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056『窮地』

【おしらせ】

この作品、この話を含めて残り5話で完結予定です!

12/29、今年の終わりごろに最終話予定となりますね。

一応続きも考えていましたし、新章の最初十話分くらいはあるのですが、キリがいいと思いましたので、ここらへんで一応の完結としたいと思います。

せっかく書いた十話くらいは、完結後のおまけ、番外編として掲載予定です。


というわけで、最後までぜひよろしくお願いいたします!


 アームズデッド。

 まだこの世界に来て日の浅い僕でも、有名どころの名前や、危険な存在の名前は押さえている。その中に、確かにその名前は存在した。


「南の魔王……炎魔王ムスペルの配下で、高難易度迷宮【亡霊の沼】の支配者……。端的に言うと迷宮の【魔王】、であってるか?」

「あ、あぁ……。比較的、王国からも近い位置にある故、度々こちらからも攻勢に出るのだが……あの魔物だけは未だに倒すことが出来ていない」


 アームズデッドへと視線を向ける。

 全身を頑丈な機械で包んだ高位の亡霊。

 噂によると、その外殻は一流冒険者の一撃ですら傷一つ付くことはなく、聖水は弾かれ、炎は本体の冷気によって相殺され……。たぶん、こんな序盤で出てきていいような相手じゃない。

 加えて人間と同等以上の知力を持ち、防御だけでなく攻撃、速度も凄まじいと来たもんだ。


「……イザベラ」

「言っておくが、アレを相手にしろなどとは言うなよ。私はこれでも強いと自負しているが、せいぜいがAランク最低位ほどだ。父上や、アレックス等には遠く及ばない。私に出来るのはせいぜい時間稼ぎ程度だろう」

「……だよな。なら、アレックスに任せるしかない……と、思うんだけど」


 僕は前線で戦うアレックスの方へと視線を向けるが。


『おィィィィィィ! テメェら、なにサボってヤガルゥ! こんな程度で及び腰にナッテンなら、大魔王様の顔に泥ォ塗ったってことでブチ殺すゾぉ!?』


 アームズデッドから、怒りの声が響く。

 それを受けた魔物たちは、先程まで怯えていたのが嘘であったように拳を握り、一斉に僕らへと進行を開始する。

 その瞳に映っているのは、純粋な【恐怖】。

 それだけアームズデッドという個体が恐れられているのか、炎魔王の顔に泥を塗ることを忌避しているのか。

 いずれにしても、これでアレックスの手は借りれなくなった。


「……くっ、今あの男が抜けてくれば前線が崩壊するぞ!」

「分かってるっての……」


 イザベラにそう返し、アームズデッドを睨む。

 あぁ、クソッタレ。なんでったってこんなに連戦連戦しなきゃいけないんだ。しかも相手にするのは圧倒的な格上。あのデュラハンだって間違いなくAランク推奨レベルだったし、コイツにしたって王国騎士団が長年にわたって討伐しきれていない化け物だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……それでも、相性が悪すぎる。


「せめて、生物だったら……」

『なァにペチャクチャ話してんだラァ!』


 アームズデッドが、その体から白い冷気を吹き上げる。

 途端に駆動音が空間を駆け抜け、すぐ眼前へと拳が迫る。

 僕個人じゃ反応もできない超速度。されど、その拳よりも速く動き、その一閃を止めた存在が目の前にいた。


「く……ッ! ソーマ! 貴様は絶対に前へと出るな! 貴様かアレックス、どちらかでも落ちればここは終わりだ!」

「い、イザベラ……!」


 剣を両手に構え、拳を受け止めたイザベラ。

 彼女は厳しく顔をゆがめながら、なんとかその一撃を受け止めきっている。……こんな人外にタメ口使ってたのか僕。次からは気をつけよう。

 そんなことを考えながら、手の中に召喚した手榴弾。


「あぁ、落ちないように、全力で攻める」


 次の瞬間、僕の掌から手榴弾は安全ピンを残して消えており、それに気づかぬアームズデッドはもう片方の拳を振り上げた。

 けれど。


『ハハハハ! なるほど強い! が、俺程ではないナァ! 邪魔スンならお前からぶっ殺シテヤ――――ブゲフッ!?』


 拳を振り上げたアームズデッド。

 その()()で、手榴弾が爆発した。

 召喚術式のレベルは『3』。今では自分を中心に十メートル前後になら好きな場所に好きな物を召喚出来るようになった。応用すれば手元から奴の体内に手榴弾を召喚し直すことも可能だ。


 その光景に驚きながらも、イザベラは何が起きたかすぐ察したようだ。彼女は僕を抱えて距離を取ると、呆れたように口を開く。


「全く貴様は……なんでもありだな。帰ったら貴様のことを騎士団に入れてもらうよう国王様に相談してみよう。一騎士団に一人欲しい」

「止めとけ、サボりすぎて一週間でクビになるのが目に見えてる」


 それよりも、と。

 僕が注意を促すまでもなく、イザベラは前方へと視線を戻す。


『ぐ、ゲホッ、ゴホッ! ……ッタクよぉ、中で煙出されると、前が見えずらくったってショウガネェよ……。オイオイ、誰だァ、今ふざけたマネしてくれた奴ァよぉ!』


 あっ、それやったの僕です。

 とは、言い出せる雰囲気でもない。

 アームズデッドは、内部から手榴弾を受けてもなおなんのダメージも見受けられない。おそらく、本体である亡霊部分には普通に無効化され、外殻機械には普通に耐久力で無効化され……たんだと思う。にわかには信じ難いけど。


「なら、威力十倍で」


 僕は両手に十個の手榴弾を召喚。

 それらを安全ピンを手元に残したまま奴の内部に召喚すると、先程よりも凄まじい爆裂音が奴の体から響き渡る。

 これで少しは……と、思ったけれど、相も変わらず佇んでいるアームズデッドを見て頬が引き攣る。


「……こういうのって、外は強くて中が弱くないと、ダメじゃない?」

『ウルせェァ! てめぇだな今のはァ! 俺の機械鎧は全身、裏表、内部も含めて完全状態! どっからどうやろうと崩せるはずがねェンだよ!』


 なにそのチート。

 ダメじゃん、そんなの勝てないじゃん。

 誰だよ亡霊に手榴弾で傷一つ付かない鎧を授けたやつ。しかも鎧はオーバーヒートしかけても本体が持つ冷気で半永久的に駆動可能。もはや打つ手が見当たらないんですが。


 そんなことを考えていると、近くにいた魔法使い軍団がイルミーナを中心としてアームズデッドへと魔法を打ち込み始める。


「ちょっとアンタ! しっかりしなさいよ! アンタの事だし、何か他に作戦あるんでしょ!」

「まぁ、あるっちゃあるけど……」


 イルミーナの言葉に返事をしながら、アームズデッドへと視線を向ける。

 そこには全ての魔法を機動力を駆使して()()()するアームズデッドの姿がある。


「奴の体内に、直接イルミーナの最高火力を放る。奴の本体は亡霊。僕の攻撃は通じなくとも、魔法なら確実にダメージが入る」

「確かにそれなら……。だが、あの速度、どう攻略する?」

「それが問題なわけさ……」


 手榴弾で先に奴の鎧を打ち砕けば、それでアームズデッドは攻略できると思っていた。逆に、下手な魔法やら聖水やらを召喚させて、それで殺しきれなくて警戒される方が余程厄介だと考えていた。

 けど、鎧の強度が僕の想像を遥かに超えてた。

 これなら最初っから魔法や聖水で狙うべきだったか……と考えながらも、並行して奴の足を止める方法についても考える。


 魔物の咆哮がここまで聞こえてくる。

 前線では激戦が続いている。召喚した竜牙兵(スパルトイ)もかなりの数やられているし、早くコイツをどうにかしてアレックスたちの援護に入らなきゃ、多分、最初に言われた作戦通り、街の中に引き込んでの撤退戦になる。けど。


(……本当に、避難終わってるのか……?)


 終わっているはずがない。

 そう、心の中で断言している僕がいた。

 王都の人口は、たぶん僕が思ってるよりずっと多い。

 ここに住んでる全ての人をこの数時間で非難させることはまず不可能。老人や子供、スラム街の人々まで考えると絶対に終わらない。

 つまり、確実に人が死ぬ。それも大勢の人が。


「……後味は、悪いよな」


 たぶん、ここで街の中に被害を出したら、後悔する。

 この先も、夢を叶えた後も、引きこもった後も。

 ずっとずっと後悔し続ける。

 ……それはいけない。絶対にだ。


「後悔は絶対に残さない。それは、最高を目指すための絶対条件だ」


 僕は両手を合わせ、一気に魔力を汲み上げる。

 今持っている全てを使ってでも、コイツをここで終わらせる。

 そうすればこの戦線は維持出来る。あとはアレックスに任せておけば全て上手くいく。


 だから――。





 ふいと、肌を刺すように。


 王城の方から響いてきた爆発音に、肝が冷えた。



「なっ!?」

「う、嘘だろ……ッ」


 腹の底に響くような、爆発の音。

 振り返れば王城からは黒い煙が上がっており、その光景に顔が一気に青ざめたのが自分で分かった。


『おぉ、やっと始まったカァ。遅せぇンダヨ……全く』

「き、貴様! 何をした!」


 隣のイザベラが、顔を焦りと、それを上回る怒りに染めて激昂した。

 対するアームズデッドは、機械の顔部分を嘲笑するように変形させ、悪魔のように笑って返す。


『ハハ、ハハハハハ! オイオイ、俺達はこの街を【潰しにキテんだ】。ただでさえ力がついていた王国に、勇者の再来……。めんどくせぇことになる前に、確実に潰す。まさか、大魔王軍の()()()()を寄越してくるとは思ってなかったガナァ』

「さ、最高、幹部……だ、と!?」


 既に、イザベラの顔は青を通り越して白く染まり始めている。

 王城には、Aランク冒険者複数名に、王国騎士たち。そして化け物級の強さを持ったハイザや、他の貴族たちも控えている。

 が、他でもない大魔王の片腕たる、最高幹部。

 そいつが、王城へと奇襲をかけてきた……と、したら。


「あ、アイシャ……っ!」


 イザベラの悲痛な声が響く。

 僕は思わず王城へと走りかけるが、無理矢理に足を押さえつけると、アームズデッドへと振り返る。


『ドォーしたぁ、英雄。助けに行けよ。俺に背中を向けてイイんなら』

「こ、この……ッ」


 どうする。どうする、どうする。

 今の僕に何が出来る。

 王城に向かう、この敵を倒す。

 どちらを優先する。どっちに力を使う。

 魔力は限られてる。片方に対応すればもう片方には動けない。

 僕は、一体どうしたら――。


 考える、考える。

 血の味がして口を拭うと、鼻から血が流れていた。

 一瞬が永遠にも感じられるような重い思考。

 そして、果てに僕は――。



「……そう、だな。助けに行くよ」



 この敵に背を向ける。

 その覚悟を口にした。


「き、貴様ソーマ! 何を言っているか分かっているのか!?」

『……ヘェ、そこまで能無しダトハ思わなかったゼ。イイよ、さっさと行けよ。一歩目でコロシテやる』


 イザベラが叫び、アームズデッドの声色が一段低くなる。

 だけど、もういいんだ。そう決めた。

 僕はイザベラの声を振り切り、王城へと向き直る。

 そして、背後のアームズデッドが地を蹴った。


「そ、ソーマッ!」


 イザベラの悲鳴が響く。

 今回ばかりは、イザベラでも追いつかない。

 僕の身体能力じゃ回避も間に合わない。

 転移魔法を使えるだけの魔力はない。


 けれど、僕は安心していた。


 いつの間にか、腰に差してた『魔剣』が消えていたから。



「――あとは任せた。()()()



 背後から、大気を震わせるような轟音が響く。

 アームズデッドの呻き声と、奴の倒れ伏す衝撃。

 そして、背後に降り立った、一人の少女。


 ――あれからちょうど、十五分。


 予定より随分早かったな、と軽く振り返ると、彼女は赤く染まった魔剣を構え、自信満々にこう答えた。



「ん、あとは任された」



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