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028『開戦』

「突撃ーッ!」

『オオオオォォォォ!!』


 僕の声で、冒険者たちが一斉に走り出す。

 その後ろ姿を見送って、ふと疑問。

 なんでニートがこんなことしてるのか。

 ……あれっ、マジでなんでこんなことしてるんだろう。僕ニートだよね、なんで指揮官の真似っ子みたいなことしてるんだ。馬鹿じゃねぇの?


「ソーマ、それ、後で考える! 今は戦ってる最中!」

「はっ、そうだった」


 そうだった、こんなこと考えてるけど僕も戦わないといけないんだった。まぁ、僕みたいなのにどないしろという話ではあるが。


『ギギャッ!?』


 一斉に現れた冒険者たちにゴブリンたちが悲鳴をあげて集落へと戻っていくが、それよりもホムラの方がずっと早い。


「ふんっ!」


 ハンマーを振り回すような掛け声とは裏腹に、彼女の動きは鋭く早く、なによりも美しい。

 双剣を手足のように用い、流れるようにしてゴブリンたちの首を刈る。

『強いやつ、来た時のためにたくさん殺っとく』とは彼女の言。

 たしかに彼女は僕と同様に成長速度が早くなっている。もしかしたら頑張り如何によっては今回の一件でかなりの成長を見せるかもしれない。

 ま、だからって言ってキングゴブリン来てください、とはならないけどな!


「さ、さすが、暴れん坊は違うぜ!」

「暴れん坊に続けェ! ゴブリン共を駆逐しろ!」

「お、おい! あんまり出過ぎるなよ! 突っ込みすぎるとAランクとキングゴブリンの戦いに巻き込まれて死ぬぞ!」


 そんな冒険者たちによってゴブリンは瞬く間に狩られて行く。そしてホムラ、お前暴れん坊とか言われてるけどいいのかそれで。

 改めてうちの班を見渡す。

 ぶっちゃけ僕の出番がないくらいには人数過多だし……というか、逃げ出してくるゴブリンの数が想定していたよりも少ない。

 これは……キングゴブリンの統制がそれだけ完璧だってことか、あるいは――いや、そっちは考えすぎか?


「……いや」


 そういう考えは自滅を引き込む。

 とりあえず戦況は僕が居なくても問題ない程度には上手くいってる。ということで、さっそくその『可能性』を潰すべく振り返――




『ミツ、ケタ……ァ』




 自分のすぐ背後。

 僕を至近距離から見下ろすその巨体を見て、怖気が走った。


「スイミーッ」

『……!』


 能力の制約は一切無視した。

 スイミーさんを体前面に纏わせて防御を固め、奴との間に一気に五十体近くのスライムたちを召喚、それら全てを防御に回した。

 ――その、次の瞬間。


「が――」


 スライム達による分厚い防御壁。

 それらを一撃で貫いた奴の拳が、深々と僕の腹へと突き刺さる。

 辛うじてスイミーさんが突き抜けたダメージの大半を吸収してくれたが、それでも殺しきれなかった勢いに負け、ものすごい勢いで前線の方へと吹き飛ばされる。


「そ、ソーマ……!?」


 ホムラの悲鳴が聞こえる中、苦痛に顔を歪めて前を見据える。

 そこ居るのは、拳のたった一振りで五十体のスライムを消し飛ばし、スイミーさんにさえ多大なダメージを与えた小鬼の王――キングゴブリン。

 後方から吹き飛ばされてきた僕に冒険者たちは一斉に背後を振り返り、恐怖に顔を引き攣らせる。


『ガ、ガ、ガ……、ヨウヤク、ミツ、ケタ。ウマイ魔力。オトコ、ダガ、喰ラウ。オレ、モット強クナル』


 図書館で読んだ。

 高位の魔物は相手の魔力量を図ることが出来る、と。

 推測によれば、それは『野生本能』に近いモノだろうとの話だったが……ああもう、なんでったって僕みたいのに目ェ付けるんですかね!


「あぁ、クソ、今のまともに喰らってたら死んでたぞ……」

『……!』


 本当だよまったくぅ! とスイミーさんが震えながら形を戻す。

 スイミーさんはネームドの上にレベルも高い。

 何とか今レベルの一撃なら防ぎ切れるが……たぶん、十発も喰らえば他スライムと似たようなことになると思う。

 彼我の距離は数十メートル。

 拳一発の衝撃。

 それを99%カットしたうえで、この飛距離だ。

 ……こいつはまずいな、本格的に手に負えない。


「ソーマ! 大丈夫……っ!?」


 駆け寄ってきたホムラは僕の傷を確認すると、憎悪の視線をキングゴブリンへと突きつける。


「……ソーマ、アレにやられた?」

「……ホムラ、少し落ち着け。色々とおかしい」


 キングゴブリンは笑みを張りつけたまま、最初の位置から動こうとはしない。単純にそれは嗜虐心からのものだろうけど……そんな行動に安堵するより先に疑問が出てくる。

 何故キングゴブリンが、ピンポイントで僕の背後に現れたか。

 予め僕らの動向を探っていた……? いや、森の中にはダークバッドによる索敵をかけていた。そこには僕らの気配を窺うゴブリンたちの姿はなかった。と、なると……。


「こっちの情報が筒抜けてた……?」


 誰かがキングゴブリンに、こちらの情報を流した。

 あるいは、このキングゴブリンの裏に黒幕が居て、その目的が僕だった……とか。

 嫌な考えばかりが頭を過ぎるが……考えている暇はなさそうだな。


 キングゴブリンが一歩僕へと踏み出し、僕は腰から剣を抜く。

 周囲の冒険者たちが恐怖に顔を引き攣らせながらも武器を構え、ホムラが双剣を強く握りしめる。

 僕は大きく息を吐くと、あらかじめ周囲に控えさせていたエレメンタルを呼び出し、上空へと火の玉を打ち上げさせる。


 その回数は、四回。


 ――意味合いとしては『救援要請』。

 最低最悪の、緊急事態の発生である。




 ☆☆☆




「はぁっ!? なんで救援要請出てんのよ!」


 イルミーナは東の方角から打ち上げられた非常時信号にそう叫ぶ。

 場所はゴブリンの集落内。

 先程()()()()()()にて放たれた咆哮。彼ら彼女らはその方向へと向けて急ぎ侵攻していたが――。


「く……っ、エリア! 気配はどうなってる!」

「ひときわ禍々しいのがこの先に一つ! 最初っから動いてないから、多分これがキングゴブリンだと思うよ!」


 この集落に入った瞬間から、一度も動かぬ大きな気配。

 恐らくはそれがキングゴブリンだろう。

 それはパーティメンバー全員の共通見解――()()()


(くっ、D班はソーマさんとホムラさんが担ってる一番堅牢な場所……、そこからこんな短期間で救援要請が上がるなんて……!)


 アレックスの脳内に嫌な予感が浮び上がる。

 それは考え得る限り最悪の可能性。

 それは――自分たちが目指す『気配』が、全く別物という可能性。


「ウルベルク!」

「分かっている……ッ!」


 アレックスの声にウルベルクが大剣を担いで前に出る。

 同時に無数のゴブリンたちが集まってくるが。


「――フンッ!」


 たった、一振り。

 振り下ろした大剣の一撃は大地を砕き、ゴブリンたちを巻き込んでゆく。

 その光景に剣を握りしめたアレックスは、少々強引だが砕けた大地の上を強行突破し、件の気配の場所へとたどり着く。



 ――そして、その【魔王】と対峙した。



「こ、コイツ、は……ッ!」


 そこに居たのは、一体の不死族(アンデッド)

 体中を黒い布で覆った、一体の骸骨。

 されど、その魔力量は通常の骸骨とは一線を画す。


「アレックス注意して! あの骸骨、魔力量だけ見たら賢者様よりずっと多い! 災害級も災害級、逃がせば国が滅ぶわよ!」

「ああ、分かってる……ッ!」


 その魔物を――いや、【魔王】をアレックスは知っていた。

 死神という言葉が何よりふわさしい、不死の王。

 現在、存在が把握されている不死族の中で頂点に君臨する化け物。

 歩く災害、生きた都市伝説。

 南の迷宮『不死の毒沼』の支配者。


「……不死の王、【リッチ】!」


 アレックスの言葉に、リッチは両の手を大きく広げる。

 溢れ出すのは一般人でも分かるような膨大な魔力の塊。殺意をもって汲み上げられたソレは威圧感を伴ってその場を支配し――次の瞬間、大地を突破って無数の死者達が溢れ出してくる。


 この場所でゴブリン達に殺された男達。

 暴行の果てに死した哀れな女性達。

 そして、今までに殺したゴブリン達。

 それら全てが蘇り、アレックスらへと手を伸ばす。


「……むぅ、面妖な」


 ウルベルクが大剣を振るう。

 同時に迫り来る死者達のうち数割が胴体を生き別れにされて倒れてゆくが、されど半身になっても死者の行軍は止まらない。


「う、ウルベルクさんっ! 不死族は頭を潰すか、回復魔法でしか対処出来ません! それ以外の体に傷を与えても回復されるか、変わらず行動し続けます!」

「全く、厄介なことだなッ!」


 シスターであるオシリアの言葉にウルベルクが呻く。

 こうして集ってくるゾンビたちでさえこの有様。

 その親玉であるリッチともなれば、それ以上の不死力を備えているのは火を見るよりも明らか。

 アレックスは大きく息を吐くと、腰の剣を鞘へと戻す。


「みんな、今回は本気で行く」

「……まさか、使()()の? アレックス」


 イルミーナの声に小さく頷き、彼は前方へと手を伸ばす。

 途端にその空間へと光が瞬き――そして、彼はその柄を掴み取る。


「本当は、あまり多用したくない力なんだけど。さすがに魔王、それもリッチともなると出し惜しみなんて出来ないからね」


 ズルリ、と空間から刀身が現れる。

 それは水晶のように煌めく刀身。

 美しく鋭く、透明な刀身が太陽の光を眩く反射させる。

 その剣にリッチが警戒したように一歩後退り、アレックスは大きく笑う。



「五大魔剣が一振り――【魔晶剣アロンダイト】」



 それは全てを穿ち、尽くを切り裂く至高の剣。

 あらゆる剣の頂点に立つ五つの『魔剣』が一振り。

 その剣を正面に構えたアレックスは、顔を引きしめ走り出す。


「滅龍士アレックス、いざ参るッ!」


 かくして、不死王と滅龍士の戦いが幕を開ける。

 まるで、何者かの掌で踊らされるかのように。



【豆知識】

〇魔王

この世に存在する数多の魔物。

ゴブリン、オーク、ウルフと言ったものから、ドラゴンまで。

それら、各『種』別の頂点に君臨する魔物を指して呼ぶ言葉。

魔王の数は変化することは無い。

魔王が死んだ時点で、次に優秀な魔物が魔王へと変貌する。

魔王となった魔物には人に比肩する知恵と知識が備わる。

それと同時に迷宮ダンジョンを支配する権利を得、己が迷宮を生涯かけて構築する。

キングゴブリンもまた、迷宮こそ持たないが魔王の一人。

まだ『なったばかり』の若輩とはいえど、その実力は種の頂点に足るものである。


〇Aランク最強冒険者・アレックス

Sランクに最も近しいとされる、人類最強の一角。

屠った魔王の数は三桁にも及ぶとか。

また、過去には竜の魔王すら葬っている。

故につけられた二つ名が【滅龍士】である。

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