026『二人の評価』
俺は主人公!
祖父仕込みの古武術とチートスキルを持ってるぜ!
そんなこんなでめちゃ強いけど、面倒事を嫌って隠すぜ!
でもそんな折、とんでもねー事件が勃発!
くそぅ、こんなつもりじゃなかったんだが、ブチ切れた!
能力発動!
ドドドドッ、ズッババババババアアアァァァンッ!
「な、なんて力……、あの人は、一体……!?」
そう戦慄く少女を背に、俺はため息混じりに頭をかいた。
「やれやれ、こんなつもりじゃなかったんだが」
☆☆☆
「うっわ……」
暇だったので。
とりあえず日本から取り寄せたテキトーなラノベ読んでたんだが、この主人公がまた僕の現状にすっごい近しい。僕もこういう運命辿るんじゃないかと思えてきて、なんだか無性に心配になってきた。
「うし、こうならないように気をつけよう」
そう呟いて文庫本を閉ざすと、改めて視線を上げる。
そこには僕ワイワイと楽しげな様子で話し合っている冒険者面々の姿があり、その中で唯一、ぶっすーと不機嫌そうに頬を膨らませる魔法使いと目が合って視線を逸らす。
――あの後。
とりあえず魔法使いの子を落ち着かせた向こうパーティは、ギルドマスターが来たこともあって早速作戦会議に入った――の、だが。
「それじゃあ、作戦会議の前に、ちょっとした親睦会でもやろうかと思う。今回みたいな掃討戦はチームワークが鍵だからねっ!」
とはアレックスの言。
作戦開始時間まではまだ六時間近くある。というわけで、親睦会始めた彼らを他所に、一人外れて文庫本を読み耽っていたわけだ。
親睦会とか……正直、僕みたいなのががいてもいなくてもさほど変わらないからね。
再び文庫本を開こうとしたところで、アレックスから新たな提案が上がった。
「皆のことが分かってきたところで……とりあえずみんなのできることを把握しておきたい! それぞれ自分の能力について教えてくれないかな? えっと……それじゃあ、僕から時計回りに行こうかな」
親睦会はおわり、作戦会議が始まる様子だった。
とくれば、さすがに輪の外にも居られない。
僕は文庫本を閉じ、彼の言葉を頭の中で復唱する。
能力……能力かぁ。
何とも説明しづらい項目だが……。
Aランク冒険者の能力が気になってそちらを見ると、彼は自分の胸を叩き、自信溢れる笑顔を浮かべている。
「僕の職業は【剣聖】。能力は基本的に攻撃の強化、及び攻撃範囲の拡張化をメインにしてる。体の大きな魔物や、他にも数を相手にするのは結構得意だよ」
ほほぅ……剣聖か。
その後に説明された能力詳細は『滅龍士』の二つ名に相応しく、超大型にも攻撃が通るようなものばかり。名は体を表すというが、この場合はまんまその通りだな。
「……私はイルミーナ。魔法使いよ。炎と風の魔法を使うわ」
次に赤髪の拗ねてる魔法使い。
彼女は僕を睨みながら短く自己紹介をすると、不機嫌そうに僕から顔を背ける。ツンデレ……ではないだろうな。単に嫌われてるだけだろう。
「……俺の名は、ウルベルク。大剣を使う。頑丈さと攻撃力だけが売りだ。今回は先陣を切っていくことになるだろう。よろしく頼む」
次は、灰色の髪をした大柄な男。
寡黙って雰囲気を全身から漂わせている大男で、座ってるくせにたぶん僕の身長よりも高い位置に頭がある。巨人族のハーフとか言われた方がよっぽど納得できるサイズだ。
「それじゃ次は私だねっ! 私はエリア! 基本的に斥候とか細かいことをメインに活動してるよっ! 武器は短剣、他のみんなと比べたら戦闘能力は低いかもだけど、その分素早く翻弄するよ! よろしくね皆っ!」
で、次が茶髪の女の子。
見た目はまんま『シーフ』って感じで、明らかに破壊工作とか斥候とか、そういう方向で本領を発揮するタイプに見える。戦闘能力ないとか言っても僕よりはずっと強そうだし……敵にしたら厄介、味方にしたら便利って感じかな。
「え、えっと……わ、私は、オシリアと、申しますっ! ナサリア教のシスターをやっております! えと、回復魔法、使えますっ、よ、よろしくお願いしますっ!」
五人のうち最後が、金髪の小柄なシスターさん。
ナサリア教……聞いたことは無いが、ハルシア教とは多分なんの繋がりもないのだろう。現に僕の肩に乗ってるスライム見ても『ひゃっほう魔物だ刈りつくせぇ!』とか言ってこないし。
――と。
以上の五名がAランクパーティ『撃滅の龍』の構成員だ。
剣士のアレックス。
魔女のイルミーナ。
巨人のウルベルク。
斥候のエリア。
神職のオシリア。
全体的にバランスのとれたパーティ。
強いて言うなら前衛と後衛でくっきり別れてるから、前衛抜かされたら後衛大丈夫か? とは思うが、そこら辺は僕が考えることじゃない。
「それじゃあ、次……ホムラさん、お願いできますか?」
「……ん」
アレックスの声に、ホムラが眠たそうに瞼を開く。
……えっ、もしかしてこの子寝てた?
驚いて顔見知りの冒険者を見ると、彼は諦めたように首を振った。
「私、ホムラ。Eランク冒険者。武器は基本、なんでも使える。魔法は使えない。けど、武器に炎を纏える。あと、簡単な召喚術使える。以上」
そういうや否や、彼女は背もたれに体を預けて腕を組む。
何となく仕草が主人公っぽくてカッコイイ限りだが……ホムラさん? 召喚術って王族か勇者しか使えない超限定スキルだからね?
顔をぷいっと背けた彼女に苦笑していると、引きつった笑みを浮かべたアレックス君が視界に映る。
「しょ、召喚術……、なるほど。了解しました。では次に……ホムラさんのお兄さん、ですよね。お願いします」
冗談だと思ったんだろうな、アレックス君。
ジョークを言うにも何故召喚術? と困惑気味のアレックス君から話を振られ、とりあえず肩に乗せてたスイさんをテーブルへと下ろす。
「それじゃ。ソーマです。職業はテイマー。近接はてんでダメですが、生まれつき魔力量だけは多かったこと。あと、うちの一族に伝わる『秘伝』がありまして、自分の実力以上の魔物を使役できます」
自分で言ってて、あらビックリ。
なんと名前と近接関係以外の全てが虚偽申告。ここまで顔色変えず嘘を並び立てられる自分の才能が恐ろしいです。
「て、テイマー……ですか。黒髪と言い、色々と気になることはありますが――」
「アレックス、不本意だけどたぶん本当よ。その男、魔力量だけならこの国の宮廷魔導師長にも劣らない。下手すれば賢者クラスの化け物だもの」
アレックスの言葉に、ツンツンしてたイルミーナが補足説明。その場にいたほぼ全員がギョッと僕へと視線をよこす中、ホムラだけが妙に満足げに胸を張っている。……うん、僕としてはアレなんだけど、お父さんが評価されて娘的には嬉しいんだろうね。
「ち、ちなみに……使役する魔物とかは、どこにいるのですか?」
「ギルドマスターに聞けば分かると思いますけど、使役する魔物を収納しておくスキルがありましてね」
そう言ってわざとらしく指を鳴らすと、ポンッと机の上にもう一体のスライムが召喚される。
その光景にホムラを除いた他メンバーが目を剥く中、スイミーさんと戯れだしたスライムを一瞥、さらなる虚偽報告を塗りたくってゆく。
「まぁ、うちの一族は代々『魔物を従える』ことに研究と研鑽を重ねてきましたので。今のところはスライムの他に、ゴーレム、エレメンタルなどを使役できます」
「ごっ、え……ッ」
「……なるほど、お兄さんがそのレベルとなると、ホムラさんの話も真実と受け止めた方がいい…………みたいですね」
話の途中でホムラがスイミーさんを手元に召喚。『くすぐったいよぉ!』という彼を無視してぷにぷにし始めた彼女を見て、とうとうアレックス君は疲れたように苦笑を漏らす。
「ま、僕はあくまでもサポート役。後ろでホムラに指示を出しながら魔物達でサポートすることしか出来ません。なので、基本的に戦力には数えて頂かない方がいいかと」
「……ちなみに、同時に何体ぐらい使役できるんですか?」
「そうですね、魔力の使用配分考えなくていいのならば、一度に五体くらいまでは召喚できますね。あ、でも保有魔力が少ないゴーレムなら十体は行けますよ」
そう返すと、アレックス君は『かなりの戦力ですけど……』と苦笑しながらも、とりあえず納得したように頷いてくれる。
なにせ図書館の資料であったように、この数値はあくまでも、この世界における『常識内』だ。
確かに自分の実力を上回る使役獣、というのは多少目立つ。
が、そんなもんはホムラの今後の活躍(予定)を前にすれば霞んで見える程度の木っ端な特異性。
となれば、ある程度目立つことは覚悟した上で、最初から『目立たない』ではなく『あまり目立たない』という立ち位置を狙っていった方がいい。バレて後から『なんで隠してた!』とか言われずに済むしな。
うし完璧。
先に見た『能力バレちゃう系主人公』は最初っから『全て隠そう』とし過ぎなんだ。ある程度、ほんの数割程度は晒した上で本質だけ隠しときゃいい。そうすりゃ滅多な事じゃバレないし、バレたとしてもなんだかんだで言い訳もつく。
「分かりました。それでは次の方お願いします」
そんなアレックス君の声を聞きながら、内心ほくそ笑む。
さて、土台は作った。あとは勝手に僕の情報が広まるのを待つだけだな、と。
☆☆☆
――会議終了後。
それぞれ午後の二時前にギルドへ集合することを決めて一時解散した冒険者たちの中で、アレックスら『撃滅の龍』は未だ冒険者ギルドの会議室へと留まっていた。
「……で、どう思う?」
「どーもこーもないでしょ……」
アレックスの言葉に、疲れたようなイルミーナが答える。
「頭一つ飛び抜けてるのはあの女の子。次いで……不本意だけれど、あの兄の方がかなりキてるわね。今はまだしも、成長したら勝てる気がしないわ」
「女の子は確かに凄かったねー! もう部屋に入ってきた瞬間に怖気がしたよー……。ホントびっくり!」
斥候役のエリアがそう笑い、寡黙なウルベルクが頷き首肯する。
「……あれは、天才児、というものだろう。俺のスキル【彼我測定】には、今の彼女からは、それこそゴブリンと同程度のレベル差を感じ取れた」
「はぁっ? ってことはレベル一桁!? で、あの風格って……」
「……それって、とんでもない事じゃ……」
ウルベルクのスキル【彼我測定】。
それは感覚で相手とのレベル差を測れるというかなり珍しい能力。
もちろん鑑定スキルのように詳しい数値までは測れないが、このスキルの長所はどのような隠蔽能力を持ってしても『測定』を防げないことにある。
つまるところ、絶対的な精度を誇るこのスキル。そのスキルがそう示したということは、間違いなく『そう』であるということだ。
しかし、彼らの困惑とは別に、アレックスは呻くように頭を抱える。
「……彼女もヤバいと思ったけど……僕は、あのお兄さん。ソーマさんの方も、ヤバいと思った」
「……へ? あの見るからに弱そうな?」
エリアが首を傾げる中、彼は大きく頷いた。
「……ウルベルク、彼のレベルはどれくらいだった?」
「……確認したが、せいぜいがLv.10前後だろうな」
その言葉を確認して、彼は再びため息を漏らす。
Aランク冒険者、『滅龍士』のアレックス。
彼は竜殺しを行える実力も然ることながら、頭もキレる。
そんな彼だからこそ、その可能性に気が付いていた。
「Lv.10の時点で宮廷魔導師長に匹敵する魔力量。加えて彼は、秘伝によって実力以上の魔物すらも使役できる。つまるところ――」
「……魔力さえあれば、最悪ドラゴンだって使役可能、ってことよね、アレックス」
イルミーナの言葉に周囲が完全に凍りつく。
彼は言った『近接はてんでダメ』と。
つまりそれは言い換えれば『近接のステータスほとんど伸びず、その代わり魔力量が特化して伸びている』とも受け取れる。
そんな男が、自分たちと同等の域まで到達したら。
果たしてその時、彼の魔力量はどうなっているのか。
一体、どんな魔物を使役できるようになっているのか。
……そう考えると、アレックスはため息を漏らしたくなる。
「……ソーマさん、あなたも大概、異常が過ぎます」
かくして、知らないところでソーマの評価は上がってゆく。




