忌み子のメイドは主人の婚約破棄現場に遭遇しました
作中にレ〇プ描写があります。受け付けない方はブラウザバック推奨。
「メアリー!! 貴様は僕の婚約者に相応しくない! ここに婚約破棄を宣言すると共に、新たにこの男爵令嬢のリリスを婚約者とする!」
貴族学校の卒業パーティーの会場に、この国の第一王子、ウィル王子の怒号が響き渡る。何事かと人々の注目は一人の女性に注がれた。
女性の名はメアリー・ファルクラム様。現在婚約破棄を突き付けたウィル王子の婚約者で、公爵令嬢である。
雰囲気は凛としていて風格があり、一方で、冷たそうな印象も持たせる。長い美しい銀髪を束ねた女性だ。ちょうど、王子に肩を抱かれたリリスと呼ばれた女性がはつらつとして、ピンクブロンドが元気そうな印象を持たせるのとは対照的だ。
そんなメアリー様を心配そうに見つめる私の名前はアイギス・ファルクラム。齢18歳。一応、公爵家の養子でメアリー様の義理の姉にして専属のメイド……義姉でメイドというのも変な身の上だが、私には色々と複雑な事情がある。
***
…………私はいわゆる、忌み子である。
18年前に起こった戦争で、母の故郷は敵国に占領された。敵国と我が国は数百年間に渡り、血で血を洗う民族紛争を繰り返す仲であり、その時も占領地では凄惨な民族浄化が行われた。
母は殺されはしなかった。
だが、当時13歳で美しかった母は、敵国に拉致されて何人もの男達にかわるがわる何度も何度も凌辱されたという。
何人の男に犯されたか、本人も数えるのを止めた辺りで停戦協定が結ばれ、収容所の酷い環境から生き延びた幸運な捕虜達と共に彼女は釈放され、奪還された故郷に帰ってこれた。
だが、帰って来れた時には、母の故郷はとうに灰になっていた。家族親戚も殺されたのか、どこかに逃げ散ったのか、連絡が取れなくなっていた。
そして、その時の彼女のお腹には、父親の分からない子供が宿っていた。それが私。
別に珍しい話じゃない。探せば、似たような話はいくらでもあるだろうし、なんなら恐らく敵国にも私と似た境遇の子供がゴマンといるだろう。
何も残っていない故郷。そして、お腹の子供……当時の私はもう、堕胎できない程に大きくなっており、生まないという選択肢は取れなかった。
絶望の末、もういっそ首でも括ってお腹の子供と一緒に死のうと、ロープとそれを吊るせる場所を探して廃墟になった故郷をぶらぶらと放浪していた時に、偶然出会ったのが、のちに私の義理の父になる公爵様だった。
虐殺と略奪の痕跡の調査を行っていた公爵様は、明らかに異常な様子の母を見つけると、「早まっちゃいかん」と落ち着かせ、屋敷まで連れ帰る事にした。
その時の母の様子といったら、目に光は一切宿っておらず死んだ魚の様。お腹の重さで足を引きずって、まるで手負いの獣の様であったという。
事情を知った公爵様とその奥方様は、母のあんまりにもあんまりな状況に同情が湧いたらしい。彼女を名目上の妾にする事で、庇護する事にした。
ちょうど、奥方様も公爵様の子を妊娠しており、放り出すには気が引けたのだろう。
そうしてしばらくして生まれたのが私と、メアリー様だ。
奇しくも、同じ月の同じ日に、数時間だけ、私が先に生まれた。ここに血は全く繋がっていないが双子の姉妹(?)という奇妙な姉妹が誕生した。
私は、有事の際にメアリー様を死んでも守れと、母から『アイギス』なんて洒落た名前を付けられ、公爵様の元ですくすくと成長し、メアリー様に侍女として仕え今に至る。
母は自身を救ってくれた公爵様と奥方様に心酔して、PTSDによるフラッシュバックに苦しみつつ、子供の私に公爵家への絶対的な忠誠心を植え付けたので、私は義妹大好きな自他ともに認めるシスコンかつ、忠臣に育ち、メアリー様もメアリー様で、私を姉というより同い年の親友の様に接してくれている。
強姦されて出来た敵国の人間との間の子、という、血筋的には平民にも劣る私をだ。母が公爵様夫婦に心酔する様に、私も私で、メアリー様には大きな感情を持っている。
さて、そんな状況での婚約破棄宣言である。必然、私はブチ切れていた。表には出さないけど。
…………メアリー様の経歴を汚しやがって。
だいたい、昔からあのバカ王子の事は嫌いだった。メアリー様と相性が元々悪かったのは、互いに思想信条や価値観が違うのだからまだ良いとして、あいつは私と初対面の折、私の出生の事を散々嘲ってきやがったのだ。
どれだけ、私が屈辱を覚えた事か。一応、私の出生については伏せられていて、公爵様がどこからか拾った子供を養子にし、メアリー様に仕える専属侍女にしたという事になってはいるが、知っている人は知っている。
それからというものの、私の出生を事ある毎に嘲ってきたのが、あのバカ王子である。分別の分からぬクソガキ時代だけならまだしも、ある程度落ち着いた年齢になっても、公衆の面前で私の出生をベラベラと話し物笑いの種にしているのだから始末に負えない。人の心というものが無いのか貴様。
幸い(?)、事情が事情なのでその話を聞いた人達からは同情の視線で見られる事が多いが、これはこれで惨めな気分にさせられる。
人のコンプレックスをネタにする奴に、ろくな奴はいない、というのが私の持論である。
ウィル(呼び捨て)は、貴族令息達に粉をかけまくっているリリス嬢を、メアリー様が窘めた事を誹謗中傷と言ったり、やれ教科書を破いただの、やれ階段から突き落としただのといった罪状を並び立てた。
まあ、なんというか、こんな最近流行りの恋愛小説にありがちな糾弾、本当にあるんだなと逆に感心してしまう。
興味深いが、あまりよろしくない状況なのも確かだ。さて、どうしたものか。今こそ、アイギスとしての役目を果たすべきなのに。
「……チッ」
あまりにも傍若無人な物言いに、思わず舌打ちをすると、ひとまず間に割って入ろうと前に進み出ようとした時である。
「アイギス姉、まぁ、まだ待ちな」
「あなたは……ここにいたんですか」
見ると、現場に介入しようとする私の腕を掴む男の人が居た。彼の事は私もよく知っている。
年は私達姉妹より一つ下の17。一見、少女にも見える中性的な美少年で、長い美しい黒髪を後ろで束ねて、その姿は一見、人懐っこい黒犬の様。その青い瞳は冷静そうな印象を持たせた。
彼の名前は、スキュラ・ファルコ。公爵家に仕える家の出身の青年である。彼もこの貴族学校に通っている。
割と飄々としていて、捉えどころがないが、我々姉妹の危機には、どこからともなく現れて颯爽と危機を撥ね除けて去っていく。物語のヒーローみたいな男である。時折、私がメアリー様にかっこいい所を見せようとした場面で美味しい所を持っていく事もあるので、その辺りは空気を読んで欲しいと思うが。
ま、『スキュラ』なんて、女みたいな名前と容姿のくせに、かっこいい奴なのは認める。実際、私達の弟分みたいな所もあるので、可愛がってはいる。忠誠心があるのは良い事だしね。
「スキュラ。この状況でよく落ち着いていられるわね」
「焦る場面じゃないからね」
あっけらかんと言うと、スキュラは目線でメアリー様を見る様に示した。
「私は誹謗中傷などしておりません。リリス嬢が多くの殿方と関係を持っているので、『誰か高位貴族の子を孕んだらどうするのか。色々と面倒になる。確かにこの国では一夫多妻は認められてはいるが、それでも正室の理解と許可があって初めて側室を娶れるのに』と苦言を呈しましたが、それが誹謗中傷に当たるのですか?」
「……は? え? 多くの殿方と関係?」
突然の爆弾発言にアホ王子の脳は、完全に対応出来ていなかった。ゆっくりと彼は視線をリリス嬢に向ける。錆びた機械を無理やり動かした時の様なギリギリと音がした錯覚がした。
「ち、違います! 私はそんな事!!」
「そ、そうだよな! リリスがそんな事をするわけがない! 適当な事を言うのもいい加減に」
「ああ。証拠ならありますよ。彼女と寝た殿方のリスト。それから魔導写真機で撮られた写真も」
「?!」
王子はひったくる様にそれをメアリー様から奪うと、食い入る様に見つめた。……ああ、絶望的な顔になっていく……。愛していた女がとんだ糞ビッチだった感想はいかに。寝取られ趣味でもない限りかなりのダメージだろう。同情はしないけど。
私の隣では、くすくすとスキュラが笑いを噛み殺している。
「俺が用意した証拠は効くなぁ」
「あれ、貴方が用意したの?」
「バカ王子が何か良からぬ事を企んでいる、なんて聞いたからな。こちらも報復兵器は用意しておいた」
そう言えば、彼もウィルの事は嫌っていたわね……。
「何してくるか、読んでいたって事」
「ああ。メアリー様には王子がこうしてきたらこうする、みたいな、対応策を叩き込んである」
絶望しつつもウィルはまだ食い下がる。
「ならば教科書が破かれたり、階段から突き落とされたりといった事は? こちらには証人もいる!」
「それはいつの時かしら? 私には身に覚えがありません」
殺気を出しながらリリス嬢に問うメアリー様。リリス嬢は冷や汗をかきながらも返答する。
「……教科書は一週間前の放課後。突き落とされたのは三日前の放課後です。メアリー様らしき影を見ました!」
「妙ですね、その時私は第三者と一緒にいました。確認していただいてもよろしい」
「っ!?」
「……まさかと思いますが、自作自演ではありますまいな?」
完全に蛇に睨まれた蛙といった感じで、メアリー様に睨まれ、しどろもどろに動揺するリリス嬢。
「待て! 人を使ってやったのだろう。この悪女め! こちらには証人もいるのだ!」
「……私らしき影を見たと言ったではありませんか。まぁよろしい。証言してもらいましょう」
「ふ……お前達!出てこい! 」
ウィルが叫ぶと何人か、貴族学校の生徒が出てきた。彼らは心なしか、かなり憔悴している様だった。
「さぁ、お前達、証言するのだ。メアリーがリリスに嫌がらせをしていたと!!」
自信満々に言うアホ王子。だが、証言者達はお互いに目を見合わせて口を開かない。
「どうした! 言え! それで全てが終わる!!」
そのうち、一人が重い口を開いた。
「メアリー様は……嫌がらせなどしておりません! 全て、リリス様による自作自演です!」
「なっ?!」
残りの証言者とやらも、皆同意して首を縦に振る。負けを悟ったのか、「ああああああ」と言って崩れ落ちるリリス嬢……何だ、この茶番。
見ると、私の脇ではスキュラがククク……声を抑えて笑っていた。
「……何か仕込みでもしたの?」
「なに、古典的なやり方、さ! 脅迫、もしくは利益をちらつかせる事で、あいつらをこちらに寝返らせた。無論、あのアホ王子がこんな事をしてくる可能性も含め、公爵様に話は通してある」
「……何だかんだ、貴方、結構策士ね」
「知力は数値で言うと、100点満点中の80点後半から、90点前半くらいはあると自負してるよ」
オロオロする王子を尻目に、メアリー様は毅然と言葉を続けた。
「……何故、こんな事を?」
「貴女を貶めれば、私がその位置に就けると思ったのよ……。畜生! 間抜け王子を虜にする事までは出来たのに!! 後は婚約破棄が決まれば、将来は王妃様として贅沢し放題だったのに! 流行りの恋愛小説の主人公達は、華麗に悪役令嬢をざまぁして、幸せになってたのに、何で私は……!」
「間抜け?! 今間抜けって言ったか?! それに私利私欲の為だと!? 俺を愛していたのではなかったのか!!」
突然の暴言に呆然とする王子を尻目に、メアリー様は言葉を続ける。
「……一生遊んで暮らしたいだけなら、何でその辺の商人や豪農を狙わなかったのかは謎ですが……強いて言うなら、貴女と私の違いはここと、信頼できる配下の有無ですかね」
「畜生!!」
自身の頭を小突いてリリス嬢を煽るメアリー様。……メアリー様が相手を煽ったりするのは珍しい。しょーもない小悪党相手というのと、先程から醜態を晒しまくっているウィルにもかなりイラついていると見える。
そして、メアリー様はこちらの方を向いて、何かを言った。私に、というよりスキュラに対してだろう。口の動き的に「ありがとう。助かったわ」といった感じか。残念ながら、今回はスキュラの手柄で、私は大して活躍出来なかった。少し悔しい。
「先程から黙って聞いておれば、何だこれは!!」
「ち、父上?!」
先程から、事の成り行きを見守っていた陛下がついにブチ切れた。そういえば、開会式でスピーチをする為に来ていらしたっけ。
王子と間女を除いて、ここにいる全員が頭を垂れる。
「公の場で、父上呼びは止めろと言っておるではないか。……まぁ良い。それより、公衆の面前で婚約者相手に婚約破棄宣言など、お主、何を考えておるんだ! 家と家の婚姻を何だと思っておるのだ! 大体、昔からお前は……!」
「わ、私はこのリリスに嵌められて……そ、そうだ、こ、これは茶番なのです! 私に婚約破棄されたメアリーがすがってくるのを見たくて、つい、この様な茶番を……!」
何言ってるんだコイツ……。さっきまでメアリー様を断罪してやろうとやる気満々だったじゃない。仮にすがってくるのが見たかったとしても心象最悪だし。
「…………はぁァァァ。少しお前の事は長男だからと甘やかし過ぎたかもしれん。お前の様なものは我が後継者に相応しくない。廃嫡、王籍から除籍の上、懲罰部隊に囚人兵として赴任を命ずる。女の方……リリスとか言ったな。お前は剃髪の上、修道院に入る事。そこで性根を鍛えなおせ」
「ち、父上~?!」
「修道院?! しかも剃髪なんて嫌よ! いやぁぁぁぁぁぁ!!」
あーあ、これは厳しい。特にアホの『元』王子の方。
懲罰部隊といったら、戦時には囮や真っ先に危険な作戦に駆り出される部隊だ。当然、所属するのは、ならず者や荒くれ者ばかりだろう。そんな環境でこの甘やかされてきた箱入り息子はどれだけ精神がもつことやら……。
まぁ今は平和な時代で良かったじゃないか。少なくとも、肉楯にされる事は無い。……今の懲罰部隊の主な任務は、敵国が定期的に侵入しては国境沿いにばらまいている地雷の除去とか聞くが。頑張って励んで欲しい。
「……メアリー嬢。うちの馬鹿息子が多大な迷惑をかけた。迷惑料などは日を改めて話し合いたいと思う。まずは儂から謝罪の言葉を送りたいと思う。本当に申し訳なかった」
……陛下は割とまともなのに、何で息子はあんなことになってしまったんだか……。仕事が出来る男が必ずしも良い父親であるとは限らないといった所か。一応、あんなのでも「ヒャッハー! 敵国人は皆殺しだー!!」みたいなマジモンの過激派よりはマシとは思われてはいたんだけどね……。それ以上にやらかしやがりました。
「陛下……。勿体なきお言葉を……」
衛兵に引き摺られながら、会場を後にするアホ二人を哀れなものを見る様な目で見つつ、メアリー様は淡々と陛下と話を続ける。ひとまず、これで一件落着といった所だろうか。
「やるじゃない」
私は、スキュラの手腕に素直に感心した。見事なものだ。
「そりゃあ、大事な主人の為さ。俺だって本気で助けるよ。それに、あの王子は俺も正直嫌いだったしね」
「むしろ、好きな人いるの? 権力目当て以外で」
「はは。違いない。……それにアイギス姉の為でもある」
「私の為?」
「ああ。アイギス姉はとても可愛いし、すっごく頑張っている。だが、それを生まれという本人にはどうしようも出来ない事でなじってくるアレには、俺も正直むかっ腹を立てていたんだ」
「嬉しい事をしてくれるじゃない。ありがとう。スカッとしたわ」
「どういたしまして」
そう言って、私達は微笑みあった。
***
「よくぞ我が娘を守ってくれた。活躍、天晴である」
「勿体ないお言葉」
卒業パーティーから数日後、私達は本拠地に戻ってきていた。
公爵様は功に報いる為に、スキュラを食事に招待した。屋敷の一角の食堂にいるのは公爵様夫妻とメアリー様、スキュラと給仕役の私である。
母の姿は無い。私の顔を見るとPTSDで過去の辛かった記憶がフラッシュバックして、文字通り吐きそうになってしまうので仕方ないが、いつもは田んぼのヒルの様に公爵様夫妻にくっついているだけに、寂しさも感じてしまう。一応、昔は育ててはくれてたんだけどね……公爵家への忠誠心刷り込む為に。
せめて普通に話くらい出来る様にはなりたいのだが……。以前に一度だけ言葉を交わした時は、「もし、貴女が将来結婚するなら、式には頑張って出るわ」と言ってくれたが……。果たして、いつになる事やら。相手も居ないし。
そもそも、私を貰ってくれる人とかいるんだろうか。公爵家の養女といっても、どこぞの元王子、現囚人兵さんのおかげで私の出生の秘密は広まってしまっている。私に流れる血に抵抗を感じる人は少なくあるまい。
そんな風に思いつつ仕事をこなしていると、公爵様夫妻の話は恩賞の話になった。
「スキュラ、何か貴殿に恩賞を与えたいと思っている。何でも好きなものをねだると良い。土地か? 金か?」
私はスキュラに近づくと、さりげなく耳打ちする。
「何でも、と言ってるけど社交辞令ってのもあるからね? 無難なものを頼みなさいよ?」
「分かっているさ」
スキュラはそう言うと、少し躊躇しつつ口を開く。
「……私は、公爵様の養女、アイギス・ファルクラム様を妻に迎えたく思います。どうかご許可をお願いします」
「ええっ?! いや、あの、それは無難じゃないっていうか……」
とんでもない爆弾発言を落として来たスキュラに、私は思わず素っ頓狂な声を上げた。
「ほう! とうとう言ったか!」
「あらあら、随分長くかかったわね」
「血は繋がっていないとはいえ、私の大事な姉よ。泣かせたら、私が本気で怒るからね」
「え……何で皆さん乗り気なんですか?」
公爵様や奥方様、そしてメアリー様までが、「よくやった!」という雰囲気になっている現状を、私は唯一、蚊帳の外で眺めている。
「スキュラはね、ずっと貴女に恋していたのよ」
「……初めて聞きましたよ」
メアリー様の言葉に、私は愕然とスキュラの事を見る。美少女の様な中性的な顔は、夕焼けの空の様に真っ赤に染まっている。
「むしろ、今まで全く気付いていなかった事に驚きなんだけど……。貴女が何か危機になった時には真っ先に駆けつけてくれてたじゃない」
「……それは……。メアリー様への忠誠心故かと……」
「そう言えばアイギス、貴女は昔から私にべったりで大体いつも一緒にいたわね……。ま、私への忠誠心もあると思うけど、メインは貴女にカッコいい所見せたかったんでしょうね」
少し恨みを込めた目で、小さくスキュラは「……鈍感」と言っている。……事実なので何も言い返せない。
そのままスキュラは席を立って、私の前に傅いた。そのまま、私の手を握ってくる。手も美人さんで、すべすべで私の方が少し嫉妬してしまいそうだ。
「アイギス姉、改めてはっきり言う。ずっと好きだった!! 俺の妻になってくれないか?」
「…………知っての通り、私の血はあまり綺麗じゃないわよ? それでも良いの?」
「それで嫌いになる位なら、初めから好きになっていない!」
「良いぞ! それでこそ男だ!」
「公爵様! ここで合いの手入れないで下さい!!」
もしかして、公爵様、スキュラの恋をずっと応援されていた? なんならこの場で一番楽しそうなのはあの人なんだが……。
「返事を聞かせて?」
「…………そりゃ勿論、良いに決まっているじゃない。昔から、色々助けてもらってたし。好きよ、私も」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
私の返事に盛り上がる公爵家の三人。あれ、外野が一番盛り上がっているぞ?
「いやぁ、アイギスは昔から自分を大切にしない所があったからね。幸せになってくれそうで、私も一安心よ……スキュラ、私の大切な姉兼従者を泣かせたら、死を賜るから、気張りなさいね!」
「はい!」
「いや、怖いですよ」
メアリー様、こんなキャラだったかなぁ……? 告白成功で変なテンションになっているご様子。
「というわけで、改めて。公爵様、アイギス姉を俺にくだ」
「婚姻を許可する。幸せにしてやれ! ま、まだお前は学生の身分だからひとまず、婚約という形になるがな。ちなみにアイギスを泣かせたら、鋸引きの刑だ」
「はい!」
「食い気味&猟奇的!」
まったく、この公爵家の人達ときたら……。他の貴族連中には見せられないな。
「……という訳で、よろしく。アイギス姉」
「う、うん。なんていうか……慣れないわね」
晴れて、彼と恋人同士になれた訳だが、恋人らしいことってなんだろう?
少し考えて、私は意を決して、彼の頬にキスを一つ落とした。突然の行動に、スキュラは驚いていたが、すぐにお返しとばかりに私の唇に、自身の唇を重ねた。
読了、お疲れさまでした。これにて、本作は完結です。
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