005『Re:冒険者ギルドへ』
「…………あっ、やべ」
思わず、そんな声を漏らした。
ゴーレム軍とスイミーさん達に屋敷を攻めさせてから数分も経ってないだろう。
とりあえず想像以上に強い相手がいても嫌なので、『一応こっちでも援護しとくか』という思いから、僕も後方からできる支援攻撃を行った。
正確には、新たに召喚したゴーレムに、また新しく召喚したスライムを砲丸投げの要領で投擲させたのだ。
しかし……これがまぁ、なんというか。
『うし! なんかあのいちばん高くなってるところ、偉そうなやつ居そうだから狙ってみるか!』
そんなことを言ったのが数秒前。
ゴーレムは僕の命令に従って、寸分違わずその部屋へとスライムをぶち込み……そんでもって気がつけば一番偉そうな奴が死んでいた。
「……どうしたもんか」
投擲され、部屋の中へと物理的な移動を果たしたスライムの視界には、崩れた天井に潰され、息絶えた二人の男が映っている。
片方はかなりゴテゴテした服装してるし、もう片方は『ザ・魔術師』って感じだし……たぶん『頭領! 奇襲です!』『なにぃ! 待ってろ今行……ぶはぁ!?』ってな感じになっちゃったんだろう。
「やっべぇ……、スイミーさんの仕事奪っちゃったよ」
それによく考えたら、間違って人質のいる所にスライムぶち込んでたら最悪な事態に陥ってたかもしれない。
……うん、とりあえず働くのはやめよう。
そうだよ、なんでニートが後方支援なんてしなきゃならんのだ。働くなんてバカバカしい。全部スイさん達に任せよう。
「部下を信じて任せる……なんといい言葉か」
「……!」
背中からキラッキラした視線を感じる。
いやはやニートにそこまでキラッキラしなくてもいいと思うんだが、彼女には僕が強大な魔法を使う賢者にでも見えているんだろうか。だとしたら世界中の賢者の皆様に謝らんといけないな。ま、謝るの面倒だから僕はやらんけど。
でもって、これだけ大立ち回り繰り広げてたら、たぶん遠くないうちに騎士なりなんなりが駆けつけてくるはず。
「さてと。急ピッチで頼むぞ、スイミーさん達」
((((……!))))
頭の中にスライムたちの返事が帰ってくる。
そういや知覚共有ってこっちの考えも繋がるんだったか。
……ってことはこっちがボス討ち取っちゃったこともバレてる臭いが……まぁ、うん。スイミーさんの事だし怒ったりはしないだろう。そうに違いない。
そんなことを考えながら、僕は大きく息を吐く。
その後。
人質の保護とあらかたの無力化が完了したのがおよそ十分後。
ぞろぞろと大勢の足音が聞こえ始めたのが、さらにそれから三分後のことだった。
☆☆☆
「……ッ、き、貴様! こんな所で何をしている!」
足音が聞こえてきて振り返ると、これまた大勢の騎士さん達がそこには居た。ちらほらと冒険者らしい姿もあり、先頭の騎士さんが剣に手を伸ばしながらそんなことを尋ねてくる。
「あぁ、良かった。騎士さんですか。戦闘音を聞き付けてやってきたら、なにやら子供たちを保護しまして……」
「……む、冒険者だったか。これは失礼した」
暗がりであまり良く見えなかったが、どうやらその騎士さんは女性らしい。
彼女は僕の肩にいるスイミーさんを見てピクっと体を動かしたが、すぐに『テイマーか……』とひとり納得してくれた様子だ。
「して、その子達か?」
「ええ、どうやら犯罪ギルドで闘争が起きたらしくて。僕はなんとか幽閉されていた子供たちは保護できたんですが……さすがにあの中に入って止められるような力はありませんので」
ええ、ゴーレムとスライムと荒くれ者たちの乱闘騒ぎに入っていけるほど僕は強くありません。むしろ雑魚です。
そんな思いが伝わったか……いや、犯罪ギルドって言葉が効いたんだろうな。騎士さんたちはみんな揃って大きく目を剥き、僕の方へと詰め寄ってくる。
「お、おい! その犯罪ギルドとやらは……」
「あぁ、ここ曲がったところですよ。……それと、先にこの子達の保護お願いできませんか? かなり衰弱してる人もいますので」
新たに保護した子供が二人と、その他にも捕らえられていた人達が数名、僕の後ろにはいるわけだ。
まぁ、最初の子と保護した二人は小学生かそこらって年齢だが、それ以外は僕よりも年齢的には上に見える。ポーションは飲ませ終わってるから大丈夫だとは思うが……別にポーション一つで完治したってわけでもあるまい。騎士ならまずこういう人達の安全を優先するべきだろ。なぁスイミーさん。
『……!』
そうだそうだー! と言わんばかりにスイミーさんが飛び跳ね、その様子に苦笑した女騎士さんは素直に話を聞いてくれた。
「……そうだな。すまない、犯罪ギルドと聞いて少し気が動転していた。おいお前達! この子達を保護し、街の教会で治癒してもらえ! 犯罪ギルドの抗争は私率いる数名で止めておく!」
「は、はいっ!」
女騎士さんが呼びかけると、すぐさま他の騎士さん達が僕の隣を通り過ぎ、囚われていた人達の元へと駆け寄ってゆく。
その際に『こんな奴が……?』と言った視線を少なからず受けたが……まぁしょうがないよね。こんなひ弱が闘争の中これだけの人たちを救い出したとか、とてもじゃないが考えられない。
「……すまない、貴殿にも後々に事情聴取を行いたい。宿屋など名を教えてくれればその際には遣いを出すが……」
「あぁ、まだこの街きたばかりで宿屋は決めてないんですよ。一応冒険者ギルドには行くつもりなんで、日程決まりましたらギルドの方に言伝お願いできませんか?」
「……そうか。了承した」
女騎士さんも外面の仮面を被ってはいるが、内心僕を疑ってかかってるのが丸見えだ。知覚共有スキル使わずともニート特有のユニークスキル『他人の顔色窺い』を前にすれば大抵のことは見破れる。
と、そんなことを考えていると、ぎゅっと服を掴まれるような感覚を覚えて背後を振り返る。
するとそこには、不安そうに僕を見上げる灰色の少女の姿がある。
その背後には館の中から助け出したお友達二人の姿もあり。
助け出した灰色少女+二人は、仲間になりたそうな目でこちらを見つめている。
仲間にしますか? YES/NO
……と言った感じの選択肢が脳内に浮かんだが、残念ながら僕はニートだ。君たちを養えるだけの金がない。召喚すればいくらでもあるけど、騎士に目つけられた以上あんまり豪遊も出来ないしね。すまんな。
「あの、えっと……そのっ」
「なに、心配ないさ。騎士さん達が安全なところまで連れてってくれる」
そう言って頭を撫でると、困ったように、それでいて気持ちよさそうに目を細める灰色少女。
そうこうしている間に三人の元へと担当らしい騎士さんが来たため、背中を押して騎士さんの元へと送り出す。
その際、不安そうに、それでもしっかりと僕の方にお辞儀をしてきたため、そんな事しなくていいのにと思いながら手を振り返す。……まぁ、縁があったらまた会おう。名前も知らない少女達。
「……随分と懐かれているのだな」
「どうでしょうね。たまたま通りかかっただけなので、なんとも」
いつの間にか女騎士さんがすぐ後ろに立っていた。
まぁ、スイミーさん経由でこっそり近づいてくる様子は見えてたから驚きはなく、普通に可もなく不可もなくって感じの言葉を返しておく。
「それじゃ、僕はお先に失礼します。どうやら闘争自体は終わってるみたいですし」
女騎士さんの元を離れ、他の騎士達は館の方へと到着したようだ。
スライムに乗せて連行中だった荒くれ者達も館の周りに転がしてある。……アイツら僕のこと喋りそうな感じもするが、喋った時は喋った時で『え? まさか騎士さんが犯罪ギルドの言葉信じてるんですか?』って言おうと思います。
そんなことを考えながら歩き出し……ふと、思い出して振り返る。
「そう言えば。僕はソーマ・ヒッキーと言います。ギルドで言伝頼む時はこの名前でお願いします」
本当はヒキなんだが……まぁ。そこら辺はステータスいつの間にか書き換えられてたからしょうがないとしよう。
そうして僕は、ギルドへ向けて歩き出す。
ちなみに背後で、女騎士さんは僕を見定めるようにして睨みつけていた。
見えないと思ってやってるんだろうけど……ぶっちゃけ怖い。
スイミーさんのおかげでほとんど死角はほとんどないんだが、僕は気づかぬ振りをしてそそくさとその場を後にする。
……背後から『俺たちゃ【絶望ノ園】だ! あのテイマー、ぶっ殺してやる!』と元気な声が聞こえてきたが、それも気づかなかったことにして、僕は全力で逃げ出した。
☆☆☆
ということで、なんだかんだでギルド到着。
いやー、今度はなんの問題もなくたどり着けました。
目の前には『冒険者ギルド』と見たことも無い文字で書かれた看板がある。自動言語翻訳だったか? 見たことない文字でも普通に読めるようになってるみたいだ。書けるかどうかは微妙だが。
「……っと、そういやステータス隠蔽しとかないとな」
冒険者ギルドといえば鑑定、鑑定といえば冒険者ギルドのギルマスだ。Lv.1の隠蔽スキルでどこまでごまかせるかは知らないが、とりあえず主要なスキルや能力値なんかをまとめて隠蔽処理してみる。
そんでもって、出来上がったのがこちら。
【名前】ソーマ・ヒッキー
【種族】人族Lv.9
【職業】テイマー(ニート)
【筋力】5
【耐久】8
【敏捷】7
【知力】30(9999)
【魔耐】9
【スキル】
調教Lv.1、従魔保管Lv.5(召喚術式Lv.1、知覚共有Lv.1、並列思考Lv.1、隠蔽Lv.1)
【称号】
なし(異界の勇者、特級ニート、引き籠る者)
うむ、よく分からんがとりあえず大丈夫だろう。
調教スキルはとりあえずテイマーとしてやってますよアピールとして。
従魔保管は召喚術式を使った時の言い訳として。
それ以外は……まぁ、ウサギや荒くれ者をやっつけたおかげでいつの間にかレベル上がってたりもするが、特に変更したことも無い。強いて言うなら知力と称号を隠したくらいか。
そしてなにより……能力値の上がり幅、低っ!
なに、レベルは8も上がっておいて能力値はほとんど上がってないんですけど! なにこの脆弱職、ニートってこんなに弱い職業だっけ? 社会的にじゃなく物理的に。
「……まぁ、いっか」
別に前衛としてやってくつもりは全く無い。
どーせ召喚術式しか使わないんだ。知力以外の成長率が異様に低いことなんざ問題にもならないだろう。
「さて、それじゃあスイミーさん、商会設立目指して、まずは冒険者として成り上がるぞ……!」
『……!』
隠して僕は、意気揚々とギルドの中へと足を踏み出す。
…………あぁ、でもやっぱ働くのめんどくさいな。