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004『犯罪ギルドをぶっ潰せ』

「あァ? ンだてめぇはよォ! そのガキ庇ってんならぶっ殺すぞ!」


 荒くれ者がそう叫び、ガン飛ばしてくる。

 雑魚中の雑魚たる僕でもわかる威圧感。

 明らかに『殺し慣れてる』って雰囲気にブルっちゃいそうになるが、なんとか堪えて言葉を返す。


「あの、この子、罪でも犯したんですか? そうなら大人しく渡しますけど」

「うるせぇ! ンなもん知るかよ糞ガキが!」


 怒声が響き、荒くれ者達が一斉に襲いかかってくる。

 その光景に少女が小さく悲鳴をあげ、スイミーさんがピクっと体を震わせ臨戦態勢に。

 そして、僕は小さくほくそ笑む。


「なら、遠慮はいらないな」


 そう呟いた、次の瞬間。


「へぶしっ」


 気の抜けた悲鳴。

 それと同時に、荒くれ者の一人が物凄い勢いで吹き飛ばされてゆく。


 僕の隣を吹き飛ばされて行った荒くれ者は……たぶん全身骨折だろうな。死んでなきゃいいけどそこまで面倒は見られない。


「な、な……っ」


 荒くれ者たちは、今になって背後のソレに気づいたらしい。

 錆び付いた人形のようにギギギッと背後を振り返る彼らへと、僕は自分の中の見解を告げてみる。


「まぁ、この子が犯罪者ってなら話は別だ。大人しく明け渡すよ。……けど、聞いたけど答えなかったってことは、違うってことだろ?」


 まぁ、これが絶対に正解だとは思わないけど……少なくとも、僕は殺意を向けられたから殺意で返した。たったそれだけの事で。


「さぁ、殺さない程度にぶっ潰せ、『()()()()』」


 奴らの背後。

 そこに召喚した新たな魔物――『ゴーレム』は、先ほどと同じように荒くれ者の一人に対して右腕を振りかぶる。

 その後に待つのは、ただの蹂躙だ。


「うおおあああ……ぐはぁっ!?」

「が、ガスターッ!? く、くそっ、なんなんだよこれ!」

「なんだってこんな街の真ん中にゴーレムなんて……!」

「た、たすっ、助けっ……がはぁっ!?」


 また一人、また一人と荒くれ者が僕の隣を吹き飛ばされてゆき、その光景に静まり返っていた荒くれ者はいっせいに蜘蛛を散らせて逃げ惑う。

 けどまぁ、下手に逃がして面倒になっても嫌だしな。


「追加、ゴーレム二体」


 告げると同時に光が溢れ、二体のゴーレムの姿が現れる。

 まだまだこの力を使いこなせていないのか、あるいは他に方法があるのか。三体のゴーレム達は全身が『土』の、さほど硬くもないタイプだが。


「ま、三体もいれば足りるだろ」


 そう笑い、僕は新たなポーションを召喚する。

 かくして少女に追加ポーションを飲ませ終わったあたりで、荒くれ者たちの無力化は完了していた。




 ☆☆☆




「さーてスライム達、そいつら逃がさないように頼んだぞ」

『『『『……!』』』』


 目の前には、無数のスライムの姿がある。

 彼ら彼女らは無力化した荒くれ者たちを拘束する役割を果たしており、スライムによって体をガッチガチに縛られた荒くれ者たちは、また別のスライムたちによって運搬中だ。


「てっ、テメェ! 俺らを天下の犯罪ギルド【絶望ノ園(デスパイア)】だと知ってんのかクソが!」

「犯罪ギルドだったか。これで心が痛まないなー」


 もしもそっちが正義側だったらどうしようとか思ってた手前、犯罪ギルドだって知ってむしろ安心した。これで心置き無く敵対できる。

 僕は件の少女を背中におぶり、スライム軍と共にその犯罪ギルドとやらの方向へと向かっていた。


「ぁ……、そ、そこの、角……曲がっ先、です……」


 背中の少女が、変わらず掠れた声で教えてくれる。

 ありがとう、と短く返して角の先へと一体のスライムを送ると、そのスライムを通して向こう側の光景が伝わってくる。


「……よし、見つけた」


 スライムの視線の先には、何名かの荒くれ者たちと、その拠点らしき大きな屋敷が見えていた。

 後ろの荒くれ者達が助けを呼ぼうとしたので余ってたスライムたちで奴らの口を封じてやる。鼻詰まってたら死ぬと思うが頑張ってくれ。


「見張りは見える範囲で……十人か。なぁ少女、中に人質が何人くらいいるか分かるか?」

「すっ、すいま、せん……。わた、しのお友達が、二人……捕まって。他にも、何人もいて……なんとか、助け、を、呼びに……っ」

「分かった。喋らせて悪かったな」

「い、いえっ……!」


 今になってやっとわかったが、彼女の『助けて』っていうのはその人たちを助けて欲しいってことらしい。

 背後を見れば、僕へと憎悪の視線を向けてくる人質諸君。

 ……コイツらの口を割れたら一番早いんだが、拷問なんてやり方知らんし、そんなことしてる間に手遅れになったら目も当てられない。


「正面突破。もしくは潜入……どっちかだな」


 少なくとも、僕はここから動けない。

 というか動きたくない。足でまといにしかならないと分かってるから。あと純粋に動くのが面倒くさいから。

 改めて大きく息を吐くと、肩のスイミーさんへと視線を向ける。


「スイミーさん、スライム百体与える、それであの館落とせるか?」

『……! ……?』


 もちろん、という感情と一緒に彼の不安が伝わってくる。

 この感じは……魔法を使う相手がいたら落とせないかも、ってことか?

 そう聞くとスイミーさんは勢いよく体を震わせる。どうやら正解だったみたいだ。


「それじゃ、同じく物理に強いゴーレムを真正面から突撃させる。魔法使いがいるなら真正面の目に見える危険に動くだろ。その隙にスイミーさん、館に侵入して人質の保護、あと倒せそうな奴いたら全員倒せ。……これなら行けるか?」

『……!』


 今度は肯定。なんかもう働いてやるぜって感覚がビンビン感じられるな。ニートな僕とは大違いだぜ。

 と、そういうことで。


「召喚『たくさん』」


 テキトーな詠唱と共に、目の前には無数の光が瞬いた。

 次の瞬間に現れるのは、視界いっぱいに広がるゴーレムの群れと、その足元に群がるスライムたち。

 とりあえずゴーレム50に、スライム100。

 魔力的にはまだまだ行けそうな感じもするが、これ以上は臨機応変に使っていこう。防御にも何体か使っておきたいしね。


「んー! んんんーッ!」

「す、すごい……」


 背後と背中から声が聞こえる。

 背中を目で振り返ると、灰色の少女は困惑したように、それでいてキラキラした瞳で僕の姿を見つめている。


「あ、あなた様、は……賢者様、でいらっしゃいますか?」

「え? あぁ……えっとな」


 これだけの魔力量は間違いなく勇者召喚の影響だろうが……勇者も賢者もなにもかも、ぶっちゃけ僕の柄じゃない。

 ということで。



「いや、僕はただのニートだよ」



「にーと?」と首を傾げる彼女に、「世界最強の職業だよ」と間違った情報を刷り込んでおく僕だった。




 ☆☆☆




 ――絶望ノ園(デスパイア)

 この国における犯罪ギルドの頂点に君臨する巨悪の巣窟。

 詐欺、麻薬、人身売買、その他思いつく限りの『裏』の仕事に携わっている巨悪の巣窟だ。

 他国まで視野に入れると【独眼龍】や【鮮血の茨】と……この組織にも匹敵する犯罪ギルドは存在するが、生憎とアイツらにこのギルドが負けているとは思わない。


「ふん、脳筋の馬鹿どもめが」


 俺は、執務室の椅子に腰掛け鼻を鳴らす。

 報告書には、他国で独眼龍が大立ち回りをしただとか、鮮血の茨配下の小組織が同業者をぶっ殺しただとか。そんな頭の悪い報告が記されている。

 独眼龍も鮮血の茨も、いずれも一人、あるいは数人の化け物達が中心となって出来上がった烏合の衆。つまり知性の欠けた団結力なきギルドもどき。

 我らにはあのような力は無いが、それでも団結力と知力を用いてこの座に至った。

 真正面からの武力抗争では勝ち目はないと認めるが……それでも、情報戦を含めた総決戦であれば俺たちの方が圧倒的に優勢になるだろうと確信している。


「そもそも抗争になったところで、あのような低脳ではこの場所すら把握出来まいさ」


 とある魔導具により、この屋敷の周辺には強力な結界が張られている。

 この結界は外から来る者を無意識下に『ここには入れない』と洗脳して追い出し、中から出ようとする者を『ここからは出られない』と洗脳し閉じ込める。来る者拒み、去る者逃がさず。そういう結界だ。


 だからこそ、外からここを見つけようとするなら、表通りで串焼き屋に偽装しているウチの部下に『ギルドの場所を教えてくれ、あと串焼き二本くれ』という合言葉を告げねばならん。加えてその条件として『防具をつけていない』『武器は剣一振のみ』『腰袋を身につけている』といったモノを満たさなければならない。その他にも無数に張り巡らされた条件……これを偶然にも、奇跡的に通り抜けてくるような奴など居るはずもない。


「……そう言えば、先日捕らえた物乞いのガキの内一体が逃げたとか言っていたが……まぁ、そろそろ捕まる頃だろう」


 我がギルドの幹部はいずれも知性高き賢者ばかり。

 されど、末端までそこまでの知性があるという訳では無い。……せっかくの上玉三体だ、傷をつけたり……ましてや殺すなど以ての外だが、最悪の自体も想定しておいた方がいいかもしれない。


「はぁ、頭が重くなる」


 馬鹿な末端、愚かな同業者。

 それらを考え、大きくため息を吐いた男は――。



 ――ドゴオオオオオオオオォォォォンッ!!



「なぁ……ッ!?」


 響いた衝撃と轟音に、思わず音を立てて椅子から立ち上がる。

 何だこの衝撃……爆音は! この屋敷に火の魔道具は置いていなかったはず……ならば、あるいは!

 嫌な予感が加速する。

 廊下の外から足音が響き、ノックすることも無く幹部の一人『ワルイーゾ』が部屋の中へと転がり込んでくる。


「頭領! オレワルーイ頭領! てっ、敵襲です! 表門から……数五十! ゴーレムの大軍が現れました!」

「ご、ゴーレムだと……!?」


 な、何故こんな街の中にゴーレムが現れる!

 もしやテイマー……いや、テイマーなどという脆弱職がゴーレムなど操れるはずもない。あ奴らは自分個人の手で打ち負かした魔物しか使役できんからな。加えて使役時の魔力消費もかなりのものと聞く。五十体ものゴーレムを同時使役など出来るはずもない。


「ならば……知らぬところで結界内にダンジョンでも出来ていたか……! クソっ、氾濫するほど長期間ダンジョンを放置していたなど報告になかったぞ!」


 いずれにしても、これはまずい。

 ゴーレムの五十体程度なら幹部や俺を中心とすれば打倒もできるが、それ以上……ゴーレムの百や二百、ましてそれよりも高位の魔物でも出てきた日には間違いなく戦力不足に陥ってしまう。

 クソが、こういう時に結界は面倒だ……!


「ワルイーゾ! 一時的に結界を停止する! 外の冒険者を引きずり込んで、あいつらに魔物たちを押し付けるんだ! 迷宮崩壊(ダンジョンブレイク)……んな危険なもの、俺たちが出しゃばる価値がねぇ!」

「しょ、承知しました! しかし、この拠点は……」

「捨てる! このような瀬戸際で、最も大切なものを見誤るなバカモノが!」


 1番大切なことは、生き延びること。

 拠点など、生きていればいくらでも再構築できる。

 逃げさえすれば、絶望の園は不滅だ。


「プライドも拠点も何もかも捨てろ!」

「は、はっ! わ、分かりました! もう、それ以外に道はない、ですな……!」


 ワルイーゾが納得したところで、俺は奴と共に執務室から歩き出す。

 魔導具は俺の命とリンクしている。俺が命じれば魔導具も止まるし、逆に言えば俺が命じなければ魔道具は止まらない。まぁ、俺が死んだ場合も止まるようになっているが、この俺がそう易々と殺されるわけがない、か。


「ワルイーゾ! 俺は魔導具の停止に動く! 貴様は部下共を纏めあげ、今のうちにゴーレム共から逃げる経路を確保しておけ! 俺は――」


 魔導具を停止させ次第そちらに向かう!


 そう続けようとした――次の、瞬間。


 わずかな風切り音とともに、執務室の天井が崩落する。

 崩れ落ちた天井は真っ直ぐ俺たちへと落下する。

 驚き天井を見上げた俺は。

 潰れる寸前に、確かに見た。



 ――物凄い勢いで飛来し、天井を突き破ったスライムの姿。



 その光景が、この俺――オレワルーイの最期に見た光景だった。

主人公最弱。

その肩書きに偽りは無い。

ただし、保有するは無尽の魔力。

生み出されるは、万の軍勢。

犯罪ギルド、何するものぞ。

その兵力、既に一国にすら匹敵する。

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