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047『大繁盛』

「うっわ、美味っ」


 十分後くらい。

 立ってることに飽きた僕は、店の横にテーブルセットを引き出して(来た風を見せかけて召喚して)お好み焼きを頬張っていた。

 ソースの材料とか、マヨネーズの作り方とか、そこら辺は日本からレシピを調達して手伝いもしたが……なんだこれ、普通に美味いぞ。僕が召喚したお好み焼きを遥かに上回ってる。


「アレッタ……おまえ料理出来たんだな」

「料理屋の娘に失礼っすね! というかいい加減ソーマ様も手伝って欲しいっす!」

「え、やだよめんどくさい」


 僕はアレッタの懇願を難なく拒否ると、対面に座ってもぐもぐお好み焼きを頬張っているアイシャへと向き直る。


「お、アイシャ。口にソースくっついてるぞ」

「むぐっ、あ、ああ、ありがとうございますっ!」


 ポケットからハンカチを取り出して彼女の口元を拭ってやると、嬉しそうに頬を赤らめるアイシャ。この子と一緒にいるとあれだな、保護欲って言葉がよく理解できるな。生まれて初めてニートに保護欲なるものが産まれたよ。


「おいこらソーマ。貴様そのハンカチ洗っているんだろうな。不浄な布でアイシャの口を拭ったとあれば万死に値するぞ」

「はいはいシスコンシスコン。お前もうちょっと妹離れしろよもう。一回一回めんどくさいんだけど」

「なんだと貴様! この私のどこが面倒だというのだ!」

「……逆に聞くけど言っていいのか?」

 

 イザベラは沈黙した。

 彼女はなにか言おうとしたようだがすぐに口を閉ざして俯いてしまい、そんな彼女と僕を見て、アイシャは楽しそうに笑っている。


「お姉様は、ソーマ様と仲がよくて羨ましいです!」

「なっ! だ、誰がこのようなダメ男と……!」


 ニコニコと笑うアイシャと、何とか誤解をとこうと試行錯誤するイザベラ。そんな二人から視線を外すと、改めて出店の方へと視線を向けた。


「お、俺! オコノミヤキ一個くれ!」

「私にもひとつちょうだい!」

「俺は五個だ! こんな美味いもん、いくら食っても食い足りねぇよ!」

「そ、それじゃあ私は三つ! 家に帰って保存するわ!」

「なんだと俺は十個だ! 十個くれ!」

「はわわわわ……! そ、ソーマ様っ! ほんと、まじで助けて欲しいっす!」


 ただひたすらに『大繁盛』。

 列を並べようと頑張ってる子供たち、及びレイ達ももはや全然機能していない。まるで雪崩のようにドドドドドッと買い物客達が押し寄せている。

 これはさすがに手が回らない……というか、このままだと色々と不味いな。ちらっと人混みの後ろの方に、小さな子供たちの姿が見えた。あのまま人混みの中に突撃してったら普通に死ぬぞこれ。

 僕は頭をかくと、椅子から立ち上がって歩き出す。


「……おいソーマ、大丈夫か。貴様が働こうなど……風邪でも引いたか?」

「黙ってようかイザベラ。僕だってやる時はやる……とは限らないが、必要最低限のことはやるしかないかなぁ、って諦められる男だ」

「さすがですソーマ様っ!」


 目をキラキラさせてるアイシャを見て、イザベラがこちらを睨む。

 いや、いやいやいや、知らんがな。アイシャがどういう理屈で今のをかっこいいと思ったのかなんて知らんて。僕に責任を負わせようとしないでくれ。

 というわけで、僕は逃げるようにして歩き出すと、肩のスイミーさんから取り出した風を見せて、拡張器を召喚した。

 そして……、スイッチオン!


『え、あー、あー。聞こえますでしょうか人混み諸君』


 よく学校の教師達が避難訓練で使ってる、声がでかくなるアレ。

 多分呼び方は『拡張器』であってると思うんだか、学校なんてほとんど言ってなかったから正式名称に自信はない。なんとなーく理解してくれ。

 唐突に響いた大きな声に周囲からざわめきが消えてゆく。

 徐々に僕の方へと注目が集まってきて、それを察した僕は再び声をかけて行く。


『大繁盛なのは嬉しい。が、少し落ち着いてくれ。この騒ぎだと、もしも小さな子供が人混みの中に入ってきた際に、押されて転んで踏み潰されかねない。洒落にならん。だから落ち着け、列を作れ。でないと店は開けない』

「あー? うるせぇよクソガキがよォ! どこの誰かは知らねぇがなに上から目線で口開いてん」

『ゴーレム。ソイツつまみ出せ』


 パチンと指を開くと、虚空から召喚されたアイアンゴーレムがのそっとその男をつまみ上げる。男は一瞬驚いたようだがすぐに暴れ出し、『ふざけんな』やら『下ろせ』やら言っていたようだが、うるさかったので口のあたりにスライムを投擲。これでやっと静かになった。


『とまぁ、はい。騒ぐのは程々に。言っておきますが、警護として【黒炎姫】ホムラ、その他冒険者たちに、一応オマケとして【影の英雄】ソーマも見ています。横入り、その他横暴な事件が起こった際には容赦なくつまみ出しますのでそのつもりで。はい以上』


 返ってきたのは重苦しいほどの沈黙。

 野次馬の中から「誰がオマケとして、だよ……」みたいな声が聞こえてくる。チラリと視線をレイへと送ると、すぐに僕の意を察してくれた彼女は子どもたちと協力してお客さん達を並べ始める。

 加えて、……まぁ、彼女に関しては以心伝心だから特に気にしてなかったが、顔見せという意味合いも含めてホムラが直行。これでもう暴れるようなことは無いだろう。


「す、すごいですソーマ様……!」

「なーに、僕と同じ力さえあれば誰でも出来るよこんなこと」


 僕は特別なんかじゃないからな。

 ただ、魔力量が多くてちょいとチートを貰っただけの一般人だ。

 そう言いながら席へと戻るも、アイシャの僕を見る目は変わらない。

 結果としてイザベラのこっちを見る目がさらに厳しくなり、僕はたまらず息を吐く。


 取り敢えず、ソーマの店、大成功。




 ☆☆☆




「う、売り上げがハンパないことになってるっす……!」


 アレッタは銀貨金貨を両手に目を見開いた。


「や、やばいっすよ! なんか途中から頭が数字を受け付けないレベルでとんでもない稼ぎっす! 私、こんな大金手にしたの初めてっすよ! ふはははっ! これだけあれば世界征服できる気がしてきたっす!」

「おお良かったな。んじゃ、その金は預かろう」


 召喚術式発動。

 アレッタの周囲にあった全ての硬貨を回収すると、途端に涙目になった彼女は僕の足元にすがりつく。


「じょ、冗談っすよソーマ様っ! おねがいっす! 後生っすから、すこし、ほんの少しだけ分け前が欲しいんすよ! 私頑張ったっすもん!」

「そうだな、頑張ったな。頭撫でてやるからそれで我慢しろ」

「ぬへへ…………って! そんなんじゃ誤魔化されないっすよ! 私をホムラさんたちと同列に扱ってもらっては困るっす!」


 な、なんだと……!

 この女、まさか僕の必殺奥義『撫でてやる』が効かないとでも言うのか!? 今までホムラ、ハク、レイ、アイシャと、尽く幼女、少女たちを屠ってきた僕の誇る必殺技だぞ!


「ふふん! それが効くのはアンダー15までっすよ! 私は18! そんな子供だまし通用しないっす!」

「な、なんだと……!? ホムラは明らかに15歳超えてるんだが……、そこら辺はどう説明する気だ!」

「単なるブラコンじゃないっすか?」


 くそぅ、ホムラ! もうちょっとお父さん離れしてくれよ! 好かれるこっちが恥ずかしくなってくる!

 アレッタと二人でわちゃわちゃ遊んでいると、孤児院まで子供たちを送り届けたホムラたちが帰還する。


「ソーマ、任務かんりょー。甘やかして」

「おお、ホムラ。ありがとな。いつも助かる」

「…………むっ、素直に言われると、てれる」


 無表情を赤く染めるホムラ。

 そんな彼女からハクへと視線を移すと、彼女は微笑みながら子供たちの様子を教えてくれる。


「皆さん、とっても喜んでいました。院長先生も、これからも何かあった時はお願いします、って言ってました」

「りょーかい。まぁ、本業もあるから毎日は開けないとは思うけど、次やる時もお願いしに行こうか」


 本業……僕で言うとニート。ホムラたちで言うと冒険者家業。いくら【ソーマの店】が繁盛したところでそっちに重きを置くことには変わりない。


「む、毎日やるんじゃなかった?」

「当たり前だろ、僕を誰だと思ってる」

「ん、納得」


 そう、僕はニートである。

 そんな僕が毎日働くとでも?

 ハッハッハ! 冗談よせよ!

 僕が働くなんてよっぽどだぞ。もう珍事。滅多な事じゃありえない。

 と、いうことで。



「てことでホムラ、明日は討伐依頼に出ます」



 ――僕の言葉に、装備解除中のホムラが剣を落とした。


 それどころではない。先程まで喚いていたアレッタが茫然自失と立ち尽くし、ハク、レイ、カイは不思議そうに首をかしげている。


「……ん? ご主人様、よろしいのですか?」

「マスターは、人知れず私たちの知らないところで――」

「って! なにを今更そんな勘違いしてるっすか! ソーマ様はだいたいなんでも出来る超ハイスペック人間っすが、それ以前に『働く』という最も大事な意思が抜け落ちた廃人! 引きこもりっすよ!?」

「ソーマ、どした、風邪? いんふるえんざ、ってやつ罹った? び、病院……アレッタ、病院探す。早く連れてく」

「そ、そうっすね! これは明日は槍の雨が降」

「おいお前らいい加減にしろよ」


 なんだこらホムラとアレッタ。

 なんて言うか……アレなんだよ。

 ……ぶっちゃけた話、ギルドから『そろそろ次の依頼受けてください』的な催促が来てんだよ。

 こちとら仕事なんざしたくない、けど、せっかく手に入れたCランクの称号を簡単に手放すのもなんだかもったいない気もする。将来役に立つかもしれないからな。


「……ん、なるほど」

「む? なんすかなんすか、また以心伝心っすか?」

「まぁ、そのとーり。ソーマ、そういえばギルドから『お前の兄貴、全く依頼受ける気配ねぇんだがどういうことだ。一度ギルドにツラ出せや』って伝言もらってたの忘れてた」

「おいおいそれいつの事だ?」

「この街来てすぐ」


 うっひゃあ、行きたくねー。

 これはもう行ったが最後お説教コースだわ。

 僕は大きく息を吐くと、窓の外へと視線を向ける。

 時刻は……結構早く売り切れたからな。まだ昼過ぎだ。

 けどな、なんというか、ねぇ?


「明日から頑張る、ってことにしとかない?」

「それ、絶対やらない奴のセリフっすよ」


 アレッタが何か言ったようだが聞こえなかった。

 僕はぐぐぐっ大きく体を伸ばすと、欠伸を漏らして結論づける。


「ま、いいや、明日行こう明日。もうなんかやる気出ないし」

「ん、ソーマが言うならその方がいい。かくじつ」


 ホムラの肯定が帰ってきて、アレッタも仕方ないって風に苦笑い。

 もとより子供たちから反対意見など出てくるはずもなく、結果として僕らは明日からやる気を出すことに決め……。



「ソーマ・ヒッキーに告ぐ! こちらは冒険者ギルドの者だ! 居るならば迅速に姿を現せ! ギルドマスターが貴様をお呼びだ!」



 ………………うん。

 宿屋の一階から聞こえてきたそんな声。

 僕はため息を吐いて頭をかくと、僕の肩をアレッタが優しく叩いた。


「アレッタ……」

「ソーマ様、年貢の納め時って言葉、私でも知ってるっす」


 アレッタは諭すように笑い。

 そして僕は、諦め混じりに肩を落とした。


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― 新着の感想 ―
 アレッタって拾八だったんですか?十歳位を想像してました。
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