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007『VSゴブリン』

 森に入って最初に気づく。

『あれっ、もしかしてうちのパーティ、索敵能力無さすぎ……?』と。

 普通ファンタジー小説だと「ふむ、俺の気配察知スキルによるとあちらにゴブリンがいるようだ」とかあるけど、なんか全然そういう気配とか感じられない。そして頼りのスイミーさんもまた索敵能力とかには特化していない様子。ゴーレムさんなんてもってのほかだ。


「さーて、いきなり躓いたぞー」


 腰の剣に手を添え、警戒しながら歩き出す。

 こりゃ地道にゴブリン探すしかないかな……。最悪向こうに奇襲をかけられても必要最低限の防具はしてる。緊急時のためにスイミーさんには召喚した回復ポーション(正式名称は不明)を持たせてあるし、一撃で死ななければ大丈夫だとは思うが……あぁ、痛いのやだなぁ、本当に。


「一応スライムたちにも索敵させるか……召喚『スライム』」


 同時に僕の周囲へと計十数体のスライムが現れる。

 彼ら彼女らを僕らを囲むようにして十メートルほど離れた場所に配置させれば……まぁ、辛うじて索敵能力擬きくらいにはなるだろう。


「よし、散ッ!」


 一度は言ってみたかったセリフ『散ッ!』。

 スライム達は知覚共有スキルで僕の思考は読めてるのか、想像した通りの十メートルくらいの距離を開けて僕らの周囲に展開する。これである程度は索敵範囲が広がっただろう。

 ……まぁ、本来ならこれの他に数体、単独での斥候に向けたいところだが……まだ並列思考で一気に処理できる情報量は少ないからな。これ以上増やして本体の注意が薄くなっては本末転倒。ここは現状のままで行くのがベストだろう。


「スイミーさんも注意頼むぞ……ぉっと、同業者か」


 スライムバリケードの一角に同業者――つまるところ冒険者の姿が映り、すかさずその方向から距離を取る。いくらでも召喚できるとはいえ、スイミーさんの仲間が冒険者に見つかって無駄死に……とか嫌だしな。あとついでにばったり出くわして世間話……とかなるのが面倒くさい。そういうのは普通の冒険者とやってくれ。僕はニートだ。


 というか、こんな短期間で冒険者パーティに出くわすとか……もしかして森入ってすぐの場所はゴブリンたちも数が少ないんだろうか。その、初心者冒険者の小遣い稼ぎで狩り尽くされる的なアレで。


「……少し奥までは行ってみるか」


 最悪強そうな魔物と当たっても、こっちにはゴーレムさん軍団がいる。知覚共有こそ全員には難しいが、どれだけ強い魔物でもゴーレムさんを数百単位で突撃させていけば足止めくらいにはなるだろう。

 と、そんなことを考えながら、僕は森の奥へと足を進める。

 ……にしても、何気ない今のセリフがフラグにならなきゃいいんだが。




 ☆☆☆




 森に入って、十数分くらいか。

 少し木々が深くなってきたなと感じ始めた頃、右方のスライムバリケードに緑色の影が映った。


『……!』


 僕を通じてスライムと知覚共有していたスイミーさんが跳ねる。

 初心者なりに息を殺してスライムの視界を覗き込むと、そこには全身緑色の小柄な鬼の姿があった。


「……あれか、ゴブリン」


 小声で呟き、腰の剣を握りしめる。

 こういうのって近づいたところで足元の枝『パキッ』ってのが定石だからな。あらかじめ枝の無さそうなところを選んでゴブリン達の方へと歩き出す。


『グギャッ! ゲギャギャッ!』

『ガギャッ! グッギャ!』


 耳を澄ませばゴブリンたちの声が聞こえる。

 スライム達は五体程度を残し、あとはゴブリンを囲むようにして展開させる。ゴブリンの数は……おお、運良く依頼数とおなじ三体だ。一体は寝息を立てて眠りこけており、残り二体は地面に座り込み、何やら話し込んでいる。


「……ゴーレムさんは目立つし、森の中は狭すぎるから今回はナシだ。攻め方としては……そうだな。スライム全員で木の上に登り、頭上から奇襲。そんな感じで行こう」


 言い終わると同時にスライム達が動き出す。

 スライムたちはぴょんぴょんと木々をよじ登って、ゴブリンたちのちょうど真上へと移動する。

 その間に、周囲の警戒用に追加でスライムを5体追加しておく。その5体の指示と警戒はスイミーさんに任せるとして……うん、準備は大丈夫そうだな。


「では、作戦開始」


 小さく呟いた――次の瞬間。

 計五体のスライムが、一斉にゴブリンたちへと襲いかかった。


「ゴ、ゴブゥ!?」

「ご……ガ、ハァッ!?」


 寝てるゴブリンと、起きているゴブリンの片割れには完璧に奇襲が成功。口どころか気道まで塞ぎ切ったゴブリンたちは瞬く間に窒息へと陥った――が、残り一体が運良く奇襲から逃れてしまう。


 流石はバトルラビットよりも上位の魔物。さすがに奇襲で全滅……とは行かないか。残ったゴブリンはすぐさま反撃へと移ろうとして……けれど、スライムの姿を見るやいなや迷うことなく逃げ出した。

 そりゃ、物理のほとんど効かないスライムだ。いくら召喚したスライムがLv.1だったとしても魔法が使えなきゃ倒すのは難しい。

 のは、いいんだけれど。


「なんでこっちに逃げてくるかな……」


 ゴブリンの逃げてくる方向、つまりはこっち。

 木の影に身を隠しながら小さく吐き捨てると、腰から剣を抜き放つ。

 白の猛獣(バトルラビット)戦で怒りと共に生み出した、よく分からない剣。ただ、この剣を生み出した時に使った魔力量は犯罪ギルドぶっ潰した時にゴーレム100体召喚した時よりも遥かに多かった。ということは性能だけならかなりいいハズ。


「くっそ、一か八か……!」


 スライム経由で、僕の隠れるすぐ隣を通り過ぎようと走ってくるゴブリンがよく見える。バレないように浅く呼吸をして……そして、ちょうどいいタイミングでゴブリンの背後へとスライム召喚!

 スライムの足元にあった草むらがガサリと音をならし、その音に過剰なまでにゴブリンが反応、背後を振り返りながらも逃げる足は緩めない。

 そんな光景を目の前に。


「ほっ」


 ゴブリンの進行方向に、そっと刀身を置くだけの簡単なお仕事です。


「ゴギャァッ!?」


 僕が木の影からソロっと横に出した剣の刀身。

 そこに思いっきり体当たりしに行ったゴブリンはなんの抵抗もなく真っ二つになっており……うっわ、なにこの剣切れ味良すぎだろ。ほんとになんの手応えも感じなかったんだが。


「もしかして魔剣とかそういう類いじゃないのかこれ……」


 バトルラビットへの怒りで僕は一体どれだけやばい武器を生み出してしまったのか……。これを使いこなせたら僕無敵だな。使いこなせたらの話だが。


『……!』

『…………!』


 ポヨンポヨンとスライム達が僕のほうへと寄ってくる。その背中には既に息をしていないゴブリン二体が乗っており、今僕が(不意打ちと剣の性能によって)倒した(倒せてしまった)一体と含めて合計三体。これでゴブリン討伐依頼は完了だ。


「うし、それじゃあ依頼終了。ゴブリンの討伐証明部位は……あぁ、ギルドカードに討伐数出るから要らないのか」


 ギルドカードを見てみると、裏のところに『ゴブリン×3』という文字が記されている。よくある『ゴブリンの耳切り落としていく討伐証明』とかそういうのは要らないっぽい。

 ま、一応金になるかもしれないのでお持ち帰りしますけども。


「スイミーさん、三つ……いや内臓まき散らしてるやつは要らんわ。残り二体、窒息してる方は保管しといてくれ」

『……!』


 肩から飛び下りたスイミーさんが意気揚々とゴブリンたちを飲み飲んでゆく。見た目は捕食してるようにしか見えないが、これで好きな時好きなタイミングに取り出せるっていうんだから便利だよな。実質アイテムボックスだ。

 しかも、いくら食っても重量が変わらないというファンタジー仕様。スライムには質量保存の法則は無いらしい。


「さーて、それじゃあ任務終了、残業とかバカバカしいしさっさと帰ろう、そして宿探して寝よう。一刻も早く」


 今日は少し働きすぎた。

 そもそもニートがなんで働いてんだよコンチクショウ。

 そう言わんばかりに大きく伸びをして――。



『ポーン! 召喚術式のスキルレベルが上がりました』



「…………はっ?」


 この世界に来て、初めてインフォメーションらしきものを耳にした。



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