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046『ソーマの店』

「いよいよだな」

「うう……緊張してきたっすぅ」


 アレッタがモジモジしながらそんなことを言っている。

 ……え? 僕は緊張しないのかって?

 残念だったな、僕は仕事なんてするつもりがない! なんとなーく宣伝として店の前に突っ立ってるだけだ! 疲れたら帰る! 定時など知ったことか!

 と、いうことで。


「さて、いいかい子供たち。このお姉ちゃん……アレッタが料理を作る。でもって、君たちは出来上がったものをトレイにのせる係と、やってくるお客さんをきちんと列に並べる係、二つに分かれて頑張ってくれ。会計はカイとハク、頼む。ホムラは呼び込み、レイは並べる係兼、ヤバいやつから子供たちを守る係を頼む。スイミーさんを預けるから、何かあったらまずは彼に報告してくれ、僕に伝わる」

「「「は、はいっ!」」」


 孤児院からやってきた子供たちが緊張気味に返事を返す。

 何だか少し前の三人組の反応を思い出すなぁ、とハク、レイ、カイの三人をみると、なんとも言えない苦笑いで返された。


「ま、三人は子供たちの緊張する気持ちもわかってるだろうし、リラックスさせる係も兼任してくれ。僕はサボる」

「ん、ソーマが、三人の信頼勝ち取ったように、同じことすれば仲良くなれる」

「ご、ご主人様と、同じことを……」

「おいやめろホムラ、ハクたちがニートになったらどうする」


 僕と同じことやったらニートになんだろうが。

 そう責めるもホムラはどこ吹く風と余裕綽々。

 対する三人は顎に手を当てて悩みこんでおり、なんでこうなったと頭を抱えた僕は手を叩く。


「あー、はいはい! 取り敢えず考えるの終了! 子供たち、冒険者は怖いと思うが、君たちはレイやホムラが守ってる。横入りしてくる奴がいたら遠慮なく注意してやれ。ハク、レイ、カイ、頼りにしてるぞ今日も頼む。アレッタ、お前が今日の主役だ、張り切っていけ」

「………………ん? ソーマ、私には?」

「ない、以上! さぁみんな頑張ろう!」


 出店のシャッターを開く。

 ド派手な青い旗を立ち上げ、鉄板に火を入れる。

 音を立てて青い旗が揺れる。

 そこにはドでかく【ソーマの店】と書いており、満場一致(僕を除く)で決定した名前に苦笑しながら、僕たち従業員達は声を貼りあげる。


「いらっしゃいませー!」と。


 ちなみにホムラは拗ねていた。




 ☆☆☆




「いらっしゃいませー! 影の英雄にして、天下の料理屋『ウマイモーン』を唸らせた伝説の料理人、ソーマさんの監修した店、通称【ソーマの店】ですよ!」


 会計のカイが声を張りあげる。

 その言葉に少なくない人々がこっちを振り返るが……ううむ、まだお好み焼きのメインウェポン『いい匂い』が機能してないからな。まだ反応はイマイチだ。


「アレッタ」

「わかってるっすよぉー!」


 声をかけると、彼女は既に鉄板の上に油を敷き始めている。

 最初は緊張してたみたいだけど……この調子ならすぐにいい香りが立ち込めてくるだろう。そうなりゃ勝ちだ、確実に勝つる。

 とか、そんなことを思っていたら。


「おっ、おはようございますっ! ソーマ様!」

「……んん?」


 なんか、ものすごい高貴な声が聞こえてきた。

 前を見ると、そこには可愛らしい銀髪の少女が立っており、僕は驚きながらも彼女の頭を撫でてやる。


「おお、アイシャ、来てくれたのか。ありがとう」

「は、はひっ! ソーマ様のお店ですので! 一番最初のお客さんになりたくて、実はずっと待ってました!」


 ずっと待ってたかぁ、そうかぁ。

 だから一緒に待たされてたイザベラ姉様の機嫌が悪そうなのね。理解しました。


「おはよう、ソーマ・ヒッキー」

「おはようございます。イザベラ姉様が僕をフルネームで呼ぶ時って怒ってる時か機嫌悪い時のどっちかですよね。基本的に」

「……ふん、お前が敬語を使うのは私が苛立っている時に限るな」


 アイシャの背後から現れたのはイザベラ姉様。

 もぉっ、働かないって決めてたのになんで僕の方にお客さんが寄ってくるのぉ? ねぇなんで、なんでニートに寄ってくるのぉ? なんかおかしくない?


「やぁ、おはようソーマ殿。貴殿の料理はグスカの街では『死ぬまでに一度は食べてみたい』と有名だからね。つい来てしまったよ」

「……アンタも来てるんですかハイザパパ。というか誰が広めたんですそんな噂」


 視界の隅っこでホムラが体を震わせた。

 うん知ってた、僕の過剰評価な噂はだいたいお前が原因だってな。


「ソーマ殿にもパパと呼ばれる筋合いは……と、こんなのは言っても詮無いことか。何となく、イザベラかアイシャ、どちらか持っていかれそうな雰囲気だしな」

「恐ろしいこと言わないでくださいよ。イザベラなんて死んでも要らな」

「殺されたいのか貴様は」


 ジャリンッ、と気がつけば首に剣が添えられていた。

 僕は無言で両手をあげると、それを見たイザベラ様はフンっと鼻を鳴らして剣を収める。ふひー、おっかね。殺意がないから召喚獣達も反応しなかったみたいだけど。

 ……というか、もしかして召喚獣からしたらイザベラもまた『僕の仲間』って括りに入ってるのだろうか? だとしたらなんというか、うん。本人が知ったらブチ切れそうだな。


「でもま、ありがとう。スタートダッシュで少し躓くだろうな……って思ってた手前、上手く行きそうな気がしてきた」


 周囲を見ると、徐々に僕達に注目が集まっていることが分かる。


「あ、あれって……もしかして!」

「あぁ! クロスロード公爵家の方々だ!」

「ハイザ様に、イザベラ様! ってなると、最後のは……もしかしなくてもアイシャ様か!? 俺初めて見たぜ!」

「そりゃそうよ、魔力病なんて大病患ってたんでしょう? そんな子が来るってことは……影の英雄が賢者様でも治せなかった魔力病治したってのは本当の事だったのね……」

「あれが影の英雄か……。噂ですげえ料理うまいって聞いたぜ?」

「……でも作ってないよなアイツ」

「……ええ、言われてみれば突っ立ってるだけよね」

「で、でも、アレだよな! 気になるっちゃ気になるよな!」

「あぁ、公爵家が来るほどの出店…………じゅるり」


 おおぅ、これは勝ったな。僕は確信した。

 ハイザを見れば『少しは借りを返せただろうか』みたいなウィンクをしてきたが、ばっさりと「銅貨一枚分くらいな」と切り捨てる。


「どーせアイシャが来るって言ったからついて来ただけだろ?」

「「…………」」


 ひたすらの無言、僕は肯定と受け取った。

 僕は小さなため息を零すと、くいっと親指で横のカウンターを示す。

 そこには早速焼きあがったお好み焼きにソースをぶっかけて行くアレッタの姿があり、湧き上がるいい香りに三人の喉がゴクリと鳴る。


「でもま、これ食ったら多分次からは自分の意思で来ると思うぞ」

「はいっす! 私とソーマ様の自信作っすからね!」


 アレッタが焼き終えたお好み焼きを、子供たちがうまい具合にトレーに乗せてゆく。個人的にはお好み焼き……も本命だが、トレーに目つけてくれる人がいると助かる。今後立てる予定の『商会』の宣伝になる。

 アレッタが調達した青のり(モドキ)と、レシピを召喚して作り上げた現地産マヨネーズをぶっかけて、いよいよ完成。


「ひ、一皿、1000ゴールドになります!」


 それを手渡されたハクが緊張気味に声を出す。


「ふむ、1000ゴールド……か。量を考えると少し高いような気もするが……ふむ。ソーマよ、まさか値段設定を間違えたわけではあるまいな?」

「まさか。手間暇かかってるって話ですよ、それだけね」


 ここで『こ、これが200ゴールド……!? なんという安さだ!』とかお約束できればいいんだが、現実は辛いね。召喚した素材を使ったら食べた人全員のステータスが伸びちゃって面倒だし、色々手間暇かかってるんですわ。

 イザベラはアイシャへとお金を渡すと、ワクワク顔のアイシャが初お買い物。お金と引き換えにお好み焼きを受け取り、ソワソワとこっちを見上げてる。


「そ、ソーマ様っ! あ、ありがとうございますっ!」

「おう、あっついから気をつけろよ。火傷しないようにな」


 ついこの間まで流動食を食べてた少女がお好み焼きなんて食べてもいいんだろうか。なんて考えが頭をよぎったが、何となくお好み焼きも流動食といえば流動食っぽくも思えてくる。多分大丈夫だろ、あれから一、二ヶ月は経ってるし、見た感じ体調も良さそうだし。

 アイシャはぺこりと頭を下げると、トレーに乗ったお好み焼きをプラスチックフォーク(さすがにこれは僕で召喚した)で切り分けてゆく。


「お、おいソーマ……なんだこの白い液体は……」

「ふむ、ソーマ殿が作る料理。君が関わっているというからには想像を超えてくるだろうとは思っていたが……これは想像以上だな」


 白い液体、マヨネーズを胡乱気な目で見てるイザベラ。

 お好み焼き……というより、トレーとプラスチックフォークに注目しているようなハイザ。二人ともなんとなーくお好み焼きに対して拒否感……とまでは行かずとも、『本当に美味しいのかこれ』みたいな雰囲気を醸し出してる。


 が、アイシャはそんなこと気にしない。


 なにせ、アイシャは疑うってことを知らない。

 もはや僕が何言っても信じるんじゃないかと思える純粋さ。……というより、僕に対する絶対的な信頼、って言うべきかな。

 彼女は「はふはふ」と湯気のあがるお好み焼きへと息を吹きかけると、やがて意を決したようにお好み焼きを口にする。


 ――そして、大きく目を見開いた。


 イザベラがソワソワと体を揺らし、ハイザがゴクリと喉を鳴らす。

 そんな中で、アイシャは満面の笑みを浮かべてこういった。



「そ、ソーマ様……! こ、これ、とっても美味しいですっ!」



 その声は周囲に響き渡る。

 それを聞いたイザベラとハイザは、アイシャから少し遅れてお好み焼きを口へと運ぶ。そして……まぁ、以下略。


「な、なんだ……これは」

「く、くく……っ、流石はソーマ殿、軽く想像を超えてくるな」


 イザベラが愕然とフォークを落とし、ハイザが実に楽しげな笑みを浮かべる。まぁいいけどイザベラ、お前なにフォーク落としてんだ。こっちも好き好んでフォーク召喚してるわけじゃないんだぞ。

 茫然自失のイザベラ。

 美味しそうにお好み焼きを頬張るアイシャ。

 そんな二人を見つめたハイザは、まるで大衆へと向けるかのように、大きな声でこう言った。



「ありがとうソーマ殿。この料理は本当に美味い。感動したよ」



 その言葉に後ろのアレッタが感動に涙する中。

 僕はわざとらしい彼の言葉に苦笑する。


「そりゃよかった。ま、早い者勝ちだからお代わり欲しいなら早く言えよ? すぐ無くなってしまいそうだ」


 ハイザのすぐ背後には、既に大行列が出来上がっていた。


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