008『新たな召喚獣』
そのインフォメーションらしきものに、一瞬硬直する。
けれども直ぐに立ち直ると、思わずスイミーさんへと視線を向ける。
「……聞こえた?」
『……!』
知覚共有してるから聞こえてるよっ! と言わんばかりのスイミーさん。ぴょんぴょん跳ねる彼を見ながら顎に手を当てる。……うん、とりあえずスキルから召喚術式のところ見てみるか。それが一番手っ取り早い。
僕は多めに二十体くらいのスライムを召喚して周囲の警戒に当たらせると、早速ステータスから『Lv.2』になった召喚術式のスキルをタッチ。
すると目の前に現れたのは、大きな変化を遂げた説明文。
【召喚術式】
あらゆるモノを召喚、使役することが出来る。
自分の所有物を呼び寄せる『召喚術』の上位スキル。
所有物を呼び寄せる他、一度見たもの、あるいは脳内にイメージしたものを具現化し、召喚することが出来る。
また、通常の魔物を呼び出す《一般召喚》と、名を冠する《ネームドモンスター》を呼び出す《固有召喚》が使用可能。
《一般召喚》
・スライム
・ゴーレム
・ダークバット(new)
・エレメンタル(new)
《固有召喚》
・スイミー(スライムLv.8)
・ホムンクルスLv.1(new)
「ふ、増えてる……!」
説明文は多分一切変わっちゃいないが、召喚できる魔物がガラッと増えてる。実に二倍だ。しかもホムンクルス……新たに固有召喚できる魔物も増えてるし。
「なるほど、スキルレベルを上げることで固有召喚と一般召喚の魔物が増えてくって仕組みか……。これはわかりやすい」
極めれば極める程に……部下に仕事を任せれば任せるほどにニート生活に近づいていく、と。つまりはそういうことですね女神様。
さっすが女神様! ニートに優しい設定してくれるところに痺れる憧れるぅ。どうぞこれからもニートに優しい設定作りをお願いします。
「さて、一般の方も気になるけど……まずはホムンクルスの方だよな。気になってしょうがない」
『……!』
どうやらスイミーさんも気になってしょうがない様子。かつてない勢いでプルプルプルプル震えている。おいおいスイミーさん、そんなに震えたらスライムボディがちぎれるんじゃないか? なんか雫が僕の方まで飛んできてるぞ。
「……それじゃ、これ以上待たせたらスイミーさんやばそうだし。早速召喚、『ホムンクルス』!」
そう唱えると、目の前に大きな魔法陣が現れる。
通常召喚とは異なる雰囲気に思わず目を剥き、直後に僕を襲ったのは眩い光。くっそタイミングの悪い瞬間に光やがって! 目がやられた!
思わず目を押さえて呻いていると、その間にも光が止んだようで、僕はなんとか目を擦りながら前へと視線を向ける。
そして、再度驚き目を剥いた。
「……ん、貴方が、父様?」
そこに居たのは、美少女だった。
ひと房だけ赤髪の交じった黒髪に、血のように真っ赤に染まった双眸。
歳の頃としては……十五、六歳だろうか。
その肌は透き通るような純白で、まるで人形のように表情の欠落した少女は……なるほど『ホムンクルス』という名に相応しいのだろう。だが。
「す、すっぽんぽんじゃねぇか……!」
見事に全裸。びっくりした。
咄嗟にバスタオル召喚して彼女へ放りながら、僕は今更ながら自分の不覚さを呪っていた。
そうだ、そうだよ忘れてた。
ホムンクルスってあれだろ、瓶の中から出てくるアレだろ。なら服きてるわけねーじゃん! 未だかつて、服を着た状態でホムンクルスが生まれてきた作品知らねーもん!
ホムンクルスは首を傾げながらもバスタオルを体に巻いており、彼女は僕へと不思議そうに問掛ける。
「質問、答えてもらってない。貴方が、私の父様?」
「と、ととさま……?」
父親ってことか?
……まぁ、一応僕が召喚……作ったってことは間違いないんだろうが、なんかこの年齢でこの年頃の少女にそう呼ばれると気が気でない。
「……あー、たぶんそうだが、僕のことはソーマとでも呼んでくれ。この年齢で父さん呼びは社会的にちとまずい」
「了承、父様。これからは、ソーマ、とよぶ」
そんなことを言ってくるホムンクルス(バスタオル姿)。
その光景を前に頭をかいた僕は、大きなため息と共に苦笑を漏らす。
「よしホムンクルス。好きな服言ってくれ。すぐ召喚する」
☆☆☆
と、言うことで。
年頃の女の子の服を下着から何から全部召喚するというよくわからないプレイに興じた僕は、目の前でカッチリとした服装に身を包むホムンクルスを見つめていた。
「ん、ばっちし」
彼女はそう言って、その場でくるんと回ってみせた。
彼女の服装を一言で表せば、『黒軍服』だろうか。
といっても、どちらかと言えばガチな軍服ってよりコスプレのそれに近い。黒いワイシャツのような軍服の袖は肘辺りまで捲られており、ひらりとしたスカートの下には黒いストッキングが見えている。
頭の先から足の先まで黒一色。その中でひと房の赤髪と赤いネクタイだけが鮮やかに輝いている。
……うん。
どっからこのファッションセンスが生まれてくるんだろうね。僕の子供とは思えないや。
ちなみに、僕の使ってたヘルメットもお着替えする際に奪われた。
他人の使ってるものって輝いて見えるもんね。
僕の防御力は下がったが、まぁ、彼女がどこか嬉しそうにヘルメットを抱えているので良しとする。まぁ、抱えないでちゃんと被って欲しいけどね、お父さんは。
「満足したならよかったよ、ホムンクルス」
「……む。ソーマ。私の名前、ホムンクルス、違う」
「……あれっ? ホムンクルスじゃないのか?」
どういうことだろうと首を捻っていると、スイミーさんからなんとなーくだがフォローが飛んできた。
「……あっ、なるほど。ホムンクルスって言ってみれば『種族名』って奴か!」
「ん。そゆこと」
満足気に頷くホムンクルス。
確かに考えてみれば、スイミーだって種族名スライムの、名前がスイミーだ。きちんと種族名と名前は別にある。
となると、彼女の場合『ホムンクルス』が種族名で、名前は別、ってことか。
「ちなみに聞くけど、もう名前あったりするのか?」
「ない。父様……じゃなかった。ソーマが考える」
……まぁ、そうなりますよね。
さーて、人の名前考えるとかいうめちゃくちゃ重要な仕事が降って沸いたわけだが、一体どうしたもんだろうか。
全身黒だから『クロ』ってのも簡単すぎるしな……。そこまでゴテゴテした名前は要らないと思うんだが……逆に簡単すぎるのもなぁ。
「そうだ、なんか能力とかあったりするのか?」
「……のうりょく? たぶん、ある、と思う」
そういった彼女は、小さな拳を握りしめ、ふっと目の前の空間へとパンチを繰り出す。それは『フツーに食らったら僕、間違いなく一撃で倒れるな』って威力を持っていたが――
「うおぁっ!?」
唐突に、その拳が『燃え上がった』。
思わずビックリして飛び上がると、相も変わらず無表情のホムンクルスは淡々と能力説明を繰り出した。
「ひとつめ、『炎撃』。攻撃全てに『炎属性』、つけれる。威力と攻撃範囲、つよくなる」
「……一つ目?」
まだあるってのか?
そう頬を引き攣らせる僕を前に、彼女は無表情で言葉を重ねる。
「そのほかに、父様から、いろんな力を引き継いでる。ひとつ、勇者としての本来のステータス。成長速度。ふたつ、父様ほどじゃないけど、召喚術。みっつ、近接勇者としてのちから『万器使い』。武器ならなんでも使える」
「なにそのチート……」
もはや空笑いしか出てこない。
勇者としてのステータスと成長速度引き継いでいて?
物理戦闘お手の物、武器ならなんでも使いこなせて?
魔法攻撃だって炎に限ればお手の物で?
加えて僕の唯一のアドバンテージ召喚術を扱えて?
……うん、それってなんだかんだ言ってるけどアレだよね。
もうなんか、勇者そのものだよね。もう既に。
「そのうち聖剣とか扱い始めるんじゃないか……?」
そう苦笑する傍ら、なんだかんだでもう彼女の名前は決めていた。
早速知覚共有を使いこなしてるのか、考えた途端にピクっとホムンクルスが反応し、ずいずいっと無表情のまま詰め寄ってくる。少し怖い。
「父様」
「わかったわかった、一回離れろ。あと父様と呼ぶな」
至近距離で見つめてくるホムンクルスを引き剥がすと、改めて咳払いをして彼女に向き直る。
……まぁ、こんな短時間で考えた簡単な名前だが、僕的には結構お気に入りのこの名前。
「ホムンクルス――命名【ホムラ】」
炎を操り、炎熱のように真っ赤な瞳を持つ少女。
愚直だとは自分でも思うが、名前ってのは真っ直ぐにつけるべきだ。別にスイさんの名前をテキトーにつけちゃったから開き直ってるとかじゃなく。純粋にね。
そんな言い訳を内心積み上げる僕を他所に、彼女――ホムラはその名前を前に初めて頬を緩ませた。
「……ん。ありがと父様。きにいった」
「……そりゃよかったよ」
そう笑い返し、僕は内心でこう付け加える。
――あと、父様って呼ぶのいい加減やめような?
【現在のソーマ一行】
〇ソーマ
〇スイミーさん
〇ホムラ(NEW)
野郎の二人旅に女の子(娘)が追加しました。