045『次の手』
「さすがソーマ、つよい。無敵むそー、もはや敵無し」
僕の説明を聞いて自信満々に胸を張っているホムラ。
そんな彼女とは反対に子供たちは『最後どうやって倒したんだろうか』みたいな顔していたが、そこは僕の奥の手だからな。残念だろうけどスルーしてくれ。
「して、ソーマよ。貴様の野望の第一目標……土地の入手に関しては、国王様が約束してくださった以上問題は無いだろう。だが……」
「分かってるよ。他のがそれを認めない、って話だろ?」
つまりは、あの場に居合わせなかった貴族達のことだ。
その中にはマナやナグラス王子も含まれているが、取り敢えずあの二人に関して言えば当面の問題にはならないだろう。イザベラが問題視しているのは、公爵家未満の複数の貴族達についてだ。
「爵位は要らないから土地をくれ……などと、そんなことはナザーク王国の歴史を振り返っても中々類を見ない珍事。貴様のことを気に食わないと思っている貴族達はここぞとばかりに責めてくるだろう」
「ま、そうだろうな。だからこそ、次手を打つ」
イザベラの言う通り、国王と交渉してはい終わり、では片付かない。僕が欲する安寧を邪魔しかねない貴族達を黙らせないといけないのだから。
「といっても、準備はだいたい整っててな」
そう言って笑った僕は、近くに座ってお茶を飲んでたアレッタへと視線を向ける。彼女は僕の視線を感じてか『ほへっ?』とかなんとか言ってたが。
「アレッタ、やっとお前の出番が来たぞ」
そう言ってやると、彼女はぱちくりと目を瞬かせていた。
☆☆☆
「はい、こちらギルドカードとなります」
アレッタは、ギルドの受付からギルドカードを受け取った。
これで彼女もまたギルドの一員……な、わけだが。
「うぅ……Gランク、また最初っからやり直しっすか……」
「仕方ないだろ、奴隷になってそこら辺リセットされてるんだから」
彼女登録したのはギルドはギルドでも、商業ギルドだ。
もちろんランクとしては最低位のGランク。ここから先、売り上げやなんやらでギルドランクが上がっていく……とか、なんとか聞いているが、詳しいことはアレッタに任そうと思ってる。
「それじゃアレッタ。もう一度説明しておくぞ。僕達は貴族達によく思われていない。だから、物欲で黙らせる。作り方不明、入手先不明、下手に刺激して売ってもらえなくなった物凄く困る。そういうレベルまで奴らの物欲を刺激しまくる」
「そ、そのための『オコノミヤキ』っすか……」
王都までの旅道中。そして今までに至るまで、アレッタにはたった一つだけ仕事をさせていたのだ。
その内容は『お好み焼きの完成』。
それもただのお好み焼きじゃない。この世界にある、実際に売っているモノのみを用いて作る、誰もが唸るようなお好み焼きの完成だ。
「……まだ難しそうなら別の手段を考えるけど」
「いえいえ! もうオコノミヤキなら完璧っすよ! ソース、ってヤツはまだ完璧にはほど遠いっすけど、それでもオコノミヤキ自体は、最初に食べさせてもらったヤツを超えてると自負してるっす!」
ほほう……料理屋の娘が自信を持ってそう言うか。
これは任せておいて問題ないな、と頷くと、僕はスイさんをアレッタの肩の上へと預ける。
「それじゃ、スイミーさん。僕はちょいと労働力を探しに行ってくるよ。アレッタは、スイさんに協力してもらって店の準備進めておいてくれ」
「ろ、労働力って……また奴隷でも買うっすか? よくそんなにお金あるっすね……」
まぁ、アイシャの治療やらキングゴブリンの討伐やらで結構な金は貰ってるからな。でも、今回は奴隷を買いに行くわけじゃない。
僕だってそんなにぽいぽい奴隷を買ってたら全員の面倒見てられないからな。だから今回は、もっと簡単に『労働力を雇いに行く』。
――と、いうわけで。
☆☆☆
「ごめんくださーい」
「さーい」
何故かついてきたホムラと共に、僕は裏路地の奥の方までやってきていた。
――場所は、王都に存在する唯一の孤児院。
目の前には年季の入った教会が立っており、やがて扉が開いて院長らしき女性が姿を現した。
「こ、こんにちは……。今日はどのような……」
「あぁ、怯えなくて大丈夫ですよ。こういうものです」
そう言ってCランクの冒険者ギルドカードを手渡した。
すると彼女は困ったようにギルドカードへと視線を落として……直ぐに、僕の名前を見たか驚いたように顔を上げる。
「そ、ソーマ・ヒッキーさんって、あの影の英雄の……!」
「ん、その通り。そしてあいぼーのホムラです。よろしく」
驚く院長にホムラがギルドカードを提示すると、院長はいよいよキャパシティに限界が来たか、ふらっとその場でよろけてしまう。
咄嗟にその体を受け止め……って、体が軽いな……。成人女性なのにホムラや……下手すればハクと同じくらいの体重かもしれない。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ……。それで、お二人はどのようなご要件で……?」
僕らの素性を理解した院長は、先ほどよりは安心したような顔をしている。
だけど……うん、こんな、今にも崩れかけの教会使ってるくらいだしな。例のごとく借金とかもしてるんだろう。まだ完全に警戒を解いた様子ではない。
彼女からギルドカードを受け取って腰布へと突っ込むと、ひょいと彼女の後ろを覗き込む。
そこにはドアの隙間からこっちを見つめている子供たちの姿があり、僕と目が合うと一斉にとてとてと逃げてゆく。
「あ、あの……!」
「あぁ、だから安心してださい、危害を加えようってわけじゃなく、むしろその逆ですよ。貴方達にちょっとした仕事を手伝ってもらいたくて本日は挨拶にまいりました」
そう言って僕は、彼女へと一枚の紙を手渡した。
そこには仕事内容と、その報酬がずらりと書いており、その説明書きを最後まで見終わった院長先生は限界まで目を見開いた。
「こ、これって……!」
「慈善事業、ではないですよ。ただ、ちょっとこれから店が大きくなる予定でして。ゆくゆくは商店設立まで視野に入れているため、今のうちに若い人材と繋がりを持っておこうかと思いまして」
嘘じゃない。
アレッタの出店を切っ掛けにして、そこからどデカい商店をぶっ建てる。もちろん召喚した食糧関係は『食ったらチートになる』らしいから売らないにしても、それ以外の生活用品……蚊取り線香やライター、その他諸々、売れるだろってモノには限りがない。
だからそれらを売りさばいて貴族達を味方に引きずり込み、その伝手で、貰った土地に職人を呼び、この世界の技術でそれらを実際に作り出す。その生産ラインを整える。
そうすれば『召喚する』という労力すら省けて、より理想に近づける。そのために必要な労力たちを、今のうちに手に入れておきたい。
「……ここだけの話、実は国王様から近々土地を賜わる予定でしてね。今回の件でお互いに良い関係を築くことが出来れば、その時は是非とも孤児院の皆々様を僕の土地に招待したいと考えております。もちろん、支給金は孤児院の全員が暮らしていける額を保証しますし、新たな建物も作ります」
「そ、それは……」
喉から手が出るほどに欲しいはず。
だが同時に、まだ信用が足りてない。
「まあ、決めるのは、僕達がこの街でどれだけやれるか見極めてからでも全然遅くはありません。二日後、メインストリートで屋台を開きますので、まずはその『お手伝い』だけでもお願いできないかな、と思いまして」
「それは……その、是非こちらからもお願いしたいのですが……本当によろしいのですか? その、言ってはなんですが、あまりにもお給金が……」
高すぎる、かな。
大丈夫、大丈夫、だって売れるから。
こっちの世界の人に合わない、ってのはウマイモーンを初めとし、ホムラやハクたち、ギルドマスター、料理屋の娘アレッタにも確認してもらっているからありえない。
そして、アレッタはあの時僕が出した『ソレ』を超えたと言った。
なら、売れないはずがないってことだ。
「ま、それも二日後のお楽しみ、ということで」
「ん、めちゃ、はんじょうする。忙しくなるから、タフな子おねがい」
「は、はぁ……」
院長は困ったように笑い、その背後から好奇心に負けた様子の子供たちが姿を現す。
さて、是非ともいい関係を築いていきたい訳だが……取り敢えず賄賂って名のおやつでもぶちかますかな。
そう考え、腰布からお菓子の定番『う○い棒』を取り出した僕は、子供たちに笑ってみせる。
「こんにちは、お菓子いるかい?」
取り敢えず、う○い棒は異世界でも大人気だったと記しておく。




