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043『勝利と不満』

「はっはー! 今戻ったどー!」

「ただいまっすぅ〜」


 僕とアレッタは帰宅した。

 場所はいつもの宿屋。

 ドアを開くと、先に帰っていたらしいホムラたちの視線がこっちに向くが、真っ先に聞こえてきたのは全く違う声だった。


「あっ、お、おかえりなさいっ! ソーマ様!」


 そこに居たのは、ハクたちと仲良く遊んでいた様子のクロスロード公爵家の次女、アイシャ・クロスロード本人であった。


「おー、アイシャ。ちょっと会わない間に可愛くなったなー」

「そ、そんな……っ、か、かわっ、可愛いだなんて……」


 ぽっ、と頬を赤く染めるアイシャ。

 そんな彼女を撫でようと手を伸ばすと、背後と横から二つの手が伸びてくる。


「おい貴様、アイシャを誑かすのはやめろ。そして同時にあの笑顔を守りたい私もいる。私はどうすればいいのだろう」

「む、ソーマ。私の事ぜんぜん撫でてくれない。不平、不満。もっと私の事、甘やかすが吉。あとおかえり」

「おうただいま。あとイザベラ、そんなもん自分で考えてくれ」


 イザベラに背後からヘッドロックされ、横合いからホムラに突撃された僕は、何とかイザベラの両腕を掴んで引き剥がす。


「でも、事実だろ? 少し見ない間に随分顔色も良くなった」

「え、えへへ……ありがとうございます」


 アイシャが照れたように笑う。

 その背後からてててーっと三人組が寄ってくると、それぞれ『おかえりなさい』『お疲れ様』やら言ってくる。長らくニートやってるが、そんな言葉を聞いたのも久しぶりだな。


「おう、三人もお疲れ様。どうだ、怪我はないか?」

「はい、マスターに頂いた装備のおかげです」

「そ、それにっ、私も回復魔法を覚えましたので! ご主人様のお手は煩わせません!」

「おっ、素晴らしいな。特にハク。僕の手を煩わせないとか最高だ。働かなくていいって素晴らしい。褒めてつかわそう」

「き、きゃわっ!? ちょ、ご、ご主人様……っ」


 ハクを捕まえてウリウリと頭を撫でていると、ふくれっ面になるホムラとアイシャ。なんとなーくレイまでむくれてる様子だ。


「む、ソーマ」

「あぁ、ハイハイだいたい分かったから。これ終わったら全員撫でてやるからそこに並んでなさい。あと、僕は褒めて伸ばすタイプだ。素晴らしい仕事をしてくれた相手は真っ先に撫でる」


 果たして撫でるだけでいいのかって気もするが、腕の中のハクがものすごく幸せそうな顔をしてるいのでまぁいいかと結論づける。

 僕の言葉に、ホムラ、アイシャ、レイの順番で僕の前に列が出来上がり、それを見たカイが苦笑を浮かべた。


「ソーマさんも、今日はいつにも増してお疲れの様子ですね」

「あぁ、なんか国王に呼び出されてな。会ってきた」

「こ、国王陛下に……ですか?」


 ぴょこり、と列の最後尾からレイが顔を出す。

 まぁ、なんだ。国王との謁見も疲れたっちゃ疲れたんだが、どっちかって言うとその『後』の方が精神的に来ててな……。


「まぁ、色々とあってな。面倒事が」


 乾いた笑みを浮かべて、僕は謁見後のことを思い出していた。




 ☆☆☆




 国王との話し合いが終わった後。

 とりあえず、詳しい土地の場所やら、国民への周知など、様々な問題は後で決めるとして、一旦その場はお開きとなった。

 の、だが、

 謁見の間を閉ざしていた扉が開いた瞬間、その向こうからさっきも見た金髪の少年が飛び込んできた。


「父上! なにか変なことはされませんでしたか!?」

「……ナグラス」


 ナグラス第三王子。

 側室の子にして、王位序列第三位。

 お転婆姫様、カルマ王子に継ぐ第三王子で……噂を聞くに、あまり関わりたくないようなお子ちゃまだ。


「おいお前! 父上や兄上たちに変なことをしていないだろうな!」


 うっわ、もう矛先向けてきやがった。

 ナグラス・ウル・ナザーク第三王子。

 噂に聞くにこの王子は、どこぞの公爵家の、つい先日まで魔力病を患っていたとかいう次女のことが大好きらしい。

 それはもう既に世間に広まっているれっきとした事実らしいのだが、問題は、そんな状態で流れてきた『クロスロード公爵家の次女様は、魔力病を治した【影の英雄】とやらがお気に入りのようだ』とかいう、悪意しか感じないような僕の噂だ。

 たぶん……というか、半分確信してるんだが、これを流したのはハイザだ。

 以前に彼と世間話をしていた際、『第三王子から婚約の話が来ていて困っている。隠れ蓑でも何処かに無いものか……チラッ』とか言ってたしな。ほぼ間違いなくお父様が流した噂だろう。

 でもって、結果的に第三王子からの婚約の話……がどうなったかは知らないが、とりあえず彼の矛先が僕へと向いた。


「ハイザパパ、貸し一つだぞ」

「はっは、これ以上君に借りを作っては大変だな」


 たまたま近くにいたハイザに小声で言うと、全く懲りた様子のない彼はそんなことをほざきやがった。

 そうこうしていると、ふわふわと近寄ってきた賢者が第三王子へと口を開いた。


「ま、この僕がついてたしね。なんの問題もなく話し合いは終了さ」

「そう……ですか。とりあえず良かったです。何処の馬の骨とも知らない男が、父上と交渉できるはずもないのに……」


 ……ん?

 何だか会話が噛み合ってない気がして首を傾げると、ずびしっと僕を指さす第三王子。人に指を向けるなってパパから教わらなかったのかこの子。全く、父親の顔が見てみたいぜ! なぁ国王様!


「おいお前! これに懲りたらもうふざけた真似は止すことだ! 貴様のような輩が、父上や……もちろん公爵家なんかと仲良くしていいはずがない!」

「ほぉーん……」


 公爵家なんかと~、の下りからが本音かな?

 僕は顎をさすって薄く笑うと、苦笑いを浮かべた賢者が補足に走る。


「あぁ、勘違いしないでくれよ、ナグラス。ソーマ君はその力をゼスタ……君の父上に示し、ゼスタもまた彼の力を認めた。つまりは交渉成立さ」

「な……っ!? な、何を仰っているのです賢者様! こ、このような男を、父上が認めたとでも……」

「認めた」


 国王陛下の端的なお言葉。

 それを前にナグラス君はあんぐりと口を開いたが、すぐに気を取り直して僕の方へと詰め寄ってくる。


「おい貴様! どうやって父上や賢者様に取り入った! 父上が貴様のような男を認めるはずがない! お義父さまもなんとか言ってやってください!」

「お義父さまと呼ばれる筋合いはありませんが……まぁ、私からは特に何もありませんな」


 隣のお義父さま(ハイザ)が苦笑する。

 なに、もしかしてお義父さま、なんて呼ばれてるの? もうこの子、アイシャと結婚する気満々じゃねぇか。


「おいソーマ、その餓鬼の口を閉ざしてくれ。なに、遠慮はするな。以前からあの餓鬼は私も気に食わなかったんだ」

「小声で怖いこと言うなよ……」


 そして血気盛んなイザベラ姉様。

 あんたはもう少し妹に対する耐性をつけてくれ頼むから。僕は背後のイザベラを左手でさりげなく制すと、前方のナグラス第三王子へと視線を向ける。


「ナグラス殿下。つい今しがた、国王陛下とは正式に……といってもまだ口約束ですが、土地をいただける約束を頂きました。まぁ、個人的にクロスロード家……ハイザ様やイザベラ様、もちろんアイシャ様とも仲良くさせて頂いておりますので、グスカの街近辺の土地を頂きたく思っております」

「ははは……いい性格してるね」


 賢者が思わず苦笑う。

 悪いな賢者、こういうのは放置しとくのが一番厄介なんだ。

 どっかのタイミングで爆発させて叩き折るか、爆発させるより先に叩き潰して抗う気を削り取るか、あるいは普通に、文字通り潰すか。いずれかに限る。

 でもって王族に取れる手段なんか、この中じゃ本当に限られる。

 目の前のナグラス王子は拳を握り、血走った瞳を向けてくる。


「お、お前……ッ! なんなんだよ、なんなんだよお前!」

「ソーマです」

「そ、そういうことじゃない! なんで、お前みたいなぽっと出の男が、アイシャ……いや、みんなに認められているんだ! どこからどう見ても僕より弱いじゃないか! こんなのが……ありえない! 僕は認めないぞ!」


 今明らかに名前言ったな。

 ハイザに視線を向けるとため息が返ってきて、背後のイザベラからは怒気が伝わってくる。どうやらイザベラ的にはこの少年、僕以上に『気に入らない』らしい。


「ソーマ」


 短く、イザベラが僕の名前を呼ぶ。

 まあ言いたいことは分かる。けどめんどくせぇなぁ、本当に面倒くさい。なに、え、やっぱり僕が相手しないとダメなのこの子。

 足音が聞こえてそちらを向くと、楽しげなマナ・エクサリアの姿がある。

 その瞳は愉悦に揺れており、楽しげに手を叩いた彼女はこんなクソみたいな提案をぶちまけた。


「話は聞かせていただきました。それでは、そこの下郎の力を試すという意味で、ナグラス王子()()と下郎の模擬戦闘を行ってはどうでしょう?」


 おい、今『たち』って言った?

 ナグラス王子『たち』って言った? 嘘だと言ってよ聖女様。


「おお、それはいい! 私は全面的に賛成するぞ!」

「おおっとイザベラ姉様?」


 うんん……、なんか背後から賛成意見が出てきたぞ?

 助けを求めてハイザを見るが、賛成ですと顔に書いてある。

 賢者を見るも肩を竦められ、国王は瞼を閉じてる。ねぇ王様もしかして寝てる? さっきから何も関わってこないけどご就寝してるのもしかして。


「か、カルマ王子?」

「うーん……まぁ、父様も君の力を見たいんじゃないのかな。何も言ってこないってことは、今の流れに反対ではない、ってことだろうし」


 嘘だろおい王様。マジなのか、マジで言ってんのかそれ。

 そう言わんばかりに国王を見上げると、瞼を開いた彼は端的にこう告げた。



「安心せよ。交渉はする……が、貴様の力に興味もある。続けよ」



 続けよ、じゃねぇよ国王!

 僕は心の中で吐き捨てて、盛大なため息を漏らした。



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