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041『集う』

「ごめんねイザベラ姉様。すごい楽」

「……こんな屑を先程まで恐れていたとは。一生の不覚だ」


 僕は今、イザベラ姉様に運ばれていた。

 ……ん? 文章がおかしいって?

 いやいや文字通りだとも。

 今の僕に対する警戒レベルは多分最高レベル。さすがに生身のまま国王の元へと向かわせるってわけにもいかず、条件として『ソーマの拘束』が決定した。


 でもって今。

 体を鎖でぐるぐると縛られた僕は、イザベラに担がれて運ばれていたのだ。

 あぁ、アレッタ? さすがに彼女まで王様の前に引っ張っていくのはアレかなー、と思い、城の外に置いてきました。ちゃんと召喚獣の護衛付きでな。


「ふふっ、流石の影の英雄といえど、その姿ではなんの抵抗もできそうにありませんね? 今ならば八つ裂きにすることも……」

「おいおい物騒だな。人の目の前で抹殺計画練るなよなー」

「黙りなさい下郎」


 イザベラに担がれたまま、不穏な計画を練り始めたマナへと声をかける。が、返ってきたのは鋭い言葉の刃。ものすごく嫌われてるな僕。


「それにしても貴様、以前より思っていたが……私達は一応公爵家の人間だぞ。それに対して良くもまぁその口調で話せるものだな」

「お、イザベラ姉様。もしかして敬語で話して欲しいのか?」


 冗談半分にそう返すが、イザベラの雰囲気は真面目なままだ。


「そうは言ってない。なんだかんだ言いつつ貴様ともそれなりの付き合いだ。今更敬語を使えなどとは言わん。ただ、その態度を貫く『相手を考えろ』という話だ。……お前ならばこれで理解できるだろう?」

「……さぁ、どうだろう」


 曖昧な返事を返し、前方へと視線を向ける。

 ようやっとの到着か、視線の先には大きな扉が見えていた。

 その両脇には明らかに強そうな騎士が二名構えており、やがて、イザベラの行進に応じて巨大な扉が開いてゆく。



「……ソーマよ、健闘を祈る」



 小さくイザベラの声が聞こえて。

 気がついた時には、僕は思い切りぶん投げられていた。


「へぶぁっ!?」


 痛い。ものすごく痛い。

 イザベラにぶん投げられて十数メートル。

 何度かバウンドしながらやっとこさ勢いを削り切った僕は、高級感漂う赤い絨毯に顔を埋めて沈黙していた。

 と、いうのも。


(痛いのもあるけど……凄い顔ぶれだな、おい)


 知覚共有スキルで、肩のスイミーさんと視界は共有している。

 だから、その場にいる面々がどれほど『ヤバイ』かも理解していた。

 なにせ、少しこの世界について調べただけの僕でも、そこにいる全員の名前が浮かぶ程なのだから。


「オイオイオイ……これが影の英雄か? んだよ今の悲鳴、雑魚っぽくねぇか?」


 金髪の獣人族が半笑いで口を開く。

 身体中から威圧感を振りまくその姿。百獣の王ライオンの特徴を色濃く出したその男。……間違いない。Aランクパーティ『三獣双』のリーダー。

 Aランク冒険者、【金獅子】のガダン。


「……これが、影の英雄、ですか」


 紺色の髪をした、着流しの女がぽつりと呟く。

 明らかに世界観を間違えているような『日本』風の姿。

 加えて黒髪に次いで珍しいという紺髪。大陸外から流れ着いたとされる異邦人……だったか? こっちもこっちでかなりの有名人だ。

 Aランク冒険者、【紅】のキキョウ。


「あはは……久しぶりだね、ソーマさん」

「なにやってんのよあの馬鹿……」


 何だかほんのり懐かしい声。

 茶髪碧眼のイケメン剣士に、ツンデレ風の赤髪魔法使い等など、Aランクパーティ『撃滅の龍』の面々。

 Aランク冒険者【滅龍士】のアレックス、賢者の弟子イルミーナを初めとした、僕もよく知る最強パーティの一角。お前ら王都に帰って来てたんかい。


 そして、最後に。


「……ほほう。これはこれは、規格外が出てきたものだね」


 幼い声が、周囲に響く。

 明らかに場違いなその容姿。されど風格は誰より強い。

 召喚獣越しに見えた魔力量は今まで見てきた中でもアイシャと同等……いや、それ以上と言った所だろう。明らかに『人間やめてるとしか思えない』魔力量に頬を引き攣らせ、僕は初めて顔を上げる。


「やぁ、初めまして影の英雄。僕は賢者というものだ」


 悠久を生きる幼き賢者、本名不明。

 アイシャの魔力病を治せなかったから大したことないんだろ、とか、そんな思い込みが一瞬で打ち砕かれるのを感じた。

 確かに魔力量は僕には及ばない……が、間違いなくコイツは強い。

 僕みたいな一般人でもソレが分かった。

 圧倒的な、強者の風格。それがあったから。


「――さて。それではそろそろこちらを見てもらおうか」


 厳格な声が響いてそちらを見る。

 そこには玉座に深く腰をかけた一人の男が立っており、賢者とは別ベクトルの風格を感じさせるその姿に、僕はゴクリと生唾を飲む。

 金髪碧眼に、年老いてなお健全たる肉体。

 王国始まって以来の『武闘派』な国王。



「我が名は、ゼスタ・ウル・ナザーク。この国の国王だ」



 僕は口の端を吊り上げ、笑って返す。

 あぁ、やっとここまで来たか。

 僕の目標への第一歩。第一目標。


『自分だけの安住地を手に入れる』


 そのための、国王への謁見。

 或いはソレを可能と出来るだけの王族との交渉。

 ……残念ながら、国王を抜かしてパパッと済ませるのは無理だったみたいだが、この際文句は言わないでおくさ。

 ちらりと、横の方にハイザの姿がみてとれた。

 僕は彼に対して一瞥すると、改めて国王を見上げた。


「初めまして。影の英雄、ソーマと申します」


 スイさん越しに背後を見ると、控えめにガッツポーズをするイザベラの姿が見えた。心配しなくても大丈夫だっての。国王相手に最初っからタメ口かますほど僕も馬鹿じゃない。

 見れば国王はじっと僕を見下ろしている。

 対する僕もまた彼の目を見上げると、やがて彼は肘置きを軽く拳で叩いてみせた。


「私としては、第一王女に貴様の確保、もとい謁見の件について知らせに行かせたつもりだったが……まぁいい。端的に聞こう。貴様は私たちに何を求め、何をもたらす?」

「土地を求めます。対価は全て。なんでも欲しいものを一つ渡します」


 僕の言葉に、国王……ではなく、その近くに立っていた小さな少年が怒ったように口を開いた。


「貴様……父上を馬鹿にしているのかッ! 今は真面目な話をしているのだ! それなのに……」

「よい、黙っておれ」


 金髪碧眼、カルマより少し若い年齢。

 恐らくは噂で聞く第三王子と言う奴だろう。

 彼は国王からの言葉を受けて黙ってしまったが、その瞳は明らかに不服と言った雰囲気だ。


「……全て、か。大きく出たな影の英雄」

「大きくもないですよ。その証拠に……」


 僕は背後を振り返る。

 僕の視線を受けたカルマ王子は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに僕の言いたいことが理解出来たようだ。


「父上。先程、私はこの男から全く同じことを伝えられました。もちろん私とて『冗談』と捉え、無理難題を突きつけたつもり……だったのですが」


 そう言ってカルマが腰から剣を引き抜いた。

 初代国王が所有していたとされる伝説の剣。

 それを見た国王の表情が初めて『驚き』へと変わり、その近くに……どういう原理だろう。なんか浮遊していたロリ賢者が『ほほう』と笑った。

 の、だが。


「最初見た時から『すごい』とは、漠然と思っていたけれど。なるほど、過去の武器すら召喚する【召喚術式】ときたかい。ねぇソーマとやら、それ、どんな能力なんだい?」

「……なんで能力バレてるんですかね」


 やっだぁこの賢者ー。

 鑑定スキルに看破スキルまで持ってるみたぃー。

 僕の偽装スキルが全く通用してないとか、さすが賢者と言うべきか、もう色々バレてることに笑えばいいのかなんというか。


「召喚術式……? ソーマさんの能力は『テイム』じゃ……」

「あぁ、アレックスとソーマは知り合いだったかな。それ、真っ赤な嘘だよ。彼はテイムスキルだなんて持ってない。むしろ、このステータスでどうやって魔物を従えているのかさっぱり分からないくらいさー」


 くそぅ、この幼女! 要らんことばっかバラしやがって!

 僕はギリッと歯を噛みつつ、言葉を絞り出す。


「色々と黙ってもらいたいところですけど……僕の能力が見えるならお分かりではないですか? 僕はあなた方にとっての【益】になる」


 賢者はニヤリと笑みで返した。

 たぶん、否定しないところを見ると【異界の勇者】って称号も見られてるんだろうな。召喚術式の詳細まで見えてないことから『詳しい説明』までは見れないらしいが、それでも【勇者】と来てみすみす他国へ渡すような真似はしない……と、信じたい。


「ねぇゼスタ。さっきまではこんな胡散臭いヤツの言うことなんて聞く必要ない……って思ってたけど、意見を変えるよ。ようやっと、クロスロード家の言いたいことが伝わった。この子の力……素性は、王族と、せいぜい公爵家程度の秘密にしておいた方がいい」

「……貴殿が、そこまで言う程か」


 国王が唸るように呟き、賢者は明るく手を叩いた。


「さぁ、帰った帰った! 護衛任務は以上で終了だよ! きちんと報酬は払うからここで見知った情報は決して他へと明かさないこと。契約してるから問題ないとは思うけど……破った時は、分かってるね?」


 賢者の言葉にガダンが腕を組む。キキョウは何か考えるように瞼を閉ざし、アレックスは神妙な表情を浮かべて頷いている。……異論がないってことは分かったってことだろう。

 ……まぁ、国王よりも賢者が仕切ってることに対して疑問がないって言ったら嘘になるが、それはともかくとして。


 賢者はふわりと宙へと浮かぶと、ニヤリと笑って左手を差し出す。



「さぁて、影の英雄。君は合格だ。交渉をしよう」



 この人物のおかげで、随分あっさり交渉まで持っていけそうだ。

 ……まぁ、その分『リスク』も高くなりそうだけど。



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