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049『静寂の森』

「ここが……」


 スイミーさんの中に収納してあった馬車に揺られて、かれこれ一時間弱。

 僕らは『静寂の森』の目の前までやってきていた。


「初めて来ますが、静か……ですね」

「ん、魔物が居たら、もっと動物達が騒がしいはず。この森からは、動物達が殺される悲鳴とか、そーいうの、聞こえてこない」


 カイとホムラが冷静に分析。

 ちらりと見ると、ハクは光魔法っぽいやつで森の中を照らしており、森の入口近辺で、レイが土を弄って頷いている。


「あまり、動生物の出入りはなさそうです。いくつか足跡はのこっていますが、それもきっと、行方不明になってる冒険者のもの。少なくとも、魔物らしき足跡はみあたりません」


 そんな彼女の言葉に、『ほへぇ』と感心を示す僕、および『虹の果て』のメンバーのみんな。


「へぇ、凄いな……。そんなことまで分かるのか」

「さすが……。『白麗会』の名前は伊達じゃないってか」


 はくれいかい……? なんだそれ。

 と思ったが、よくよく思えば名前を並べると『ハク』『レイ』『カイ』だもんな。三人同時に冒険者登録してたし、そういう呼び名でもあるのかもしれない。


「というか君達、なんでついてきたんだ?」

「えっ? それは、その……」

「あの白麗会に、黒炎姫ホムラさん! そこに滅多に表舞台には出ないって噂の影の英雄、ソーマさんまで参加する一大イベント! 見逃すわけないですよ!」


 盗賊の少女が興奮混じりにそう叫ぶ。

 なんとまぁ……あれだな、命知らずってこういう娘たちのこと言うんだろうな。

 彼らの感情がよく理解できず、僕は頭をかいて口を開く。


「……僕も、語れるほど現場に出てるわけじゃないんだけどさ。この依頼の危険性だけは察してるつもりだ。……興味本位ならここで回れ右してくれないか? 万が一の際、僕は君たちまで守り通せるほど万能じゃない」


 少しだけ、外行きの仮面を外してやった。

 言外に、「いざというときは見捨てるぞ」と。

 仲間たちと赤の他人のお前たちを秤にかけて。

 僕は容赦なくお前たちを捨てられる側だと、告げる。


 しかしアカム少年たちはやる気に満ち溢れている。

 ……本当に、残念なことに、な。


「そ、そんなっ! 俺たちだって分かってますよ!」

「私たちとて冒険者。いつ死ぬ覚悟も出来ています!」


 そう、決意を目に灯して声を上げる少年少女。

 その熱量は大したもので、思わず息をのむほどだ。

 だが、彼らとは裏腹に僕の内情は冷めていた。


「……あっ、そう」


 目を細めて視線を外す。

 自信満々に言ってのけた彼らからは困惑が伝わってきた。

 確かにマンガとかでは『よく言った、ついてこい。もしもの時は守ってやる』みたいないいキャラいるよね。だから影の英雄だなんて呼ばれてる僕もその同類だとでも思ったのかな。

 残念、大ハズレだ。


「さぁって、それじゃあ作戦考えるか……」

「あ、あのっ、ソーマさん! 中に入らないんですかっ!?」


 なんとなーく『ミス』を悟ったんだろう。

 多分どこをやらかしたのかは分かってないと思うけど。

 アカムは自分の失敗を挽回せんと質問してくるが……まぁ、あれだな。無視ってのも大人気ないしな。


「入りたいんなら入れば? この先は入ったが最後、『見てくるだけ』って念を押されてたベテラン冒険者でさえ帰れなくなる魔境だ。なんの作戦もなく突入して、帰って来れなくなってから『困る』じゃダメなんだよ」


 あぁそうだ! お前達死ぬ覚悟できてるんなら突入してくれば!?

 とか、大人気ないことは言わない。ぶっちゃけこの子達に対する評価は底値まで落ちているけれど、そこは表には出さない。出てない……つもりだったんだけど。


「……マスター、どうかしましたか」

「ん? どーしたレイ。僕はいつも通りだぞ」

「や、違う。なんか顔こわい」


 はっはっはー、少し顔に出てたかな?

 僕は両手で頬の筋肉を動かすと、極めていつも通りの顔を作る。


「ホムラ、これでどう?」

「ん、おもて向きはいつもどーりになった」


 表向き、ね。まぁいいけれど。

 僕はパチリと指を鳴らすと、無数のエレメンタル、ダークバッドたちを召喚する。その数はゴブリンキング戦を経て成長して(という設定で)十体ずつ、合計二十体にも及ぶ大規模召喚だ。


「す、すご……」

「な、なんという魔力量だ……」


 驚いてる虹の果ては無視。

 僕は二十体の飛行部隊に加えて、もう一体、新たに召喚できるようになった奴を召喚する。


「さぁこい、初仕事だ【ハーピー】」


 光が弾けて、その中から一体の魔物が現れる。

 姿は小柄な子供のよう。

 されど腕の場所には白い翼が生えており、脚は完全に鳥類のソレ。

 召喚獣式Lv.3――通常召喚・ハーピー。

 個体の保有するレベルは『15』。ギルドで言うところのCランク冒険者と同等の戦闘能力を有していることになる。


「ん? あぁ、召喚されたのか? おう、アンタがオヤジかい?」


 そう言って僕の前に降り立ったのは、銀髪のハーピィ。

 身長はアレッタと同じくらいだろうか。

 両翼は赤色一色……に見えて、所々アクセントとして黒い羽が生えており、なんだかとてもカッコイイ。


「あぁ、はじめましてハーピィ。僕はソーマだ、力を貸してくれるかい?」

「んん? 妙なこと聞く奴だね……。あたしはアンタに力を貸すために来たんだ。どんなことでも……って、見た感じ、こいつら引連れてどっかにカチコミかい? いいね、燃えてきた」


 燃えてるところ悪いんだが、カチコミじゃないんだよなこれが。

 そして、なんだかんだでここまで知性の高い召喚獣はホムラ以来……いや、会話してる感じ普通にホムラより知力高いんだが、なんだろうか。まるでヤンキーと話してる気分になる。


「む、私のほうが、賢い」

「だったらいいな。で、ハーピィ。お前に頼みたいのは、こいつら引連れてこの森の探索をしてきて欲しいんだ」

「……探索ぅ? なんだ、カチコミじゃないのかい」


 目に見えてハーピィは肩を落とすが、目の前に広がっている静寂の森を振り返り、考えるように腕……っていうか、翼を顎に当てる。


「見た感じ危険も何もない……けど、この森がなんか怪しいって話なんだろ? なんとなーくオジキの記憶が入ってるから、そこらへんはわかってるぜ」

「話が早くて助かるよ。そしてさりげなくオヤジからオジキに変えないでくれ」

「ん? 父親呼びは嫌なんじゃねぇのかい?」


 まぁ、その通りなんだけどね……。

 僕は仕方なく『オジキ』呼びを諦めると、驚いたようにハーピィを見つめているハク、レイ、カイを振り返る。の、だが。


「ご、ご主人様……」

「は、ハーピィの、子供がいたんですか……?」

「おいおいおいおい、ちょっと待て早まるな」


 そこには早速勘違いをこじらせてるハクたちがいた。

 そうだもんな、この子達にはまだ召喚術式について詳しく話してなかったからなぁ。いきなりでてきたハーピィよりも、そっちの方が気になっちゃうよなぁ。ゴメンなみんな。


「とりあえず、違う。違うから安心しろ。そしてそろそろ本題について話させてくれ頼むから」


 静寂の森の前についてからどれだけ時間かかってるんだよ。

 もうアレだぞ、さっきまで話題に上がってた虹の果てなんて完全においてけぼり食らってるぞ。

 僕の言葉に何とか納得した様子のハクとレイとカイ。その姿に安堵の息を吐くと、僕はピンと指を立てた。


「まずはハーピィたちで様子を見る。何も見当たらなければそれでよし。なにか見つかったとしても、飛行部隊がこれだけいれば一体くらいは逃げ帰れるはずだ」


 よしんば一体も逃げ帰れなくたって、僕には知覚共有がある。

 エレメンタル、ダークバッドと視覚を共有。なんだか偵察に使うのが可哀想になってきたヤクザハーピィとは痛覚以外のほとんどの知覚を共有して偵察に向かわせる。

 そうすればより確実な情報を得られるだろうし、なにより万が一の際には召喚術式を使ってハーピィ自身を呼び戻せる。


「冷酷な奴……と言いかけたんだが、いい所あるじゃないか。あたし、もしかしていいオジキに当たったのかね」


 そんなことを言って肩をポスポス叩いてくるハーピィ。羽毛クッションも顔負けな感触してるせいか全くダメージがない。むしろ心地よい。あれっ、もしかしてハーピィって掛け布団に最適? よし、将来引きこもったらハーピィの羽毛布団を作ろう。もしくは枕。


「……ハズレだったかもしれないね」


 僕の内情を知覚共有スキルで読んでるんだろうな。

 見直したぜ、みたいな雰囲気してたハーピィが僕から距離を置いた。


「ま、冗談はさておきだ。できる限りは生還させる。けど、危険は正直計り知れない。……頼めるか、ハーピィ」

「……ったく、こちとら使い捨ての使い魔。もとよりそのつもりさ。まぁ、こんな立場でも()()()()()()()()()()()()


 ハーピィの少し弱気なその言葉。

 それに対して虹の果てメンバーが目を見開いて。

 僕は、少し嬉しくなって笑みを浮かべた。


「……お前、帰ってきたら名前をやるよ」

「…………は? い、いいのかい? 名付けってのはかなり重要な……」

「知るか。単純にお前のことが気に入った。とりあえず生きて帰れ。一生僕の羽毛布団にしてやる」


 死ぬ覚悟できてる奴なんざ要らないんだ。

 生きたい、まだ人生に悔いがある。

 否が応でも、生き延びたい。

 そう思ってる奴は、僕は好きだ。

 そういう奴と一緒にいた方が、絶対人生楽しいからな。


「……ほんと、ロクでもないオジキに当たったもんだ」


 呆れたように、笑うハーピィ。

 彼女は僕へと向き直ると、不敵な笑みでこう言った。



「任せな。この森の秘密、全部素っ裸にして帰ってくるよ」



 うん。我ながら、いい配下を引いたもんだ。



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