと自己完結し周辺を散策することを決める。まず初めに『ゴヴァー』と連続して音の鳴る方へ体が誘われる。
彼女の目線の先にあるものはまっ平な壁が辺り一面に連続して並んでいて、その中心から水が勢いよく流れているものであった。
彼女は単に『凄い!!』と思うこと以外適当な感想が浮かばず空いた口が塞がらない。どのようにしてあのようなものを作り出したのか、何故あのようなものを作り出そうと思ったのか理由が気になる。
もっと他の物が見たい。もっともっと他に凄いものはないのかと子供のように目を輝かせる彼女は山を下り始める。
道中砂利道が見かけられそれに沿って山を下る。だいぶ下った頃であろうか平坦の道が見えてきた。曲がり角の先から聞こえてくる『ブーン』という一定周期の力強い音。一つではない二つ三つとその音が聞こえる。
「あっちだ!!」
「急げ急げ!!」
という声に驚き近くの木陰に隠れる。その声の主たちは何やら奇怪な服装をしている。上下が青を基調とした服に帽子を被りその帽子の中心には金色に輝く勲章のようなものが付いている。一体何者かと思うが彼らが来た方に隠れながら進んでいくとそこにあるのもまた不思議な物。上部が白色で下部が黒色をしており一番上には赤色のガラスのようなものがくっ付いている。馬車の荷台のように車輪が合計4つ付いてるものの荷台を引っ張るはずの馬がどこにもいない。それどころか本来荷台であるはずの場所だけで完結している。また馬車に比べて車輪が小さくその変わり車輪が太い。
さらに遠くの方からも同じようなものが一つこちらに向かってやってくる。彼が乗っていたものよりも圧倒的に速い。座っている状態で円形のものを動かせばそれに合わせ『それ』自体も同じように動く。
「か、かっこいい!!」
と思わず声が漏れてしまう。
『それ』が停止したと思えば同じようなものが既に4つもあり到着した新たな一台を加えてこれで5つ目。
新たな一台の扉が開いたと思えばそこから先ほどみた人たちと同じような格好をした人たちが降りてくる。トワはもしかして彼らの服装は何かの制服だろうかと思うばかりである。
降りた二人は何やら会話をしている。トワは『ポーチ』型のガジェットから『双眼鏡』のようなものを取り出しその筒の中を覗く。その双眼鏡からは二人の姿が見えるだけでなく会話も聞こえてくる。
「おいおい爆発があったってマジかよ」
「本当らしいですよ、加藤さんほら山の上の方見えます?あの辺木が無くなってますよ」
そう言って若い警察官は山の上の方を指で囲む。
「あーあの辺か、うわマジじゃねーかよ」
「ええ、どうやら4回も爆発が起こったらしいですよ」
「4回!?こりゃあ複数犯かもしれないな!!」
「ええテロとかだとしたら恐ろしいですね。それにもう少し先にあるダムが爆発でもされれば今頃、、、」
「...下にある家は流されるだろうな」
少し年を取った先輩警察官は落ち込んだ声でそう話す。
「それで、誰か負傷者とかは?」
「今確認に向かっていますよ。多分消防も救急車ももう少しすれば到着するかと...」
「それまで俺たちはここで待機か...」
「ええ」
二人の会話を聞いてトワが真っ先に思ったことは急いで戻らなければならないということであった。急いで戻らなければ化け物の残骸とラクの亡骸を回収されてしまえば助けられなくなってしまう。トワは傷つき憔悴してしまった肉体に鞭を打ちつつも木から木へと乗り継ぎながら猛スピードで元いた場所へ向かう。
「あった!」
辺りに人の影はない。どうやら彼らはまだ来ていないらしい。
トワは急いでラクの死体と化け物の破片を集め、ラクの見よう見まねで『指パッチン』をした。
「おいこの辺だぞ!!」
二人の警察官が先行して現場にたどり着く。その先にあるのは辺りに散らばった大量の血。木がなく不思議と開けている中心には血の池が出来ている。さらにそれを囲むように乱雑に木が並んでおりそのどれもが下の方に爆発した跡があり根本からやられたようである。
「うわーーー!!!!な、なんですこの血の量」
後ろから別の警察官が駆け寄る。
「大丈夫か!?」
「だ、だ、大丈夫です。しかしこれは、、、」
「間違いなく大事件だな。至急報告だ!!」
目の前に見える横たわった大木に乗り物の残骸。
「戻って来たってことかしら、、、」
急いで小屋に戻りシスを呼ばなくてはいけないと思いつつも先ほど見た光景が目に焼き付いており胸が躍る。ああもっと向こうの世界のことが知りたい。もっと、もっと!!
「おいトワこれはどういうことだ?」
背後から聞こえる声に驚き一瞬で体を後ろに回し後退する。
「おいおい私だ、大丈夫か?」
「ああ何だシスね、もう戻ってきたの?」
「何だとは何だ、、、まああとあれだちょっと伝えないといけないことがあって早めにこっちに戻ってきたのだが、、全滅じゃないか。それに向こうにあったあの残骸は何だ?それに今トワが持っているそれとそれも」
そう言ってシスはトワが抱えているラクの死体と化け物の残骸を指さす。
「詳しい話は戻って話すわ、ちなみに他の皆は?」
「もう先に蘇らせておいたよ。彼らもあの車輪のついたものに興味津々だったぞ」
「それもまとめて話すわ」
二人は監視部隊がすでに配置に向かっていることを確認し、丘を下り小屋に向かって
行った。
「ふう~これでもう蘇ったぞ、後は彼が目覚めるだけだ。それと、、別の世界があるって言うのは本当かトワ?」
シスは初めて聞いた『別の世界』という言葉に対し大変疑問を感じている。
「ええ本当よ、確かにこの目で見てきたわ。その世界は私たちの国には無いよく分からない物を複数操っていたの」
「トワが知らないものがあるとするなら別の世界かは疑問が残るが確かにこの国では無いことは確かだな。...今言ったのもガジェットなのか?」
「いやどうだろう、ちょっと分からないわ。でもあれを上手く操ればこの戦いを有利に進められるのは確かね」
「それでこの男か」
そう言ってベットで寝ているラクに視線が向く。
「ええ、彼...ラクは向こうの世界からやって来たらしくてね、さっきあった機械の残骸も元々は彼が操っていたものでね、凄く早く移動ができる乗り物だったわ」
「なるほど、、向こうの道具を操れる男か。確かにできれば戦いに参加してもらいたいものだな」
「ええそうなの」
「ちなみに彼は何て言っていたんだ?」
「いや特には、、」
「じゃあ彼の気持ち次第だな」
「...ええそうね」
トワの顔が少ししょんぼりとする。
「あ、あとシス伝えないといけないことって何?」
トワはそういえばシスは何かを言うために時間を巻いてこちらにやって来たことを思い出す。
「ああそれか、実は『キャス』の野郎がどこかに行きやがってな」
「えっ?アイツ今いないの?」
「ああそうだ、伝令の子が駆け寄って何か言ったと思えば私に何も告げず血相を変えてどこか行ってしまったぞ」
「え~最悪呼ぼうと思ってたのに、、」
トワは切り札になり得る男『キャス=ルー』がいないこと聞き意気消沈する。
「まあ諦めてくれ」
「そっちの戦況は大丈夫なの?」
「こっちは大丈夫だ。ふふっ、あの『おっさん』が馬車馬の如く暴れていたぞ」
「『おっさん』じゃなくて『リージュ大佐』でしょ」
「失礼、失礼まあそういうことでこっちは大丈夫だ。それよりも、、」
シスの目線が小屋の外に向く
「こっちの方が問題ってことね」
「ああ本当は人をよこしたいんだがな、、、」
「良いわよ、私たち特別部隊の方で何とかやっとかないと。ねえ?」
そう言ってシスの顔色を疑うトワ。
「ああそうだな、私たちが解散させられるかもしれないしな。ということで彼か」
「ええ、早く目覚めて欲しいわね」
「なあトワそれよりも残りの道具は大丈夫なのかい?」
「う~んちょっとマズイわね。もう朝からの戦いで『ポーチ』の中に残っているものはほとんどないわ」
「おいおい本当に大丈夫なのか」
シスがポーチから目をそらすとその目線の直線上にいるラクに目線が移る。
瞼がピクリピクリと何度か動き男の瞼が開く。
「おっ先に彼だ。どうやら目覚めたらしいぞ」
私は今から彼に戦うことを迫らなければならない。人として最低かもしれないが切り札であった『キャス』がいなくなってしまった今甘いことは言ってられない。この戦いの後は戦うことを強制しなくても良くなるだろうが今だけは力を貸してもらうしかない。
―ごめんなさい、ごめんなさいラク。
トワは必死に嘔吐をしているラクを介抱している。彼女達の先にいるのは先ほどの戦いよりも得体のしれない化け物。正直ラクが吐いていなかったら今頃私が吐いていただろうとトワは思う。
私は私の意思で彼に戦うことを強制させてしまった。後々はどのような叱責も彼の失意も要求も甘んじて受け入れよう。でも今だけは、向こうにいる皆の為にも心を鬼にして彼に協力してもらわなければ。
「大丈夫ラク!?」
「も、もう大丈夫落ち着いた」
「...分かった、じゃあ行きましょう」
「ああ任せてくれ!!」
ラクの力強い返事。
トワはラクの力強い肯定に幾分か疑問に思う。なぜ彼はここまで私たちに協力してくれるのか。なぜ戦うことを選んだのか
――今までどんな人生を送りここにやって来たのか
ただただ疑問に思うだけだった。




