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037『絡まれてる』

 ギルドに入った瞬間、厄介事の気配がした。


「あちゃー……」


 視線の先には野次馬の塊。

 僕は気配を殺してその中に紛れると、野次馬の中心地帯、ちょうどぽかんと空いている空間を覗いて声を漏らした。


「あれは……ほ、ホムラさん、ですよね?」

「相手の方は誰でしょう……? なにやら、聖職者のような姿をしてますが」


 そこに居たのは当然ホムラ。

 その隣にはビクビクしてるアレッタが立っており、ホムラの目の前にはもう一人、全く見知らぬ少女が立っていた。

 僕もホムラも……アレだな。新しい街に来たら必ず絡まれる宿命でも持ってるんだろうか。なに? もしかして勇者補正? そんなの要らないから引きこもらせてよお願いだから。

 しかも、絡んでくるのは女性ときた。

 別段、女だから殴れないとかそういうのはないが、絡んでくるなら男性の方がずっとやりやすい。世間の目とか気にせずぶっ飛ばせるしな。

 閑話休題。


「ったく……何が起きたんだか」


 小さく呟いて傍観に徹する。

 そんな僕の視線の先で、ホムラと聖職者の少女は話し出す。


「……あら、聞き間違いでしょうか? 今、なんと?」

「だから、最初からいってる。私は、ソーマ以外と組む気、ない。まして、私とソーマ、離そうとしてるやつは、論外。話にならない」


 ははん……なるほど、そういう感じね。

 ギルマス事件の再来ね。今の会話で大体のことは理解しました。

 大方、聖職者の方がホムラ……それも『ホムラのみ』を引き抜こうとして、僕の隣を離れる気のないホムラは拒絶。そして『聞き間違いでしょうか』といった言葉につながったのだろう。納得。


「……なるほど、【影の英雄】……ですか。噂とは、尾ヒレの付いて伝わるもの。大方、賢者様を超える魔力量というのも嘘でしょう。絶望の園(デスパイア)、オークキングの打倒にしても、貴方個人で行ったことでしょう? ねぇ、黒炎姫こと、ホムラさん」

「おめでたい、頭してる。言うとおりなら、私の噂も尾ひれがついてておかしくない。その噂、全部ソーマのこーせき、って可能性もある」

「……なるほど、今ので確信致しました。英雄は己が功績に固執しない。貴方こそがこの一連の噂の遠因ですね?」

「こっちも理解。おまえ、話にならない」


 二人のやり取り……おもにホムラの発言に、背筋が冷たくなる。

 いくらホムラが精神的に成長したって言っても、ホムラのファザコンっぷりは常軌を逸してる。このまんまヒートアップしていったらまず間違いなく限界が訪れる。


「そ、ソーマ様……これ、まずくないですか」

「カイ。お前もホムラのことが分かってきたな。これはまずい。非常にまずい。そんな気がする」


 かと言って僕が出張っていっても、意味は薄い。

 なんでって? 物理的に止められないからだよ。

 それに、相手方の暴言の矛先が僕に向き、それでホムラがプッツン来る未来もあり得る。

 そうなりゃ終わりだ、もう誰にも手が付けられない。

 さてどうしたものかな……と考えていると、ふと、ホムラが深呼吸したのを見て目を丸くする。


「……ふぅ。ねぇ、アレッタ。ここで我慢したら、ソーマ褒めてくれる?」

「えっ? あ、まぁ……そうっすね。ソーマ様ってこういう感じの騒ぎ苦手な感じですし、穏便に済ませたら褒めてくれるんじゃないっすか?」

「ん、納得。なら我慢する」


 彼女の言葉に、思わず口元を手で抑える。

 おいおいおい……なんだ、どうしたホムラ。風邪でも引いたのか?

 最初の『暴れん坊』って呼ばれてた頃とは似ても似つかないんだが。口元に浮かんだ笑みをくいくい指で歪めて表情をととのえると、僕は再び傍観に徹することを決めた。


「……なにを、我慢すると? 私はマナ・エクサリア。他でもないエクサリア公爵家の長女にして、ナサリア教の聖女です。その私が、偽りの功績しか持たぬ下郎に騙され、利用されている貴女を救おうと――」

「そういうのを、我慢する、いってる。そんな大層な理由並べても、本音は『自分のパーティに黒炎姫を引き入れて、名声を高めたい』ってだけ。……違う?」

「……っ! そ、それは……」


 成長したなぁ、と感動に震えていたのも一瞬のこと。

 彼女の言い回しを受けて、ぴたりと震えが止まった。

 ……なんだかホムラ、僕に似てきたか?

 僕でも彼女の立場だったら全く同じこと言ってたな……と理解ができて微妙な気分。

 このままじゃホムラまでニートになるって言い出すんじゃないかと気が気でないよ。


 そして、お前かマナ・エクサリア。

 さっきお前の部下と思しき女戦士に恐喝されたんだが? こちとらハイザパパがバックについてんだぞ。あの天下のクロスロード公爵家が一家まるごと後ろについてんだぞおいコラ。

 とか、そんなことを思っていたのだが。


「ふ、ふふふ……なるほど、余程その男に固執していると見ました。ええ、わかりました。貴女がそこまで強情なら、その男の方に矛先を変えるとしましょう」


 ……んっ?


「……なに、いってる?」

「いえ、なにも? ただ、私の部下の何人かが、その『影の英雄』とやらに興味を持ってしまったようでしてね。子供たちを奴隷として使役し、テイマーなどという最弱職でありながら英雄などと出しゃばりが過ぎた愚かな男。……ウチの部下は少々話を聞かない節がありますので、今頃、影の英雄様は私の部下に大敗を喫し、大地に倒れ、汚泥を啜っている頃かもしれませんね?」


 うふふふふ、と楽しげな笑い声がギルドに響く。

 野次馬の中から、影の英雄様に対する同情の声が上がり、もはやギルド内は影の英雄に対するお通夜ムード。


「おいおい……あのアマゾネス部隊が向かったのかよ……」

「純血の戦乙女、アマゾンって言ったら、次期Aランク筆頭候補だぜ……」

「……残念だけれど、マナ様の言っていることが本当なら、今頃その人は、もう……」


 わーお、やべぇな影の英雄。大丈夫? 生きてる?

 僕の後ろにいる子供たち三人が笑いを堪えて口を押さえてる。

 ホムラを見れば、怒り狂ってる……かとも思ったんだが、ものすごく微妙そうな顔。対するアレッタは顔面蒼白である。


「そ、そんな……! ほ、ホムラさん! ソーマ様が!」

「ん、……その、えっと……え? なんで?」

「だ、だから……マナ・エクサリア率いる【純血の戦乙女】っていったら、この国では知らぬものはいないってレベルの冒険者パーティっすよ!? 奴隷の私でもしってるレベルのパーティ……。さすがにソーマ様でも、あの三人を守りながらなんて……」


「……だから、なんで()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 ホムラの言葉に、僕は笑った。

 同時にギルドの入口が大きな音と共に開け放たれ、全員が振り返った先には満身創痍といった女戦士……先程僕から逃げていった『アマゾン』とやらの姿があった。


「ま、マナ様!」

「あ、アマゾン……!? ど、どうしたのその姿! そ、それに、影の英雄は――」

「に、逃げてください! や、ヤベぇんですよあの男! 何したのかもわからなかった! 気がつけば、仲間がほとんどやられてた! 一瞬でパーティが壊滅だ!」


 ギルド中へと激震が走る。

 Aランク筆頭冒険者率いる、Bランクパーティ。

 それが一瞬で壊滅させられた、と。

 仮にパーティ全員が戦士職とかだったら話も別だったんだが、今回ばかりは運が良かった。なにせ、こちとら魔力量だけ言えば世界一だからな。


「だから、言った。おめでたい頭してる、って。あのソーマが、私よりもよわいわけが無い」

「……ッ、そ、そんなわけ――」


 ない、と。

 マナ・エクサリアは言いきれなかった。

 それだけホ厶ラの瞳は、マジだったから。

 過剰評価もいいところ。

 僕がホムラに勝ってるはずがない。

 全面的にマナに同意したい。

 が、少なくともホムラはそう思ってはいない。


「マナ様! 早くしねぇと! 取り敢えず今は逃げてください!」

「くっ、こ、この……」


 アマゾンに手を引かれ、マナは悔しげに歯を食いしばる。

 ……まぁ、目立つのは嫌なんだがな。

 けど、ここまで来ちゃったからな。影の英雄だなんて大きすぎる二つ名を受けて、大陸全土に名を響かせて、加えてここまで目の敵にされて。

 端的に言えば『物凄い目立ってる』。

 だから、ある程度は割り切るとしよう。



「お、覚えてなさい……黒炎姫ホムラ! そして、ソーマ・ヒッキー!」



 かくしてマナ・エクサリアは退散する。

 後に残ったのは満足げに胸を張るホムラと、呆然気味のアレッタ及びギルドに集まった冒険者諸君。

 そんな光景に『どうしたものかな』と悩む僕を他所に、ホムラは自信満々に胸を張っている。


「ん、我慢した。これでソーマに頭撫でてもらえる」


 ……まぁ、なんというか。

 今回くらいは素直に頭の一つや二つ、撫でてやろうと思う。

 ソーマ・ヒッキー。どちらかと言うと褒めて伸ばすタイプです。



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[一言] こういう展開が一番すきです。
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