057『火力』
ふつーに投稿忘れてました!
遅れましたが、更新です。
「な……ッ」
その光景に、言葉が出なかった。
それは周囲の者達も同じようで、その中で普段通りに、なんの気負いもなく、なんの心配もなく、ただ安心したように顔を緩める男を見て、その信頼を一手に受ける少女を見て、不思議と悔しさが込み上げた。
それ以上に、胸の底から興奮が湧き上がっていた。
「ん、あとは任された」
少女は、魔剣を振り払ってそう返す。
その視線の先には、剣のひと振りでなぎ倒された機械亡霊――アームズデッドの姿があり、奴は呻き声を上げながら立ち上がる。
『くっ、お、お前は……一体ッ』
何者だと。
そう問われ、少女は端的にこう返した。
「私はホムラ、父様の娘」
黒炎姫ホムラは、誇らしげに笑っていた。
☆☆☆
「おいイザベラ、急ぐぞ」
「……はっ!?」
なにやらぼーっとしていた『イザベラ』とかいう女。
その人はソーマに呼ばれて目を見開くと、焦ったようにソーマの後へと走っていった。……まぁ、十秒もしないでソーマが追い抜かれるんだろうけど、そこはソーマくおりてぃ、と言うやつだ。ソーマらしい。
『トトサマ……だぁ? 何、言ってやがラァ!』
「……遅」
目の前の機械が、怒ったようで殴ってきた。
結構早かった気もする。たぶん、ゴブリンのきんぐ倒す前の私じゃ、かわすこともできなかったと思う。でも、今は違う。
私は最低限の動きで拳をかわすと、カウンター気味に奴の胴体へとソーマの剣を薙ぎ払う。だけど。
「……むっ」
ギリリ、と火花が弾けて剣が押し返された。
剣を振り抜いたあとでやつの胴体を見てみる。
そこには……かるーく引っ掻いたような傷がついているだけで、私は素直に驚いた。ソーマの剣で切れないものがあるだなんて。
でも、驚いていたのはあっちも同じだった。
『ば――!? な、なんっ、なんだその剣はヨォ!? こ、この外殻に傷を付けるとか、冗談も大概にしろってんだ!』
「む、冗談いってない」
むしろ、冗談もたいがいにして欲しいのはこっち。
ソーマの剣は、間違いなく世界最強。
どんなものでも断ち切る。
それが、この剣。ソーマの剣。
それに切れないものがあるとしたら、それは、単純に使ってる人が雑魚なだけ。つまり、私がこいつを切れないってことは、私が雑魚ってだけになる。
「それは、いけない」
私はトンっと軽く跳ねると。
一気にギアを数段階引き上げた。
『な――』
たぶん、コイツからしたら消えたみたいに見えただろう。
この前、ギルドで会ったアレックスとも戦ってみたけれど、攻撃力も防御力も技術も、何もかも遠く及ばなかった。
でも、その中で唯一、速度だけならこっちが勝ってた。
つまり、何が言いたいか、ってゆーと。
「先に言っとく。今の私、めちゃ速い」
駆ける、駆ける。
縦横無尽に四方を駆け巡り、奴の体をソーマの剣で切りつけていく。
その度に火花が散って、奴の体が僅かに揺らぐ。
『ふ、ふざけ――』
ぶおんと、機械亡霊が腕を振るう。
凄い威力だなって思って少し下がると、改めて奴の全景が見えた。
「す、すご……」
「む、もう来た?」
近くから声がしてみれば、ハクたちの姿があった。
ちょうどソーマと入れ違いになった感じかな。私のことを驚いたようにみてる三人と、オマケの人達。名前は忘れた。
『こ、この野郎……ッ』
声がして、前を見る。
機械亡霊は、まだまだピンピンしてる。
身体中を切りつけたから、全体的にほんの少し形が歪んでたり、引っ掻いた傷がついてたりするけど、全然切れそうな気配がない。
「む、未熟。修行が足りない」
「じゅ、十分すぎる気も、しますが……」
レイが、顔を引き攣らせてそんなことを言ってる。
けど、この程度を切り裂けないんじゃまだまだ足りない。ソーマの隣に立つにはもっと力が必要。ソーマの相棒で居続けるには、ソーマの信頼を受け続けるには、もっともっと力がいる。
けど、何となくわかった。
今の私じゃ、雑魚過ぎてコイツは切れない。
私はまだまだ、弱いから。
「だから、別の方法を考える」
きっとソーマも、そうするから。
だから私も、考える。
ソーマがコイツと戦って感じたこと。
私がこいつと戦って思ったこと。
全部思い出して、光明を見つけ出す。
『……ったくよォ、俺、ここであの男を殺そうと思ってたんだ。そう言われてたんだ。それを、まんまと逃がしちまって……上から雷決定だぜオイ。どうしてくれんだ。ぁあ?』
「どうもしない。お前、ここで死ぬ。だから意味無い。興味無い」
私が言ったら、機械亡霊は思い切り大地を蹴りつけた。
パッと見、地団駄を踏むような感じ。
けれどその衝撃はすさまじい。大地がひび割れて、地震を間違えそうな振動が周囲へと広がってゆく。
私は思わずバランスを崩して……次の瞬間、目の前へと迫っていた拳を見て目を見開いた。
「――っ!?」
『これを、かわすかよ……めんどくセェな、オイ!』
咄嗟に頭を振って拳をかわす。
けれど、頬にちょっと掠ってた。頬に手を当てると血が滲んでる。たぶん、血が出たのは『ごぶきん』以来。コイツ、思ってたより強いかもしれない。それに。
「……警戒、あげる。一撃受けたら、多分終わり」
ソーマは防御力だけ、思ってた。
けどそれは、スイミーさん、ティアの防御力がすさまじかっただけ。一撃を受け止めてたイザベラって人が凄かっただけ。普通に戦ったらあの攻撃は受けられない。受けたら、痛みで動きが止まって滅多打ちにあう。簡単に想像つく。
「……とゆーか、痛みで済めばいいけど」
『なぁにボソクサ言ってんだァァァァ!?』
機械亡霊の拳が振り落とされる。
背後に下がってそれを避けるけど、地面に振り落とされ、砕けた瓦礫が身体中へと襲ってくる。
それらを剣で払い落として着地するけど、どんどん地面が悪くなってる。
砕けたり振動で割れたりして、今じゃ歩くのも注意が必要。
これじゃ、躓いたり高低差で上手く走れなかったり。間違いなくさっきよりもスピードが落ちる。
ふとした注意不足で回避が間に合わなくなるかもしれない。
そうなったら、もう終わり。
なら。
「すぐ、決着つけて、ソーマのおーえん行く」
『やってみろやクソ餓鬼ィ!』
私は一気に駆け出した。
振り下ろされた拳をかわして切りつけるも、やっぱりこいつは切れそうにない。この硬さはちょっと難しい。
なら、やっぱり他の攻め方を考えるべきなんだろうけど、私はソーマよりもずっと頭が悪い。だから、ヒントを探す。
ソーマは言ってた。
この機械亡霊、アームズデッド。
一流冒険者でも傷一つ付けられない硬度。
一撃でもくらったら負けてしまいそうな威力。
私ほどじゃないけとけっこーな速度。
こいつの体は、完全無欠に硬い。
中から爆弾やっても傷一つない。
あと。中身の亡霊は魔法とかじゃないとダメージない。すくなくとも、手榴弾じゃノーダメージ。意味無い。
あと、この機械がスペックすごい。
たぶん普通に使ってたらすぐに限界くる。
熱出過ぎて、オーバーヒートで止まっちゃう。
けど、コイツの本体が冷気を放ってるから、オーバーヒートになることなくずっと稼働出来てる。なんて狡さ。まさしくちーと。
それと、私が戦っててわかったこと。
こいつ、喋れるけどあんまし頭よくない。
たぶん、私より頭悪い。
ずっと怒ってるし、なんかアホっぽいし。
ソーマがいう『のーきん』ってこういうのをいうんだと思う。まぁ、脳みそどころか筋肉もない亡霊らしいけど。
閑話休題。
私は大きく息を吐き、一瞬だけまぶたをとざす。
頭の中にうかべてた全てに整理を付けて、一気にまとめる。
私が今できること。
そして、コイツの弱点らしいこと。
そういうの全部ひっくるめて考えて。
そんでもって、目を開けた。
「ん、勝てるかも」
『頭が沸いタカ? なら死ねヨ』
機械亡霊は、また殴ってくる。
私は難なくそれをかわすと、一気に最高速まで持っていき、炎撃状態のソーマの剣を引きずるように円を描く。
『……んぁ?』
機械亡霊が、気がついたように首を傾げた。
今、私とこいつを中心に、炎のステージが出来た。
私たちを囲むように、炎が燃えてる。草原が燃えてる。
空気が熱い、肌が焼けそうになる。
けど、私は全然大丈夫。だってソーマの娘だから。
だから。もっともっと――燃え滾らせる。
「――【炎撃】」
ソーマの剣から、炎が吹き上がる。
同時に炎の外にいた魔法使い、イルミーナって人に視線を向ける。
「当たらなくていい。炎で攻撃。おねがい。もっと熱く、もっともっと、炎で満たして。そうすれば倒せる」
「ほ、本当でしょうね!? 信じるわよ黒炎姫!」
大丈夫。
私はソーマの娘で、妹ってことになってる相棒。
私がミスれば、ソーマの顔に泥を塗る。
そんなのは絶対に、天地がひっくりかえってもありえない。
だから、絶対に大丈夫。
「言った。あとは全部、任されたって」
なら、意地でも負けられない。
私は最高ギアのまま一気に駆け抜けると、やつの体へと炎の剣を振り下ろす。
それは鈍く弾かれるけど、何度も何度も、気が遠くなるほどに様々な角度から炎の剣を振り下ろす。
『しつ、ケェェェエエァアアア!』
「ぐ……ッ」
少し深追いしすぎたかも。
機械亡霊はやたらめったらに腕を振り回す。
あたりも付けず、何度も何度も振り回して。そのたった一撃にほんの少しだけ肩が掠った。
それだけで激痛が走るほどの威力、衝撃。
私が少し吹き飛ばされたところで、空から無数の炎が降ってくる。
「さぁ、黒炎姫! ご所望の炎よ! さっさとやっちゃいなさい!」
「……ん、助かる」
視線の先で、機械亡霊は炎に包まれてる。
もう、避ける必要も無いってことなんだろう。
多分こいつの防御は炎でも崩れない。破壊するなんてまず不可能。きっと、私よりもずっと強いやつが、本気出してやっと壊れるかどうか。そんなレベル。
だからこそ、私は違う方向から壊しに行く。
『おい、オイオイオイ……、あの男もタイガイ頭沸いてると思ったが、テメェらはそれ以上だよォ? なんだ、まーだ亡霊に炎効くとかオモッてんの? ……なァ、現実見ろよ。お前らじゃ俺は倒せネェンダよ』
炎の中から、ソレが現れる。
傷なんてほとんどない。
全く消耗してる気配がない。
それを攻略できる未来が全然見えない。
けど、私は勝利を確信していた。
「けっこー、うごいたね」
さっき、腕振り回してた。
それもかなりの速度で、何度も何度も。
普通じゃない威力の拳を、振り回してた。
『アァ? それがどう、し…………たぁ?』
今頃になって気づいたんだろうか。やっぱり馬鹿だ。
なんのために、壊せもしないのに炎を集めたか。
なんで、壊せもしないのに接近戦をしてたか。
きっと何も分かってなかった。けど、たぶん。
熱くなって、蒸気を上げている機械を見て、察したと思う。
『ま、まさかテメェ!』
「お前はオーバーヒートしないよう、自分の冷気で機械を冷やしながら戦ってた。だから半えーきゅーてきにあれだけの性能使えてた。だから考えた。お前の冷気を熱気で相殺したら、どーなるか」
外気温を上げて、コイツの持ってる冷気を上回る。
冷やす以上の速度で機械を熱する。
そうすればどうなるか。
その答えなんて、馬鹿な私でもわかる。
「限界超えて、オーバーヒート。壊さなくても自壊する」
私がそういった直後、爆発音と共に機械から黒い煙があがった。
同時に亡霊の悲鳴が響き、焦ったように、怒ったように、動かなくなった機械の中から声を響かせる。
『て、テメェ! ふざけんなよ! ふざけんな! コレは……コレはな! 炎魔王様から頂いた無敵の鎧! 絶対に壊れねぇ無壊の盾! それを、テメェら! テメェらは……ッ! ゼッテー許さねぇぞクソ共が!』
「強烈な炎に弱い鎧を、炎の魔王がくれたって? それ、単に信用されてないだけ。いつでも殺せるように保険かけただけ。違う?」
『違ぇ! 違ぇに決まってんだろクソ餓鬼が! 俺は南の高難度迷宮を治める魔王! やがて炎魔王様の右腕に……』
「なれない。お前はここで死ぬから」
端的に告げて、動かなくなった鎧を剣で転がす。
剣を払うと、周囲の炎が魔剣の中に吸収されていく。
やがて周囲からは炎は消えて、それとは別に、魔剣は赤熱するほどに膨大な熱量を持ち始めていた。
私は剣を鎧の隙間に突き刺すと、中身の亡霊にこう告げた。
「このまま鎧中に熱が広がって蒸し殺されるか、今すぐ出てきて斬り払われるか。二つに一つ、どっちがいい?」
個人的には、後者がおすすめ。
だって、さっさとここを終わらせて、ソーマのおーえんに行けるから。
だから、さっさと死んで。お願いだから。
そう言って、私はグリリと剣を押し込んだ。




